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「人類の古層の記憶」を追い求める作品は、私たちに何を語りかけるのか?「芸術とは何か」を問う作家の思考と、創造の源泉に迫るドキュメンタリー映画『はじまりの記憶 杉本博司』が、8月15日(土)よりシアター・イメージフォーラムにてリバイバル上映されている。
文化施設「小田原文化財団 江之浦測候所」をはじめ、いまや建築の分野でもその名を知られ、古典芸能を中心に舞台芸術の演出では世界中を飛び回るほか、NHK大河ドラマ「青天を衝け」の題字を手掛け、書家や陶芸家としても活躍するなど、多彩な活動を行う現代美術作家・杉本博司。その活動の原点は写真にあるという。
写真は通常、「目の前にある現実を切り取るもの」と捉えられているが、杉本はカメラが切り取る“実像”を疑い、それをコンセプチャルアートの手段として捉え、可能性を無限に広げた。
映画『はじまりの記憶 杉本博司』は、8×10(エイトバイテン)という大判の銀塩写真機での撮影シーンを含め、写真家としての杉本に長期密着取材を行ったドキュメンタリー。日本、NY、南仏、シドニーと国境を超えた創作の現場を追い、作家の創造の源泉と「人間にとって芸術とは何か」という問いに迫っている。
監督は映画『あえかなる部屋 内藤礼と、光たち』(2015年)を手掛けた中村佑子。2010年にWOWOWで同名の番組として放送後、第39回国際エミー賞の芸術番組部門(アート部門)にノミネートされ、2012年の初公開時にロングランを記録した。
東京国立近代美術館で開催中の展覧会「杉本博司 絶滅写真」に合わせ、8月15日(土)よりスタートしたリバイバル上映に先立ち、前日8月14日(金)には、同劇場にてトークイベントが開催され、杉本博司と中村佑子監督が登壇した。
満席となった会場での本編上映後、中村佑子監督が登場。そして客席の後方で観客と一緒に映画を鑑賞していた杉本博司が紹介されると、会場からは割れんばかりの大きな拍手が送られた。スクリーン前に杉本が登壇し、トークセッションがスタートした。
杉本は「この映画は10年以上前に公開されたものですね。実際の撮影からだともう15年くらい経ちます。客席で他人事みたいに観ていましたが、名作ですよ(笑)。今まで『よくできた』なんて監督に1回も言ったことがなかったかもしれないけれど、今日改めて客観的に観て、本当によくできています」と自画自賛を交えて挨拶し、会場の笑いを誘った。中村監督も「ありがとうございます。そう言っていただけて、本当に嬉しいです」と笑みをこぼした。
話題は、第39回国際エミー賞 芸術番組部門(アート部門)にノミネートされた際のエピソードへ。杉本が「国際エミー賞に呼ばれてニューヨークに行って、レッドカーペットを歩いたんですよね。フラッシュを浴びて、いい気持ちでした(笑)」と振り返ると、中村監督は「レディー・ガガにプレゼンテーションされて、世界でファイナリストの4本まで残りました。(受賞時の)スピーチまで用意して行ったのですが、イギリス(BBC)の有名なドキュメンタリー番組(『Gareth Malone Goes to Glyndebourne』)が受賞して、スコットランド出身でキルトのスカートを履いた出演者(ガレス・マローン)に目の前で持っていかれて……悔しい思いをしました(笑)。でも、みんなでタキシードを着て授賞式に行って。杉本さんにもタキシード姿で来ていただいて嬉しかったです」と当時の華やかな舞台裏を語った。
映画化の経緯について中村監督は、当初はWOWOWの人物ドキュメンタリー「ノンフィクションW」枠の50分番組として企画されていたことを明かし、「番組を作ってすぐに『50分ではもったいない』と思ってシアター・イメージフォーラムさんに相談したんです。放送前の番組を観てもらったら『これが長くなるならスクリーンにかけられます』と言っていただいて。映画化に向けて編集している最中にエミー賞ノミネートの一報が届いたという経緯でした」と回想。
さらに中村監督は、企画の始まりとなった奇跡的な出会いを明かした。「最初に東京のギャラリーへ取材を申し込みに行った時、全く予定のなかった杉本さんご本人がふらっと現れたんです。その時、東京湾かどこか(新木場)から買ってきたばかりの古い杉の丸太の話をされていて、すごくテンションが高かったんですよね。それでその場でいろいろな話が盛り上がって、『僕が普段創作している現場にきて、こうして君とおしゃべりしながら撮るのならいいよ』と言ってくださって。そのチャンスを逃すまいと、私自身がプロデューサー兼ディレクターとして、次の日から一眼レフカメラを持って撮影を始めました」と語った。
これに対して杉本は「僕はほとんど冗談ばっかりで笑わせてばかりいたんですけど、それ全部カットされちゃったじゃないですか(笑)。それで、真面目で崇高なアーティスト像のようなものが捏造されたわけですね」と冗談めかして当時も抗議をしていたことが明かされた。中村監督も「少しは入ってますよ(笑)、でも私はおちゃらけてる杉本さんのアートの本質を描きたかったんです」と受け応えた。
トークは、現在東京国立近代美術館で開催中の展覧会「杉本博司 絶滅写真」で注目を集めている「狂歌」の話題へと展開。中村監督からその意図を尋ねられた杉本は、美術館のロケーションとなぞらえながら独自の空間論を語る。
杉本は「東京国立近代美術館は、畏れ多くも皇居の目の前に位置しています。入り口は皇居に面していてお濠の松が見え、左側には竹橋がかかっている。この立地と空間の構造を見たとき、私は美術館全体を一つの“能舞台”として捉えたのです。本館の展示室という“能舞台”において、私自身が能の演目をやるような形式で展覧会全体を構成しようと考えました」と言及。
続けて構造の意図について、「能の構造というのは、ワキが現れ、前シテが現れ、後シテが登場するまでの間に、必ず“間狂言”という狂言師によるお話が入るんです。笑いを交える形で間狂言が入って張り詰めた空気を和らげる。そうでないとあまりにも緊張度が高すぎるからです。私の展示においては、間狂言の代わりに“狂歌”が入っています。写真展示は前シテと後シテに分かれていて、狂歌は間狂言であると言い換えられます」と説明。「(杉本氏の)『海景』シリーズも真ん中に一本の水平線があって緊張が持続するので、観客がくたくたになってしまう。そこで狂歌が入ることで全体の緊張と緩和のバランスがとれるのです。最後に展示している『五輪塔』は銀塩写真のお葬式という位置づけです」と、計算された芸術的意図を明かした。
これに対して中村監督が「基本、杉本さんは常に頓智であり、アートの形式自体も頓智から始まっているところがありますよね。でも観客は崇高なものを期待して求めてしまう」と問いかけると、杉本は「『批評』というのは反論が成り立たないと批評にはならないんですよね。ですからこれは意図的にいろんな見方ができるように、仕掛けをしています。わざと火をつけてやろうという企みが実際にはあるんですよね」とニヤリと微笑み、会場を大いに沸かせた。
話題は現代のインターネット社会やSNSでの匿名性への懸念へと広がった。杉本は「今のX(旧Twitter)などで自分の名前を出さずに匿名で勝手なことを言える状況は、良くないんじゃないかなと思います。自分の言説に責任を持って発言するように実名投稿すべきです。匿名ではただの噂話になってしまう。歴史的にも根も葉もない噂で悲劇が起きました。こうした社会のターニングポイントにおいて、下降線をたどっているように思えてなりません。この映画を作っていた15年前の頃の方が、今よりも良い時代だったのではないかと思うんです」と現代社会への苦言を呈した。
中村監督も深く共感し、「かつて写真は、圧倒的な『証明能力』を持っていて、写真に撮ればそこに真実が写っているとみんなが信じていたからこそ、杉本さんはそれを裏切ろうとされました。ジオラマを撮って『実はこれは剥製だよ』と見せたり、劇場を撮ってそこに映る崇高な白い光を『実はこれ、ホラー映画一本分だよ』と示したりして。しかし今や誰もが簡単にフェイク映像を作れる時代になり、写真が真実を写すという前提そのものが消えてしまった。今回の個展『絶滅写真』も、写真というメディアが持っていた価値の『生前葬』のように見えました」と分析した。
さらに杉本はAIの進化についても言及。「AIの出力というのは、ただの膨大な人間の知識の集積(パターン認識)であって、そこに主観的な意識は存在しないからです。私に言わせれば、AIが人間を超えるなどということは絶対にあり得ない。これからの未来については、はっきり言って『絶滅は近い』というメッセージにならざるを得ないかなと思います」と持論を展開した。

映画に登場する旧東海道線(熱海線)廃線跡の「眼鏡トンネル」について、杉本は驚くべき近況を伝えた。
杉本は「自分でも驚くべきことが起こったのは、昨年(2025年)のことです。江之浦測候所に隣接する旧東海道線の廃線跡、そしてかつて『眼鏡トンネル』が通っていた広大な土地が、(小田原文化財団に)無償で与えられてしまったのです。自分の原初の記憶の場所が与えられてしまったので、これを整備するまでは生きていなければいけないというような状況になりました」と明かした。
敷地の整備について杉本は「ツタを刈るだけでも半年ぐらいかかりました。道がなかったので軽トラックが入れる道を作るところまでやって、これでもう1年です。あのトンネルは大正11年に開通した素晴らしい文明跡で、コンクリート壁の厚さが1m20cmぐらいあります」と解説。中村監督も「みかん畑だった土地が一つになったのは本当に感慨深いですね。私はこっそり“杉本ランド”と呼んでいるのですが(笑)」とお茶目に答えた。
さらに杉本は、8月15日の敗戦記念日に行う能公演『巣鴨塚 ハルの便り』にも言及。「板垣征四郎が遺した漢詩の遺書を能に書き換えて上演します。敗戦の歴史についての戦後処理がまだ全く終わっていない気がするんですよね。右でも左でもない、ただ一つの歴史の記述として残し、語り継いでいく。これは私に課された大切な役割だと思っています」と深い思いを打ち明けた。
イベントの最後には、来場した観客によるフォトセッションが急遽設けられた。その場で許諾を求められた杉本は「あ、チャージは請求しません(笑)」とジョークで快諾。観客が一斉にスマートフォンを掲げる中、温かい雰囲気に包まれながらトークイベントは幕を閉じた。
映画『はじまりの記憶 杉本博司』リバイバル上映記念 トークイベント■開催日: 2026年8月14日(金) |
杉本 博司(Hiroshi Sugimoto)1948年東京生まれの現代美術作家。1970年に立教大学経済学部卒業後、渡米。ロサンゼルスのアート・センター・カレッジ・オブ・デザインで写真を学び、1974年に卒業。ニューヨークに移住。代表作に、自然史博物館に展示されている動物標本を撮影した〈ジオラマ〉、映画館のスクリーンに1本の映画を投影し、その始まりから終わりまで撮影した〈劇場〉、世界中の水平線を写した〈海景〉シリーズなどがある。 2017年には小田原に能舞台やギャラリー、茶室などを備えた文化施設「小田原文化財団 江之浦測候所」を開館。主な受賞に毎日芸術賞(1989年)、ハッセルブラッド国際写真賞(2001年)、高松宮殿下記念世界文化賞(絵画部門)(2009年)など。2010年には紫綬褒章を受章。2013年にはフランス芸術文化勲章オフィシエを叙勲。2017年に文化功労者。2023年日本芸術院会員に選出。現在東京国立近代美術館で「杉本博司 絶滅写真」展を開催中。
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展覧会「杉本博司 絶滅写真」国内では21年ぶりの写真作品で構成する大規模個展。杉本博司の活動初期(1970年代後半)から初公開の新作まで、銀塩写真約60点を”絶滅”のテーマとともに展観。 ■会期: 2026年6月16日(火)ー9月13日(日) |
《ストーリー》現代美術作家、杉本博司。文化施設「小田原文化財団 江之浦測候所」をはじめ、いまや建築の分野でもその名を知られ、古典芸能を中心に舞台芸術の演出では世界中を飛び回る。NHK大河ドラマ『青天を衝け』の題字を手がけ、書家や陶芸家としても活躍するなど、多彩な活動を行う杉本の原点は写真にある。 写真は通常、「目の前にある現実を切り取るもの」と捉えられているが、杉本はカメラが切り取る“実像”を疑い、それをコンセプチャルアートの手段として捉え、可能性を無限に広げた。 映画『はじまりの記憶 杉本博司』は、8×10(エイトバイテン)という大判の銀塩写真機での撮影シーンを含め、写真家としての杉本に長期密着取材を行ったドキュメンタリー。日本、NY、南仏、シドニーと、国境を超えた創作の現場を追い、作家の創造の源泉と、「人間にとって芸術とは何か」という問いに迫る。監督は『あえかなる部屋 内藤礼と、光たち』の中村佑子。杉本と深い信頼関係を築き、映画『はじまりの記憶 杉本博司』を仕上げた。 2010年にWOWOWで同名の番組として放送後、国際エミー賞のアート部門にノミネートされ、2012年の公開時にロングランとなった貴重なドキュメンタリーが、いま劇場に甦る。 クリックしてスライドショーを表示 |
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]]>The post じゅじゅフェス 2026 -5th anniversary- DAY1 レポート first appeared on Cinema Art Online [シネマアートオンライン].
]]>8月29日(土)、Kアリーナ横浜にて、アニメ『呪術廻戦』の放送開始5周年を記念した過去最大規模のビッグイベント「じゅじゅフェス 2026 -5th anniversary-」のDAY1が開催された。

会場には約2万人ものファンが集結し、生配信も実施される中、虎杖悠仁役の榎木淳弥、乙骨憂太役の緒方恵美、五条 悟役の中村悠一、夏油 傑/羂索役の櫻井孝宏、真人役の島﨑信長、両面宿儺役の諏訪部順一、脹相役の浪川大輔、秤 金次役の中井和哉、石流 龍役の東地宏樹ら豪華声優陣9名が登壇。さらに歴代主題歌を担当したアーティスト陣による圧巻のライブパフォーマンスや生アフレコ、オリジナル朗読劇が繰り広げられた。
そしてイベント終盤の特報パートでは、全世界待望のTVアニメ『呪術廻戦』第4期「死滅回游 後編」のスーパーティザービジュアルが世界初解禁され、割れんばかりの大歓声が会場を包み込んだ。
イベントは開演直前、舞台袖からの秤金次(中井和哉)による「おいおいおい、待たせたな! てめえらの熱、全部俺に賭けろ!」という熱の込もった影ナレでスタート。直後、ステージ中央からWho-ya Extendedが登場し、第1期第2クールオープニングテーマ「VIVID VICE」とゲーム「呪術廻戦 ファントムパレード」のテーマソング「Chained Chase」を熱唱。会場のボルテージを一気に引き上げた。
続いて各キャラクターの決めゼリフとともにキャスト陣が順次登壇。大スクリーンにキャラクターの姿が映し出され、一人ずつ生ボイスで名台詞を披露しながら現れる豪華な演出に、会場からはその都度割れんばかりの歓声が沸き起こった。
クリックしてスライドショーを表示過去最大規模となる約2万人の観客を前に、主演の榎木淳弥は「人多すぎて感覚が麻痺してきますね。失言だけには気をつけて、皆さんに笑って帰ってもらえたら嬉しいです」と笑顔で挨拶した。

