Advertise with Googlier.com 小日誌《こにっし》 https://blog.konishi-dental.tokyo.jp 三流歯科医の七転八倒、五里霧中 Fri, 09 Jul 2021 04:06:25 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=5.6 歯周病と認知症 https://blog.konishi-dental.tokyo.jp/periodontitis-dementia/ Fri, 09 Oct 2020 21:20:10 +0000 https://blog.konishi-dental.tokyo.jp/?p=2091 Copyright © 2026 小日誌《こにっし》 All Rights Reserved.

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ポイント

私は、「歯周病が認知症の発症、進行に関係する、と簡単にいうことはできない」と考えています。

なぜなら、ポルフィロモナス・ジンジバリスの存在と量が歯周病と関係あるかどうか、明確になっていないからです。

認知症の原因物質 歯周病によって蓄積する

認知症の原因物質が脳に蓄積して記憶障害が起きる仕組みを九州大学などの研究チームが解明したというニュースが伝えられました。

この報告をもとに歯周病と認知症の関係を大げさに宣伝する歯科関係者が出てくると思うので、分かっていることを確認しておきたいと思います。

 

ジンジバリス菌がアミロイドベータを蓄積する

認知症の7割を占めるアルツハイマー病は『アミロイドベータ(Aβ)』などの異常なたんぱく質が長年、少しずつ脳に蓄積することで発症、進行すると考えられています。

今回伝えられたニュースは、歯周病菌と考えられているポルフィロモナス・ジンジバリス菌をマウスの腹腔内に直接投与して感染させたところ、マウスの脳血管の表面では、アミロイドベータを脳内に運ぶ受容体が2倍に増え、アミロイドベータの蓄積量も10倍に増え、マウスの記憶力低下も裏付けられたという報告です。

チームの武州准教授は「歯周病の治療や予防で、認知症の発症や進行を遅らせることができる可能性がある」と話しているそうです。

 

歯周病とジンジバリス菌の関係はそれほどはっきりしていない

マウスの腹腔内にジンジバリス菌を注入すると、脳細胞のアミロイドベータが増え、記憶力が落ちるということがこの研究の骨子です。

そのことが「認知症の原因物質が歯周病によって蓄積する」と言えるのかどうかについて私の考えを記します。

ポイントは「ジンジバリス菌=歯周病」と言えるのかどうかということです。

少し前なら「ジンジバリス菌=歯周病」という考え方を多くの人たちがしていました。

しかし、近年、歯周病原菌に対する考え方がガラリと変わってきているので、「ジンジバリス菌=歯周病」と直結させるのは無理があるのではないか、というのが私の見解です。

 

ジンジバリス菌は歯周病菌と呼ばれていますが、結核やコレラのような意味での原因菌ではありません(*1)。

ジンジバリス菌の存在しない重度歯周病も存在しますし、ジンジバリス菌がいても歯周炎が必ずしも発症するわけではありません。

ジンジバリス菌は少数でも環境に影響を与えるキーストーン種であるという仮説(*2)が発表されていますが、ジンジバリス菌と歯周病の関係は、はっきりしたことは何も分かっていないというのが現状です。

ジンジバリス菌キーストーン種の仮説に則れば、ジンジバリス菌は少数でも歯周病を発症させるということになります。

ごく少数のジンジバリス菌でもアミロイドベータが増加するのであれば別ですが、アミロイドベータの増加が一定量のジンジバリス菌を必要とするのであれば、歯周病が認知症の発症、進行に関与すると言うことは難しくなります。

したがって、ジンジバリス菌とアミロイドベータの関係が明らかになったにしても、歯周病とアミロイドベータつまり認知症との関係を結びつけるのは難しくなるわけです。

つまり「歯周病は認知症の発症、進行に関係する」と簡単には言えないということになります。

 

(*1)歯周病菌に対する考え方の変遷:歯周病の細菌学的病因論【リンデ歯周病学】

(*2)ジンジバリス菌と歯周病に関する仮説:P.ジンジバリスはキーストーン種

 

関連図書

歯周病の新常識

根本から見直される歯周病と原因菌 P81

 


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ときに悪玉菌、しばしば善玉菌、常に常在菌 https://blog.konishi-dental.tokyo.jp/amphibiosis/ Thu, 10 Sep 2020 03:10:33 +0000 https://blog.konishi-dental.tokyo.jp/?p=1882 Copyright © 2026 小日誌《こにっし》 All Rights Reserved.

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マイクロバイオーム計画の研究成果の中でもっとも印象的なのは、常在微生物群の種類とその働きの多様性です。

細菌はあるときは善良な住民であり、あるときは悪の権化となり、そしてまたある時は正義の味方となるということです。

家では良き父であり、会社では皆から恐れられる鬼部長が、影では収賄に手を染めていた、といった人間社会と同様なことが常在微生物群の中で起こっているのです。

・

ヨーグルトの宣伝などで、『善玉菌』『悪玉菌』ということばをよく見かけます。

しかし、この善玉、悪玉という用語、ヒトマイクロバイオーム計画の報告から考えると、あまり適切な表現とは言えません。

それは、一般に悪玉菌と考えられる病原菌が病気を発症させずに存在していることがままあるからです。

たとえば、エンテロトキシンを産生して食中毒を引き起こす黄色ブドウ球菌は、1/3以上の人の鼻腔の中に何も問題を起こさず生息してしているそうです(失われてゆく我々の内なる細菌)。

この、生体に為害作用を加えない黄色ブドウ球菌を見つけ出して取り除こうとする医者はいませんし、除去する必要もありません。

悪名高き黄色ブドウ球菌でさえ悪さをせずにおとなしくしていることの方が多いわけですから、そのほかの常在微生物のメンバーをこれは善玉菌、こっちは悪玉菌と峻別することはあまり意味が無さそうです。

というより、1万種もいるといわれている微生物を区分けすることは現実的にはできません。

このことは、私たちが「口腔内細菌の中から歯周組織破壊を引き起こす悪玉菌を探して除去するあるいはコントロールする」という従来の歯周治療の発想を転換しなければいけない時期にきているということを教えてくれています。

緑色連鎖球菌の両義性

感染性心内膜炎の原因菌の一つである緑色連鎖球菌は口腔内常在菌であることが知られています。

そして、この緑色連鎖球菌と病原性の強いA群溶連菌を混合培養すると必ず緑色連鎖球菌が勝利するそうです。

つまり、緑色連鎖球菌はあるときには感染性心内膜炎と関連することがあっても、他の時には病原性細菌を排除することによって私たちの健康に貢献しているわけです。

常在菌のなかには時に悪さをすることがあっても、時と場合によっては生体を外敵から守る味方になることもありうるわけです。

このことは口常在菌である緑色連鎖球菌に限らず、他の常在菌にも言えます。

 

