光学系のメーカーから、メーター級のインバー材を厚み方向の公差2〜5ミクロンに収められないかという相談が来た。
大きさと要求を聞いて、加工の難しさを考えた。しかし、仕事として受けるには、その手前で答えなければならないことがあった。できたものを、どう測り、何を根拠に要求を満たしたと伝えるのか。
最初に明確にしておきたい。これは加工成功の報告ではない。測定機メーカーの協力で厚み方向の精度保証のめどが立ち、必要な準備を進めている段階の話だ。
『公差2〜5ミクロン』という数字だけで、加工可否を決めることはできない。どの箇所を、どの基準で評価する要求なのか。製品の置き方や支持の条件はどうするか。どの状態で測り、何を提出すれば受け入れてもらえるか。
これらは今回すべて決まったと述べているのではなく、受注前に詰めたい確認事項だ。同じ数字を見ていても、こちらとお客様で測定対象や合否の考え方が違えば、加工後に話が食い違う。
だから、要求の厳しさを『削る難しさ』に置き換える前に、何を満たせばよいかをそろえる必要がある。
当初は、大物を測れる門型の三次元測定機を新たに導入する必要も考えた。だが、設備投資を決める前に、展示会で見た測定機メーカーへ電話した。翌日には担当の方が来て、材質の性質も踏まえて設定まで確認してくれた。
そこで、厚み方向なら精度保証のめどが立つという話になった。ただし、工場環境を安定させるための準備が前提になる。具体的方法はここでは扱わない。
この相談で得られたのは、『大きい測定機を買えば解決』でも『今すぐ保証できる』でもない。何を測るのかを絞り、専門家と条件を確認することで、次に準備すべきことが見えたということだ。
加工側では、狙った形状や寸法に仕上げられる見通しを立てる。測定側では、対象と評価方法に合った測り方を確認する。そして合否の説明では、その結果が、お客様と合意した要求に対応しているかを見る。
この三つは関係しているが、同じではない。測定値が表示されたからといって、それだけで要求への適合を説明できるとは限らない。逆に、切削の手応えがあっても、測定の条件が決まっていなければ納品判断が残る。
自社だけで分からないことは、分からないまま『できます』にしない。測定機メーカーに聞くことと、お客様と決めることを分ければ、相談先も次の作業も具体的になる。
専門家に確認した結果、新たな設備が必要になる場合もある。既存設備で可能な範囲を整理する、外部へ測定を相談する、要求や評価条件をお客様と再確認するという選択肢もある。どれが今回使えるかは、対象物や責任範囲、納期を確認して判断する必要がある。
大事なのは、一番大きな設備を先に買うことではない。どこが今のボトルネックで、その投資が何を解決するのかを明らかにすることだ。
難しい仕事の相談ほど、挑戦したい気持ちは強くなる。それでも、加工の見通し、測り方、合否の根拠がつながるまでは、準備中の条件を残しておきたい。
『削れます』で話を終わらせず、『何を確認すれば、責任を持って受けられるか』まで考える。今回の相談で、そこを改めて意識した。
長く使っていたトラックパッド用アプリの旧版が、OS更新後に動かなくなった。代わりを探す前に、実際に使っていた機能を数えてみた。Chromeのタブを閉じる、開く、移動する。この三つだった。
全部入りのアプリを再現する必要はない。この三つだけを持つMacアプリを作れないか。AIにそう頼むと、ファミレスで料理を待つ約15分の間に初版ができ、試した三つの操作は動いた。開発未経験の自分にとって、大きな変化だった。
ただし、15分は初版が動くまでの一例だ。誰でも同じ時間で作れるという話でも、業務用として十分な検証が終わったという話でもない。
今回よかったのは、依頼が『便利なアプリを作って』ではなかったことだ。困っている操作と、いらない機能を先に分けられた。三つの動作なら、期待どおりかを自分でも確かめられる。
もし多くの機能を再現しようとしていたら、作る量だけでなく、動きを確認する量も増えていたはずだ。欲しいものを小さくすることは、開発を速くするだけでなく、自分が良し悪しを判断できる範囲に収めることでもある。
一方、今回確認できたのは試した環境での操作だ。再起動後にも使えるか、他のアプリの操作と衝突しないか、OS更新後はどうか。継続して使うなら、初版とは別に確認したい。
小さく作れるようになったからといって、何でも自作すればいいわけではない。まず既存機能や設定変更で解決しないかを見る。既製品に欲しい機能があり、更新やサポートも任せたいなら、その対価を払う意味はある。