さらに今回じゅじゅフェス初参戦となった浪川大輔が「こんなに弟たちがいるとは思いませんでした。大好き!」と客席に呼びかけ、同じく初登場の東地宏樹が「昨日前乗りして野毛で盛り上がっちゃったんですが、酒も抜けてまいりましたんで全開で行きます!」と語るなど、冒頭から笑いと歓声に包まれた。

じゅじゅフェスの見どころの一つが、多彩な企画で豪華キャスト陣が繰り広げる、圧巻の生アフレコ。今回も「ミュージックリレー」「じゅじゅデミー賞」「じゅじゅどうわ」と趣向を変えつつ、全編を通して“声のプロ”の技を見せつけた。
「第1回 じゅじゅデミー賞」で披露されたのは、ファンから募集した各キャラクターの印象的な台詞。前半では「文句なしで賞」として五条 悟(中村悠一)の「大丈夫 僕 最強だから」、「お兄ちゃんしか勝たんで賞」として脹相(浪川大輔)の「兄は弟の手本だ。俺が道を誤れば、弟はその道を避ける。(中略)それでも、弟の前を歩き続けなければならん。だから、俺は強いんだ」、「世界で一番純愛で賞」として乙骨憂太(緒方恵美)の「愛してるよ 里香 一緒に逝こう?」など5つが選ばれた。
中村はこの台詞が初めて登場したアフレコについて、「当時は特に気にしてなかったけれど、代名詞のように言われるようになってきたので、もっとかっこよく言えばよかったですね」と振り返った。さらに「第1話・第2話を観て『これ売れちゃうかもな』と思った」と明かし、会場の笑いを誘った。
長い台詞を生披露することになった浪川は、「会場に投票してくれた方がいるなら、もうちょい短いセリフをお願いしたかった!」と告白。緒方は「当時は『結婚しよう』って意味で言いましたけど、よく考えたら小学生の時の約束を引きずっていて、まだ子供の愛なんですよね」と、時を経て変化した心境を振り返った。

後半では、「キッショ なんでわかるんで賞」として羂索(櫻井孝宏)の「キッショ なんで分かるんだよ?」、「お褒めの言葉いただきましたで賞」として両面宿儺(諏訪部順一)の「誇れ オマエは強い」などが受賞。
本作で同じ顔をした複数の役を担当する櫻井は、「後半になると夏油と、“偽夏油”と呼ばれる加茂憲倫、羂索の演じ分けが本当に難しくて、当時は内心ドローンとした気持ちでやっていました(笑)。大きく変化をつければやりやすいけれど、少し違う人っぽい?くらいの“異物感”をどう表現するか必死でした」と、その苦労を吐露した。

諏訪部は「宿儺が本当に褒めたのか、ただの客観的な事実を述べただけなのかは彼のみぞ知るところですが、非常に支持の熱いセリフで光栄です」と感謝を口にした。

さらに「特殊演出賞」として、第3期最終話の仙台結界における乙骨と石流の激闘が生アフレコされた。アフレコ後、緒方は「第3期最終話はスタッフが極限まで絵コンテを修正してくれた結果、ト書きがほぼ白紙の台本が前夜に届いたんです! ト書きを書き写すだけで5時間かかり、結局私のところだけ撮り直すことになりました」という過酷な舞台裏を告白。「今日、東地さんと完全な形で生の掛け合いができて感無量です」と笑顔を見せ、東地も「実質1話しか出ていないのに愛していただいて嬉しい」と応えた。

「じゅじゅどうわ」では脹相(浪川)をヘンゼル、虎杖(榎木)をグレーテル役とした「ヘンゼルとグレーテル」をキャスト全員で朗読。2人が“お菓子の立体駐車場”に連れて行かれ、そこで始まる 石流(東地)と乙骨(緒方)のスイーツ(デザート)フードファイトに巻き込まれるというオリジナルのストーリーを、即興のノリとテンポの良い展開で、見事にまとめてみせた。間には謎のCMが同じく生アフレコで差し込まれる場面もあり、観客を大いに沸かせた。
主題歌を歌うアーティストたちのライブでは、観客が立ち上がり色とりどりのペンライトが一斉に揺れ動いた。さらに精巧なレーザーの演出が重なり、会場は幻想的な空間へと様変わりした。
ライブのタイミング(構成)も考え抜かれており、第2クールのOPだったWho-ya Extendedの「VIVID VICE」は前出の通りオープニングでの盛り上げ役に。キタニタツヤの「青のすみか (Acoustic ver.)」と、jo0jiの「よあけのうた」は、それぞれが楽曲を提供した「懐玉・玉折」「死滅回游 前編」を振り返るミュージックリレーに続けて披露され、物語の流れに沿って観客の心に歌声がしみわたっていく様子が見られた。
ライブ後のトークでは、各自が曲に対しての想いを吐露。Who-ya Extendedは、担当した第1期第2クールは、さまざまなキャラクターが出てくるタイミングだったと前置きしたうえで、「たくさんあるキャラクターのそれぞれの視点や意志を描きたかった。今はさらにキャラクターが増えていますが、年月が経ってからもこうして歌わせていただけるのはすごく幸せだなと思っています」と振り返った。
キタニタツヤは披露したアコースティックバージョンが『劇場版総集編 懐玉・玉折』を意識して作られたことにふれ、「映像を観ながら歌うと自分もしんどい思いがあるけれど、それでもこのバージョンを作って本当に良かったと思いましたし、聞いてくださる皆さんが大切に受け止めてくれているのをしみじみ感じながら歌いました。改めて『青のすみか』という曲を生み出す力をくれた呪術廻戦にすごく感謝しています」とコメント。
jo0jiは「渋谷事変で虎杖がたくさん人を殺してしまったことを表現してほしいといわれて。人は殺したことないけど、(虎杖と)重なるところをたくさん見つけて考えました」と楽曲制作の苦労を明かした。
イベントでは、5体の着ぐるみ(悠仁くん、恵くん、野薔薇ちゃん、悟くん、憂太くん)が登場し、観客と一緒に動画を撮影する「じゅじゅどうが」や、観客投票により決定される「兄にしたいで賞」などの参加型企画も。
じゅじゅどうがコーナーでは、すべての客席を巻き込みウェーブの動画を撮影。横に波を流していく1回目は、客が持つペンライトの色を「蒼」、前から後ろに流していく2回目は「赫」に変える演出で、より一体感を醸成した。
「兄にしたいで賞」では、「乙骨派」の緒方、「東堂派」の中井と東地、「脹相派」の榎木、中村、櫻井、島﨑、さらには「兄など不要派」の諏訪部が登場し、MCの浪川の質問を受けながら観客に向けて投票の理由を訴えた。
緒方は「(この3人だと)誰も憂太に入れてくれなかったら寂しいので。でも2人(東堂・脹相)ともキャラクターおかしいじゃないですか!」と話し、自身が演じたキャラクターへの愛をのぞかせた。東地は「虎杖との関係がすごく良くて、お兄ちゃんというよりは、カタカナの『アニキ』って感じで仲良くなりたいなと」、中井は「兄弟なんて元気で明るいのが一番ですよ!」と東堂ならではのキャラクターを推した。
脹相派の榎木は「無条件で無償の愛をくれるのはやっぱり脹相です!」、中村は「この中で兄として生きようとしてるの脹相1人だけだからね」、櫻井は「私、3人兄弟の長男なんですけど、あんな風に言えない。眩しいです」、島﨑は「消去法です!(笑)」とそれぞれ正論を展開。一方の諏訪部は「あいつもそいつもこいつも、どうでもいい」と演じる両面宿儺に寄せた一言で会場を沸かせた。
客席の拍手による投票の結果、大方の予想どおり脹相が受賞。MCを務めた脹相役の浪川が「お兄ちゃんが勝ちました! ありがとうございます!」と喜ぶ中、他キャストから「兄など不要派も結構いたよね」とのツッコミが入り、会場は笑いに包まれた。

エンディングの挨拶では、登壇者それぞれが作品とファンへの感謝を口にした。
東地は「1話しか出ていない僕を仲間に入れていただいてうれしいです」と語り、中井も「すごい人たちと一緒に、すごい作品に出させていただいているんだなと感じました」とコメント。浪川は「最後までお兄ちゃんを全うできるよう頑張っていきたい」と意気込み、諏訪部は「ペンライトの光がすごく綺麗で良いものを見させてもらいました」と笑顔を見せた。
島﨑は「たまんねっすねえ」と会場を盛り上げつつ客席とのコール&レスポンスを楽しみ、櫻井は「夏油の軌跡を駆け抜けるように振り返ることができて万感の想いです」としみじみ述懐。中村は「ダイジェストで観ても映像のクオリティと力強さがどんどんアップしているのを実感できました」と進化し続けるアニメーションを称賛した。
緒方は「新人の挨拶の時に東地さんたちが挨拶しているのを見て、私はこの中では仲間になれたんだなと幸せな気持ちになりました」と語り、最後に座長の榎木が「名シーンをたくさん演じさせていただいて、改めて『呪術廻戦』には良いシーン、セリフ、音楽がたくさんあると知ることができました。まだまだ演じたいシーンがたくさんあります。皆さんの応援のおかげでそれがやれると思うと、役者冥利に尽きますし本当に幸せです」と力強く締めくくった。
アンコールでは着ぐるみのキャラクターたちが手紙を届け、スクリーンにて待望のTVアニメ第4期「死滅回游 後編」のスーパーティザービジュアルが初解禁された。水中から赤い眼光を向け掌を伸ばす両面宿儺の迫力あるビジュアルに、会場からは大きな歓声が巻き起こった。
宿儺役の諏訪部は「たまんねえっすねえ。今日から毎日100回領域展開して、スタンバっておこうと思います」と歓喜のコメントを残した。
最後は第1期オープニングテーマ「廻廻奇譚」の生演奏に乗せ、キャスト全員による名セリフのリレー生アフレコが披露され、キャノン砲から華やかな銀テープが舞う中、DAY1は熱狂の余韻とともに幕を閉じた。
じゅじゅフェス 2026 -5th anniversary- (DAY1)■開催日: 2026年8月29日(土) |
《イントロダクション》廻れ呪え 死の遊戯の中で 人間の負の感情から生まれる呪いと、それを呪術で祓う呪術師との闘いを描く、芥見下々による大ヒットコミック『呪術廻戦』。集英社「週刊少年ジャンプ」にて2018年3月から連載が開始され、2024年9月、物語は完結を迎え6年半にわたる連載が終了。コミックスの全世界シリーズ累計発行部数は驚異の1.5億部(デジタル版含む)を突破している。 2020年にMBS/TBS系列にてTVアニメがスタートし、2023年にアニメ第2期「懐玉・玉折/渋谷事変」を放送。国内のみならず全世界で大きな反響を呼んだ。 2025年には『劇場版総集編 呪術廻戦 懐玉・玉折』、『劇場版 呪術廻戦 0』復活上映、そして『劇場版 呪術廻戦「渋谷事変 特別編集版」×「死滅回游 先行上映」』が公開。さらに2026年1月より放送された第3期「死滅回游 前編」を経て、物語はいよいよ第4期「死滅回游 後編」へと突入する。 |
《ストーリー》羂索が仕組んだ呪術を持つ者達による殺し合い「死滅回游」。 虎杖たちは五条の復活と、ゲームに巻き込まれてしまった伏黒の姉・津美紀の救出の術を見出すべく、結界(コロニー)へと足を踏み入れた。 東京第1結界にて、虎杖は新たに覚醒した現代の術師・日車寛見を説得し、他泳者に任意の得点を譲渡できる総則(ルール)の追加に成功。一方、伏黒は過去の術師レジィ・スターの一味と交戦し辛勝するも意識を失い、その前に「術式を消滅させる術式」を持つ「天使」が現れる。 また、仙台結界に赴いた乙骨は、ドルゥヴ、黒沐死、石流、烏鷺との熾烈な四つ巴を制し、190点を獲得してルール追加の準備を進めていた。 それぞれの物語が交差し、死滅回游は新たな局面へ。 時を同じくして、東京第2結界に向かう秤とパンダ、禪院家を壊滅させた真希、天元を護衛する脹相と九十九、そして何かを企んでいる宿儺……。 死の遊戯の中で、呪いの混沌は廻り続ける――。 |
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]]>打海文三による傑作ミステリー小説を映画化した、 映画『時には懺悔を』 が8月28日(金)に全国公開される。
構想18年。映画『下妻物語』(2004年)、『嫌われ松子の一生』(2006年)、『パコと魔法の絵本』(2008年)、『告白』(2010年)、『渇き。』(2014年)、『来る』(2018年)など、美しい映像と先鋭的な演出で日本映画界に衝撃を与えてきた 中島哲也監督 によって映像化された本作。ある探偵が殺害された事件を皮切りに、9年前、障がいのある新生児が誘拐された事件を巡る謎と、彼をとりまく人々の苦しくも優しく、温かく、切ない、ヒューマンドラマが描き出されている。

主演の 西島秀俊 をはじめ、 満島ひかり 、 黒木華 、 宮藤官九郎 、 柴咲コウ 、 塚本晋也 、 片岡鶴太郎 、 佐藤二朗 、 役所広司 ら日本映画界の至宝が集結し、映し出されるのは、障がい、介護、孤独といった現代の深淵を含む、「生きていく」ことへの圧倒的なリアリティと、希望だ。
公開を前に中島監督へのインタビューを実施。本作のテーマや原作への思い、キャストとのエピソード、そして撮影に参加した障がいのある子どもたちとの現場について話を聞いた。
一人の探偵が殺された。同業者の佐竹(西島秀俊)は、関係者の多くから「殺された方がマシな人間」だと思われていた米本(佐藤二朗)殺しの真相を調べ始める。
かつて所属した探偵事務所の元上司の寺西(役所広司)から、教育を任された聡子(満島ひかり)と共に、米本が手掛けていた依頼を調査する内、2人はさらなる情報を求めて重度の障害がある息子・新(しんすけ)を一人で世話する明野(宮藤官九郎)を監視することに。やがて、9年前に息子を誘拐された民恵(黒木華)の存在や、佐竹と聡子それぞれの家族の問題が浮き彫りになる中、ただ日々を共にして静かに生きる新と明野は、取り巻く人々の心を少しずつ変えていく。
発表時に高い評価と話題を集めた原作との出合いから、20年以上。それほどの時間を経ても、本作には自身の手による映画化を諦めきれない魅力があったと中島監督は語る。