ピロリ菌は悪玉菌

オーストラリアのバリー・マーシャルとロビン・ウォレンはヘリコバクター・ピロリの純粋培養、胃炎や胃潰瘍との関連性の発見といった功績に対して2005年のノーベル生理学・医学賞を受賞しました。
その後、ピロリ菌が胃がんの発症にも関連していることが分かり、世界保健機構(WHO)がピロリ菌はヒトに発がん性を認めると認定するに至ります。

その結果、世界中の医師がピロリ菌悪玉説を確信して、保菌者には抗生物質による除菌がさかんに行われるようになりました。

インターネットを覗いても、製薬会社のホームページを中心に『ピロリ菌はがんになる』『ピロリ菌を除去しよう』などの文字がたくさん躍っています。

『ピロリ菌がうつるので孫への口移しは止めましょう』などという『歯周病菌はうつる』と同じような間違った注意喚起も行われています。

ピロリ菌はアレルギー疾患の発症を抑制する

しかし、ここにピロリ菌は花粉症や喘息、アレルギー性皮膚炎の発症を抑制する、あるいは予防的に働くという、ピロリ菌があるときには善玉として働くという研究報告があります。

Asthma is inversely associated with Helicobacter pylori status in an urban population(Joan Reibman)
喘息は都市住民におけるヘリコバクターピロリの状態と反比例する

Helicobacter pylori colonization is inversely associated with childhood asthma(Chen)
ヘリコバクターピロリのコロニー形成は小児喘息と反比例する

T細胞、B細胞といったリンパ球には免疫反応を担う役割がありますが、制御性T細胞(T-reg)は免疫反応に抑制的に働きます。

ピロリ菌は胃壁の樹状細胞との相互作用を通して免疫システムをプログラムして制御性T細胞の産生を引き起こしてアレルギー反応を抑制することが分かったのです。

Helicobacter pylori infection prevents allergic asthma in mouse models through the induction of regulatory T cells(Isabelle )
ヘリコバクターピロリ感染は、調節性T細胞の誘導を通じてマウスモデルのアレルギー性喘息を予防する

つまり、ピロリ菌の存在はアレルギー反応の暴走を食い止める、言い換えれば喘息や花粉症、アトピー性皮膚炎の発症を阻止して、予防しているということになります。

ピロリ菌は口の常在菌である緑色連鎖球菌と同様、時にヒトに害を与え、時に有益になる細菌だということができるわけです。

常在微生物群、マイクロバイオータのとらえ方

そして、宿主のアレルギーがひどくなる前に免疫反応のスイッチを切ることができる細菌はピロリ菌だけではないかもしれないとマーティン・ブレイザー先生は言います(失われてゆく、我々の内なる細菌)。

特定の菌がヒトの生命活動に寄与するのではなく、その役割を果たす細菌群のいずれかをそれぞれの個人が備えているというマイクロバイオームの考え方からすれば、他にも制御性T細胞の産生を引き起こす細菌がいると考える方が自然だと思います。

つまり、生体にいる100兆個もの細菌や真菌を、今までの細菌学の考え方で、どれが悪玉細菌でどれが善玉細菌と白黒つけることはあまり意味がないということになります。

ピロリ菌や緑色連鎖球菌のように時に悪玉、しばしば善玉、そして常に平穏な常在菌というのが、生体とともに生きているマイクロバイオータの姿なのだと思います。

マイクロバイオータに関する新常識

私たちが自分自身というとき、身体に宿る常在微生物群(マイクロバイオータ)をも含めて考えることが必要な時代になっているのではないかと思います。

常在微生物群の中のこの細菌が悪玉菌だから除去しなければならないという単純な「原因除去」では片付かない問題が多くなっているわけです。

自分の一部である常在菌を取り除いてしまうことは別の災難を引き寄せる可能性があると考える必要があります。

その治療効果さえ疑わしい歯周炎に対する抗生物質治療は得られるもののに比べてその損害はあまりにも大きなものであることを認識して欲しいと思います。

無用な抗生物質治療は絶対しないようにお願いします。


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抗生物質を歯周治療で使わないで https://blog.konishi-dental.tokyo.jp/antibiotic-periodontal-therapy/ Sun, 30 Aug 2020 03:45:28 +0000 https://blog.konishi-dental.tokyo.jp/?p=1892 Copyright © 2026 小日誌《こにっし》 All Rights Reserved.

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歯周病の治療に抗生物質を使用することが広く行われています。

アジスロマイシン(ジスロマック)などの広域性抗生物質を投与する歯周治療です。

この歯周治療は全身の健康を損なう危険な治療だと私は考えています。

抗生物質の脅威

抗生物質の投与が全身に与える悪影響として二つのことがあげられます。
『マイクロバイオームの攪乱』と『抗生物質耐性細菌』です。

感染に対する感受性の増大

食中毒をおこすことで有名な細菌にサルモネラ菌があります。

このサルモネラ菌と抗生物質の関係を調べた研究があります。

健康なマウスにサルモネラ菌を感染させるためには数十万個の細菌数が必要ですが、一経口用量の抗生物質を投与して、数日後にサルモネラを投与するとたった3個の細菌でマウスは感染してしまったそうです。

この実験が行われたのは1950年代の初頭ですが、その後多くの研究者がこの事実を確認しています。

抗生物質により常在菌のバランスが崩れれば、感染症にかかりやすくなってしまうということに、今から70年前にすでに気がついていたわけです。

ところが、当時は抗生物質が貴重であり、感染症に対する効果も絶大であったために、その問題にはあまり注意が向けられていませんでした。

しかし、現代は事情がまるっきり違ってきています。

度重なる抗生物質投与がマイクロバイオームの攪乱を招き、次の疾患をもたらすことが大きな問題となっているからです。

歯科領域での安易な抗生物質治療が他の疾患を招き寄せていることに注意しなければなりません。

 