自作が候補になるのは、必要な動作が限定され、使う人が少なく、失敗しても元の操作に戻せるような場面だと思う。反対に、請求額や顧客への送信、品質記録を直接扱うなら、『動いた』だけでは採用できない。誤りを見つける方法と、修正する担当まで必要になる。
比べたいのは作る費用だけではなく、使い続ける手間だ。安く作れても、自分しか直せず、止まるたびに仕事を中断するなら、その負担も自作の費用になる。
MacBook Proで作ったものを常時起動のMac miniへ移す際には、実装内容と使い方をまとめたMarkdownも作ってもらった。後で見たときに、何を作ったか分かる状態が残った。
会社で同じことをするなら、この説明に『何ができないか』『どこに保存しているか』『止まったらどう戻すか』も加えたい。AIとの会話を全部読み直さないと使えない状態では、仕事の道具になりにくい。
別の日には、古い設定が積み重なった開発環境も整理した。以前なら調査と更新に1〜2週間かけていた作業が、その回は約15分で終わった。これも自分の経験上の比較で、同じ作業を同条件で測った実験ではない。
重要だったのは、いきなり新しい設定を上書きしなかったことだ。実際の設定や導入済みツールを見て、残すものと更新するものを考え、影響が読みにくい変更はバックアップしてから進めた。
会社の小さな業務改善でも、先に現状を見ずに『AIで作り直そう』と始めると、今の手順が守っている条件を落としかねない。まず一つの手間を選び、必要な機能と確認方法を決め、戻せる状態で試す。その順番で考えたい。
15分で作れたこと以上に価値があったのは、必要なものを小さく定義すれば、自分でも改善を試せると分かったことだ。ただし、試作品を作る判断と、会社の仕事を任せる判断は分ける。その線を引いてこそ、この選択肢を長く使えると思う。
Webサイトや展示会を通じて、地元の外から相談をいただく機会が増えた。最近は、新幹線や飛行機で訪問することも増えている。
その中で、WebサイトやYouTubeは、遠方のお客様にとって「最初の工場見学」になっていると感じる。
ただ、機械が動く動画を見せれば、それで仕事が決まるわけではない。
動画で伝わることと、発注するために確かめたいことには、隔たりがある。
この隔たりを埋めるところまで考えないと、動画は見てもらえても、具体的な加工相談にはつながりにくい。
加工会社の側は、設備の名前や大きさを説明したくなる。
もちろん、それは重要な情報だ。ただ、発注先を探している人が確かめたいのは、設備の立派さだけではない。
「自分が抱えている、この部品の相談先になるか」
そこを判断したいはずだ。
例えば「大物加工に対応」と書いてあっても、それだけでは分からない。
どの程度の寸法なのか。どんな材質を扱ってきたのか。どこまで加工し、何を測定できるのか。似た形状の経験はあるのか。
設備一覧は、会社の持ち物の説明だ。
そこから一歩進めて、その設備で、どんな相談に応えられるのかを示す必要がある。
弊社のメルマガでも、670件の配信でクリック上位に並んだのは、Xの投稿とYouTube Shortsへのリンクだった。
現場の加工を見せる情報に、関心が集まったことは確認できる。
ただし、そこから「動画が受注を増やした」とまでは言えない。クリックされたことと、発注先として選ばれたことは別だからだ。
加工動画にも、同じ区別が必要になる。
大きなワークを削っている映像なら、設備や加工のスケールは伝わる。しかし、映像だけで完成後の精度や検査結果まで証明できるわけではない。
だから、動画には役割を持たせたい。
動画で加工の実態を見せ、文章や測定の説明で、相談できる条件を補う。
一つの動画に、会社紹介から品質保証まで全部を背負わせないことだ。
これから加工事例を整えるなら、写真や動画の横に、次の五つを置きたい。
材質と寸法。
自分の相談に近いかを判断する入口になる。
依頼時の課題。
何を削ったかだけでなく、何が難しかった仕事なのかを示す。
その課題に対して行ったこと。
「技術力で解決した」では、発注先の比較材料にならない。公開できる範囲で、対応の考え方を伝える。
結果を何で確認したか。
加工したことと、要求を満たしたことを分ける。確認済みの結果だけを書く。
今回の相談では、何を確認する必要があるか。
過去にできた仕事が、条件の違う図面でもそのままできるとは限らない。その違いまで伝える。
これは、現場のノウハウを全部公開するという意味ではない。
顧客名、図面、用途、固有の工程など、出せない情報はある。必要なのは秘密の公開ではなく、相談する側が適合性を判断できる説明だ。
事例を読んで興味を持っても、何を送れば話が進むか分からなければ、問い合わせには手間がかかる。