中島監督: 原作を読んだ時、この作品は障がい児が家族にいる・いないに関わらず、全ての人間が抱える悩みや苦しみといったものを、複数の登場人物を通じて深く表現していると感じました。たいへん難しい題材ではありますが、できることなら私自身の頭が鈍くならないうちに実写化にトライしたいと考えていました。
当時、障がいのある子どもを扱う作品の制作ハードルは高く、企画はお蔵入りする可能性が濃厚だった。しかし、その“土壌”は少しずつ変わっていき、「これまでに出会ったことのない若い世代」との交流が実現への道筋を拓いていったという。
中島監督: 制作準備を始めたのは3~4年ほど前です。私の中には、他にも映画化したいと思いながら実現できていない企画がいくつかあり、若いプロデューサーにそうした話をしていたところ、かつてあれほど敬遠されていた本作に対して、とても興味を示してくれたんです。
そこで当時書いていたプロットの叩きを少し書き直して見せたところ、「すごくいいと思うので、制作しませんか」と言ってもらえた。十数年の年月が経つ中で、もしかすると自分でこの作品を演出するのは無理かもしれない、と考えたこともあったのですが、世の中が少しずつ変わっていたことを実感しました。
特に興味を示したのは、30代を中心とした若手の制作陣。彼らの興味とエネルギーが、自身を後押ししてくれたと振り返る。
中島監督: 我々や少し下の世代の感覚では、こうした映画をつくるのはかなり勇気がいると思います。その勇気を出すには、若さが必要なのかもしれません。今までに出会ったことのないそうしたスタッフたちが全面的に協力してくれて、時には私自身のこともリードしてくれたことで、制作が進み始めました。
本作では、「家族」を軸に、人々が日々を生きる中でいつしか抱えてしまう業や、自身の中の相反する感情を内包した、“生きていくこと”そのものが描き出される。その一方で、米本殺しの真相と、9年前の誘拐事件の謎に迫るミステリーの要素も織り込まれ、エンターテインメントとしての魅力を放つ。中島監督自身がテーマとして据えていたものを聞くと、現実世界でも見過ごされてしまうことの多い「人間の複雑さ」を見つめる、繊細で鋭利な視点が示された。
中島監督: さまざまな状況、経歴、考え方の人間が出てくる中で、「これは“いい人”」「こいつは“悪役”」といった単純な見え方には絶対にしないよう意識していました。濃度はそれぞれに異なるとしても、登場人物全員が、どこかに必ず“悪い面”を持っている一方、実は“良い面”も持っている。その両面をすごく考えましたね。
同時に、それぞれのキャラクターが他の登場人物から影響を受けたり、逆に勇気を与えたりする。その関わりというか、個々の動きだけで完結することのない、連動性のようなものを細かく考えながら各自を配置していました。
特に後半は、佐竹やその妻の由紀(柴咲コウ)、聡子、民恵といったさまざまなキャラクターの想いが一気に表層化して、シンクロしていきますが、全員が直接会ったことがあるかといえばそうではない。ただ、全員が苦しい状況にいて、それぞれに関わり合う(シンクロする)ものを抱えていることが見えてくるんです。

約2時間に収められた物語の中でも、そうした場面を重ねていくことで、1人1人の人間性が深みを増していく。この点は本作で発揮された中島監督の真骨頂とも言えるだろう。
中島監督: 個人の行動や、言葉だけでキャラクターを完結させてしまうと、どうしても浅い人間に見えてしまいます。例えば民恵の立場も、由紀の言葉や聡子の想いを通して表現することで、別の形で捉えることができる。もっと複雑で傷を抱えていることが見えてくるんです。そうした人々が輪になることで支え合い、その真ん中に新がいるような作品にしたいと考えました。

誰かの行動や発言の一部分のみを切り取って評価するなら、相手を「いい人」「嫌な奴」と決めつけることはたやすい。けれど、他の人の声や想いを知って、実は全く異なる面もあると気づかされることは、実生活でも珍しくないだろう。興味深いのは、この「人との関係性から新たな一面が見える」リアリティが引き出しているのは、本作のキャラクターの良い面だけでなく、ネガティブな面でもあることだ。
中島監督: その意味では、個々のキャラクターに、妙に同情することもしませんでした。各自のずるいところもきちんと描く。ただ、最終的にずるいだけで終わるのではなく、新とのふれ合いから何かを感じ取って、これまでの自分とは異なるアクションが生まれる形にできるはずだと思っていました。
特に大きなポイントとして、黒木さん演じる民恵が絶対悪人には見えないように気を遣いました。民恵個人の行動だけを見ると、彼女は障がいのある子どもを捨てたように見えますし、その後も殻に閉じこもり、誰に聞かれても自分の本音は言わない頑なな女性と思われてしまうでしょう。それでも彼女が取った行動が単純に「悪いこと」だと思われないことが大事だった。「誰にでも民恵のような(相反する)想いを抱えることがある」と、感じてもらえるよう、黒木さんとも話し合いました。

確かに、物語の中で人間の「矛盾する2つの感情」を特に体現しているのは、民恵ではないかと感じる。この矛盾は民恵自身が苦しむ中でひび割れた、彼女の心の叫びにも見えた。そして形は違えど、佐竹や聡子の内側にも同じひび割れが見え隠れする。
そうした本音を表に出さない、繊細で複雑な演技が求められる民恵役について、脚本を固める段階から中島監督と黒木の間で密なコミュニケーションが取られていたという。
中島監督: 黒木さんには脚本を第1稿時点で見ていただき、決定稿までの過程で、彼女の解釈もお聞きしながら人物像を作り上げていきました。物語が始まった時点では、最後に民恵がどのような行動を取るかは分からず、今作の結末とは別の形になることも十分ありえました。ただ、彼女がどんな結論を出したとしても、単純な「悪人」に見えてはいけないということを前提に、一緒に民恵という女性を造形していったような気がします。
主人公の佐竹には、原作から大きな変更が加えられた。原作では友人の子どもとして登場する、9歳で亡くなった障がいのある少年が、本作では佐竹自身の子どもになっている点だ。これにより、佐竹の妻は心のバランスを崩して入院し、高校生の娘は心を閉ざしている。佐竹自身も心に大きな傷を負い、キャラクターのバックボーンはより複雑になった。明野と新を見つめる佐竹の心境にも影響が大きいこの変更は、どのような意図で加えられたのか。
中島監督: 2時間と少しの中で、佐竹の人物像をどうしたら有効に描けるのか考えたとき、彼がなぜこの事件の捜査をするのか、明確な理由が必要だと思いました。
物語を通して佐竹がどう変わっていくのかは、本作における一つの大切な観点です。自身の子どもに障がいがあり、それが原因で家族ともうまくいっていない現実を彼に与えた方が、捜査を通して明野と新を見つめることで突きつけられるものも多いでしょう。こうした考え方は(映像化する監督自身の)エゴになってしまうかもしれませんが、打海さんのご遺族の了解を得たうえで変更しました。

佐竹の人物像をさらに多層化する設定。一方で、この変更は西島のキャスティングには特に影響しなかったと話す。
中島監督: 佐竹は最初どこか不貞腐れていて、何を考えているか分からないキャラクター。それがだんだん深い傷を負い、家庭も全然うまくいっていない状況で明野と新を見ていることが分かります。障がい児だった自分の息子に向き合えたとは言えない中で、明野と新を見つめながら、徐々に変わっていく。その様子を演じるうえで西島さんはとても適任だと思いました。
どの映画のどのキャラクターでも、せりふだけではなく、雰囲気や佇まいでキャラクターをきちんと表現して欲しいのは同様ですが、西島さんはそれをしっかり体現してくれます。佐竹役は西島さんで良かったと思っていますし、後半に現れてくるほんの少しの、それでも佐竹本人にとっては大きな変化も、とてもよく表現してくれました。

その佐竹と、ある種の「バディ」として動くのが、満島ひかり演じる聡子だ。完成披露試写会の舞台挨拶で、演者それぞれから「聡子は“生きて”いて、佐竹は“死んで”いる」と表現された2人は、その言葉どおり陽と陰。特に序盤はエネルギーの塊と虚無の塊のような対極の姿が見えてくる。監督の期待もその組み合わせの妙にあったという。
中島監督: 2人ともすごく達者な役者さんですので、佐竹と聡子というキャラクターを与えれば、絶対に凸凹コンビになるだろうし、満島さんは佐竹に対して戦闘的にガンガン行ってくれるだろうことは予想できました。実際予想通りでしたし、心配はしていませんでした。

一方で、聡子自身も後半は自身が抱えている娘との問題が表層化し、だからこそ調査対象の新という少年に心惹かれていく様子が描かれる。聡子の変化も、登場人物同士の関係からあぶり出される、新たな一面の一つだ。さらに、彼女の動きは、本作の中でも特に他の人物の多面性を引き出す“ハブ”的な役割になっていく。
中島監督: 聡子自身に変化があったからこそ、民恵と交わされる会話の中でも「息子を育てるべきだ」とゴリ押しするのではなく、「本人が決めることだ」と踏みとどまります。そんな風に少しずつ変わっていきながら、最後まで諦めずに新の行く末を真剣に考えて動いたのが聡子。明野の判断もあり、他の人々の優しさも後半には見えてきますが、やはり聡子の頑張り、前半のエネルギッシュにまくしたてる場面だけではなく、後半のどこか耐えるように民恵との会話を続けていく部分が生きていたと思います。

そして本作のキーパーソンとなったのが、新の父親・明野役を演じた宮藤官九郎だ。鑑賞後「明野役は、宮藤官九郎以外にない」と感じさせる説得力があったこの配役について聞くと、間髪入れずに驚くべき回答が返ってきた。
中島監督: 約20年前に原作を読んだ時、まず宮藤さんの顔が浮かびました。だから明野というキャラクターを宮藤さん以外で考えたことはなかったんです。当時、映画『嫌われ松子の一生』を撮った少し後だったのですが、宮藤さんには松子が初めて同棲するDV気質の売れない作家役で出演いただきました。その印象が残っていたのもあり「宮藤さんしかいない」と。20年を経て制作をスタートした際も、宮藤さんはあまり変わっていなくて……、断られたら大変なことになっていましたね。

今作では、障がい児とのふれあい方や世話の仕方など、事前勉強に時間をかけて臨んだという宮藤。本人の努力もさることながら、新役を演じたしんすけとの場面からは、2人の信頼関係もうかがえるリラックスした笑顔や、空気感が見られた。他にも障がいのある子どもが多く参加した撮影現場において、環境づくりや準備はどのように行われたのだろうか。
中島監督: 撮影のために事前に特別なことをするというよりは、宮藤さんとしんすけ君がカメラの前でもとにかくリラックスできる雰囲気の中でお芝居できることを大事にしました。しんすけ君が緊張せず新君としてその場にいてくれれば、呼応するように明野も世話ができるので、絶対緊張しないような環境が整えられればと。
例えば、本人とあまり関わる機会のないスタッフは、なるべくしんすけ君の側に行かないようにしていました。これは特別なことではありませんが、逆にカメラに映らない場所には、彼の体調に少しでも異変があったらケアできるよう、常に多くの医療スタッフと、スペシャルニーズスーパーバイザーとして(障がいのある子どもが参加する)撮影全体をサポートしてくださった、安田一貴さんが控えていました。
また、ご両親や彼が安心できる人たちも側にいて、皆さんのアドバイスを聞きながら、ゆっくり撮影を進めましたので、実際に体調不良などで撮影中断したことは、私の記憶ではなかったように思います。むしろしんすけ君も、参加してくれた他の子どもたちも、撮影に来ると元気になっていたそうです。「みんないきいきしている」と親御さんに言われたときは嬉しかったですね。

前出の舞台挨拶で安田氏は、スタッフに対して「子どもたちに役者として接する」ことを求めたと述懐。このコメントについて聞くと、監督自身としても、さまざまな想いを込めた対応だったことが伺えた。
中島監督: 出演してくれた子どもたちが、「役者」として演じるために呼ばれ、「仕事」をするためにその場にいる状況は、親御さんたちからすると、ある種の自信につながるものだと思っていただけたようです。子どもたち自身が(この状況を)どこまで分かっていたのかはそれぞれだと思いますが、自分の子どもが与えられた役目をきちんと果たしていて、それは彼らだからできることなのだと思ってもらえたなら良かったです。
我々も彼らをきちんと役者として見て、「こういう狙いで撮っていきたい」といった意図を親御さんにもお話しし、気持ちよくお芝居ができる環境を作ることだけ考えていました。無理なストレスはかけないことも心がけていたので、撮影に時間をかけすぎないことは一番気を付けていましたね。
「実現できていない企画は他にもある」と話していた中島監督。最後に、本作を経た今後の映画作りついて展望を聞いた。
中島監督: もう少しで70歳になるので、演出家として激しく動き回る作品は難しく、おそらく今後はコンパクトな作品になっていくのではないかと思います。また、監督という仕事は、自分の希望だけでできるものではなく、「中島にこれを撮ってほしい」と言ってくれる人がいなければ成立しません。そんな人が現れて、言われたものを実現する体力が自分の中にあり、途中で倒れたりしてご迷惑をかけない作品との巡り合わせがあれば、携わりたいですね。
SNSが存在感を発揮する近年は、特に関わりのない相手の一面だけを誇張して捉え、賞賛あるいは批判する場面が増加している。しかし、「善人」「悪人」と単純化された“一言”で、その存在を語れる人間などいないのではないだろうか。
だからこそ、本作の鑑賞後、これが「どんな作品だったのか」を“一言”で語れる人も多くないように思う。それは中島監督が、人々が日々の暮らしの中で直面する、時には自身でも気づけない多面性や相反する感情、さらには人々を変えていく関係性といったものに真っ向から向き合い、そのすべてを含めた「生きていく」ことを映し出しているからだ。
その中心にいた新という少年の存在が、最後に何をもたらすのか、まずは自身の目と心で素直に感じてほしい。
中島 哲也 (Tetsuya Nakashima)1959年生まれ。福岡県出身。 CM制作会社を経て、1987年からフリーのディレクターとして活躍。第40回全日本CMフェスティバル テレビCM部門で郵政大臣賞(グランプリ)受賞の「サッポロ黒ラベル−温泉卓球編」など数多くの人気CMを手がけてきた。 2004年、監督と脚本を務めた映画『下妻物語』(2004年)で注目を集め、『嫌われ松子の一生』(2006年)で第57回芸術選奨文部科学大臣賞<映画部門>。『告白』(2010年)で第34回日本アカデミー賞 最優秀監督賞・最優秀脚本賞を受賞している。 主な映画監督・脚本作品に『パコと魔法の絵本』(2008年)、『渇き。』(2014年)、『来る』(2018年)などがある。
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《ストーリー》生きていく。たとえ神様なんていなくても―― 探偵がひとり、殺された。 「死んだほうがマシな人間」と呼ばれた男・米本(佐藤二朗)。 調査することになったのは、元同僚の一匹狼・佐竹(西島秀俊)と、助手で修行中の聡子(満島ひかり)。調べを進めるうちに、二人は9年前に起こった新生児誘拐事件にたどり着く――。 殺された米本が死の間際に調査していたのは、9年前に失踪し今は父親の明野(宮藤官九郎)と二人で暮らす、重い障がいのある少年・新(しんすけ)。 過去に傷つき、誰かを傷つけ、孤独に彷徨う大人たちが出会った「新」という小さな命。 家族から目を背けた男、娘に捨てられた女、子を生きる糧にした男、産んだ子を愛せなかった女。「生きているのが奇跡」と言われたそのひとつの小さな命が、逃げ場のない現実にもがき苦しむ大人たちの心を動かしていく――。 |
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]]>日本初のタクシー映画祭「TAXIATER」(タクシアター)が開催。8月3日(月)〜8月9日(日)に東京23区内を走行する100台のタクシー車内サイネージで短編映画3作品が上映されるほか、8月15日(土)〜8月29日(土)には都内3館の劇場でも上映される。そのラインナップの1作が、短編映画『世界は美しいと誰かが言った』だ。

