今夏に行われたワールドカップでのスペイン優勝メンバーが多数在籍するチームは、まさに勢いそのままといった好調ぶりである。
今回の動画では、スペイン代表との比較も交えつつ、爆発的な攻撃力を誇るハンジ・フリック率いるバルセロナの攻撃戦術を中心とした戦い方、そして今後の懸念点を紐解いていく。

バルセロナには、2026W杯スペイン代表に選出された選手が7名。その内、スタメン格が5名も名を連ねている。
今シーズンは、左SBの新星、エスパルトの起用が増えている。カンテラ育ちの若手も多く台頭している中で、夏にはロドリ、アデイェミ、ゴードン、ジェズス、カンセロといった戦力を補強した。
強みとなるのは、何と言っても爆発的な得点力だ。1試合平均4得点を超える火力は、スペイン代表に通ずる攻撃の土台の上で、ヤマルやラフィーニャといった個人能力が最大化されることによって成り立っている。
ブロック守備を構築する機会は少ないが、相手を追い詰め、攻撃に転じるためのプレッシングは鋭さを見せる。
ここまでの戦いにおいては、多くのポジションで積極的なターンオーバーが目立つ。

昨季のCLベスト4のチームを参考にすると、PSGを中心に、厚い選手層やターンオーバーを駆使して勝ち残っている。特にPSGは、総プレー時間の6割以上に出場した選手が4名のみと非常に少ない。詳しくは、PSG戦術分析動画にて。

図は、今季のバルセロナのリーグ戦7試合、CL1試合の計8試合終了時点での、各選手の出場時間だ。
トータルタイムの7割以上に出場している選手は、ヤマル、ラフィーニャ、ジョアン・ガルシア、ペドリ、クバルシの5人。6割だと10名に達する。計17名が、比較的長い出場時間を確保しており、ターンオーバーのメンバーに組み込まれている状況だ。
昨季のPSGには及ばないものの、今後ガビ、ジェズス、バルデ、フレンキーといった実力者達の出場時間が延び、ヤマル、ラフィーニャをはじめとした絶対的な選手を温存することができれば、CL制覇を視野に入れた長い戦いにおいて優位に立つことができるだろう。
フリックが選手のモチベーションを維持し、巧みにマネジメントができるか。手腕が問われる。

バルセロナの攻撃において、根底となる考え方は、スペイン代表と同様だ。
・ボールホルダーが前向きフリーの状態でボールを運ぶ、もしくはパスで敵守備ラインを越える
・味方に動き出しの時間とスペースを与える。
スペインという国に根付いた、文化のようなものである。
攻撃の起点となるCBは、ボールを運び、時には前方に抜けることで相手を動かし、味方にスペースを与える。
そんな彼らが前を向けるように、アンカーのロドリが敵の守備の1stラインに入り、点を打つ。
SBは、コンビを組む強力なWG陣にスペースを与えるようにサポートする。強力な個人能力を持ち、決定機を生み出すことができる前線のプレイヤーに対し、いかに前向きに仕掛けられる状態を提供するかという視点が重要となる。
1stラインを越えると、中盤の数的優位やサイドでのローテーション、そして、WGのカットインを用いて、内と外につながりを持たせて守備ブロックを引き延ばしつつフィニッシュへと向かう。
最終局面においては、ラフィーニャやヤマルの個人能力の最大化が、最も効率よく得点を生み出す手段となっている。
攻撃の土台となるビルドアップ局面では、前向きフリーの選手を作り出し、相手を引き付け、前方にスペースを生み出しつつ1stラインを越えていくことが求められる。

バルセロナではより確実にボールを運ぶために、ショートパスが主体となる。グラフは、欧州5大リーグで1試合平均パス本数が多いチームトップ40における、ロングボールの比率を表したものだ。
チーム名右側の括弧は、 1試合平均パス本数の順位となっている。1試合平均パス本数が3位のバルセロナは、ロングボールの比率が非常に低い。不確定要素を排除して前進していることが読み取れる。ただし、これは良し悪しではなく、特徴を示したものであることを理解する必要がある。現代サッカーにおいて、ロングボールは必須ともいえるものとなっているからだ。
ビルドアップで生み出したスペースを活用し、中盤ラインまで越えていくケースも多い。そのためここでは、ビルドアップと、敵中盤ラインを越える前進の手段をセットで見ていく。
まずは、CBとサイドの選手による前進だ。