抗生物質関連下痢

抗生物質の副作用として下痢が起こすことが知られています。

この下痢の主要な原因の一つにクロストリジウム・ディフィシルがあるということが1970年代後半に判明しました。

クロストリジウム・ディフィシルはペギー・リリスの命を奪った病原菌ですが、欧米ではこの疾患に対する関心は高く、国をあげて調査、感染対策がなされています。

日本ではクロストリジウム・ディフィシルに対する認識度は低く発生率も低いと考えられていましたが、最近の調査で院内感染の発生率は欧米同様高いことが分かってきました。

クロストリジウム・ディフィシルは周囲に競合する細菌がいない状態で短期間に増殖できる病原菌です。

この疾患は抗生物質で治療が行われますが、1/3程度の患者が治療できずに再発を起こします。

抗生物質によってマイクロバイオームが攪乱した状態で発症した病気に、さらに抗生物質を投与してマイクロバイオームを攪乱するわけですから、再発するのは当然なのかもしれません。

抗生物質を使用すればするほど、マイクロバイオームの多様性が失われ、特定の菌があっという間に増殖して悲劇を引き起こしてしまうわけです。

現在、重度のクロストリジウム・ディフィシルは抗生剤の使用ではなく、糞便移植によって完治させることができるようになっているようです。

 

耐性菌の出現

抗生物質の過剰使用で昔から知られている問題として、抗生物質耐性細菌の存在があります。

抗生物質を投与すれば、それは腸で吸収され血液中に入り、そこから口だけではなく胃、肺、皮膚、耳など全身のありとあらゆる場所に運ばれます。

全身に運ばれた抗生物質は、その細菌が病原菌であろうと、健康に寄与する菌であろうと、その抗生物質感受性細菌をすべて根絶してしまいます。

そして、感受性菌が減少した分耐性菌が増加してきます。

そして、耐性菌のなかには病原菌も含まれている可能性があるわけです。

さらに、抗生物質耐性遺伝子を細菌同士でやりとりして、さらなる抗生物質耐性を身に着けていきます。

抗生物質が周りにあるかぎり耐性菌は増え続け、新しい抗生物質の開発が耐性菌の出現に追い付かなくなっているのです。

 

口腔内に耐性菌がすでに存在している

ある研究(Defining the oral microbiome by whole-genome sequencing and resistome analysis: the complexity of the healthy picture)では、口腔マイクロバイオームには、マクロライド、リンコサミド、ストレプトグラミン、およびテトラサイクリンに対する耐性を与える遺伝子が含まれていることを報告しています。

すなわち現代人の口の中には抗生物質に耐性を持つ細菌がうようよしていて、歯周治療のためにアジスロマイシンなどを簡単に投与することは、耐性を持たない我々にとって有益であるかもしれない菌を駆逐してしまい、マイクロバイオームの多様性をますます低下させることになるわけです。

 

歯周病には効かない

抗生物質の服用によりいろいろ身体に害を与えるわけですが、では抗生物質は歯周治療に必要なのでしょうか?

全身に与える害を補って余りあるほどの効果が期待できるのでしょうか?

実は歯周病治療にはまったく効果が無いのです。

 

歯周病の病因論から考える

リンデ臨床歯周病学の第6版では「歯周病原菌」という表現がなくなって、歯周病はディスバイオシス(常在菌群の乱れ)によるものではないかという仮説を提出しています。

つまり、今までのレッドコンプレックスに代表される歯周病菌を取り除くという治療法から、常在細菌群の乱れを是正するという方向に転換しているわけです。

この常在菌群の乱れは抗生物質で取り戻すわけにはいきません。

抗生物質の使用はかえってディスバイオシスを引き起こすので、治療というより悪化させる行為ということになります。

 

症状の消退が意味するもの

抗生物質が歯周治療に効果がある根拠として、服用によって出血や排膿などの症状が軽減するというものがあります。

しかし、このことが歯周病が改善していることになるのかというと、そのようなことはありません。

広域性の抗生物質を投与すれば、その効果で細菌の絶対数が減少します。

特にアジスロマイシンはファゴサイトデリバリーの効果で口の細菌数を大幅に減らすことができるかもしれません。

一時的に細菌数が減少すれば、細菌の侵入を防ぐ役割の白血球(好中球)は局所に集まる必要が無くなるので、血管の拡張や液状成分の滲出は治まります。

したがって、出血も少なくなりますし、白血球の残骸である膿の排出も少なくなります。

しかし、これは歯周病が改善したわけではなく、細菌の絶対数が減ったために起こった現象で、生体にとっては好ましい状態ではありません。

 

ファンキゾン歯磨きはカンジダ対策

抗生物質によって局所に存在する常在菌が減少するとカンジダアルビカンスという真菌が口腔内にはびこる、菌交代現象が起こることがあります。

口腔カンジダ症の治療薬としては抗真菌剤のファンキゾンが有名です。

アジスロマイシン(ジスロマック)とファンキゾン入りの歯磨き剤を推奨している歯科医がいますが、彼らは抗生物質を投与した後、菌交代現象を起こす予防としてそのようなことしているのでしょう。

しかし、このようなやり方は、私たちの口の中を守っているマイクロバイオームを攪乱するだけの、ハカイシャの仕業にしか私にはみえません。

歯周治療と称して抗生物質を使うのは止めてください。

 

歯周組織破壊は免疫細胞が引き起こす

抗生物質がスケーリングやルートプレーニングをしっかりやった後、補助的に使うのは意味があるのではないかという意見も確かにあります。

しかし、そのような論文はマイクロバイオーム計画の研究成果がでる10年以上前に書かれたものが多く、抗生物質は効果が認められることもあるが、全身への影響も考えて慎重に使用するべきだという論調になっています。

私たちは、歯周組織破壊性の歯周病(歯周炎)の組織破壊は生体の免疫細胞によって引き起こされるので、歯周炎の発症進行には細菌の存在はそれほど重要とは考えていません。

したがって、歯周病の治療では抗生物質は一切使うべきではないと考えています。

 

歯科治療に抗生物質を使用しないで

私たち歯科医は、米国感染症学会元会長、マーティン・J・ブレイザー教授の次の言葉を真摯に受け止めるべきだと思います。

歯科医には、利益が潜在的なリスクを上回ると思われるときだけ、抗生物質を処方して欲しい。

よい歯科医療とは第一に「害をなさない」ことである。

多くの歯科的疾患は、外科的介入や口腔衛生を守ることで対処ができる。

(失われてゆく我々のうちなる細菌、マーティン・J・ブレイザー・)

「抗生物質治療は歯周治療と称して”毒”を飲まていることに他ならない」と言ったら言い過ぎでしょうか。

しかし、マイクロバイオームのことを知れば知るほど、抗生物質は安易に扱ってはいけない薬剤であるという思いを深くしています。


歯周病の新常識
小西昭彦
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抗生物質が免疫系を破壊する https://blog.konishi-dental.tokyo.jp/antibiotics-third-immune/ Fri, 28 Aug 2020 03:38:50 +0000 https://blog.konishi-dental.tokyo.jp/?p=1888 Copyright © 2026 小日誌《こにっし》 All Rights Reserved.