だから、相談の入口にも準備が必要だ。
図面、材質、数量、希望納期、特に厳しい公差や検査条件。分かる範囲で何を伝えてほしいのかを示す。
図面を渡す前に秘密保持の確認が必要なら、まずその相談ができることを案内する。
未確定の条件がある案件なら、それを未確定として話せる入口も必要になる。
問い合わせの件数を増やすことと、判断に必要な情報がそろった相談を増やすことは違う。
専任営業がいない会社ほど、最初の往復で何を確かめるかが、その後の負担を左右する。
動画の再生数が伸びたら、うれしい。
しかし、加工会社の営業として知りたいのは、その先だ。
自社の対応範囲に合う相談が来たか。図面を受け取れたか。見積へ進んだか。受注し、採算の合う仕事になったか。
一方で、見積まで進まなかった問い合わせにも、見直す材料がある。
対応できない寸法の相談ばかり来るなら、加工範囲の説明が曖昧なのかもしれない。品質の質問が繰り返されるなら、検査体制の説明が足りない可能性がある。
アクセスや動画の数字は入口を見るもの。問い合わせや商談の記録は、入口の説明が適切だったかを見るものだ。
YouTubeにも視聴維持率などの分析機能があるが、それは視聴の状況を測る指標であり、自社の受注実績とは分けて見る必要がある。YouTube公式ヘルプ
Webや動画の役割は、訪問営業をなくすことではない。
設備、加工範囲、事例、検査体制といった基本情報を先に渡し、会ったときには個別の図面や条件について話せるようにすることだ。
遠方への訪問には、時間も費用もかかる。
その時間を会社紹介の繰り返しに使うのか、それとも「この条件なら、どう進めるか」という検討に使うのか。その差は小さくない。
製造業のWebで目指したいのは、立派な会社に見せることではない。
相談できること、まだ確認が必要なこと、相談を進めるために必要な情報が、会う前から分かること。
そこまで用意して、WebとYouTubeは営業の準備になる。
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2006年にIT会社を法人化し、製造業のホームページを作らせてもらう仕事を続けてきた。
その中で、一社だけ、ずば抜けてV字回復している会社があった。
この記事では、その会社の変化に気づいたことをきっかけに、立て直しの専門家と出会い、弊社の金属加工会社を立て直してきた経緯をまとめる。会社の経営に悩んでいる方に、何か一つでも参考になればうれしい。
話を聞くと、裏で凄腕の立て直し屋が動いていた。
当時、弊社の金属加工会社も苦しい時期にあった。赤字が続き、腕のある職人にも旧式の機械しか使わせてあげられなかった。
迷わず頭を下げに行った。
「うちにも紹介してください」
その社長は奥様と一緒に、真剣に話を聞いてくださった。そして「あなたなら」と、快く引き受けてくださった。
その立て直し屋が、今の弊社の顧問税理士だ。
給料もろくに払えなかった時期から、あらたな融資を受けられるよう一緒に銀行を回ってくれた。
会社にお金が残る形を考え、経営層と社員がいがみ合わないよう、間に入ってくれた。数字の立て直しだけでなく、人の関係まで含めて会社を整えてくれた。
会社が苦しい時は、経営者も社員も余裕がなくなり、お互いにぶつかりやすくなる。そこに信頼できる第三者が入ってくれたことは、会社にとって大きな支えになった。
立て直しは、一つの施策で一気に進んだわけではない。5年ほどかけて、次のことに順番に取り組んだ。
その先に、8,800万円の門型マシニングセンタの導入があった。
その結果、年商は最悪だった時期の5倍になった。社員の給与は倍になった。
今では、メインバンクの展示会で代表企業に選ばれている。
給与を上げられたのは、投資の順番を守ってきたからだと考えている。まず返済、次に稼げる機械、稼げるようになったら給与、そして働く環境。今年はようやく、工場に空調を入れることもできた。その話は「利益を生まない投資は最後に。断熱してから入れた500万円の工場空調」に書いた。
振り返ると、会社を立て直す一番の近道は、自分で全てを解決しようとすることではなかった。立て直せる人を見つけ、自分から頭を下げに行くことだった。
経営者は、苦しい時ほど一人で抱え込みやすい。弱みを見せたくない気持ちもある。しかし、財務、銀行との関係、社内の調整は、経験のある専門家と組むことで進み方が大きく変わる。
あの会社の変化に気づけたのは、IT会社としてホームページ制作の仕事で多くの製造業を見てきたからだ。