主人公・藤吉史花を演じたのは、2025年11月に乃木坂46を卒業後、現在は俳優として活動し、本作でグループ卒業後初となる主演を務めた久保史緒里。重い病を抱えながら2歳の娘を持つ母親役に挑んでいる。
監督・脚本を務めたのは、映画『四月の永い夢』(2017年)や『静かな雨』(2019年)などを手掛け、第38回東京国際映画祭コンペティション部門に選出された『恒星の向こう側』の公開も今秋に控える中川龍太郎。
「タクシーの日」である8月5日(水)にはTOKYO FMホールで「TAXIATER」の公開記念イベントが開催され、主演の久保と中川監督が登壇した。
イベント直後の久保に、撮影に際して交わした日記の取り組み、長野県信濃町での撮影、そして一人の俳優として向き合う「映画」への思いについて話を聞いた。

公開記念イベントでも「言葉が伝わらない幼子と過ごす孤独を経験しようと向き合った」と語っていた久保史緒里。公式コメントで明かされていた「私は母親になれたのだろうか」という想いの背景には、撮影前から築かれていた温かな人間関係があった。
久保: 事前に律ちゃん(娘役)とはすごく時間を取らせていただいて、ご家庭にお邪魔して生活の様子を覗かせていただいたり、一緒に公園に行ったりスーパーに買い物に行ったり、私が費やせる時間は費やしていました。それ以上にありがたかったのが、律ちゃんのお母様がご自宅で私のグループ時代の映像(MV、ライブ映像、テレビの出演シーン等)を律ちゃんに見せて「母(はは)だよ」と教えてくださっていたことなんです。そのおかげで、現場で律ちゃんが私のことを「母」と呼んでくれました。
自分一人というよりかは、実のお母様や中尾(幸世)さんをはじめ、周りの方々に「母にしていただいた」という感覚がすごく強くて。本来なら母親は世界にたった一人の存在でなければならないけれど、いろんな方のお力をお借りして母になれた感覚だったので、撮影を終えて「母親になれたのかな」という気持ちになりました。

作中で描かれる、言葉少なげながらも互いの痛みに寄り添うような人々の交わり。劇中の関係性を構築するため、現場では緻密な演出が施されていた。
久保: 実は中尾さんとは、実際のお母様と中尾さんと私の3人で、各々が好きなタイミングで好きなことを書く独立した日記を共有していたんです。お母様は律ちゃんの日常、中尾さんは本から着想を得た日記、私は日々生きていて感じたことを書くという、3者三様の日記でした。
また、中川監督の演出の意向で、中尾さんとはあえて事前にお会いしていなかったんです。劇中で史花が起き上がった時、光世さんと律ちゃんが遊んでいるシーンが初対面だったんです。それまで日記だけでやり取りしていた相手だったので、あの瞬間に初めてお会いできたことで、あの独特な温かい空気感が生まれたのだと思います。

印象的に差し込まれる詩の朗読とナレーション。劇中で投げかけられる切実な問いには、久保自身のパーソナルな想いや日常の実体験が反映されている。
久保: 本読みの段階で監督と模索していたのですが、(日記を)書いているのは史花でも読み上げる声は律なので、母の日記という思いを抱えながらも生命力に溢れた形で表現しようと現場で話していました。冒頭の朗読は、この世界で声にならなかった音を史花が読んだらどうなるんだろうね、と話し合いながらやらせてもらいました。
劇中の「明日地球が終わりを迎えるなら、あなたならどうする?」という問いは、実は撮影の直前に私が友人と実際にしていた会話だったんです。私の周りは「何もしない」「いつも通り過ごす」という人が多くてモヤモヤしていて、「私は生きたくてしょうがない」と答えてしまう自分が幼く思えるという胸の内を日記に書いていたんですね。それを監督が読んで拾い上げてセリフにしてくださったんです。だから、もし私自身にそういう状況が来ても、抗い続けるんだろうなと思います。

ロケ地となったのは、野尻湖のある長野県上水内郡信濃町。澄んだ空気と豊かな自然の中で、久保自身も感情を大きく解放させて撮影に挑んだ。
久保: 環境が心に与える影響はすごいなと思いました。史花の日記を握りしめてあの場所に行って、走るシーンはとにかく解放的でした。監督から「自由に叫んでいいよ」と言われて、自分の中で気持ちを解放した瞬間がありました。信濃町の静けさと神聖な空気が、史花としても自分自身としても気持ちを解放させてくれました。
久保: 私は普段から自分の目に映る世界をどれだけ美しく感じながら生きられるかをすごく大事にしていて、些細なことでもそれを感じられるように自分で自分を育ててきた感覚があります。以前は大きな(特別な)出来事に美しさを感じがちでしたが、そうじゃない時間の方が人生は長いから、いかに自分で日常を彩るかと思って。だから今は家にいても外に出ても、日常の中で美しさを感じています。
これまで映画やドラマ、MVなど数々の映像作品を経験してきた久保にとって、約30分という尺の短編映画での表現は新たな挑戦となったという。
久保: 単純に撮影日数も完成作品の尺も短いので、撮影が終わってから監督には「いかにその瞬間しか出せない爆発力みたいなものを見出せるかが今後の課題だね」というお話をいただきました。
短い物語の中で言葉で補えない部分も出てくるからこそ、その瞬間に放てる大きいエネルギーを持てるかどうかが短編ならではの難しさであり大切さだと感じました。

乃木坂46を卒業し、一人の俳優として歩み始めた久保史緒里。彼女が考える映画の存在、そしてこれからの展望について語った。
久保: 映画は、お芝居をする時に一番自分と会話する時間や機会が長い場所だなと感じています。現場で監督やキャスト、スタッフの方々と作品や役柄について対話する時間がすごくあるのがありがたくて。映画は自分にとって「修行の場」であり、向き合う場であり、勉強になるのですごく好きですね。
これからもジャンルや形式にこだわらず、映像作品も舞台も積極的に挑戦していきたいです。全ての経験が繋がっていると実感しているので、どんどん色んな作品に触れていきたいと思っています。

日常的に様々な作品に触れている久保。最近観たという一作にも、本作『世界は美しいと誰かが言った』に通じる温かな眼差しと願いが込められていた。
久保: 最近、一ノ瀬ワタルさん主演の映画『四月の余白』(2026年/𠮷田恵輔監督)を観ました。ものすごく心に響く、素敵な作品でした。
私自身が本作『世界は美しいと誰かが言った』で向き合ったのは2歳という幼い子ども(律)でしたが、映画『四月の余白』では少し大きくなって物心がついた、傷を抱える少年少女たちと大人とのやり取りが描かれています。
実は、この『世界は美しいと誰かが言った』の撮影をすべて終えた後、中川監督と「子どもたちが見る世界って、本当に美しいよね」という話をずっとしていたんです。そうした背景もあり、この撮影を終えたタイミングで観たからこそ、より一層「これから子どもたちが生きていく、見ていく世界が、明るく美しいものであってほしい」という強い願いが重なり、深く共鳴させられた作品でした。本作ともすごく通じ合う部分があると感じています。

久保: 毎日いつでも「世界は美しい」と思えるわけではない中で、監督と「子どもが見る世界、これから見ていく世界が明るく美しいものであってほしい」という願いが撮影中から強くありました。観てくださる方にとって、世界の見え方が変わるとまでは言わずとも、新しい選択肢や色、温度が増えるきっかけになれば嬉しいです。中川監督が切り取る瞬間の美しさに惚れ惚れする作品ですので、ぜひお楽しみください。
久保 史緒里 (Shiori Kubo)2001年7月14日生まれ、宮城県出身。 2016年に「乃木坂46」3期生オーディションに合格しデビュー。2022年よりニッポン放送『乃木坂46のオールナイトニッポン』のメインパーソナリティを務め、グループ在籍中よりNHK大河ドラマ「どうする家康」(2023年)、連続テレビ小説「あんぱん」(2025年)のほか、ドラマ「クロサギ」(2022年/TBS)など多数の作品に出演。 主な映画出演作に、映画『左様なら今晩は』(2022年)、『探偵マリコの生涯一番最悪な日』(2023年)、『リバー、流れないでよ』(2023年)、『ネムルバカ』(2025年)、『ほどなく、お別れです』(2025年)などがある。 2025年11月に乃木坂46を卒業し、現在は俳優として活動中。公開待機作に、第38回東京国際映画祭コンペティション部門に選出された中川龍太郎監督の映画『恒星の向こう側』(2026年秋公開予定)がある。 |

《ストーリー》重い病を抱える史花(久保史緒里)は、2歳の娘を抱き抱えて、行く宛もなくタクシーに飛び乗る。辿り着いたのは木々が生い茂り、風がそよぎ、光が溢れる湖のほとりの集落。そこで、幼い娘を亡くした経験を持つ光世(中尾幸世)と出会う。史花と律は彼女が営む民宿に、一晩だけ泊まることに。その一晩を通して、史花・律・光世、3人の女性の人生が交差する。その先に待っているものとは―――――。 |
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]]>The post 映画『トロフィー』主演・恒那 × 孫明雅監督 インタビュー first appeared on Cinema Art Online [シネマアートオンライン].
]]>家族、友達、そして朝鮮舞踊。そのすべてのあいだで揺れる在日コリアンの少女の姿を描いた映画『トロフィー』。推しのK-POPアイドルのライブチケット代を稼ぐために、父親が祖国・北朝鮮から授与された“勲章”を不用意に売ってしまったことから始まる、少女の日常と心の機微を美しく繊細に紡ぎ出している。

250人のオーディションから選ばれ、映画初主演となる恒那を主人公・ソヒ役に迎え、映画『すばらしき世界』(2021年)などの監督助手を経て本作で長編監督デビューとなる孫明雅監督が、自身の経験や葛藤の記憶を出発点に、少女と周囲の大人たちの日常を丁寧に美しく描き出した。
本作への出演の経緯や役作りの舞台裏、1年に及ぶ朝鮮舞踊の稽古のエピソード、そして共演した実力派俳優陣との現場の裏側について話を伺った。
西川美和監督のもとで監督助手として経験を積んできた孫明雅監督。本作の構想は、西川監督からかけられた、「あなたの中にある“爆弾”を作品にしてみたら?」という言葉から始まったという。自分の中にある「爆弾」をどのようにシナリオへ落とし込んでいったのか、初期の構想から形が変わった部分も含めて話を伺った。

孫監督: 映画『すばらしき世界』(2021年)の監督助手として参加していた時に、西川さんと色々な話をする機会がありました。その中で、私が朝鮮学校に通っていたことや、母親も朝鮮学校の先生をしているという背景をお話ししたんです。ただ、それにも関わらず、当時の私が朝鮮学校に対してどこか批判的な目を持っているということを伝えたら、西川さんが「それは本当に怒りでもあるし、あなたにしか書けないもの。あなたの中にその大きな悩みというか、持っているものがあるから、それを一度作品として外に出してみたら」と言ってくださいました。
それがすべての出発点になり、自分の中で長く眠らせていた宿題と向き合うきっかけになりました。初めはその朝鮮学校や親に対するアンチテーゼ(反措定)のような、純粋な怒りの感情に任せて、通っていた当時の日常を書き始めたんです。
ただ、私が実際に通っていたのはもう15年前、20年近く前になります。今現在の学校を取り巻く環境は当時と全然違うだろうと思い、実際に現役の生徒たちや先生たちに取材をしてみることにしました。
孫監督: 朝鮮学校で働く母がかなり夜遅くまで働いていて、帰るのも夜9時、10時を過ぎることが多かったんです。帰りを待っている私もお腹が空いていましたし、父親もご飯を作らないことや、家事ができないことに対して怒ったりすることがあって、何というか朝鮮学校に自分の家族をめちゃくちゃにされたような気持ちがありました。
そうした生々しい怒りから出発した日常の記録が、現役の生徒たちや先生たちへの取材を重ねる中で「自分の母親はこういう気持ちで先生をしていたのか」と気づかされ、お互いを理解していく形へと変化していきました。そのため、最初の書き始めと、最終的に形になった脚本とでは全く違う作品になりました。
孫監督: 私自身、この作品と向き合うことで、学生当時抱いていた「怒り」は親のせいでもないですし、朝鮮学校のせいでもないですし、日本や北朝鮮のせいでもないんじゃないかなと思えるようになったんです。日本や朝鮮、韓国、あるいは東や西といった、そういう政治の大きい対立から生じていた歪みなんじゃないかなと思えるようになりました。その歪みの中で懸命に生きていた家族や親への理解へと繋がったことが、私にとってこの映画を作った一番の意味になりました。
孫監督: 取材したのは中学と高校です。実は、脚本を書いてからは中学校の設定に落としましたが、書き始めた当初の設定は高校生でした。当時は高校生の設定で脚本を書き始め、実際に高校の生徒と先生の両方に取材をしました。
孫監督: 当初は高校生の役でオーディションも行っていたんです。ですが、実際に高校生に演じてもらうと、劇中の「勲章を売る」という行為に対して、「売ってはいけない」という分別がある年齢だなと気づきました。それで行き詰まってしまい、年齢の設定を落としてオーディションをやり直しました。未熟さゆえの危うさを描くには、中学生でなければならなかったんです。

孫監督: 在日コミュニティの界隈では、勲章がネットなどで高く売れるということは結構みんな知っていることなんです。実際に調べてみたら、オークションサイトにも出回っていました。それで、母親に「勲章を見せて」と言ったらすごく嫌がられました。なんかもう売られるんじゃないかという恐怖があったみたいで、「触らないでくれ」という強い拒絶の反応がありました(笑)。
自分が捨てるんだったらまだしも、売って自分の利益にするのは嫌だと。人様に渡ってしまうことへの抵抗感など、そういったリアルな反応やストーリーのフックから、この物語を引っ張ってきたんです。

中学生へと設定変更し、再び開催されたオーディション。そこで250人の中から見出されたのが、本作が映画初主演となる恒那だ。オーディション当時の様子や、全くの未経験から挑んだ朝鮮舞踊の裏側について振り返る。
孫監督: 決め手は、一目で舞踊部員に見えるという佇まいでした。おでこを出して髪を1つに結んでいる立ち姿がすごく綺麗で。お芝居も非常にナチュラルだったので、すごく撮ってみたいと思わせる魅力がありました。劇中で朝鮮舞踊を披露することは最初から決めていたので、最後の舞踊オーディションは「私はこの子にほとんど決めているけれども、最後に踊りだけ踊れるかちょっと確認しておこう」という位置づけでした。結果的に、そこからが結構大変な道のりになりました。