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マイクロバイオーム計画により生体に常在している微生物群の詳細が分かってくるにつれ、それらの常在微生物群(マイクロバイオータ)は我々が生きていくうえで必要不可欠な存在であることが分かってきました。

マイクロバイオータは我々の消化吸収や免疫系に関与すると考えられており、これらの微生物と生体がおりなす生命活動全般をマイクロバイオームと言います。

我々が生きていくためにマイクロバイオームは無くてはならないものなのですが、これを障害するのが抗生物質なのです。

消化吸収を助けるマイクロバイオータ

胎児は子宮のなかではほぼ無菌状態に置かれていると考えられています。

しかし、出産とともにその安静は破られ、微生物の洗礼をうけます。

そして、その子の固有のマイクロバイオータが形成されていきます。

マイクロバイオータは成長とともにその種類や構成を変え生体に居場所を確保していきます。

ヒトはマイクロバイオータにその居住地を与える一方で、マイクロバイオ―タはヒトに数々の恩恵を与えるという、お互いがその生存にとって無くてはならない関係になっています。

マイクロバイオータがもたらす恩恵のひとつにヒトの消化吸収を助けるという役割があります。

大腸の細菌は小腸で消化できなかったものを代謝してヒトの栄養摂取に役立てます。

ヒトが産生できないビタミンKを産生する細菌もいますし、デンプンを単糖にかえる細菌も存在します。

消化管にいる細菌の産生物質が血管の受容体を通じて血圧を安定に維持することもあります。

いずれにしても、ヒトの体内に存在するマイクロバイオータはヒトの生存にとって無くてはならない存在ということになります。

第3の免疫系

ヒトの免疫には人体表面を防御する先天性免疫とリンパ球のつくる抗体に代表される後天性免疫があると考えれられています。

しかし、それらの免疫システムに加えて、さらにもう一つの免疫系があると米国感染症学会の元会長マーティン・J・ブレイザー・教授は言います(失われてゆく、我々の内なる細菌)。

それが、マイクロバイオームによる第3の免疫系です。

生体のマイクロバイオームはあらゆる機構を利用して外来微生物の侵入を防いでいるのです。

防いでいるというのはヒト側からの見方ですが、ヒトという居場所を得て生存競争を繰り広げている細菌群からすれば、外から入り込んで自分たちのテリトリーに侵入しようとするならず者を撃退しようとするのは生き残るためには当然の対応です。

生体と長い間協調してそこに平和な居住地を見つけている細菌たちは、よそ者が入ってきてその居住地を奪われることを良しとしないわけです。

簡単に奪われないように仲間と協力して自分のいる場所を外来者から守ります。自前の抗生物質を含む有害物質を分泌して、侵入者を追い出してしまう細菌もいます。

団体旅行で食中毒が起こってしまったときにも、症状が激しく出る人と、まったく問題ない人がいます。

これは、その人の持っているマイクロバイオームの働きがそれぞれ異なり、第3の免疫系の働き具合が違うからなのです。

抗生物質が免疫系を破壊する

生体の常在微生物群、マイクロバイオータは消化吸収においても、外敵から自分を守るためにも無くてはならない存在なのですが、その生命活動を破綻させてしまうのが抗生物質です。

ペギー・リリスは歯科治療のために投与された抗生物質で亡くなってしまいましたが、死に至らないまでも抗生物質がその人を害してしまう可能性がとても高くなると多くの人が軽傷を鳴らしています。

歯科領域ではそれほど必要もないのに抗生物質が習慣的に投与されていることがよくあります。

日本ではアジスロマイシンなどの広域スペクトルの抗生物質を使用した歯周治療を行っている歯科医もたくさんいますが、この歯周治療は「百害あって一利なし」の治療法なのです。

広域スペクトルの抗生物質は無差別に細菌を死滅させます。

生体に恩恵を与えてくれる細菌を殺傷して、消化吸収を阻害し、第三の免疫系を傷害してしまう生体に害を与える毒なのです。

抗生物質を使用する歯周治療は行わないように、受けないようにお願いしたいと思います。


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歯科の抗生物質で死亡 https://blog.konishi-dental.tokyo.jp/dentistry-antibiotics/ Mon, 10 Aug 2020 03:26:39 +0000 https://blog.konishi-dental.tokyo.jp/?p=1885 Copyright © 2026 小日誌《こにっし》 All Rights Reserved.

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歯科治療で投与された抗生物質が人の命を奪ってしまったという話があります。
(失われてゆく我々の内なる細菌:M・ブレイザー)

抗生物質投与が腸内細菌群の攪乱を招き、それがもとで亡くなってしまいました。

歯科治療における抗生物質について、歯科医はもっと考えなくてはいけません。

歯の治療で死亡

幼稚園の教諭をしていたペギー・リリスは歯の治療を受けた後、1週間分の抗生物質を処方されました。

4,5日するとペギーは下痢を発症し、なかなか治まらなかったので医者に連絡しました。

医者が来院するように指定した日の朝、ペギーはショック状態を引き起こし、ベッドから起き上がることさえできなくなっていました。

クロストリジウム・ディフィシル

病院で行った大腸内視鏡検査の結果、ペギーはクロストリジウム・ディフィシルに感染していることが分かりました。

クロストリジウム・ディフィシルは、通常ほとんど悪さをしませんが、腸内の競合する細菌が抗生物質によって一掃されたとき、恐ろしい障害を引き起こすことがあります。

クロストリジウム・ディフィシルの増殖が始まると、菌はあっという間に腸内を覆いつくし、大腸を穴だらけにして糞便や細菌が体内に溢れ出してしまいます。

その結果、ペギーは敗血症を起こして死亡してしまいました。

病に倒れて1週間、歯科医の治療を受けて2週間足らずのことでした。

(失われてゆく、我々の内なる細菌-マーティン・ブレイザーより)

腸管の生態系

普段は身体の中にいても悪さをしない菌が、なぜ人の命まで奪ってしまうような凶悪な細菌になってしまったのでしょうか?