CBのクバルシとマルティン、クリステンセンは、フリーであればボールを運んで相手を引き付け、受け手に動き出しの時間を与える。
斜め外側にボールを運ぶことで相手の守備ブロックをサイドに引き付ける。このスライドを引き起こすのもCBの仕事だ。ボールの受け手にとって、敵の矢印の逆を取ることで、マークを外しやすくなる。逆を取らせるために矢印を誘発するのだ。

WGのゴードンが斜めに絞り降りる、もしくはSBのエスパルトが斜めに前進してハイハーフを取るローテーションを行うことで、CBからのボールを引き出し、守備ラインを越えていく。

楔が入らない場合、CBはエスパルトにボールを預けて抜ける動きを頻繁に行う。これも、ここまでのバルセロナの特徴的な動きだ。
彼らの外側への運ぶドリブル、そして抜ける動きは、相手のCFを外側に引き付ける効果を持つ。ボールを受けたエスパルトは前方ではなく内側にボールをコントロールし、味方と繋がり、次に取ることのできる選択肢を増やすようなプレーを優先する。

エスパルトは、左CBのマルティンやクリステンセンがボールを運ぶ前、ボールを受けるタイミングでハイハーフに移動するプレーも見せる。このプレーは敵SHを内側に引き寄せることで、WGのゴードンへのパスコースを空けるという効果を生み出している。
得点機会を生み出す能力が高いWGの選手に対し、いかにスペース豊富で前を向ける形でボールを届けるか、という点が重要である。
ここでのゴードンは、敵中盤ライン上か、越えた位置でボールを受けなければ意味が無い。そのため、必要に応じてマルティンがボールを運び、相手の引き付けを行う。
パスとは、受け手と出し手の合作だ。ボールホルダーであるマルティン自身も、パスコースを作るためにボールを運ぶ必要があるのだ。

当然、エスパルトへのパスコースが空いていれば、楔を打ち込んでいく。エスパルトは正確なボールコントロールを有しており、ライン間で細かなパスワークをこなすこともできる。

ゴードンの良さは、外と内をリンクさせるドリブルだ。ゴードンはサイドでボールを受けた際、無理な仕掛けをすることがほとんどない。勝てる勝負を選び、突破が難しければ相手の囲いを抜けるように内側にボールを運び、味方に預けることができる。
このプレーは、サイドに相手を引き付けつつ押し込み、逆サイドにスペースを生み出すうえで大きな効果が得られるプレーだ。このプレーの先には、逆サイドでの楔等が生まれやすい。
決定機を生み出すというよりも、相手のプレスを回避して攻撃の選択肢を広げるという意味合いが強い。前進途中でのプレーとなるため、ここまでゴールが生まれていない。
しかし、チームが、先の局面を優位に進めるために有効なプレーとなっている。
例えるなら、22-23シーズンで3冠を達成した、マンチェスター・シティにおけるグリーリッシュのような役割だ。彼も、この記録的なシーズンにおいてリーグ戦で5得点のみに留まっているが、大きな役割を果たし、チームは3冠を達成している。WGと言っても、ゴール数だけが全てではないのだ。
ゴードンのパス成功率は、ヤマルやアデイェミの81%に対して、89%と非常に高い。これは、欧州5大リーグで4試合以上に出場するウイングの選手の中で4位に位置する。

ボールの受け方も多彩だ。対峙する敵SBが低い位置で構える場合は、絞り降りることで余裕をもってエスパルトからボールを受けることができる。

右SBを務めるクンデやエリック・ガルシアは、ハーフスペースに絞った位置でビルドアップに関与するケースが多い。ここにSHを食いつかせることで、ヤマルにボールを届けるための余白を残す。ヤマルにとっては、真後ろからのパスでなく、角度がつくため、敵SBや前方の状況を伺いながらボールを受けることができる。また、ヤマルにボールが入った時に、敵のサポートが届きにくくなる。カットインからの展開が得意なヤマルにとって、能力を最大限に発揮できる環境が整うのだ。
こうして、前線にスペースを提供するようにビルドアップを推し進めるDF陣と、深く関わりを持ってプレーするのが、アンカーのロドリだ。