2004年ごろからホームページとSEOを手がけ、製造業のWeb集客に関わってきた。その経緯は「2004年から自社でHPとSEOを続けて分かった、営業マンのいない町工場の集客」にまとめている。2つの会社を経営していたことが、思わぬところで本業を立て直すきっかけになった。
最後に、今回の経験から伝えたいことを整理しておく。
気づいた時に迷わず動けたことが、今の会社につながっている。苦しい時期に頭を下げに行ったあの日が、立て直しの本当の始まりだった。
利益を生まない投資を最後に回した順番は「利益を生まない投資は最後に。断熱してから入れた500万円の工場空調が、品質の説明になった」で書いている。
取引構成を一社・一業界に偏らせない考え方は「門幅3000mm超の設備22台を4社・4県で確保。不景気から生まれた町工場のBCP」でも紹介している。
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金属加工会社とIT会社を経営している。
2004年ごろ、IT会社を立ち上げて最初に覚えたのは、ホームページの作り方と、当時まだできる人が少なかったSEOだった。
理由は単純で、家業の金属加工会社を支えてくれた職人たちのために、仕事を取ってきたかったからだ。
この記事では、20年以上ホームページとSEOを続けてきた中で分かった、営業マンのいない町工場がWebで集客するための考え方をまとめる。
ホームページを作れば問い合わせが来る。そんな甘いものではなかった。
最初は、まったく結果が出なかった。それでも続けるうちに、少しずつ検索から見つけてもらえるようになった。
検索から見つけてもらえるようになると、来るお客様が変わっていった。そして、利益の出る仕事が増えていった。
町工場の仕事は、紹介や地域のつながりで決まることが多い。それ自体は大切な関係だが、それだけでは出会えるお客様の範囲が限られる。検索は、こちらを知らなかった会社が、困った時にこちらを見つけてくれる入口になった。
今では、名だたる上場企業の方から「こんなことできませんか?」と問い合わせが来る。年に数回だが、こちらから営業したわけではなく、向こうから見つけてくれた相談だ。
営業マンがいない町工場でも、ホームページは24時間、営業してくれる。
Webや展示会で集客するようになってから、地元の外からの相談が増えた。最近は、営業車より新幹線や飛行機での訪問が増えている。
外へ出るほど、全国で通用する技術と、まだ足りない営業・設備・技術の両方が見えてくる。地元を大切にしながら、外から仕事を取る。その循環の入口になっているのが、ホームページだ。
20年以上続けてきて、町工場のホームページに必要なのは、見た目の派手さより「探している人に見つけてもらえること」と「見つけた人が相談できると判断できること」だと考えている。
具体的には、次のような情報を載せておきたい。
大手の購買担当者や設計者は、困った時に検索して加工先を探すことがある。その時に、自社の技術が具体的に書かれていなければ、候補にすら入らない。
SEOというと難しく聞こえるが、町工場にとって大事なのは、お客様が検索しそうな言葉で、相談内容に答えることだ。
お客様は社名ではなく、「大型部品 加工」「門型マシニング 加工 依頼」のように、困りごとや加工内容で探す。自社の呼び方ではなく、お客様の言葉で書く。そして一度作って終わりにせず、加工事例や設備の情報を更新し続ける。
ホームページだけでなく、動画やSNSも集客の入口になる。
弊社のメルマガでは、クリック上位4件がすべてXの投稿とYouTube Shortsだった。設備名や会社概要を並べるより、実際に機械が動いている様子の方が、次の行動につながっている。詳しくは「製造業のメルマガ、クリック上位は会社案内ではなく加工動画だった」にまとめた。
ホームページは続けるほど資産になる。そして今は、閲覧数やフォーム送信までを数字で確認できる。
2025年第3四半期には、Webサイト閲覧3,620、ブログ閲覧117、フォーム送信92という数字を確認した。見られた数だけでなく、問い合わせ、商談、受注までつなげて見ることで、次に何を改善すべきかが分かる。その方法は「製造業サイト3,620閲覧・92フォーム送信から考える、集客を受注まで測る方法」で紹介している。
最初は結果が出なくても、検索から見つけてもらえる状態を作り、続けること。
営業担当者を何人も置けない町工場にとって、ホームページは今でも最も頼りになる営業担当だ。
ホームページへの入口を増やすメルマガと動画の反応は「製造業のメルマガ、クリック上位は会社案内ではなく加工動画だった」で詳しく書いた。