その答えは腸内の生態系の攪乱にあります。

腸管には常在菌群という細菌が棲みついており、互いに競合と協働を繰り返しながら生存をはかっているのです。

しかし、抗生物質の投与により、クロストリジウム・ディフィシルと競合してその増殖を抑え込んでいた菌が減少してしまうと、クロストリジウム・ディフィシルがあっという間に繁殖してしまうわけです。

マイクロバイオームの攪乱

ヒトミクロバイオーム計画により、健康な身体の人にも病原性微生物が存在していることが確認されました。

それらの病原性微生物がいても、なぜその疾患を発症しないのか、詳細は分かっていません。

しかし、生体にいる常在菌群(マイクロバイオータ)とそれらの持つ遺伝子群の働き(マイクロバイオーム)が大きな役割を果たしているのではないかと考えられています。

そして、そのマイクロバイオームの攪乱をもたらす抗生物質の投与は、思いもよらぬ疾患を引き起こしてしまう可能性があるわけです。

ペギー・リリスの命を奪った抗生物質は歯科の治療において、どうしても必要だった処方だったとは思えません。

歯科治療後の感染予防のために投与された抗生物質のために命を落としてしまったのでは、その代償はあまりにも大きすぎます。

抜歯や歯周外科手術後の抗生物質投与は本当に効果があるのでしょうか?

歯科治療における安易な抗生物質投与は控えてほしいと思います。


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歯周病は原因不明!? https://blog.konishi-dental.tokyo.jp/cause-unknown/ Sat, 01 Aug 2020 03:59:18 +0000 https://blog.konishi-dental.tokyo.jp/?p=1895 Copyright © 2026 小日誌《こにっし》 All Rights Reserved.

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「歯周病は原因不明の疾患です」と言ったら、「それは歯槽膿漏の時代の話でしょう」と笑われてしまいそうです。

しかし、こと歯周炎に関しては、歯周病は現在も原因不明の疾患なのです。

 

”プラークがすべて”の時代

重度歯周病が歯槽膿漏と呼ばれていたころ、歯槽膿漏の原因には「全身説」と「局所説」の二つの考え方がありました。
局所説というのは歯に沈着するプラークに原因を求める考え方で、全身説というのは全身の状態、特に栄養失調が歯槽膿漏と関係するのではないかという考え方です。

1950年代から1960年代になると、歯肉炎の原因はプラークであることが明らかになり、歯肉炎に引き続いて発症する歯周炎(歯槽膿漏)の原因もプラークであるに違いないと考えられるようになりました。(非特異的プラーク仮説)

この時代はプラークさえ除去すれば歯周病は治せると考えられていました。(Plaque is every thing.の時代)

 

特定の菌が歯周炎に関与する

しかし、歯肉炎の症状がどんなに激しくても歯周炎に移行しない人がいることや歯肉炎の病変部と歯周炎の病変部に棲息する細菌の種類が違うことなどから、歯周炎の発症には特定の細菌が関与しているのではないかと考えられるようになりました。(特異的プラーク仮説)

そして、歯周病原菌探しが熱心に行われました。中でもレッドコンプレックスという細菌群が歯周病の原因菌としてもっとも怪しいと考えられるようになり、それらに対する研究が熱心に進められてきました。

ところが、レッドコンプレックスの細菌群は歯周炎病変に必ずしも存在しない、動物実験で歯周炎を発症することができないなどの事実から、誰もが歯周病の原因菌と認められる細菌というわけにはいきませんでした。

 

ヒトマイクロオームプロジェクトの研究報告

2007年にヒトマイクロオームプロジェクトの研究成果が発表され、口腔内の常在菌群の様子が分かるにつれ、歯周炎の原因に対する考え方も変わり始めています。

人の口の中には700種類以上の常在細菌群(マイクロバイオータ)がいて、その構成は一人ひとりすべて異なっています。
そして、その細菌群が、代謝や免疫などのヒトの生命活動を担っている(マイクロバイオーム)ことが分かってきたのです。

このことにより、特定の細菌が外から入り込んできて歯周炎を発症するという従来の特異的プラーク仮説は適用しにくくなってしまいました。

といって、歯肉炎から歯周炎への移行が説明できない非特異的プラーク説に戻るわけにもいきません。

 

生態学的プラーク仮説

そこで、リンデ歯周病学では環境が変化すると歯周病菌が活性化する「生態学的プラーク仮説」を提案してその問題を解決しようとしています。
しかし、それだけで歯周炎の原因が説明しきれるものではありません。

歯周炎は現在のところ原因不明な疾患であるということになるわけです。

 

細菌だけに原因を求めない

マイクロバイオータやマイクロバイオームの研究自体が始まったばかりなので、歯周炎の原因をどのように考えれば良いのか歯周病学者も混乱しているというのが現状です。

しかし、歯周炎の原因をマイクロバイオータやディスバイオシス、つまり細菌だけに求めず、宿主因子にもう少し注目をすれば、歯周炎の原因を違った角度から考えることができます。

「特異的プラーク仮説」の全盛時に Hirsch先生とClarke先生は「歯周炎の個人的危険因子」という論文で、特定の細菌が歯周炎を引き起こすのではなく、生体のあり方が歯周炎を引き起こすのではないかという考え方を提案しました。
もう20年以上も前の論文ですが、このような考え方をする歯周病学者もいるのだと嬉しく思ったことを思い出します。

 

片山式と安保免疫論

私が歯周治療を教わった片山恒夫先生は歯周病の原因は細菌だけではなく、その人の生活のあり方にあることを力説していました。

そして、細菌のコントロールとともに生体の抵抗力を高める「自然良能賦活療法」を歯周治療の支柱に据えていたのです。

その生体の抵抗力を高めることは、安保免疫論からすれば交感神経の過緊張の持続を和らげる、簡単に言えばストレスをコントロールすることで、Hirsch先生とClarke先生の個人的な危険因子としてあげられているストレスとぴったりと符合するのです。


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「歯周病はうつる」という誤解・歯周病原菌からディスバイオシスへ https://blog.konishi-dental.tokyo.jp/periodontal-pathogens/ Sat, 01 Aug 2020 02:31:45 +0000 https://blog.konishi-dental.tokyo.jp/?p=1877 Copyright © 2026 小日誌《こにっし》 All Rights Reserved.