例えば先に挙げた、CBが前方に抜ける動きによって敵CFの空けたスペースに入りこむのが、ロドリだ。
ロドリは、敵味方の動きやパスの流れを確認し、敵の守備の1stラインにポジションを取るのが抜群に上手い。
ロドリがこの位置でボールを受けると、前向きフリーの状態となる。1stライン上で前向きフリーとなると、1stラインの選手がスライドして対応するか、中盤ラインの選手が前進して対応に出てくる。1stラインの選手がスライドすれば、別のCB陣がフリーとなり、中盤ラインが前進すれば、前線の選手が利用するスペースが生まれる。いずれの場合も、逆CBのクバルシを経由して空いたスペースを利用する。
この、ロドリによる1stライン上で点を打つ位置取り、および中盤での数的優位を活用した攻撃は、スペイン代表でも頻繁に見られたプレーだ。
スペース、敵守備陣形の1stライン上に入りこむことでボールを受け、さらにスペースを生み出す。そして、味方を経由してそのスペースにボールを送り込む。味方を経由して、である。つまり、スペースを連鎖させ、味方同士を繋ぐ。ゆえにロドリは攻撃の中心となるのだ。まさにバロンドーラーにふさわしい、圧倒的な頭脳派プレイヤーである。
既に30歳とベテランの域に差し掛かっている彼のプレーは、今のうちに眼に焼き付けておく必要がある。


CLフェイエノールト戦の2得点目は、こうしたビルドアップの特徴がよく表れているシーンだ。敵の1stライン上で前向きにボールを保持するロドリがアデイェミに当てることで敵SHをアデイェミに引き付ける。アデイェミはクリステンセンへレイオフで預ける。クリステンセンはカンセロに預けて、前方に抜ける動きを見せる。この動きに敵CBが対応し、アデイェミがフリーとなった。
この時、IHのペドリは内側に移動し、敵の前線メンバーは後方のロドリを警戒したため、スペースが生まれた。アデイェミは前向きフリーの状態で、カットインから見事なコントロールシュートを沈めた。
敵SHはロドリを警戒したため平行を切ることができず、クリステンセンはロドリの存在により後方枚数が担保されるため、前進しやすい。
最終的にはアデイェミの素晴らしいコントロールシュートによるゴールとなったが、そこに至るまでの過程は、ここまでのバルセロナを象徴するかのようであった。

ロドリ不在であったラージョ戦は、相手のプレスに苦しむ時間帯も多かった。この試合のラージョは、2トップの一角がクリステンセンへのパスコースを遮断するような位置を取り、もう一方がアンカーのベルナルを切りながらクバルシに寄せていく。
そして、SBのクンデに出たところでSHが寄せに出て奪取を図るという仕組みであった。早々にサイドを限定することで、ボールサイドに圧縮し、中盤での数的不利を生じさせないラージョの狙いは素晴らしかった。
こうした時に、アンカーのベルナルは敵の1stDFの判断を狂わせるように、敵守備陣形の1stラインに働きかける動きは少なかった。基本的に、敵のFWと中盤のライン間の位置取りを維持する形を取った。

ただし、前方に抜ける動きで前進を助ける動きは見せた。絞ったクンデからヤマルにボールが入ると、前方に抜けることでヤマルのカットインルートを生み出す。

また、クバルシからのボールをレイオフでペドリに落とし、中央へと抜けることで、ペドリのドリブルによる前進ルートを生み出すといった形だ。

その他、前進したベルナルに敵CHがつくことで、オルモへのアプローチがかかりにくくなる。彼がヤマルの手前のスペースに流れることで、フリーの状態が生み出される。その先では、中盤に降りて顔を出し、CBを釣り出したラフィーニャが背後に抜け出す連携が図られた。
ただし、こうしたベルナルの動きは、1stDFの判断自体は乱せていない。つまり、DF陣は前向きフリーを享受できているわけではない。そのため、ロドリのように安定して前向きフリーの選手を生み出すようなケースは少なかった。

ロドリであれば、クンデに対して平行かそれより少し後方まで下がった低い位置でサポートを入れるだろう。敵CFに、クバルシとロドリのどちらを見るかという判断を迫り、空いた方を活用してボールを逃がす。ロドリの代わりにアンカー位置に降りるペドリも同様に、クリステンセンとの2択を突き付け、逆サイドに逃がす。
この試合ではベルナル以上に、ペドリによる1stDFの判断を乱すプレーが見られた。そして、彼にはドリブルという武器がある。ドリブルで1stラインを突破し、味方に預けるという技術力の高さを活かしたプレーは、チームにオプションをもたらしている。
前方で囮となるか、後方で味方を活かすか。ベルナルとロドリでは、サポートの高さが異なる。それぞれの特色とそれに伴う機能性の違いが表れていた。
バルセロナの前線には、得点を奪う能力に秀でたラフィーニャとヤマルが起用される。バルセロナにとって、彼らの能力を最大化することは、得点力の増加につながる。
リーガ7節終了時点で、ラフィーニャは12得点3アシスト。昨季のCFレヴァンドフスキの14ゴールを早くも抜きそうなハイペースだ。
彼は、スピードを活かした背後への抜け出しと、切れ味抜群のシュートフェイクによって数多くのゴールを生み出している。
ラフィーニャは得点だけでなく、敵CH周辺に降りてパス交換にも参加する。彼の動きに対して敵CHがスライドして対応すれば、空いたハーフスペースで味方がボールを受けることができる。