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今年、ようやく工場にエアコンを入れた。500万円の投資だ。
大物加工の広い工場を丸ごと冷やすのは、大手なら当たり前にやっていること。しかし町工場にとっては、長年の夢だった。
この記事では、なぜ空調への投資を最後に回したのか、導入前に何をしたのか、そしてその投資が大手との商談でどう役に立ったのかをまとめる。
エアコンは、それ自体が利益を生む投資ではない。だから順番は最後だった。
会社が苦しい時期に、利益を生まない設備へお金を回すことはできなかった。先に会社の数字を立て直し、稼ぐ力を作り、社員の給与を上げる。その後で、ようやく働く環境に投資できた。
「稼げる機械」として3年前に導入したのが、8,800万円の門型マシニングセンタだ。
工場の空調は、売上に直結しにくい。機械を入れれば受けられる仕事が増え、給与を上げれば人が定着する。それに比べて、空調の効果は数字で見えにくい。
さらに、大物加工の工場は天井が高く、床面積も広い。家庭やオフィスのように、エアコンを付ければすぐ冷えるというわけにはいかない。冷やす空間が大きいほど、設備費も電気代もかかる。
だからこそ、会社に体力がつくまで手を付けられなかった。
広い工場は、空調を入れても冷気が逃げてしまう。そこでエアコンを入れる前に、工場の周りを断熱材で囲った。

設備を入れる前に、効果を出すための土台を整える。これは機械の導入と同じ考え方だ。どれだけ性能の良いエアコンを入れても、建物から熱が出入りしていれば、効果は半減してしまう。
空調は、働く人のためだけのものではない。精度にも関わる。
金属は、温度によって伸び縮みする。一般的な鋼材の場合、長さ1mのものが1℃変わると、およそ0.01mm(10ミクロン程度)伸び縮みすると言われる。小さな部品なら気にならない差でも、大物になるほどその影響は大きくなる。
朝と昼、夏と冬で工場の温度が大きく変われば、測った寸法も変わる。加工する時の温度、測る時の温度、お客様のところで使われる時の温度。大物を扱う工場ほど、温度は精度の説明から切り離せない。
先日、大手との商談で質問を受けた。
「温度による伸び縮みまで、対応できるんですか?」
「はい。大物屋ですが、できています」
胸を張って答えられたのには理由がある。測定機メーカーが三次元測定機を現場に持ち込み、保証範囲内であることを確認してくれていたからだ。
「あとはその測定機を導入すれば」と話すと、お客様からは笑顔でこう返された。
「そこまでの精度は要りません。一般公差ですから」
大手との商談では、精度だけでなく、品質保証の体制や設備投資への意欲、緊急時の備えまで問われる。その中で、温度という目に見えにくい要素について、第三者の確認を根拠に答えられたことは大きかった。
エアコンは、社員の働く環境を良くするために入れた。大物を削る仕事は、ただでさえ体力を使う。
しかし結果として、その投資が大手との商談で品質を説明する材料にもなった。温度の影響を受けにくい環境があること、そして第三者の測定で確認していること。どちらも、精度を口で説明するより説得力がある。
今回の経験から、町工場が空調への投資を考える時のポイントを整理しておく。
利益を生まない投資は、後回しになりやすい。ただ、順番を守って会社の体力をつけた上で実行すれば、働く人のためにも、顧客への信頼のためにもなる。今回の空調は、そのことを実感させてくれた投資だった。
品質の根拠を示してお客様の不安を減らすという考え方は「製造業の営業は「技術を売る」のではなく「顧客の不安を消す」仕事」で書いた。
設備が止まった時に備える4社のつながりは「門幅3000mm超の設備22台を4社・4県で確保。不景気から生まれた町工場のBCP」で紹介している。
難削材の大物加工をきっかけに、大手自動車メーカーのサプライヤーになった経緯は「大阪に一枚だけの難削材を探して削った。大手自動車メーカーのサプライヤーになるまで」に書いた。
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量産開始は5年後。その事業部となら、町工場の弊社でも組めた。
大手と取引できるかどうかは、会社の大きさだけでは決まらない。相手の事業部が、今どのステージにいるかで決まる。最近の商談で、そう実感した。
以前提案した先は、開発を終え、これから大量量産に入る段階だった。
量産に入ると、求められるのは安定した大量の供給だ。その発注量に、弊社の規模では応えられなかった。
加工の技術が足りないという話ではない。相手が今必要としている量と、こちらが出せる量が合わなかった。