孫監督: 恒那ちゃんはこの舞踏オーディションで初めて踊りにチャレンジでした。元々ダンスもやっていなくて。
恒那: 最終オーディションの2日前くらいに、ギリギリでお手本動画が送られてきて「やるよ」と言われました。その前日は家で1日中必死に練習して臨んだのですが、本番ではあまりにもできなさすぎて……。孫監督からは「今まで来た中で1番下手くそだった」って言われました(笑)。
孫監督: そうですね(笑)。お手本動画では2ステップを踏んでいるのですが、普通に歩いていました。
恒那: はい、本当に受かると思っていませんでした。私は昔から人前で喋るのがすごく苦手で、第1次の面接オーディションの時も、緊張してしまって何も喋れなかったんです。ありがたいことに次に進ませていただきましたが、第2次の演技オーディションでも本当にテンパってしまい、焦ってセリフを間違えてしまいました。最終の舞踊オーディションでも全然踊れなかったので、まさか合格するとは思わなかったです。
演技が終わった段階で個別に部屋に呼び出された時も、自分が在日コリアンのルーツを持っているから、作品の参考にしたいからお話を聞かれるだけなのかなって、思っていました(笑)。

恒那: ハングルの勉強は何回かしたことはあったのですが、ちゃんと勉強したのはこの作品がきっかけです。「ルーツ」という言葉や「在日」という言葉も、この作品で初めて知りました。
あと3世や4世という言葉も、オーディションに行く前に母から「何か聞かれたら“4世”って答えるんだよ」と言われて、その時は4世が何を指すのか全く分かっていなかったです(笑)。
撮影の時にはようやく意味を理解したのですが、私のひいおじいちゃんが日本に渡ってきたという歴史もそれまで全く聞かされないまま14年間くらい育っていたので、この作品が1つの大きなご縁になりました。
恒那: 撮影の時に「勲章ってそんなに重要なんですか?」という質問を監督にしていました。周りの大人たちが焦っている理由や、ソヒ自身が今どう感じているかという部分が、自分の中でなかなか理解するのが難しくて。
孫監督: 脚本の分からないところを質問して話し合う時間を設けていたのですが、本当に撮影の一番最後の最後、お父さん(井浦新さん)との公園のシーンの直前ぐらいに、「お父さんにとって勲章ってそんなに重要なんですか?」「勲章がないとお父さんはどうなるんですか?」と恒那ちゃんが聞いてくれたんです。そこでしっかりと答えて、お互いに話し合っていきました。

作中では、主人公・ソヒ(恒那)を中心に、父・サンジュ(井浦新)、母・ミリョン(市川実和子)、弟・テイ(千就)という4人の家族の姿を通して、彼らの日常や不器用な関係性が丁寧に描かれている。
また、朝鮮学校の担任・ホン先生(笠松将)や、舞踊部員の同級生・リョニ(原田花埜)、ソヒが仲良くなる日本の学校に通う未来(梨里花)ら、学校生活や同世代の友達との交流も物語の重要な要素となっている。
孫監督: まず、この映画を誰に観てほしいかと考えた時に、私はすごく日本人の方に観てほしい、日本に届いてほしいと思ったんです。
昨今「当事者性」という言葉がありますが、登場人物を全員在日の俳優に絞ってしまいますと、どうしても閉じた世界の物語になってしまうのではないかと考えました。そのため、井浦新さんや市川実和子さんといった日本の俳優の方にお願いしたいと思ったんです。
ただ、北朝鮮や朝鮮学校というデリケートなテーマを扱っているので、誰が引き受けてくれるかという懸念はありました。その際に是枝(裕和)監督に相談したところ、「井浦新さんだったら、本当に右も左も関係なく、役者として果敢に飛び込んでくれる方だよ」とお伺いし、オファーをさせていただきました。

井浦さんにお会いした際、「自分がこの映画に出ても差別はなくならないと思いますし、何をしてもおそらくなくならない。けれど、自分が出ることでちょっとでも何か変化があるんだったら参加してみたい」という言葉をいただき、それがすごくありがたかったです。
市川さんに関しては、新さんから「市川実和子さんがいいんじゃないか」というご提案をいただきました。是枝監督からの紹介があって井浦さんに声をかけ、そこから市川さんに繋がっていったという形です。

孫監督: 笠松さんが韓国語を話せるというのを聞いていたので、話せる日本の俳優を探している中で彼に当たったという感じです。最初は本当に冒頭のシーンで、朝鮮語を使えと学校で注意するだけの短い台詞の役だったのですが、笠松さんに出ていただけるならということで、少しシーンを膨らませました。

恒那: 私は撮影のはじめの方はすごく緊張していたのですが、井浦さんや市川さんが気さくに声をかけてくださったり、常に気遣いしてくださったおかげで緊張もだんだんほぐれてきて、楽しく撮影することができました。
市川さんと、あと弟役の千就くんとは、待ち時間もしりとりをしたりして、一緒に遊んだりしながら過ごしていました。
恒那: 梨里花ちゃんは本当にお芝居に対する姿勢が素晴らしかったです。1つ1つのシーンをすごく大切にされていて、1つのセリフでもすごい数のメモを書いていたりしていて、同い年なんですけど本当に尊敬しています。

原田花埜ちゃんとも、作中でちょっと対立して喧嘩をするシーンがあるのですが、そこも何回も何回も孫監督と花埜ちゃんと私で練習したシーンなんです。
監督が指示したことをすぐ吸収してお芝居を組み立てられる方だなと思って、すごいなと思いながら見ていました。

孫監督: 花埜ちゃんは、ダンスの練習に最初から参加していて、すごく伸びるスピードが早かったですね。最初は花埜ちゃんと恒那ちゃんの2人だけでやっていて、半年くらい経った時に他の舞踊部員の子たちと一緒にやるようになりました。
恒那ちゃんは練習をすごく頑張っていたのですが、やっぱり踊りが苦手で、先生が結構つきっきりになっていたんです。でも花埜ちゃんは、自分が教えられていない時もずっと一緒に教えてもらっているように、集中力を切らさずに取り組んでいました。劇中に出てくるBTS(防弾少年団)のダンスも、最初は花埜ちゃんに教えてもらって、その後も舞踊練習の合間を縫ってみんなに教えてもらったりしていました。花埜ちゃんは元々「Dynamite」(BTSの楽曲)が踊れた子だったんですよ。

劇中で披露されるオリジナル曲による朝鮮舞踊のシーン。1年間に及ぶ猛稽古の集大成となった撮影の舞台裏と、本作に込めた想いを語る。
恒那: 最初の頃はその舞踊練習を監督やスタッフさんに見られるのも正直あまり得意ではなかったんです。さらに本番は舞台の上で何十人もの方々に見られながら、舞台の中心で踊るなんて、最初の頃は考えられなかったのですが、舞踊練習を通して、撮影を重ねるうちに自分に自信がつきました。最後は堂々と踊ることができたんじゃないかなと思います。緊張はもちろんしたのですが、緊張よりも楽しめました。
あの舞踊シーンがみんなと撮影する最後のシーンだったので、孫監督が「この踊りが最後です」と言ったのですが、もう最後の踊りでみんな大号泣して終わるという感じでした。

孫監督: その時は舞台の踊りは直接撮っていなくて、(客席で観ている)井浦さんや梨里花ちゃんたちのリアクションを撮っていたんです。最後に井浦さんと梨里花ちゃんがすごくいい表情をしているんですが、それはみんなが涙を堪えながら最後に踊っているのを観ているんですよね。
作品としては、どちらかというとソヒとお父さんの話だったり未来との話だったりするので、大号泣してみんな感動してるところを直接カメラで収めようという意識はなかったのですが、あのラストシーンには彼女たちが1年間かけて築き上げてきた本物の熱量が漂っていました。

恒那: あまり普段は触れられない、考えることのないような内容なので、観た方の心に残るような作品になったら嬉しいです。私自身もこの作品を通して初めて知ることが多かったので、そういった世界を知らない同級生だったり、同世代の方々に観ていただけたら嬉しいです。
孫監督: 本当に日本の方に観てほしいと思っています。朝鮮学校に対して、北朝鮮と繋がりがある学校だとか、何かそういうネガティブなイメージを持っているかもしれないですが、実際そこで生活していて、通っている子供たちがどういう環境にいるのか、朝鮮学校の実際の中がどうなってるのかというところを観ていただきたいです。ぜひ、劇場で彼らの日常を感じてください。
恒那(Hanna)2010年生まれ、神奈川県出身。自身も在日コリアンのルーツを持つ。 250人が参加した大規模なオーディションの中から、圧倒的な透明感と静かな強さを持つまなざしを見出され、主人公・ソヒ役に大抜擢。映画初主演となる本作では、踊り未経験の状態からプロによる1年にわたる稽古を重ねて撮影に臨み、伝統的な“朝鮮舞踊”を見事に演じきった。 主な出演作に、映画『劇場版シグナル 長期未解決事件捜査班』(2021年)、『Dr.コトー診療所』(2022年)、『禁じられた遊び』(2023年)、『からかい上手の高木さん』(2024年)、短編映画『NEO PORTRAITS』(2025年)などがある。 |
孫 明雅 (Son Myong A)
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]]>興行収入45億円を突破する社会現象を巻き起こした映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』(2023年)の続編であり完結編となる映画『あの星が降る丘で、君とまた出会いたい。』が、8月7日(金)より全国公開を迎えた。

8月9日(日)、丸の内ピカデリーにて公開記念舞台挨拶が開催され、主演の福原遥をはじめ、細田佳央太、出口夏希、豊嶋花、井之脇海らキャスト陣、原作者の汐見夏衛、そして新城毅彦監督が登壇。さらに、主題歌「邂逅」を手掛けた福山雅治がサプライズで登場した。
上映後の温かい拍手に包まれる中、キャスト陣と監督、原作者がステージに登場した。
主人公・加野百合役を演じた福原は、「公開を迎えることができて本当に嬉しいです。初日に私も映画館に観に行ったのですが、たくさんの方が観に来てくださっていて、観終わった後に涙を流してくださっているのを見てホッとしました」と、客席の中で観客のリアルな反応を見守っていたエピソードを明かした。

百合の前に現れる青年・宮原涼役を演じた細田も、「僕も気になりすぎて昨日映画館に行ってしまいました(笑)。幅広い世代の方が観てくださっていて、人によって感動するシーンが違うのも嬉しかったです。無事に公開を迎えられて何より嬉しいです」と、同じく映画館に足を運んでいたことを告白した。

前作から続いて登場する千代役の出口は、「前作に引き続き、こうしてたくさんの人に愛していただけて、待ち望んでくださっていたのが伝わってすごく嬉しいです」と笑顔を見せた。

オリジナルキャラクターである相川サクラ役を演じた豊嶋は、「原作にいないキャラクターなので大丈夫かなという思いもありましたが、たくさんの方に届いていると感じて胸が熱くなりました。同年代の皆さんにももっと届いてほしいです」と語った。
板倉臨吉役の井之脇は、「前作を観客として観ていたので、自分が作品に関わらせていただけて嬉しいです。今日8月9日という日本にとって忘れられない大切な日に、皆さんとこの映画を通して時間を共有できることがとても意味深いと感じています」と万感の思いを込めた。
新城監督は、「前作が大きかったのでプレッシャーもありましたが、キャストやスタッフとたくさん話し合いながら丁寧に作りました。こうして観ていただけて本当に嬉しいです」と手応えを口にし、原作者の汐見も「お盆前の忙しい時期に多くの方が劇場に足を運んでくださり、感謝の気持ちでいっぱいです」と挨拶した。
上映後の舞台挨拶ということで本編の内容に関わるトークが展開され、印象に残っているシーンについての話題に。
福原は、年老いた千代を演じる倍賞千恵子との共演を挙げ、「倍賞さん演じる千代ちゃんとのハイタッチのシーンは、前作で若い頃の千代ちゃん(出口)とハイタッチした記憶が蘇ってきて、感情が溢れ出して忘れられないシーンになりました」と振り返った。
一方、若い頃の千代を演じた出口は、「倍賞さんが千代さんを演じてくださるなんて『1から私でいいのかな』と思うくらい恐縮でした」と回想。また、井之脇との切ない共演シーンについて井之脇が「2日間に分けて撮影したので感情を保つのが大変でしたが、出口さんが千代としてそこにいてくれたので救われました」と明かすと、出口も深く頷いていた。
さらに、学校での感情的なやり取りについて豊嶋は、「百合先生(福原)が声を荒らげて感情をぶつけてくださるシーンは、自分自身にも突き刺さって深く印象に残っています」と語ると、細田も「前日夜に全員でリハーサルをして臨みました。昨日映画館で観たときも、そのシーンではポップコーンを食べる音がしなくなるくらい皆さんが集中されていて、伝えたいテーマが届いていると感じました」と熱弁した。
主題歌「邂逅」の魅力についてキャスト陣が語る中、MCの呼び込みによって主題歌を手掛けた福山雅治がステージにサプライズ登場。客席から大きな悲鳴と大歓声が巻き起こった。
事前に福山登場を知らされていなかった登壇者陣も驚きを隠せない中、福山は「本日ご来場の皆さん、よろしくお願いいたします」と爽やかに挨拶。作品との出会いについて「エンターテインメント活動を36年続けてくる中で、人生には運命や出会うべくして出会う奇跡があると感じています。前作から続き、この作品に導かれたのだと思います」と語った。
また、イベントが開催された8月9日という日について、長崎出身である福山は深い思いを打ち明けた。「1945年8月9日11時2分という時間は、長崎出身の自分にとって命や生きていることを深く考えさせられる日です。当時13歳だった私の父や祖母は被爆を免れ、そのおかげで今の自分が存在しています。表現活動を行う人間として、社会課題とエンターテインメントを高次元で融合させ、感動やメッセージを届けることはずっと探し求めていたテーマでした。映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』、そして映画『あの星が降る丘で、君とまた出会いたい。』と出会えたことは、表現者としての到達点の一つだと感じています」と力強く語った。
福山の言葉を受け、原作者の汐見は「若者に戦争を考えるきっかけになってほしいと書き始めた物語が、福山さんの素晴らしい主題歌のおかげで、世代を超えて親子で映画を観たり本を読んだりする輪が広がっています」と感謝を述べた。
新城監督も「押し付けがましい説教ではなく、心で感じ取ってもらえる温かさを表現したかった」と想いを語り、福原も「作品を通して、戦争の歴史や日常の平和の大切さを次の世代へバトンとして繋いでいきたいです」と決意を新たにした。
舞台挨拶の最後に、登壇者を代表して福山、汐見、福原の3名からメッセージが送られた。
福山は「人生にはどうしようもない悲しみや乗り越えられないと思うような傷がありますが、荷物を半分持ってくれるような人と出会い、前に一歩を踏み出していく。この映画はまさに一人ひとりの人生を描いた作品です。傷を抱えながらも前へ進む強さを感じていただけたら嬉しいです」と語りかけた。
原作者の汐見は、「作中に登場する『恩送り』という言葉は、かつて教員時代に同僚から聞いた大切な言葉です。恩返しができなくても、誰かに優しさを繋ぐ『恩送り』をしていくことで世界が変わっていく。作品を通して何か心に残るものがあれば幸いです」と呼びかけた。
そして、主演の福原が「登場人物たちがそれぞれ葛藤しながらも前に進んでいく姿に、私自身も背中を押されました。今ある当たり前の日常がどれほど幸せなことかを感じていただける作品になっています。ぜひ多くの方に届いてほしいです」と力強くメッセージを贈り、温かい拍手の中で舞台挨拶は幕を閉じた。
スチール写真は、随時追加更新中
映画『あの星が降る丘で、君とまた出会いたい。』公開記念舞台挨拶■開催日: 2026年8月9日(日) |