ラージョ戦では、こういったライン間での連携によって得点が生まれている。クリステンセンが運んで相手を引きつけ、脇のペドリから楔を打ち込ませる。ハイハーフに移動していたエスパルトがCBを引き付けつつワンタッチでラフィーニャに送り込むと、前向きでCBと1vs1の状態ができあがる。得意のシュートフェイクで抜き去り、ゴールネットに突き刺した。
敵CH周りに選手を配置することで、CHの担当エリアが広くなる。すると、チャンネルへのランニング等に対して、CBが対応に出ざるを得ない。すると、ゴール前でCBが1枚の状況が生まれる。ラフィーニャが仕掛けるためのスペースの完成である。

敵CBが前進して対応すれば、その脇のSBはカバーポジションを取るために立ち位置を内側に調整する。すると、サイドのヤマルやゴードンといったWGは、より広いスペースを確保することができる。
敵SBの絞りが甘ければ、ヤマルやフェルミン、もしくはスピードあるラフィーニャ自身がCB裏を取る動きを見せる。

ヤマルがワイドで受ける場合、クンデは相手のサポート選手の背後を抜けるようにインナーラップでサポートを行い、攻撃に幅を持たせる。相手がクンデに釣られると、カットインからゴールを脅かす。
ヤマルもここまで7得点4アシストの活躍で、リーグ戦の得点の6割が、ヤマルとラフィーニャの2人から生まれている。
ヤマルに限らず、ハーフスペースからのクロスは攻撃の選択肢の一つとなる。この攻撃は、大柄なCFを必要とせず、後述する安定したネガティブ・トランジションを迎えることのできるものとなっているが、頻度自体はそう多くない。
ここまでのバルセロナは、どの試合も圧倒的なポゼッション率で試合を進めている。そのため、守備ブロックを敷くような展開はここまでほとんど見られない。攻撃局面とトランジションで完結し、守備局面は省略されている状況だ。
ただし、プレッシングの機会はしばしば見られる。

プレッシングは、相手の選択肢を制限することで、奪いどころを定める。
プレッシングのトリガーのひとつはサイドでのバックパスだ。相手がバックステップで広がってサポートポジションを取るよりも早く、前向きにプレスをかける。
まずは、縦を切ることで、相手にバックパスを強いる。バックパスに合わせてボールサイドのWGやラフィーニャがプレスをかける。

CBからGKへのパスに対しては基本的にラフィーニャがワンサイドカットで制限し、逆サイドのWGはCBとSBの間を切ることができる位置を取る。中盤はマンマーク対応だ。前を向かせないことが重要で、バックパスを強いれば、先ほどプレスをかけた前線の選手が再度プレス、もしくは制限をかけることができる。サイドに出てくる場合、SBが敵SBの位置までプレスをかけ、CBがサイド裏のケアを行う。
また、ゴールキックの時も必ずプレスをかける。大まかな役割は同様だ。
こうしてロングボールを蹴らせての奪還、もしくは中盤ラインでの奪取と速攻を狙っていく。

こういったバルセロナのプレスに対して、フェイエノールトは、ボールコントロールに秀でたIHのヴァレンテがWGの手前に流れることでマークを外す巧みな回避の意図を見せた。マークの受け渡しが発生する中で、アンカーに寄せるペドリは、逆への展開を抑えるようなコース取りで攻撃を封じるプレーをこなした。この試合以外にもそういったプレーが散見される。
こうしたプレッシングにおいて特に重要となっているのが、CFのラフィーニャだ。スピードあるラフィーニャは、横切りプレスの質も非常に高い。守備への貢献が高い中で、攻撃時に見せるシュートフェイントの切れ味は鈍らず、鋭さを保っている。攻守においてキーマンとなっている。
バルセロナのネガティブ・トランジションは、一定の機能性を見せている。しかし、スペイン代表のサッカーと比較した時に最も大きな違いを見せるのがこの部分であり、懸念が残る。
サッカーという競技は、攻撃の回数に比例して、ネガティブ・トランジション局面の発生数が増加する。ボールを保持するチームにとってこの局面の強化は必要不可欠となっている。スペイン代表の強さの秘訣もこの部分であった。