今回の提案先は、比較的小さな組織の事業部で、これから試験機を作る段階だった。量産の開始は5年後になる。
試験機の段階では、さまざまな実験をする。形や条件を変えながら作るので、仕事は少量多品種になる。
少量多品種の大物加工は、弊社がふだん得意としている仕事だ。
振り返ると、噛み合ったのは次の3つだった。
どれか一つだけでは、取引にはつながらなかったと思う。3つがそろったことで、話が前に進んだ。
町工場の営業では、相手の会社が大きいと、それだけで「うちには無理だ」と考えてしまいがちだ。実際、量産段階の要求に応えられないことはある。
ただ、大手の中にも、開発の初期にいる事業部や、試作を重ねている部署がある。そこで求められるのは量ではなく、一つずつ違うものを確実に作る力だ。
だから見るべきは、相手の会社の大きさではなく、次のような点だと考えている。
こうした点は、商談の中で相手の困りごとを聞くことで見えてくる。製造業の営業は、技術を売り込むよりお客様の不安を一つずつ消していく仕事だと考えている。その考え方は「製造業の営業は「技術を売る」のではなく「顧客の不安を消す」仕事」にまとめた。
狙う相手を絞って提案する方法については、「ABM(アカウントベースドマーケティング)を試してみたら、2週間で1000万の仕事につながった話」でも紹介している。
試験機の段階から関われば、量産が始まるまでの数年間、相手と一緒に試行錯誤を重ねることになる。
その間に、どんな精度が必要で、どこに難しさがあるのかを、お互いに理解していける。今は量が合わない相手でも、入口のタイミングが違えば、組める相手になることがある。
会社の大きさだけを見て、大手は無理だと諦める必要はない。相手が今どのステージにいるかを見ればいい。
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製造業のメルマガは、送ること自体が目的になりやすい。
配信件数や開封率を確認して終わり、その後の営業につながったかどうかまで追えていない会社も多いのではないだろうか。弊社では、HubSpotで配信結果とクリックされたリンクを確認し、どこで顧客の反応が止まっているのかを見るようにしている。
この記事では、金属加工会社として実際に配信したメルマガの数字をもとに、クリックを集めた内容と、反応が止まった回の違い、そして次の営業へつなげる方法をまとめる。
加工事例を紹介したメルマガは、670件へ正常に配信された。
クリックされたリンクの上位を確認すると、次のようになっていた。
上位4件は、すべてSNSの投稿と動画だった。

設備名や会社概要を並べたページより、実際に機械が動き、加工している様子の方が、読み手の次の行動につながっていた。
製造業の技術は、文章だけでは伝わりにくい。
こうした情報は、数秒の動画の方が早く伝わる。メルマガの本文で「大型部品の加工に対応しています」と書くより、実際に門型マシニングセンタが大物を削っている映像を見てもらう方が、技術の中身を想像してもらいやすい。
動画は広告素材というより、技術を短時間で理解してもらう営業資料として使えると分かった。
一方で、別の期間の数字も確認した。2026年5月27日から6月26日までに配信したメルマガ2通は、次の結果だった。
参考として、2025年第3四半期のマーケティングメールは、平均開封率34.5%、平均クリック率6.3%だった。期間も内容も違うため単純な比較はできないが、配信できたことと、顧客が動いたことはまったく別だと分かる。
同じ四半期には、Webサイト閲覧3,620、ブログ閲覧117、フォーム送信92という数字も確認している。メルマガ単体ではなく、Webサイトやフォームまでつなげて見ることで、集客から問い合わせまでの流れが見えてくる。詳しくは「製造業サイト3,620閲覧・92フォーム送信から考える、集客を受注まで測る方法」にまとめた。
数字を見る時は、送信数ではなく、反応が止まった場所を探す。
弊社の場合、加工の様子が分かる動画やSNS投稿へのリンクが最も反応を集めた。そこで、メルマガは会社案内を伝える場ではなく、実際の加工を見てもらう入口として設計する方がよいと考えている。
メルマガで反応を確認することは、自社の強みのどこが響くかを知ることでもある。
以前、年賀状に加工の強みを載せたところ、既存のお客様から「それもできたのか」と声をかけていただき、大きな商談につながったことがあった。
そこで同じ内容をA4一枚にまとめてカタログへ封入し、新規営業でも毎回その強みを話すようにした。すると、同じ種類の案件が増えてきた。