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]]>The post タクシー映画祭「TAXIATER」公開記念イベント レポート first appeared on Cinema Art Online [シネマアートオンライン].
]]>1912年(大正元年)8月5日に東京・有楽町で日本初のタクシー営業が始まったことに由来し、1984年に制定された「タクシーの日」。その記念日である8月5日(水)、東京23区を中心に走行する100台のタクシーと連携したサイネージメディアで短編映画3作品を上映する日本初のタクシー映画祭「TAXIATER」(タクシアター)の公開記念イベントがTOKYO FMホールで開催された。

イベントには、短編映画『世界は美しいと誰かが言った』から主演の久保史緒里、中川龍太郎監督、短編映画『まるくてしかく』から主演の大沢一菜、共演の照井野々花、小宮山菜子監督、短編映画『Parallel Parking』から主演の林 裕太、岸本加世子、長島翔監督ら豪華出演者・監督陣が集結。さらに、主催である株式会社ENGINE代表取締役の久保田徹朗プロデューサー、メインスポンサーである花王株式会社の簑部敏彦氏(作成センター 第1ブランドクリエイティブ部 部長)も登壇し、新たな移動・映画体験の幕開けを華やかに飾った。
イベント冒頭、企画・プロデュースを手掛けた株式会社ENGINEの久保田徹朗氏が登壇。「劇場上映に先駆けてタクシー上映を行う点」「映画作品と企業タイアップの新たなあり方に挑戦するブランドプレスメント形式」という本映画祭の2大特徴を解説。「タクシーは乗客の年齢や性別を問わず、同一のコンテンツをじっくりご覧いただける非常にユニークなメディアでありスクリーンです」と語り、平均乗車時間約18分というタクシー空間を“走る映画館”に変貌させ、タクシーアプリ「S.RIDE」での指定配車や乗車証明書QRコードを通じた視聴など、乗客のライフスタイルに寄り添う新たな映画プロモーションの可能性を熱く語った。

続いて、メインスポンサーとして参加した花王株式会社の簑部敏彦氏が挨拶。単なる商品露出(プロダクトプレイスメント)ではなく、ブランドが大切にする「パーパス(存在意義)」を映画の物語や登場人物の関係性に織り込んだ取り組みであることを説明。「アタックは『すべての人の明日に向かう一歩を支えたい』、ハミングは『いつもご機嫌でいてほしい』、キュキュットは『ちょっとした負担を楽にしてハッピーを広げたい』という想いを込めています。映画という素晴らしい力を通して、ブランドの想いも一緒に感じていただけたら嬉しいです」と期待を込めた。
トークセッションの第1部では、短編映画『世界は美しいと誰かが言った』(協賛:アタック)より、主演の久保史緒里と中川龍太郎監督が登場。
久保を起用した理由について中川監督は、「映画『恒星の向こう側』でもご一緒させていただいたのですが、非常に作品への向き合い方がストイックで。自分が求めていることに真剣に取り組んでくださる方なんです。いつか久保さん主演で映画を撮りたいとずっと思っていたので、今回お声がけさせていただきました」と明かした。
さらに撮影現場について、「2歳の娘(律)をずっと連れ歩く役柄で、言葉のコミュニケーションが難しい中とても大変なんです。でも久保さんは撮影前や合間の時間も休みなく、ミニーちゃんのカチューシャを付けて踊ってあやしたりして、本当の母親としてりちゃんと過ごしてくれた。その姿勢が座長として本当に素晴らしく、尊敬できました」と惜しみない賛辞を送った。

これを受けた久保は、「撮影期間中は、お母様から伺った『言葉が通じないことによる孤独』を少しでも疑似体験できるよう、外部との連絡を控えたりして自分なりに役と向き合いました」と告白。会場客席にはこの日、劇中で娘役を演じた律ちゃんが来場しており、トークの合間に久保が客席へ優しく手を振る微笑ましい一幕も。

「撮影中もずっと『母は、母は』って呼んでくれていて。今でもお母様と話す時に『母とシャボン玉した』って覚えていてくれるみたいで、すごく嬉しいです」と目尻を下げた。

一方で中川監督が「律ちゃんは僕のことは大嫌いで、俺が近寄ると『うわ〜ん』って泣いちゃうんです(笑)。“オッケー”の手振りだけは真似してくれるようになったんですけどね」と自虐交じりに明かすと、会場は温かな笑いに包まれた。

乃木坂46を卒業して約半年、節目となる本作について久保は「卒業という人生の大きな節目の直後に、役者としてこれほど貴重で深い経験をさせていただけたことが本当にありがたいです。自分の人生や人間性が役柄に顕著に表れるということを中川監督に教えていただいたので、もっと人として深みのある人間になりたいと思うきっかけになりました」と真っ直ぐな瞳で振り返った。

最後に作品が観客へ届けるメッセージについて問われると、中川監督は「この作品をタクシーであれ映画館であれ観ていただいて、ご自身の生きている人生や世界が少しでも変わることがあったら本当に嬉しいなと思っています。子供だった瞬間がない人はいないはずなので、そういうことに思いを寄せて観ていただけたら」とコメント。
久保も「移動の合間に新しい映画や物語に出会えるって、なんて素敵な体験なんだろうと思いました。この作品を通して観てくださる方の『明日』という存在にも、何かひとつ色や温度をプラスできるような作品になっていたら嬉しいなと思いますし、ぜひ移動のひと時にこの作品に出会っていただけたら嬉しいです」と心を込めてメッセージを送った。

第2部には、短編映画『まるくてしかく』(協賛:ハミング)より、主演の大沢一菜、照井野々花、小宮山菜子監督が登壇。
作品の着想について小宮山監督は、「男性と女性だけでは括れないノンバイナリーやクィアの存在が日本映画であまり描かれてこなかったことや、LGBTQIA+の子供たちが悲劇的な死を遂げてしまうなど、そういう物語の展開が多いことに疑問がありました。そうではなく、その子たちをエンパワーメントできる物語を作りたいと思ったのが出発点です。『まるくてしかく』というタイトルには、本来は共存しない形や割り切れない矛盾、そして多様な愛や家族の形をそのまま肯定して包み込みたいという想いを込めています」と温かな意図を語った。

10代で作品を牽引する大沢と照井。学業と俳優業の切り替えについて聞かれると、大沢は「自分的には特に意識はしていないんですけど、学校生活での出来事やその時の気持ちが、お仕事での演技に自然とつながっているなと感じる瞬間はあります」と回答。

照井も「お仕事のときはすごく集中するようにしているんですけど、学校では逆にあまり深く考えずに友達と全力で楽しんでいます。だから自分の中で『切り替えるぞ』って特別に意識していることはあまりないです」と、等身大で自然体な素顔を見せた。

作品に込めたメッセージについて照井は、「ふじとう(二藤)としおり(詩織)のように、自分の『好き』という気持ちをうまく表現できないもどかしさは誰にでもあると思うんです。でもこの映画を観たあとに、身近な大切な人と少しでも素直な気持ちで話してみたくなってもらえたらすごく嬉しいです」と心を込めて言葉を紡いだ。

撮影のエピソードとして、大沢が「ロケット花火をあげるシーンで、風があってなかなか上がらなかったのがなぜかすごく印象に残っています(笑)」、照井が「山の中のすごい雪道を歩いていく撮影が大変だったけれど、すごく思い出深いです」と和気あいあいと語ると、小宮山監督も「二人ともすごく真摯に作品に向き合ってくれて、等身大の魅力あふれる撮影現場でした」と目を見張っていた。

第3部には、短編映画『Parallel Parking』(協賛:キュキュット)より、W主演の林 裕太、岸本加世子、長島 翔監督が登場。
車上生活者を題材にした背景について長島監督は、「車上生活者と一口に言っても、住む場所を失った方もいれば自ら選択している方もいて背景は様々です。深夜の撮影時にも、すぐ隣の駐車場で高齢の親子らしき方々が車の中で寝ていらっしゃって。この作品を通して、そういった人々の存在や人生に少しでも想像力を向けるきっかけになればという思いで描きました」と語った。

映画『愚か者の身分』(2025年)に続く向井康介脚本作品への出演となった林は、「また向井さんの脚本で映画を撮れることが本当に嬉しかったです。何気ない会話の中に生きる上で大切なことが散りばめられていて、お芝居をしながら『あ、ここは実はこう繋がっていたんだ』と伏線を回収していくような感覚があって感動しました。長島監督や岸本さんと丁寧に読み解きながら撮影できました」と手応えを口にした。
さらに第30回釜山国際映画祭での最優秀俳優賞を受賞するなど注目の集まる現状について、「賞をいただけたことは本当にありがたいですが、作品への向き合い方は今まで通り変わらず、巡り会えた役に対して真摯に向き合っていくことが自分のできる精一杯だと思っています」と凛とした表情で語った。

自身も要介護の父を在宅介護しているという岸本は、「私も今、88歳の父を在宅で介護しているのですが、車にお母さんを乗せて幸せそうに車中泊をしている姿や、林くん演じる悠生とのやり取りを見ていて、自分自身の人生とすごく重なりました。私自身、生きていく中で『出会い』や『ご縁』を一番大切にしたいと思っているので、この一瞬の出会いで心が通じ合う様子にすごく共鳴しました」と深く頷いた。

初共演となった現場の裏話として、林が「待ち時間の時に岸本さんから『本読みしようか』と声をかけてくださってすごく嬉しかったです」と感謝を述べると、岸本は「私がセリフを覚えているか不安で付き合ってもらったのよ(笑)。終わった瞬間に『相手があなたで良かった!』って言いました」と明かし相思相愛の様子。

さらに「深夜の極寒撮影の中、プロデューサーが持ってきた1個のチゲカップヌードルを紙コップ3つに分け合って食べたのが本当に美味しかったね」と微笑ましいエピソードを披露し、会場を温かな笑いに包んだ。
タクシー映画祭「TAXIATER」公開記念イベント■開催日: 2026年8月5日(水) |

日本初のタクシー映画祭「TAXIATER」「LIFE IS MOVEMENTS. 人生は、移動の連続である。」をコンセプトに掲げる「TAXIATER」は、8月5日「タクシーの日」を記念して2026年8月3日(月)から1週間にわたり、東京23区内を走行する100台のタクシーと連携したサイネージメディアで、アカデミー賞級の豪華制作陣が手掛ける撮り下ろしの短編映画を上映し、新たな映画体験、移動体験を創出する、日本初のタクシー映画祭。 記念すべき第1回となる「TAXIATER」のメインスポンサーには、花王株式会社が展開する衣料用洗剤「アタック」、柔軟剤「ハミング」、食器用洗剤「キュキュット」の3ブランドが決定。花王を代表する各ブランドが、短編映画3作品それぞれとタイアップしている。 |

《ストーリー》重い病を抱える史花(久保史緒里)は、2歳の娘を抱き抱えて、行く宛もなくタクシーに飛び乗る。辿り着いたのは木々が生い茂り、風がそよぎ、光が溢れる湖のほとりの集落。そこで、幼い娘を亡くした経験を持つ光世(中尾幸世)と出会う。史花と律は彼女が営む民宿に、一晩だけ泊まることに。その一晩を通して、史花・律・光世、3人の女性の人生が交差する。その先に待っているものとは―――――。
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《ストーリー》中学生の二藤(大沢一菜)と詩織(照井野々花)は、両親の離婚後、母・芽衣子(田畑智子)と離れて暮らす詩織のために、かつて芽衣子と埋めたタイムカプセルを探しに行く。 しかし、思い出の場所を掘っても、タイムカプセルは見つからない。二人は直接、芽衣子に会いに向かうが、その道中、小さなレストランで芽衣子が見知らぬ男性と再婚式を挙げている場面に遭遇してしまう―――――。
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]]>映画『下妻物語』(2004年)、『嫌われ松子の一生』(2006年)、『パコと魔法の絵本』(2008年)、『告白』(2010年)などで知られる中島哲也監督の8年ぶりとなる待望の最新作、映画『時には懺悔を』が8月28日(金)より全国公開を迎える。

打海文三の同名傑作ミステリー小説を実写化した本作。主人公の孤独な探偵・佐竹三雄役には、中島監督と初タッグとなる西島秀俊。佐竹の助手で修行中の中野聡子役に満島ひかり、失踪した夫の捜索を依頼する主婦・尋津民恵役に黒木華、重い障害のある少年・新を一人で育てる明野哲夫役に宮藤官九郎、佐竹の妻・由紀役に柴咲コウ、ベテラン探偵・舟尾役に片岡鶴太郎、何者かに刺殺された探偵・米本洋一役に佐藤二朗、そして佐竹がかつて在籍していた大手探偵社のオーナー・寺西役に役所広司など、日本映画界の至宝たちが集結した。
7月29日(水)、TOHOシネマズ日比谷にて完成披露試写会が開催され、主演の西島秀俊をはじめ、黒木華、宮藤官九郎、柴咲コウ、片岡鶴太郎ら豪華キャストと、中島哲也監督が上映前の舞台挨拶に登壇。さらにスペシャルニーズスーパーバイザーの安田一貴も駆けつけ、本作の制作秘話や作品への想いを語った。
満席の会場からの大きな拍手に迎えられ、キャスト陣と監督が登場。冒頭、MCの武田真一アナウンサーより、前日に発生した令和8年熊本地震の被災者へのお見舞いの言葉が述べられた後、主演の西島も「まずはこの度の熊本地震でお亡くなりになられた方々に心よりお悔やみ申し上げます。そして被害に遭われた皆様にお見舞い申し上げます」と追悼の意を表した。

続いてマイクを握った片岡は「普段私のこの時間は寝ておりまして滅多に出てこないんですけど、中島監督からの是非というお声でやって参りました。終わったらすぐに帰って寝るつもりでございます」とユーモアたっぷりに挨拶し、会場の空気を和ませた。