これは、以前の記事で紹介した、スペイン代表の局面遷移の設計図だ。黄色い枠で示した箇所が、ネガティブ・トランジションに関わる部分だ。
この中で、バルセロナにとって大きな問題となっているのが、色付きで示した2点である。

まずはボールの失い方だ。これはカウンター対応を迎える前段階の話、攻撃手法の部分となる。例えば、シュートがゴールから逸れ、ゴールキックとなれば、プレーが中断されるためカウンターを食らうことはない。
バルセロナは、細かなパスワークを得意とする選手が多いがゆえに、狭いスペースで難しいパスをひっかけてカウンターを浴びるケースが多い。特にフェルミン、ペドリ、ヤマルはそういった傾向が強い。
美しい連携で崩しかけても、最後に1つミスを犯すだけで、大きな失点リスクが降りかかってくる。

スペイン代表は、フリーのボールホルダーから、背後に抜けるWGへのシンプルなロブパス攻撃を駆使していた。しかし、バルセロナはそういった攻撃がスペインと比べて少ない。攻撃手法の段階から差異が生まれているのだ。
そして、次は構造的な問題。後方に残るメンバーが2CBとアンカーのみというシーンが頻発している。SBが攻撃参加を行う中で、アタッカーを抑えられる選手を配置できなくなってしまっている。例えばエスパルトは、ボールロスト後に素早く切り替えてアタッカーの対応に戻ることができることが、魅力の一つとなっている。しかし、予防的配置を取っていないため、スピードあるアタッカーに対しては追い付くことは難しくなる。奪って二次攻撃に繋げるというよりも、どうにかカウンターを阻止するという意味合いでの対応である。
そのため、後方に2CBのみとなり、CBの脇を突かれるというシーンは決して少なくない。

また、カウンターを仕掛けあうオープンな展開となると、中盤に広大なスペースが生まれる。相手が前向きフリーであるにも関わらず、ハイラインという状態だ。こうなると、相手が助走をつけて背後に抜け、DFラインの突破を行うことが容易くなる。
DFラインが全力で戻ったとしても、中盤がついてこれなければ、マイナスクロスに対応できない。

ハイラインの背後に送り込まれるボールの処理というのは、対応が難しく、ミスが起きやすい。バウンドするボール等、球質によってはなおさらだ。ここまでの試合でもマルティンやクリステンセンにミスが見られている。
当然だが、ミスは少ないにこしたことはない。ミスが生まれにくい環境づくりも重要だ。この構造的な歪を背景として生まれるミスを、個人の責任とするか、組織的な課題として捉えるかといった点も、バルセロナの今後を左右するだろう。
ここまでのバルセロナの戦いにおいて、いくつかの懸念点が見られる。

まずは、先ほど取り上げたネガティブ・トランジションだ。強固な守備組織を誇り、スピードあるアタッカーを擁するチームに対し、現在の攻撃手法と予防的配置で、敵のカウンターを抑えられるのか、という点は最大の懸念点だ。
次に、ここまでいわゆる強豪と呼ばれるチームとの対戦が無いことから、様々な面で未知数であるという点だ。ネガティブ・トランジションの他、ハイプレスを仕掛けてくるチームにいかに対応するか、ボールを保持して試合を進められるか、ブロック守備は機能するか、等だ。
ロングボールに関してもここまでは機会が少ないが、相手のプレスを回避するような仕組みはまだ見られていない。プレッシングへと局面転換を図ることができるという機能性のみだ。
そして最後に選手層の問題。特に、出場時間の多いラフィーニャとヤマルで、チーム総得点の6割を稼いでいるという依存度だ。ラフィーニャに関してはプレッシングにおいてもキーマンとなっている。チームの高い目標を達成するためには、彼らの温存は不可欠だ。彼らをいかに温存しつつ、長いシーズンを過ごしていくかという、マネジメントは非常に重要となる。

バルセロナのような爆発的な攻撃力を誇るチームの戦い方、そして今後の活躍が期待される新進気鋭の若手指揮官達の戦術について、概要欄のリンクに記載された書籍でも数多く取り上げています。
アルテタに加えてアロンソ、イラオラ、マレスカ。
26-27シーズンでは、取り上げた監督の多くが新たにプレミア強豪チームに集結しており、新時代の到来を予感させます。
28人もの若手指揮官の戦術と、サッカーの原理・原則を学ぶことのできる一冊となっています。ぜひお手に取ってみてください。
ご視聴ありがとうございました。
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以前紹介した、連携を駆使して効率よく守るグラスナー率いるクリスタルパレスのようなチーム。
鋭いカウンターを繰り出す、セスク率いるコモのようなチーム。
そして、ゴール前にDFを集結させ、水際で強固な壁を作って粘り強く守るチーム。
様々なチームが採用し、様々な機能性を見せる5-4-1は、今や守備の新スタンダードと言えるまでに普及した。しかし、その攻略法はさほど浸透していない。
ここからは5-4-1守備ブロックに対する攻略方法、つまり十分なスペースと選択肢を保った状態で前進し、ゴールに迫っていく方法について論じていく。