お客様は、知らない強みには相談できない。長く取引しているお客様でも、こちらが何をできるかを全て知っているとは限らない。
メルマガ、SNS、YouTube、紙、商談。チャネルは違っても、反応があった強みを繰り返し伝えることで、初めて市場に認識される。
専任の営業担当が少ない製造業ほど、メルマガは既存顧客との接点として役に立つ。ただし、送るだけでは成果にならない。
数字を見ることで、自社の技術がどう伝わっているかが分かる。メルマガは、その確認と改善を繰り返すための道具だ。
メルマガやサイトの反応を、受注・失注データと合わせて分析した事例は「SalesforceとGA4をAIで分析し、次の営業施策まで決めた方法」で紹介している。
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大手メーカーとの商談では、加工精度だけでなく「緊急時に生産を止めない体制があるか」を問われる。
いわゆるBCP(事業継続計画)だ。停電、設備の故障、災害、そして取引先である自社が立ち行かなくなった時。お客様は、その時に部品の供給が止まらないかを見ている。
弊社の場合、その答えになっているのは、不景気をきっかけに生まれた同業4社との助け合いだった。この記事では、その成り立ちと、実際に助けられた経験、そして町工場がBCPを考える時のポイントをまとめる。
大手メーカーとの商談で聞かれたのは、次のようなことだった。
問いを一つにまとめると、「御社は、この先何年もパートナーでいられる会社か」ということになる。
小さな会社だから大手と取引できない、のではない。技術や装置があるから取引できる、のでもない。長く任せられる会社かどうかが問われている。その中でも、緊急時の備えは、小さな会社ほど説明が難しい項目だ。
4社は、それぞれ強い業界が違う。半導体、自動車、産業機械、建築資材、航空機器。取引先の業界がばらけているからこそ、ある業界が止まっても、別の会社は動いている。
ある業界が数年単位で止まると、その業界に強い会社の仕事が止まる。そんな時、その会社の社長から声がかかった。
「何かお仕事、手伝えることありませんか?」
そこで、うちの仕事を一緒にやってもらった。
逆に、うちが急な増産で回らなくなり、「なんとか助けてほしい」とお願いに行ったこともある。仕事が止まった時も、仕事があふれた時も、お互いに支え合ってきた。
ある時、以前作った部品一式で、同じ納期で6倍に生産を増やしてくれ依頼された。うち一社では、とても賄いきれない量だった。
協力会社に相談に行くと、返ってきたのはこの言葉だった。
「以前助けてもらったから、精一杯頑張りますよ」
この時、苦しい時期に積み上げた関係が、そのまま生産能力になっていると実感した。増産の依頼は本来ありがたい話だが、一社で抱え込めば納期遅れや品質低下を招き、かえって信頼を失いかねない。助けてくれる仲間がいたからこそ、チャンスを逃さずに済んだ。

現在、この4社で確保している門幅3000mm超級の設備は22台。拠点は4県に分かれている。
大物加工の設備は、一台が止まると代わりを見つけにくい。機械そのものが大きく、どこにでもある設備ではないからだ。どこか一つの地域で災害やトラブルがあっても、別の県の設備で生産を続けられる。大手の商談でBCPを問われた時も、この体制を資料で示して回答できた。
もう一つ意識しているのが、取引構成の分散だ。弊社も、特定の1社に依存しない取引構成を心がけている。半導体、自動車、産業機械、建築資材、航空機器など、業界の異なるお客様と取引している。
一つの業界や一社に売上が偏ると、その業界が止まった時に会社ごと止まってしまう。取引先の業界と、緊急時の生産拠点。その両方を分散させることが、小さな会社が長く選ばれるための条件だと考えている。
設備は、資金があれば揃えられる。しかし、止まった時に頼れる関係は、お金では買えない。苦しい時に助け合った実績の上にしか積み上がらない。
材料の調達でも同じことを経験した。流通していない難削材を、取引のない材料問屋さんが先に動いて届けてくれたことがある。その話は「大阪に一枚だけの難削材を探して削った」に書いた。いざという時に動いてくれる人がいるかどうかが、町工場の対応力を大きく左右する。
町工場のBCPというと、設備の二重化や在庫の確保を考えがちだ。もちろんそれも必要だが、少人数の会社が一社だけで全てを備えるには限界がある。
こうした関係を平時から持っておくことが、大手から見た「この会社に任せても大丈夫か」という問いへの答えになる。
発注する側の不安を減らすという営業の考え方は「製造業の営業は「技術を売る」のではなく「顧客の不安を消す」仕事」でまとめている。