そして中島監督は、公開が長らく延期されていたことに触れ、「私事で映画の上映が随分延びて、この映画の完成と上映を楽しみに待ってらっしゃったお客さんにすごく迷惑をかけたことを心からお詫びいたします。申し訳ありませんでした。今日はやっとこれだけ多くの人に観ていただけることが信じられないぐらいで。ごゆっくりご覧になってください」と、完成と上映を待ち望んでいた観客へ謝罪と感謝を込めて挨拶した。
原作と出会ってからおよそ20年を経て完成を迎えた中島監督は、「当時はシリアスすぎる内容で、障害のある方に実際に出演していただくのは不可能だと否定されました。ですが今の時代になり、キャストやスタッフが面白いと感じてくれたことで映画化へと進んでいきました。みんなの『絶対に完成させたい』という魂で撮影された作品です」と胸を張った。

今回中島組初参加となる西島は、「スペシャルニーズを持つ子供たちとご家族、大人たちの切実な思いが丁寧に描かれ、その先に希望がある本に惹かれました」と出演の決意を明かした。
自身が演じた佐竹については「自身の過去と事件が重なり、見たくもない過去を見つめざるを得ない相反する感情を抱えながら向かっていく難しい役でしたが、やりがいがありました」と手応えを語った。

ある日突然幼い子どもが拐われてしまう主婦・尋津を演じた黒木は、約8年ぶりの中島組参加を喜びつつ、「尋津さんの行動を否定はできないですが、我が子を可愛いと思えないかもしれないという思いを、自分ならどうするか毎日考えながら演じていました」と真摯な役作りを振り返った。

重い障害のある少年・新を一人で育てる明野を演じた宮藤は、「事前に痰の吸引や食事の介助などを練習しました。明野は器用な人間ではないので『もっと粗雑に』と指示されたものの、本当に粗雑に扱っては危ないので、その塩梅を調整するのが勉強になりました」と入念な準備を明かした。子役たちとの共演については「彼らが見せる素敵な笑顔を台無しにしないよう、慎重に演じました」と苦労を語った。

佐竹の妻・由紀を演じた柴咲は、「内に秘める役柄なので、客観的にどう見えるか反芻しながら撮影を重ねました。私自身も本当の思いは言えなかったりするので共感できました」と回顧。西島との夫婦関係の表現については、「心の奥に秘めたものがありながら、壊してはいけない『今』があってそれ以上踏み込めないもどかしさを受け止めながら演じました」と繊細な表現について語った。

ベテラン探偵と孫思いのおじいちゃんという2つの顔を持つ舟尾を演じた片岡は、「プライベートな顔から、西島さんと話す時には探偵の顔にスイッチする運び方を意識しました」と切り替えの妙を語った。また、探偵チームの捜査会議のシーンについては「円陣を組んでお菓子を食べながら話す面白い演出で、私自身甘党なのでチョコレートパフェなどを食べるシーンを満喫しました」と裏話を披露した。
この日欠席となった探偵助手の聡子を演じた満島ひかりについて、西島は「表現するために生まれてきた方。どの瞬間を切り取っても感情が生々しく伝わってきました」と絶賛。「常に前向きに生きている聡子と、過去に囚われている佐竹は真逆ですが、監督からの質問に対する互いの答えから役を深め合うことができました」と充実した現場を振り返った。

完成した映画を観た感想について問われると、黒木は「重たいテーマの中に温かいものを感じる好きな映画」、宮藤は「皆さんが見守ってくれたおかげで、親子の姿が幸せそうに見えて良かった」、柴咲は「キツい現実から目を背けがちな今だからこそ直視したい、実生活に潤いをもたらしてくれる作品」とそれぞれ思いを口にした。
西島は「普段は客観視できないことが多いですが、今回は没入できました。特にスペシャルニーズの子供たちの力強い表情に感動しました」と作品の持つエネルギーを称賛した。
本作には、「スペシャルニーズ」と呼ばれる障害を持つ(特別な支援が必要な)子供たちがキャストとして出演している。
中島監督は「彼らがカメラの前で一番リラックスしてのびのびとできる環境を作ることだけを考えました。周りにはスペシャリストたちがいてケアしてくれていたので、普段の表情を見せてくれるようにと意識しました」と細やかな配慮を明かした。
ここで、本作においてスペシャルニーズの当事者や家族が安心して撮影に臨める現場作りに尽力した、スペシャルニーズスーパーバイザーの安田一貴がお祝いに駆けつけた。
安田は、「障害を理由にできないと周りの大人が先に決めつけず、どうすれば安全に取り組めるのかをご家族やスタッフと共に考える姿勢を大切にしました。リスクを心配してブレーキになるのではなく、子供たちの挑戦を後押しするアシスト役に徹しました」と熱い思いを語った。

西島も、「最初にご家族から『俳優として接してください。遠慮せずにどんどんやってください』と言われました。キャストの皆さんも遠慮なく思いっきり演技ができたと思います」と特別な現場の空気を振り返った。安田からは「西島さんは撮影が終わった後も子供たちに会いに来てくれて、交流が続いています」と心温まる後日談も飛び出した。
最後に、登壇者を代表して主演の西島からメッセージが送られた。
「この映画にはたくさんのキャラクターが出てきます。きっと皆さん、“自分の物語だ”と思えるキャラクターを見つけていただけると思います。是非そのキャラクターと一緒にこの映画を生きてください。リアルな現実を積み重ねて撮影していきましたが、その先には確実に美しい光が差します。それを感じていただければ嬉しいです。楽しんでいってください」
熱い思いが込められたメッセージに会場からは温かい拍手が送られ、舞台挨拶は幕を閉じた。
映画『時には懺悔を』完成披露試写会 舞台挨拶■開催日: 2026年7月29日(水) |

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]]>是枝裕和監督や西川美和監督の監督助手を務めてきた映像制作集団分福の新鋭・孫明雅監督の鮮烈な長編デビュー作であり、在日コリアンの少女の日常と心の葛藤を描いた映画『トロフィー』が7月10日(金)に劇場公開を迎えた。

公開翌日の7月11日(土)、テアトル新宿での上映終了後に公開記念舞台挨拶が開催され、映画初主演を務めた恒那、共演の井浦新、市川実和子、ちすん、そして孫明雅監督が登壇。7月2日から12日にかけて韓国で開催された第30回富川国際ファンタスティック映画祭Fanta Scape部門でのワールドプレミアを経て、ついに日本公開を迎えた喜びや、約1年にわたる朝鮮舞踊の練習を重ねた撮影の舞台裏が語られた。
上映が終了し、深い余韻と満席のテアトル新宿の客席からの大きな拍手に包まれる中、恒那、井浦新、市川実和子、ちすん、孫明雅監督がスクリーン前に登壇。MCの新谷里映による進行のもと、温かい舞台挨拶がスタートした。
マイクを受け取った孫監督は「監督の孫明雅と申します。本日はこんなに広い客席を埋めてくださって、ご覧いただき本当にありがとうございます」と笑顔で挨拶。自身も朝鮮学校に通っていた在日コリアン3世であり、自らの経験と感情を起点に映画『トロフィー』を描き出した孫監督は、無さに日本公開を迎えたことへの深い感謝を述べた。

オーディションで選ばれ、映画初主演として主人公・ソヒ役を熱演した恒那は「主人公のソヒを演じました恒那です。本日はお越しいただきありがとうございます。短い時間ですがよろしくお願いします」と凛とした姿で挨拶。

続いて、韓国・富川で開催された第30回富川国際ファンタスティック映画祭でのワールドプレミア上映について話題が及ぶと、孫監督は「現地の観客の皆さんがすごく熱く受け止めてくださって、笑い声や拍手を直接肌で感じられたことが大きな自信になりました」と振り返り、国境を越えた反響への喜びを語った。
また、映画『トロフィー』の題材に朝鮮学校と朝鮮舞踊を選んだきっかけについて、孫監督は「私自身が小学校から高校まで朝鮮学校に通いていて、朝鮮舞踊ではなかったのですがすごく憧れがあったんです。今はすごくブームとかも入ってきて、K-POPやK-POPアイドルを目指す日本の方もいらっしゃって。反面、北朝鮮のミサイルのニュースなどの背景に朝鮮舞踊が使われたりして。そこで、元々は同じ国だったのに、北での政治的な対立で、本来朝鮮舞踊は美しいものなのに、そういう変な見方をされてしまうのはどうなんだろうとずっと持っていて、朝鮮舞踊とK-POPを映画の中で扱ってみました」と、企画の背景にある強い想いを明かした。
トークセッションでは、250名を超えるオーディションを勝ち抜いた恒那の過酷な役づくりについて語られた。
孫監督からはオーディション時の秘話として「1次面接の時に、あ、なんとなくこの子がいいなと思って、2次の芝居のオーディションで、あ、もうこの子がいいって思ったんです。でも3次の踊りのオーディションで(踊りがひどかった)」と明かされると、完全に未経験だったという恒那も「性格的な面ではソヒと似ている部分が多くて個人的に演じやすい役だなと思っていたんですけど、舞踊がちょっとだいぶひどくて(笑)。最初の段階では代役を使おうかと言われたり、オーディションで1番下手だったとたくさん言われるくらいだったんです」と当時を回想。「監督さんだったり、美容の先生と正式なレッスンを重ねて、練習し始めて4カ月目や半年のあたりから他の舞踊部員の子たちとも一緒にレッスンを受けるようになって。そこからだんだん自分も踊ることが楽しくなってきて、最後は舞踊が終わるのが寂しいと思うくらい楽しく踊りきることができました。最後の舞踊大会のシーンでは、もうこれが最後だって思うのと、先生とも離れるってなると大号泣しました」と笑顔で語った。
公式Instagramアカウント(@trophy_film_710)では、恒那の舞踊レッスン初期の様子を捉えたビハインド・ザ・ステージ動画が公開されており、孫監督からも「すごく可愛いのでぜひ見てほしい」と息の合ったアピールが行われた。
これに対し、ソヒを厳しくも温かく指導するリ先生役を演じたちすんは「私も学生の頃に、学校の部活で9年間朝鮮舞踊をやっていました。本当に私にとって朝鮮舞踊というのがすごく青春そのものだったので、このような形で映画で描いていただき、たくさんの方に観ていただけるというのは感無量で、すごく嬉しく思っています」としみじみ。「実際撮影では、恒那ちゃんを筆頭に舞踊部の子たちが1年間みっちり朝鮮舞踊を練習してきたので、本当の部活のような雰囲気で撮影することができました。やっぱり1日2日の練習では到底出せない空気感だった」と称賛した。

すかさず孫監督から「私とちすんさんは大阪で同じ高校(大阪朝鮮高級学校)に通っていたんですよね。7期違いなので学年は被らないんですけれども、友達のお姉ちゃんとかの話で、当時から『ものすごく朝鮮舞踊が上手い、レジェンド級の人がいる』という話を常々聞かされていて、それがちすんさんだったので、今回こうやって先生役を演じてくださって私としてはとても嬉しいです」と明かされ、ちすんは「ちょっと怖い先生に映っていたかもしれないんですけれど、すべて監督の指示通りでございます(笑)」と返し、会場を笑わせた。
父親のサンジュ役を演じた井浦新は、恒那の奮闘について「彼女が日々努力して、現場でソヒとして立派に踊る姿を見た時は、本当の父親のように胸が熱くなりました」と整然。さらに恒那から、家族3人でソヒが勲章を売ったことがバレて喧嘩するシーンの裏話として「『やめて』というセリフを言うタイミングを間違えてしまったことがあるのですが、やらかしちゃったなと思っていた時に、新さんが『それは自分の感情で出たものだからそれは失敗じゃないし、自分の感情で自分のやりたいようにお芝居していいんだよ』と言ってくださったのが、すごい自分の中で印象に残っています」と感謝が伝えられると、井浦は「全然覚えてないです(笑)」とはにかみつつも、「きっと生理的に出た方、台本に書かれてるよりもその瞬間にやっぱ言いたくなるから出るんだろうなと思ったから、きっとそう言ったんだろうな」と優しくフォローした。
また、お父さんは劇中でうざたがられている設定のため、井浦は「現場でもなかなか一緒に仲良く笑顔で話し合う場面は自分もあまり作らない方がいいなと思って、程よい、かと言って話さないとかじゃなくて自然な距離感だけど目が合わないようにしていました」と役づくりのアプローチを明かしつつ、「家族の骨組みを作ってくれているのはずっと市川さん。僕はサンのようにそこにただ乗っかって、遠くから見てる感じで過ごしていたような気がします」と感謝を語った。

母親のミリョン役を演じた市川実和子は「新た君とは10代の時からの知り合いなので、その時の積み重ねみたいなものは私たちにしか出せない空気としてあったのではないかと思っていて、本当に一緒に過ごした時間があるので演技をする上でも助けてもらいました」と長年の信頼関係を語り、恒那についても「見た目とは裏腹になかなか肝が座っているというか、現場でも本当に自然にいるんですよ、控え室とかに。だからすごく助かるなと思って、自然に親子関係を演じるきっかけをもらったなと思ってます」と大物ぶりを大絶賛。
井浦が「女優さんって大体中身がおっさんなんですよ。内緒ですけど(笑)」とならではの冗談を交えると、市川も「『恒那ちゃんもなかなかだね、大物になるな』って新さんとかマネージャーとちょっと話してました」と頷き、息の合った掛け合いを見せた。