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「歯周病は感染症で歯周病菌はうつる」と2008年に発行された『臨床歯周病学とインプラント』の第5版には書かれています。

しかし、2015年に発刊された第6版ではその考え方がガラリと変わっています。

歯周病原菌という用語自体が教科書から消えて、ディスバイオシスという用語がたくさん使われるようになっているのです。

ディスバイオシスというのは口腔内微生物群、マイクロバイオータの乱れということで、2015年のリンデ歯周病学では、歯周病の原因は歯周病菌というよりディスバイオシスに重きが置かれています。

ディスバイオシスというのはその人固有の常在微生物群が問題を起こすということですから、「歯周病菌がうつる」という表現は適当ではないわけです。

 

病原菌が見つからない

その細菌がその疾患の病原菌であることを証明するためにはコッホの原則を満たさなくてはなりません。

コッホの原則というのは、病気を病んでいる身体からその病気以外には発見できない特定の菌が発見でき、その菌で動物にその病気を発症させられるというのが、その大要です。

しかし、歯周病ではコッホの原則を満たすような病原菌は発見できませんでした。

つまり、歯周病では結核菌のようにこれといった原因菌が見つかっているわけではないのです。

歯周病に関連する細菌は多数存在し、レッドコンプレックス( * )と呼ばれている菌群がその代表的なものです。一般的にはこの菌群を歯周病菌と言っているようですが、その意味合いは結核の結核菌とは全く違います。

(*)A.actinomycetemcomitans, P.gingivalis,and T.forsythia

 

歯周病原菌がいなくなってしまった

上に書いたことは少し前の歯周病菌に対する考え方なのですが、歯周病菌に関してこの10年で意外なことが分かってきました。
”歯周病原菌”というものがいるのかどうかがあやしくなっているのです。

リンデ先生の本を例にとると、2008年に発行された第5版では歯周病原菌(periodontal pathogens)という単語がさかんに使われていますが、2015年の第6版では使われなくなっています。

 

リンデ臨床歯周病学第5版

Periodontal pathogens
The World Workshop(1996) in Periodontology designated A.actinomycetemcomitans, P.gingivalis,and T.forsythia as periodontal pathogens.

歯周病原菌
歯周病学の世界ワークショップ(1996年)では、歯周病原菌としてA.actinomycetemcomitans、P.gingivalis、およびT.forsythiaが指定されました。

Jan Lindhe : Clinical Periodontology and Implant Dentistry 5th Edition p213 (2008)

上に引用した部分を見ても分かるように、第5版の「歯周感染症」の章ではPeriodontal pathogens(歯周病原菌)という単語がたくさん登場し、213ページには『Periodontal pathogens(歯周病原菌)』という項目が存在し、レッドコンプレックスを歯周病原菌として指定しています。

一方、2015年に発行された第6版では『Periodontal pathogens(歯周病原菌)』という用語は「歯周感染症」の章ではまったく使われていません。

 

リンデ臨床歯周病学第6版

conclusion
In this chapter, the central role of a dysbiotic microbiota has been highlighted, similar to our understanding of the etiology of disease with a complex microbial etiology at other sites of the human body.

結論
この章では、人体の他の部位における複雑な微生物学的な病因を伴う疾患についての理解と同様に、歯周病の微生物学的病因としては、ディスバイオティックなマイクロバイオータが中心的な役割を果たしていることが強調されています。

Jan Lindhe : Clinical Periodontology and Implant Dentistry 6th Edition p216 (2015)

第6版では、歯周病原菌(periodontal pathogens)という単語の代わりにマイクロバイオータ(periodontal microbiota)、ディスバイオシス(disbiosis)という用語が盛んに使われるようになっています。

歯周病は一般的な感染症と違ってマイクロバイオータ(健康な常在細菌叢)が攪乱された状態(ディスバイオシス)になることによって引き起こされるという考え方になっているのです。

メモ

Clinical Periodontology and Implant Dentistry 6th Edition
第10章Periodontal infection(歯周感染症)の抜粋と訳
Introduction(序文)
歯周病におけるディスバイオシス
歯周細菌と毒性
歯周病の細菌学的病因論
conclusion(結論)

2015年のリンデ先生の教科書を見る限り、歯周病は結核などの感染症と同じ意味合いでの病原菌は存在しないということになります。

かつての伝染病の原因菌と同じような病原菌はいないわけですから、「歯周病がうつる(感染する)」という表現自体が適切でないということになります。

 

ディスバイオティックなマイクロバイオータ

歯周病菌に対する考え方が第5版と第6版ではすっかり変わってしまったわけですが、第5版が出版された2008年から第6版の出版された2015年の間に何が起こったのでしょうか?

それは、2007年の「ヒトマイクロオームプロジェクト」の報告です。

ディスバイオティック、マイクロバイオータなどの用語が頻出するのは「ヒトマイクロオームプロジェクト」の結果を受けているからです。


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歯周病はキスでうつらない https://blog.konishi-dental.tokyo.jp/kiss-periodontitis/ Sat, 01 Aug 2020 02:24:57 +0000 https://blog.konishi-dental.tokyo.jp/?p=1874 Copyright © 2026 小日誌《こにっし》 All Rights Reserved.

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「歯周病はキスで感染する」と多くの歯科医が言っています。

本当にキスで歯周病がうつるのでしょうか?

「キスで歯周病がうつる」というのはまったくの都市伝説です。

現代の細菌学や歯周病学の観点から考えれば、キスで歯周病がうつるということは考えられません。

歯周病菌は侵入しても定着できない

キスで外来の細菌がうつるのかどうか、米国感染症学会の会長を務めていたニューヨーク大学微生物学教授のマーティン・J・ブレイザーは次のように言っています。

失われてゆく、我々の内なる細菌

侵入してきた細菌が数日間、なんとかそこに居続けることはあるかもしれない。
しかし、いずれ排除される。常在細菌は状況を一定に保ち続ける働きをする。
キスをすると、多くの細菌が両者の間で受け渡しされる。しかし、数分か数時間、長くても数日するとキスをする前の細菌状態に戻る。
正常細菌叢のよそ者に対する抵抗は根本的なものである。

(マーティン・J・ブレイザー『失われてゆく、我々の内なる細菌』みすず書房、p37)

口の中には多種多様な微生物群が常在していて、そこに独自の生態系を作っています。

その生態系によそからやってきた外来微生物が入り込もうとしても排除されてしまいます。

歯周病菌でも同じことです。いくらキスで歯周病菌がパートナーの口に移動できてもそれほど簡単に定着することはできないわけです。


進化生物学者のアランナ・コリンの本にも同様なことが書かれています。

あなたの体は9割が細菌

悪い細菌が外からやってきても常駐している微生物が障壁となる。いかにも外敵の侵入に弱そうな口内の軟組織でさえ、侵入者をきちんと食い止める。

(アランナ・コリン『あなたの体は9割が細菌』河出書房新社)