5-4-1守備システムは、DFラインに5枚の選手を配置することで、ピッチの横幅68mを、数的不利に陥るリスクを低減しながら守ることが可能となる。
DFラインに生まれるギャップが小さくなり、最終的にはゴール前に人数をかけて守ることも可能だ。
ただし、5-4-1守備システムが採用される背景には、こうしたシステム的な特徴の他に、現代の戦術的潮流が影響している。
まずは攻撃時のシステムに目を向ける。現在、5レーンを活用し、配置的な優位性を持って攻撃するのに、最もバランスをとりやすいといえるシステムが「3-2-5」だ。
このシステムで攻撃を行うチームがそのまま守備に移行すれば、両翼を下げた5-4-1、もしくは5-2-3となる。
つまり、3-2-5攻撃システムの普及に伴い5-4-1、5-2-3で守備を行うチームも増えているということだ。
配置的な優位を活用しやすい3-2-5に対して守備を行う際、効果的な打ち手となるのが、ミラーゲーム化だ。
配置がガッチリと噛み合って配置的優位性の作りにくい状態だと、攻撃側としては前進が難しくなる。逆に守備側としては、配置的な優位を与えず、1stDFの判断遅れやミスが起きにくくなる。つまり、マークがはっきりして、ギャップが生まれにくいため、守りやすい。
そのため、3-2-5に対して、ミラーゲームを仕掛けるように5-4-1守備システムが採用されるのだ。
3-2-5という同一システムが増えたこと、そして3-2-5対策としてミラーゲームを仕掛けること。これらが戦術的潮流から見た、5-4-1増加の要因だ。
5-4-1はまさに守備システムにおける「新スタンダード」になりつつあると言える。
では、そんな新スタンダートとなりつつある5-4-1は、どのように崩すのが効果的か。

守備陣形を崩すうえで重要となるのは、ボールホルダーにプレスをかけにくいエリアを考慮し、誰がプレスに行くべきなのかという迷いを生み出すことだ。
それを踏まえて、5-4-1に対して狙うべきエリア・ポイントは図の通りだ。
①1トップ脇

1トップに対して2CBで優位性を作ることで、ボール保持を安定させ、前方にスペースを生み出すはじめの一歩となる。敵の中盤が前進して対応すれば、その背後にギャップが生まれる。
②アンカー位置

アンカーに対して、敵CHのうちどちらが前進して対応するかという迷いが生まれる。そして、前進したCHの背後にスペースができる。敵シャドーが絞ってアンカーへのパスコースを切れば、サイドが空く。
③大外レーン

大外レーンを守るWBに対し、2枚で数的優位とフリーを生み出す。脇のCBが出ると、DFラインにスペースが生まれ、SHが外に出ると中央にスペースが生まれる。
④HVの手前と背後

前進してCHの脇をケアするか、自身の背後をケアするかという、「一方しか塞げない二択」を迫っていく。1人でも可能だが、2選手で裏と手前を狙うと効率が良い。5枚が幅を守る(=薄く広がった)守備に対して、厚みで攻める。WBが絞って対応すれば幅を守れなくなるため、外が開きやすくなる。
前提として、狙うエリアと配置だけでは攻撃にならない。配置以上に重要となるのが、敵・味方の状況を材料として、どこにパスを出すのかというパス先の判断、パスの回し方だ。
配置を整えても、配球先を的確に判断できないと無意味となるため、配置で崩すための前提条件となる。
判断材料、パス回しの考え方、身体の向き等については書籍、もしくは今後の動画にて。
5-2-3攻略において有効なのが、4-2-4によるアプローチだ。