また、井浦は本作のオファーを振り返り「僕も250人のオーディションの中からこの役を勝ち取って(笑)」と冗談を飛ばしつつ、「監督から台本とお手紙をいただいて、1番最初に読んだ時の印象は、本当に平凡な家族の物語と、あと少女のその青春というものを描いていて、そこが軸でありました。監督の師匠でもある是枝裕和監督の元で僕も俳優としてデビューしたり、そういうご縁もあって、孫監督の元で一緒に映画作りしたいなという思いがありました。撮影監督の山崎裕さんもデビュー作からご縁がある方でしたから、懐かしさを感じる撮影現場になるかなと思ったんですけど、初日に入ったら是枝監督の影ではなくて、ちゃんと孫監督の現場作りをされていて、新しさを感じながらやっていました。台本で読んだよりも、ものすごいキラキラと美しく逞しい映画だなと思っています」と作品への深い愛着を語った。
中盤のティーチインでは、客席の熱心なファンから質問が飛んだ。大阪の小学校から高校まで朝鮮学校に通い途中でドロップアウトしたという観客から「映画を観てすごく気持ちが浄化された。朝鮮学校の朝鮮語(在日語)を使うシーンがとってもリアルだったが、どのように演技されたのか」と質問されると、井浦は「監督自ら参考音声を録音してくださって、そのデータをひたすら毎日音楽のように聞き続け、体に馴染んでいくまで体の中に入れ込みました。これ以上聞きたくないと思うくらい聞いた(笑)というのは嘘なんですけど、自ら監督がそこを録ってくれたのが本当にありがたかった」と徹底した役づくりを明かした。
孫監督からは「日本語に“R”の発音がなくて恒那ちゃんは苦戦していたんですけど、新さん“R”で一切つまづかなかったのを覚えてます」と絶賛されると、井浦は「全く気づかなかった。自然にできていたならよかったです」と笑顔。一方の恒那は「私はその発音で何回もNGを出してしまって、アフレコでもそこだけ何回もやり直したので、本当に落ちこぼれでしたね。監督のおかげです」とはにかんだ。
さらに、ちすんからは在日コリアンの言葉(在日語)の奥深さについて解説が行われた。「私は大阪の在日語のイントネーションになっていたので、監督から『これは東京の話だけど、もうそのままでいいです』と言ってもらい、その場で即興を交えて言いやすいようにやらせてもらいました。在日コリアンの言葉には、世代間の変化があって、1世が2世に教えて、2世が3世に教えてってやるのでかなり変化がある。大阪弁っぽい在日語だったり、東京弁の在日語みたいなのがあったりして本当に奥深い。先生たちもそれぞれイントネーションを持っている」と、リアリティにこだわった言語表現の舞台裏が語られ、一同を感激させた。
トークセッションとティーチインが終了すると、メディア向けのフォトセッション、そして来場した観客による撮影タイムが設けられた。客席からは一斉にスマートフォンが掲げられ、壇上のキャスト・監督へ向けて熱いフラッシュが送られた。
フォトセッションの後、集まった観客やこれから映画『トロフィー』を観る人々に向けて、登壇者から一言ずつメッセージが送られた。
ちすん:「本日は最後までお付き合いいただきありがとうございました。本当にたくさんの方に観ていただけてとても嬉しいです。何か観た人の心に残るような作品になっていたらいいなと思ってます」
市川:「日常の小さな葛藤や愛おしさが詰まった作品です。皆さんの心に少しでも寄り添えたら嬉しいです」
井浦:「この作品は世の中の不条理を強く訴えかけるような作品とはちょっと違う、キラキラとした青春映画で、隣のお家から聞こえてくるような本当に身近にある家族の物語です。それでも何かこう強い芯があって、きっと皆さんも観て、ご自身やご家族、娘さんをそこに重ね合わせながらこの映画を観ていただけたんじゃないのかなと思います。さきほど写真をたくさん撮られたので、その写真を大切に仕舞い込んでおかずに(笑)、SNSなどを駆使してお友達にLINEやメールで感想をたくさん伝えていただけると大変ありがたいです。また誰の目線で観ると少し物語の見え方が変わってきて、違う映画の楽しみ方もできると思いますので、是非『トロフィー』を2度、3度と観て楽しんでいただければと思います」
恒那:「私にとって初めての主演作がこの映画『トロフィー』で本当に幸せです。ソヒの姿が、何かを抱えて生きる皆さんの背中を少しでも押せたら嬉しいです。本日はありがとうございました」
孫監督:「朝鮮学校のことを知っていただこうと思って作った映画なんですけれども、大々的に広告を打ったりテレビでやったりとかはしないので、みなさんの口コミでもし良いと思っていただけたら、周りの方に広めていただけますとすごく嬉しいです。大人になる過程での鬱屈とした感情や居場所のなさというのは、ルーツに関わらず誰もが共感できるものだと思っています。この映画を観る時間が、皆さんそれぞれが抱えているものと向き合う瞬間に繋がったら嬉しいです。本日は本当にありがとうございました」
会場全体から温かい拍手が送られる中、公開記念舞台挨拶は締めくくられた。
映画『トロフィー』公開記念舞台挨拶■開催日: 2026年7月11日(土) |

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]]>仕事に恋愛、人生に行き詰まった32歳の女性が、学生時代に経験した「初恋」の記憶を頼りに、自分の人生を見つめ直す姿を描いた映画『ひとりたび』。その主人公・大野美咲を演じているのは、2003年にモデルとしてキャリアをスタートさせて以降、映画『茶飲友達』(2023年)での主演をはじめ、ドラマ・映画・CM・舞台など多方面で活躍の幅を広げてきた岡本玲だ。

石橋夕帆監督が5年前に立ち上げた企画が、脚本の上村奈帆とともに丁寧に紡ぎ上げられ、2023年の撮影から完成を経て、ついに劇場公開を迎えた。
同作への出演を決めた経緯や役作りの舞台裏、故郷・和歌山でのロケのエピソード、解禁された予告篇や作品が持つ温かい魅力について話を伺った。
5年前に石橋夕帆監督が立ち上げた企画が、長い時間を経てスクリーンへと結実した本作。主演を務める岡本玲が、監督から最初に手渡された一冊の“漫画”のエピソードとともに、作品の根底に流れる真摯な想いの始まりについて明かしてくれた。
岡本: 結構前の話になるのですが、5年ほど前に、本作に出演している俳優の中山求一郎君から「石橋夕帆監督が岡本さんを主人公に映画を撮りたいと仰っていて、企画書も手元にあるらしいよ」と連絡をいただきました。
石橋監督とは何度かお会いしたことはあり面識はありましたが、ゆっくりお話ししたのはその連絡がきっかけでした。その際、「まだ実現するかどうかは定かではないけれど、こういう企画で岡本さんに出演してほしいと思っている」と企画書を渡していただいたのが始まりです。
お会いする前から、石橋監督が一緒に作品を作りたい俳優として私の名前を挙げてくださっているのをネットで拝見していて、すごく嬉しかったんです。等身大の作品を作りたいという思いや、この作品に懸ける監督の熱いお話を伺って、「是非一緒にやれたら嬉しいです」とお返事しました。
その後、コロナ禍ということもあってなかなかすぐには進まなかったのですが、2023年にようやく撮影ができることになり、という流れでした。
最初にお話を聞いてから、脚本の上村奈帆さんが参加されて脚本が出来上がっていく過程では、その都度読ませていただいていました。ただ、私が何か意見をするということではなく、情報を共有していただきながら、出来上がる過程をずっと側で見守ってきたという感じでした。
岡本: 石橋監督は「完全なフィクションではなく、誰かの人生であり、自分の人生の一端が描かれているような作品をやりたい」と思われたそうです。監督が出会ったある女性の実体験がこのお話の種になっているのですが、監督は「その方が話されている姿がすごく目に焼き付いている」と仰っていました。「その出来事自体をそのまま描きたいのではなく、その話を聞いたという、そのこと自体を作品にしたいんだ」と。それを伺った時に「なるほどな」と思いましたし、すごく独特で素敵だなと感じました。
しかもその時、監督が「大まかなストーリーを漫画にした」と言って渡してくださいました。監督がご自身で構成を考えて漫画家の方に描いてもらったそうで、脚本よりも先にその漫画を手渡されました。内容もすごく分かりやすかったですし、新しい試みがたくさん詰まっていました。
実際にその漫画と出来上がった映画を観比べると、そのまま残っている部分もありますし、全然違うストーリーの流れになっている部分もあります。実話はあくまでお話の種であって、そこからイメージを膨らませて作っていったきっかけでした。
今作で演じる主人公の美咲は、これまでの出演作とは異なるアプローチが求められる役どころだったという。大野美咲という人物の印象や、手探りで挑んだ役作りのアプローチ、そして回想シーンを演じた中学生キャストたちの存在について話が及ぶ。
岡本: 石橋監督の作品は以前からすごく好きで拝見していたのですが、自分がこれまで任せていただいてきた役柄の空気感とは違うもののように感じていました。そのため、脚本を読んだ段階では、ちょっと自分に演じられるかどうか不安でしたし、怖さもありました。
監督が私の出演した舞台を実際に観て声をかけてくださったので、それなら「絶対に何かしら理由があるはずだ」と思って、怖がらずに「監督が大切にしてるものって何なんだろう?」とずっとその理由を探していた準備期間がありました。
これまでは、どちらかと言うと白黒はっきりつけたり感情の幅の大きい役柄を任せられることが多かったのですが、今回の美咲はそれが絶対に表面には出てきません。プライベートでもどちらかというと感情を表に出すタイプなので、美咲のような人物は初めてのチャレンジでした。
実は今日(このインタビューの取材日に)初めて聞いたんですけど、監督は私の舞台を観てくださった時に「内にフツフツとしたものを肌に感じた」と仰っていて。結果的に、“自分の外には出さないけど何か感情の揺れ動きがある”というお芝居にトライしたことが、きっと監督が想像していた美咲だったんだなって、改めて監督とお話しして思いました。

岡本: 撮影現場でも拝見していました。まず初めに見たのはファミレスのシーンで、中学時代の回想シーンから現代の美咲、大人たちのシーンにシームレスに移るシーンがあるんですけれど、そのシーンは中学生の子たちの方が先に撮影してたので、それを見学させてもらって、色々なヒントをもらったりしました。
そのシーンは関東での撮影でしたが、和歌山の地方ロケに行ってからは、図書館のシーンも見学しに行きましたし、ずっと現場にいました。
映画の作品の中と同じように、自分の記憶として乗った上で大人のシーンに行けたという感じです。

2人はすごく素敵でしたよ。2人ともピュアで、石山さんのその純粋に澄んだ瞳で人の話を穏やかに聞いている姿は「これきっと美咲だ」と思いました。
聞き上手というか、その柔らかさというか、その部分を私はずっと手探りで探そうとしてたので、石山さんのお芝居を見たからこそ「あ、これだ」「この子がそのまま大人になった姿でやってみよう」と、大きなヒントをもらいました。
相手役の岩田君も、不思議な魅力のある子で、世界観があって、なんか圭一っぽかったです(笑)。イメージ通りの圭一でした。
石橋監督がキャスティングをされているんですけど、「さすがだな」と完成した映画を観て改めて思いました。

岡本: 可愛いですね(笑)。作中では明かされない部分ですけれど、もし圭一としてそう思ってくれるなら、本当に嬉しいです。映画を観てくださった方それぞれが色々な感想を抱かれると思うのですが、一つの素敵な答えとして、皆さんの心にも届くといいなと感じています。

同級生が集うファミレスの場面や、故郷である和歌山市で行われた撮影。共演者についてもお話を伺った。
岡本: 大人の美咲の同級生となる女子3人組のうち、日高七海ちゃんは石橋組の常連さんですし、もう1人の里内伽奈ちゃんも七海ちゃんと日頃から仲が良い子だったんです。そのため、初対面の段階からすっかり打ち解けていて、何の苦労もなくあのファミレスのシーンを作ることができました。
上村さんの脚本がとにかく素晴らしいので、私たちが何かを気負うことなく、純粋にまっすぐ演じているだけで自然と素敵なシーンになりました。本当の同級生の集まりのような空気感のなかで、地元にずっと残っている二人と、東京から戻ってきた美咲というバランスが絶妙だったなと思います。

お父さんとお母さんを演じてくださった平田満さんと原日出子さんも本当に素敵でしたし、妹(大野綾香)役の坂ノ上茜ちゃんも、自由で可愛らしいお芝居をされる方で、演じていてすごく楽しかったです。よく「撮影で苦労した部分は?」と聞かれるのですが、一番最初に自分が不安に思っていただけで、撮影中は何も苦労はなかったですね。
岡本: 圭一のお母さんを演じられた濱田マリさんは、お人柄が素晴らしい方です。昔から面識がある女優さんですが、1対1で共演するのは初めてでした。「ようやくがっつり対面できる」という思いでいっぱいでしたし、しかも本当に最後に撮ったんです。
ラストのシーンはクランクアップの日だったと思います。作品の最後を引き締めていただいて、本当に感謝しています。濱田さんはこの1日の撮影のために和歌山まで駆けつけてくださったので本当にありがたかったです。
岡本: 和歌山でのロケはこれまでの別の出演作でも経験があったのですが、そちらは和歌山の南部の方での撮影でした。今回のように私の実家がある和歌山市内で撮影したのは初めてでした。私が和歌山出身ということで、おそらくロケ地に選んでくださったのだと思います。

完成した本編を観て抱いた率直な感想や作品の持つ独自の魅力とともに、日常のなかで少し立ち止まって心を癒やしたいすべての人々へ向けた温かい想いが綴られる。
岡本: シンプルに「好きな映画です」。そう言える作品に出会えたっていうのはすごく誇らしいし、嬉しいなって素直に思っています。
登場人物たちの心の揺れ動きや人との関わり方が、丁寧に、じっくりと繊細に描いている作品で、しかもそれがどこか一部分だけではないんです。
カメラもそうだし美術もそうだし、限られた予算の中でみんなが最大限の魅力を持ち寄って、この作品に詰め込まれています。
出演されている役者さんも本当に素敵な方ばかりですし、脚本の上村さんのストレートではなく遠回りしているけど結果的に心に深く伝わる言葉の表現だったり、ちょっとおしゃれな単語を使っていたり、耳に残る台詞の構成だったり。きっと観終わった後「思った以上に、観てよかった」と満足していただけると思います。
言葉を選ばずに言えば、いろんなところに“良さ”が散りばめられていて、それはフルスイングではなくて常にバントしてるような…でも気がついたらもうホームグラウンドを一周してるみたいな作品です。
岡本: ちょっとお疲れ気味なあなたに、サプリみたいな気持ちで「癒されませんか?」とお伝えしたいですね。
世の中には、自分の力で人生を切り開いてながら自己実現できる人たちもいると思うし、私も憧れます。でも、頭で分かっていても身体が動かない時があるじゃないですか、心が疲れていたりとか。そういう人の背中を押すような、「あなたの人生もそんなに悪いもんじゃなくない?」ってちょっとマル(◎)をあげるような作品だと思うので、日々の生活にお疲れの方にこそ、是非劇場で観てほしいです。
一度だけでなく、何度も何度も観るたびに新しい味わいや深みが伝わってくる、じっくりと噛み締めるご馳走のような、まさに「スルメ映画」だと思います(笑)。
岡本 玲 (Rei Okamoto)1991年6月18日生まれ、和歌山県出身。 2003年、第7回雑誌「ニコラ」専属モデルオーディションでグランプリを獲得しデビュー。以後、ドラマ・映画・CM・舞台と多方面で活躍中。 主な映画出演作に、『弥生、三月-君を愛した30年』(2020年/遊川和彦監督)、『茶飲友達』(2023年/外山文治監督/主演)、『たしかにあった幻』(2026年/河瀨直美監督)などがある。 またドラマでは、NHK連続テレビ小説「純と愛」(2012年〜2013年)、「わろてんか」(2017年〜2018年)など数々の話題作に出演。舞台では「レオポルトシュタット」(2022年)、「デカローグ」(2024年)、「トランス」(2024年)、「頭痛肩こり樋口一葉」(2024年)、「Come Blow Your Horn〜ボクの独立宣言〜」(2024年)などがあり、映画・舞台を軸に確かな演技力が高く評価されている実力派女優。 |

《ストーリー》主人公と同世代の3人が、将来への不安と過去の思い出の邂逅を繊細に紡いでいく。 東京で働く主人公・美咲。10年勤めていた会社に居づらくなり退職し、将来が見えないまま実家に帰る。地元で開催された同窓会で、初恋の相手が2年前に亡くなっていたことを知り――。空っぽだった美咲の心が、初恋の思い出で埋め尽くされていく…
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