口の中の微生物群は独自の生態系を形成しているので、よそ者の微生物はおいそれと口の中に入り込むことはできません。

この口の中に生態系を作っている微生物群をマイクロバイオータ、その微生物群がおりなす代謝や遺伝などの生命活動をマイクロバイオームといいます。

このマイクロバイオームが安定した状態であると、外来の微生物が口腔内に侵入して定着することは難しくなります。

歯周病菌も例外ではなく、簡単には他人の口の中に入り込めません。

したがってキスで歯周病がうつるということはあり得ないわけです。

 

キスによる細菌の移動を調べた研究

口の中にいる細菌がキスでどの程度相手の口に移動するのかを調べた研究があります。

この研究によると、キスをすると口の中の細菌は一時的に相手の口に移動しますが、定着することはほとんどなかったと言っています。

私たちの調査結果は、パートナー間の集団細菌の一部が一時的にしか存在しないことを示しましたが、舌の表面に真のニッチを見つけ、長期的なコロニー形成を可能にしている場合もあると考えられます。

Remco Kort et al. : Shaping the oral microbiota through intimate kissing

この論文では主に舌の表面(舌背)の細菌の移動について調べています。
舌の表面にいる細菌でさえ他人の口に入り込んで定着することは難しいわけですから、歯周ポケットの深部に生息する歯周病菌がおいそれと他の人の口に侵入して定着することはあり得ないということになります。

 

キスで歯周病がうつるという都市伝説が生まれたわけ

それではなぜ「キスで歯周病がうつる」というような誤った情報が大手を振ってまかり通ってしまったのでしょうか?

それは、「歯周病は感染症であり、歯周病原因菌は他の人の口からうつされる」と考えた日本の歯科医がいたからだろうと思います。

Lindhe臨床歯周病学とインプラント第4版(2005年)の『第4章:歯周疾患の微生物学』の最初に「歯周疾患は歯肉縁下の歯面に生息する微生物による感染症である」と書かれています。

その感染症を起こす病原菌は他の人の口から獲得され、その方法には親から子に伝わる垂直伝播と親以外からもらう水平伝播があるとあります。

つまり、歯周病原菌が他の人から伝播するとしたら、口から口へ直接伝わるしか考えられないので、夫婦間のキスや親子の口移しで歯周病菌が受け渡されるのではないかと想像したのでしょう。


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「歯周病はうつる」という誤解・感染と伝播 https://blog.konishi-dental.tokyo.jp/transmission-infection/ Sat, 01 Aug 2020 02:17:13 +0000 https://blog.konishi-dental.tokyo.jp/?p=1869 Copyright © 2026 小日誌《こにっし》 All Rights Reserved.

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「歯周病はキスや食べ物の口移しでうつる」と言われています。

しかし、歯周病学の文献や教科書にはそのようなことは書かれていません。

なぜそのような間違った情報が広まってしまったのでしょうか?

理由の一つとして「transmission」という言葉の解釈に問題があったのではないかと考えられます。

伝播(transmission)と感染(infection)

歯周病学のなかで最も定評のあるリンデ先生の教科書を見てみましょう。
『臨床歯周病学とインプラント』(5版 2008)の236ページ、”Transmission(伝播)”という項です。

伝播(でんぱ)
ほとんどの人は人生のある時点で歯周病原体と疑われる株を獲得しています。
したがって、ヒトにおける歯肉縁下の種の生存は、ある個体の口腔から別の個体の口腔への歯周病原体の伝播を必要とするわけです。
その伝播様式としては「垂直」すなわち親から子への伝播、および「水平」すなわち親子関係以外の個人間の伝播の二つが知られています。

Transmission
Most individuals have acquired strains of suspected periodontal pathogens at some time in their lives.
Thus, survival of subgingival species in the human requires the transmission of periodontal pathogens from the oral cavity of  individual to the oral cavity of another.
Two types of transmission are recognized, “vertical”, that is transmission from parent to offspring, and “horizontal”, i.e passage of an organism between individuals outside the parent-offspring relationship.

Jan Lindhe : Clinical Periodontology and Implant Dentistry 5th Edition 2008 p236

ここには、ほとんどの人が人生のどこかの時点で歯周病菌を獲得すると書かれています。
つまり、親子や夫婦で同じ菌が発見されるのはごく一般的なことで、「うつされた、感染した」と大騒ぎする必要はないわけです。

ポイントはこの項の標題にもなっている「transmission(伝播)」です。
この本では歯周病菌と考えられる細菌がある人から他の人に「うつる」ことを「transmission(伝播)」と表現しています。『リンデ臨床歯周病学』だけではなく、歯周病学の論文では、歯周病菌が「うつる」ことは「transmission(伝播)」という単語が使われています。

transmission(伝播)にも「うつる=感染する」という意味合いはありますがむしろ「うつる=伝わる、移動する」という意味合いが強くなります。

しかし、日本語のホームページでは「うつる」ということを「伝播」ではなく「感染(infection)」と表現している場合が多いようです。

たとえば、ある歯科医院のウェブサイトには次のように書いてあります。

歯周病の原因である細菌は、人から人へうつると言われています。歯周病に罹患している人とキスや食器を共用することにより感染する可能性があります。

このように書いてあると、歯周病をかつて伝染病と言われたような感染症と同じように「うつる」恐ろしい病気として勘違いしてしまいます。

しかし、上述のように歯周病菌と考えられている細菌は健康な口腔内にも少なからず存在しています。
生涯のどこかの時点で歯周病菌が口の中に存在するようになることは、ごく一般的なことだと言って良いでしょう。

つまり、歯周病が「うつる(伝播する)」というのは、新型コロナ感染症や結核が「うつる(感染する)」のとはまったく違う事象ということになります。

歯周病原菌はどのように伝播するのか

では、歯周病原菌はいつどのような経路で伝播するのでしょうか?

全世界の著名な歯周病学者を集め、歯周病学の問題をコンセンサスレポートとしてまとめあげた『AAP歯周治療法のコンセンサス1996』のなかに細菌の伝播に関して次のような質疑応答があります。

AAP歯周治療法のコンセンサス1996

Q : 歯周病原性細菌はどこから来て、どのような経路で伝播するのか?
*
A : 人は A.actinomycetemcomitans, P.gingivalisをすでにこれらの菌が定着している他の人から獲得する。しかしながら、口腔内のように確立された生態系のなかで新しい菌種が入り込んだり、現在存在するある菌種のクローン型が入れ替わることは難しいことである。細菌が伝播することは病気がうつることと同義ではないことに注意するべきである。
(岡田宏監訳 AAP歯周治療法のコンセンサス1996)

ヒトからヒトへ歯周病菌が伝播するのは意外と困難で、細菌が伝播することと病気がうつることは同義ではないということがはっきり書かれています。

歯周ポケットの歯周病菌を移せるのか

歯周病菌が外から入ってきて定着するのは簡単ではなさそうです。

それでは同一口腔内では歯周病菌はうつるのでしょうか?