一言で表すと、レーンの共有だ。サイドレーンで2枚、中央3レーンを前線4枚で共有し、優位性を生み出す形となる。
まずはCFに対して2CBで優位を築き、ボール保持を安定させつつ、前方に運んでいく。
そこから先では、レーンを共有して配置的優位を生み出し、前進を図る。
サイド高い位置で、SHが敵WBを釘付けにする。そうすることで、敵WBが前進できない状態を作り出し、SBをフリーにする。SBが持ち運ぶ、もしくはWGにパスを出して中盤ラインを突破していく。
SBはタッチラインに張り付かずに数メートル絞った位置を取る。
そうすることで、SHが前を向いてボールを受けられる角度ができる。
守備側としては、ボールホルダーとマークを同一視野に入れておきたい。
SBもSHも張っているのであれば、WBは労せずに2人を同一視野に捉えられる。

しかし、SBがやや内側に位置をとることで、敵WBは、2人を同一視野に捉えるために絞る必要がある。
すると、SHとの距離が開くため、SHの足元にパスが入りやすい。

敵WBがSHとの距離を詰め、ラインを高く維持する場合、死角を突き、フリーのボールホルダーから裏を突いていく。

敵WBがラインを下げて、SBとSHを同一視野に捉える場合、手前のスペースにSHが絞り降りることで、ライン間で前向きフリーとなる。

SBがフリーとなるのを嫌って、敵SHがサイドに出てくると、ハーフスペースが空く形となる。
CFがHVを釘付けにすることで、SHがその手前のハーフスペースに絞っていく。CFの釘付けによりHVが前進できないため、SHはCH脇でフリーになることができる。レーンをまたぐ斜めの動きを入れるとより効果的だ。
CHは、楔のパスラインを遮断してしまわないよう、中央に寄ってパスコースを作る。
SBは、相手のSHを外に引き付けるよう、開いた位置にポジションを取る。

敵WBが絞ってSHに対応する場合、SBがオーバーラップして幅を使う。

敵WBが前から潰しに前進してくる場合は、脇のCBがカバーしなければならないエリアがより広くなる。

SBまでボールが渡った場合でも、CFとSHがレーンを共有し、SHが斜め後方に降りることでスペースを得ることができる。
配球役となるCBがボールを運び、前線の味方が動き出す時間を作ることができなければ、こうした攻撃は実現できない。冒頭でも述べた通り、そういったパス回しにおける原則は確実にこなせている前提での配置論となる。
次に3-2-5による攻略方法だ。そのままだとミラーゲームで噛み合ってしまうため、ポジションに変化をつける。特に有効となるのが、22-23シーズンのペップ・グアルディオラ率いるマンチェスター・シティが得意とした、変則型3バック、3.5バックである。

まずはCHが降りることで、敵CFに対して2vs1の優位を作る。この時のCHは、DFラインに降りるというよりも、相手のCFのライン、もしくはCFとシャドーの間に降りる形となる。自分たちベースではなく、相手ベース。すると相手は、CHが前進するかSHが絞るかでしか対応できない。両脇のCBはサイド方向に広がり、パスコースを作る。

CH2枚をケアするために敵CHが前進すると、その背後にスペースが生まれる。

スペースに降りて受けるシャドーは、一度サイドに膨らんで受けることで、敵DFのマークを外しやすくなり、かつ、中央の味方の方向を向いてプレーできる。

逆に、CFの方向に膨らむ場合も、敵CBはCFのマークで前進できないため、マークを外しやすい。

逆サイドのシャドーがレーンをまたぐように斜めに寄ることで、マークを外す。CFは、楔を受けるシャドーに食いついて空いたスペースに流れつつ背後を取る。

こうして、敵の守備の1stラインに降りるCHの動きから始まる、スペースの連鎖を発生させることが可能となる。
各選手が斜めの立ち位置をとることによって、ボールがピッチの中央をジグザグに進んでいるのが分かるだろう。

最初に戻って、仮にCHに対してSHが寄せに出た場合を考える。この場合、脇のCBが空いたスペースで前進していく。この時の脇CBには、運ぶ、抜ける等、積極的な攻撃への関与が求められ、ファイナルサードに顔を出すことも許容されるべきだ。

シャドーがサイドに流れることでフリーを得るのも有効な手段となる。大外の選手が敵WBを釘付けにすることで、その手前に流れ降り、攻撃を組み立てていく。内側に持ち出すことで、相手の身体の向きが入れ替わり、死角に入ったWGが裏に抜け出しやすくなる。
そのまま中に移動することで、マークを外してフリーでゴール前に侵入していくことも可能だ。
シャドーとWGが横ワンツーからレーンチェンジを行い、WGが中央の空いたスペースに侵入するのも、似た機能性のプレーとなる。
次に3-3-4だ。