他社に断られた大物加工を受けた事例は「大阪に一枚だけの難削材を探して削った。大手自動車メーカーのサプライヤーになるまで」にまとめた。
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町工場への相談は、長い間ずっと同じ形だった。
「この材料、この大きさで削れる? なんとかしてくれ」
材料も図面も決まっていて、こちらは加工できるかどうかを答える。それが当たり前だと思っていた。
ところが、大手自動車メーカーからの相談は違った。
「素材メーカーの資料で、こういう素性の材料を見つけた。探してほしい」
求められたのは加工だけではなく、材料を探すところからだった。この案件が、弊社が初めて大手自動車メーカーのサプライヤーに加わるきっかけになった。
調べてみると、機械に取り付けられる大きさのその難削材は、ほとんど流通していなかった。手を尽くして、ようやく見つかったのは大阪に一枚だけ。
しかも在庫を持っていたのは、一度も取引のない材料問屋さんだった。一両日中に動かさなければ、納期に間に合わない。
すぐにアポイントを取り、銀行とも掛け合った。
「明日には振り込みます。なんとか、その材料を埼玉のうちの工場へ入れられませんか?」
材料問屋の部長さんが動いてくれた。取引のない弊社のために、材料代を振り込む前に手配してくれた。材料はすぐに工場へ届いた。
この経験で強く感じたのは、大手にとって材料調達は加工と切り離せないということだ。
大手メーカーとの商談では、加工精度だけでなく「材料をどう調達しているか」も聞かれた。図面に書かれた材料が、いつでも市場で手に入るとは限らない。特に特殊な材料や大きなサイズになるほど、流通量は少なくなる。
材料を探せること、探した材料を短期間で工場に入れられること。それ自体が、発注先を選ぶ時の判断材料になっている。
届いたのは、2m×4m、厚さ50mmの大板だった。これを重切削加工し、ひずみと反りを0.3mm以内に収める必要があった。

大きく厚い板を削ると、材料の内部に残っていた力が解放され、ひずみや反りが出やすくなる。さらに難削材は、切削工具への負担も大きい。大物であるほど、一度の失敗が材料の再手配や納期遅れに直結する。今回は、市場にほとんど残っていない一枚を使うため、やり直しはできなかった。
一度のミスも許されない製品を、門型マシニングセンタの導入を直訴した若い職人が、難なく仕上げた。
納期通りに完成した製品を見て、お客様から言われた。
「これは、世にない技術だよ」
大手自動車メーカーのサプライヤーは2,000社を超える。そのどこでも断られた仕事だった。
この案件をきっかけに、弊社は初めて大手自動車メーカーのサプライヤーに加わった。
振り返ると、受けられた理由は一つではない。
どれか一つが欠けても、この仕事は納期に間に合わなかった。
大手の発注先選びは、加工精度だけで決まらない。図面にない材料を探す力、資金の判断を即座にできる経営、難しい加工を引き受ける職人。その組み合わせを一つの窓口で任せられることに価値がある。
大手との取引で問われるのは、技術を売り込むことより、お客様の不安を一つずつ消していくことだと感じている。この考え方は「製造業の営業は「技術を売る」のではなく「顧客の不安を消す」仕事」でもまとめた。
また、大手と仕事をすると、材料や周辺工程など、自社の専門外の相談を受けることも増える。そうした相談への向き合い方は「専門外の相談にAIでどう向き合うか。町工場の「目利きの入口」を作る方法」で紹介している。
この取引をきっかけに、大手自動車メーカーのサプライヤーになった。その後は加工の依頼だけでなく、設計段階の相談も届くようになった。
ある時は、部品を締結するボルトの本数が足りるかを聞かれた。お客様は板厚を薄くすることと加工方法を中心に検討していたが、こちらからは、ねじにかかるせん断荷重の向きも確認するよう伝えた。
図面が固まる前から相談される関係になると、加工する側の経験を設計に生かせる。「削る会社」から「一緒に考える会社」へ、取引の位置付けが変わり始めている。

この案件から学んだことを、町工場の営業の視点で整理しておく。
町工場の強みは、設備の一覧表だけでは伝わらない。困った時に動いてくれる取引先、即座に判断できる経営、そして難しい加工を引き受ける職人。その組み合わせが、他社に断られた仕事を受けられる理由になる。
「削れますか」ではなく「探してほしい」と相談される会社になる。そこに、大手との取引の入口があった。
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