しかし、それさえ難しいようです。

深い歯周ポケットから健康な歯肉溝に歯周病菌がプローブ(歯周病の検査で使う器具)でうつせるのかどうか調べた実験があります。

この実験では、歯周病菌が健康な歯肉溝にうつることがあっても定着することはないと結論付けています。

そうでなければ、プロービング(歯周ポケットにプローブを挿入して歯周病の進行度を調べる検査)によって歯周病菌が健康な歯肉溝にもバラまられることになり、プロービングはとてつもなく危険極まりない行為になってしまいます。

歯周プローブが通常の歯科検査中に若年性歯周炎病変からのアクチノバチラス・アクチノミセテムコミタンスに汚染され、この微生物を感染部位から以前に感染していない部位に移す可能性があることを示しています。

しかし、健康な歯肉溝に接種されたアクチノバチラス・アクチノミセテムコミタンスは、3週間以内に微生物が排除されたため、これらの部位に永久にコロニーを形成しませんでした。

L A Christersson et al. : Transmission and colonization of Actinobacillus actinomycetemcomitans in localized juvenile periodontitis patients

限局性若年性歯周炎患者におけるAa菌の感染と定着のアブストラクトの訳はこちら

歯周病菌は深い歯周ポケットに生息する嫌気性菌なので、酸素の多い状態ではなかなか生存することは難しいようです。

同じ口の中でさえうつることが難しいわけですから、他人の口の好気性環境下で定着、繁殖するのはほとんど不可能と言って良いでしょう。

キスをしても口移しをしても、ましてや食器を共用したからといって、歯周病菌がうつるなどということはあり得ないわけです。


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親密なキスと口腔内マイクロバイオータ https://blog.konishi-dental.tokyo.jp/kiss-microbiota/ Wed, 29 Jul 2020 01:56:24 +0000 https://blog.konishi-dental.tokyo.jp/?p=1864 Copyright © 2026 小日誌《こにっし》 All Rights Reserved.

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キスで口の中にいる細菌が相手の口に「うつる」のかどうか調べた研究があります。
キスをすると口の中の細菌は一時的に相手の口に移動するが、定着することはほとんどないという結論が報告されています。
Shaping the oral microbiota through intimate kissing
親密なキスを通して口腔微生物叢を形作る
Remco Kort et al.
Microbiome.2014 Nov 17;2:41.doi:10.1186/2049-2618-2-41.eCollection 2014.

背景(Background)

人体に関連する微生物群集の変動は、人間の遺伝子構成、食事、年齢、環境、性的行動など、多くの要因が原因となる可能性があります。

この研究では、21組のカップルの口腔内微生物叢に対する親密なキスの影響を、過去のキス行動に関する自己管理アンケートと、制御されたキス実験における舌と唾液の微生物叢サンプルの評価によって調査しました。

さらに、2回目の親密なキスの前に、パートナーの1人がプロバイオティクスヨーグルトドリンクを摂取して導入したマーカー細菌を使用して、親密なキス中に交換された細菌の数を定量化しました。

The variation of microbial communities associated with the human body can be the cause of many factors, including the human genetic makeup, diet, age, surroundings, and sexual behavior. In this study, we investigated the effects of intimate kissing on the oral microbiota of 21 couples by self-administered questionnaires about their past kissing behavior and by the evaluation of tongue and salivary microbiota samples in a controlled kissing experiment. In addition, we quantified the number of bacteria exchanged during intimate kissing by the use of marker bacteria introduced through the intake of a probiotic yoghurt drink by one of the partners prior to a second intimate kiss.

 

結果(Results)

微生物群集の類似性指標は、平均的なパートナーが、無関係な個体と比較して、口腔微生物叢の組成がより類似しており、舌の表面に関連する群集の群を抜いて最も類似していることを示しています。

親密なキスをしても、パートナー間の口腔内微生物叢の平均類似性が大幅に増加することはありませんでした。

ただし、カップルの唾液微生物叢の類似性指標と自己申告のキス頻度との間の明確な相関関係が観察され、報告された時間は最新のキス後に経過しました。

細菌移動の制御実験では、ほとんどのキスレシーバーでプロバイオティクスの乳酸菌とビフィズス菌のマーカー細菌を特定しました。

これは、親密なキス10秒あたりの平均細菌移動数が8,000万に相当します。

Similarity indices of microbial communities show that average partners have a more similar oral microbiota composition compared to unrelated individuals, with by far most pronounced similarity for communities associated with the tongue surface. An intimate kiss did not lead to a significant additional increase of the average similarity of the oral microbiota between partners. However, clear correlations were observed between the similarity indices of the salivary microbiota of couples and self-reported kiss frequencies, and the reported time passed after the latest kiss. In control experiments for bacterial transfer, we identified the probiotic Lactobacillus and Bifidobacterium marker bacteria in most kiss receivers, corresponding to an average total bacterial transfer of 80 million bacteria per intimate kiss of 10 s.

 

結論(Conclusions)

この研究は、共通の唾液マイクロバイオータが頻繁かつ最近の細菌交換を必要とするため、比較的親密なキス頻度が高いカップルで最も顕著であることを示しています。

舌の背側のマイクロバイオータは無関係の個人よりもパートナー間で類似していますが、その類似性はキス行動と明確に相関しておらず、ホストからの共有ライフスタイル、環境、または遺伝的要因に起因する特定の選択メカニズムが重要な役割を果たしていることを示唆しています。

さらに、私たちの調査結果は、パートナー間の集団細菌の一部が一時的にしか存在しないことを示しましたが、舌の表面に真のニッチを見つけ、長期的なコロニー形成を可能にしている場合もあると考えられます。

This study indicates that a shared salivary microbiota requires a frequent and recent bacterial exchange and is therefore most pronounced in couples with relatively high intimate kiss frequencies. The microbiota on the dorsal surface of the tongue is more similar among partners than unrelated individuals, but its similarity does not clearly correlate to kissing behavior, suggesting an important role for specific selection mechanisms resulting from a shared lifestyle, environment, or genetic factors from the host. Furthermore, our findings imply that some of the collective bacteria among partners are only transiently present, while others have found a true niche on the tongue’s surface allowing long-term colonization.

 


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