3バックvs3トップで噛み合う形とはなるが、アンカーを加えたうえで3バックが深さをとること、WBがサイドでパスコースを作ることでプレスにはまらないようにサポートする。特にCBとアンカーによる敵CFに対する数的優位の確立は重要だ。CBが深さをとらなければアンカーとの距離が近づき、位置的優位性が消えてしまう。
そして、強みとなるのが中盤での数的優位だ。IHが敵CHの脇にポジションをとることでフリーとなり、パスコースを生み出していく。IHがそのままサイドに寄ることで、大外レーンで優位性を生み出すことが可能だ。
CH間が空けば、2トップの一角が顔を出す。この時、2トップでレーンを共有することで、敵CBは前進してケアすることが難しくなる。

脇のCBが相手のSHを釣り出し、WBとの距離を広げることで、カットインで内側に展開しやすい状況ができあがり、攻撃の幅が広がっていく。

これを嫌い、敵SHが寄せに出るのを躊躇するようであれば、DFライン背後へのロブパスを狙う。WGが敵WBの眼前を横切るように背後に抜け、IHや残りの前線のメンバーでセカンド回収を狙う。DFとしては、ボールホルダーにプレッシャーのかからない状態で背後を狙われ、下がりながらの難しい対応を強いられることとなる。

IHがサイドに寄ることで優位性を得られるのは先述の通り。WGの手前ではなく、敵WBの背後に抜ける動きを見せることで、相手に別のリアクションを起こさせることができる。
敵の中盤がついてくれば、CFへのパスコースが生まれ、中央への展開が可能となり、レーンチェンジを交えた流動的な攻撃が生まれる。
これまで見てきた5-4-1崩しは、ビルドアップの段階からファイナルサードに差し掛かるまでの形であった。
では、5-4-1で自陣深くに構える守備や、フィニッシュ局面に関しては、いかに攻略、アプローチを図るか?

まずは、オーバーラップとカットインの組み合わせでの攻撃だ。インナーラップの場合、敵SHや脇のCBによって対応されやすい。しかし、オーバーラップを行う場合、敵WBに対して数的優位を生み出しやすい。WBの挙動に合わせて、オーバーラップしてきた選手を使うか、カットインで中央への侵入を図るかを判断してゴールに迫る。

カットインに伴い、横ワンツーで中央へと侵入するパターンも効果的だ。日本代表のWB堂安律は、こういった楔を得意としており、横ワンツーに関しては、バイエルン・ミュンヘンがよく見せる連携だ。

また、WGにボールが入った際の、敵SHのサポートポジションを利用する攻め方も効果的である。SHがサポートポジションに入ると、ハーフスペース低い位置へのアプローチに時間がかかることとなる。
サイドからのバックパスで、敵DFがラインアップに動く瞬間に背後へクロスを上げる攻撃が定石だ。DFラインはボールとマーカーを同一視野に入れることが難しく、かつ下がりながらのクリアを強いられる。

このGKとDFの間に送り込むクロスは、高さ以上にタイミングやスピードの勝負となることが多い。また、ゴール前で前後の構造づくりを行うことで、前の選手が敵DFを釘付けにし、後ろの選手にフリーを提供することも可能だ。2026FIFAワールドカップ準決勝、アルゼンチンvsイングランドにおいて、屈強なイングランドのDFラインに対し、長身の選手の居ないアルゼンチンがクロスボールから多くのチャンスを生み出したのは、こういった要因によるものである。
後ろ向きでの守備対応となるDF側としては、クリアに力が入りにくい難しい体勢での対応を強いられる。そのため逆サイドでセカンドボール回収、および被カウンター対応要因を配置することで、守備陣形が乱れたところで二次攻撃をスタートする。もしくは攻撃に転じさせずに攻撃機会を増加させることが可能となる。
これらが、ファイナルサード攻略の有効な手段となる。
堅い5-4-1守備システムを構築するチームに対し、いかに戦うか。戦いの目標はあくまでも勝つこと。つまり、崩さなくても点が取れて、勝つことができればいいのだ。

そういった観点から捉えると、守備組織を構築する前や、乱れを突くのが重要となる。例えば、先述のセカンドボール回収からの速攻等だ。
・クリアの難しいシチュエーションや、押し込んだ状態を強いることで、守備を再構築する前の乱れを突いていく。
・攻守問わずにセットプレー時、守備を構築する前のインプレーへの切り替えを狙う。
こういった構築前の局面での勝負に持ち込む他、ロングボールやプレッシングを用いてオープンな展開に持ち込み、守備陣形を構築する前に攻守が完結するトランジション勝負に持ち込む等、相手を土俵から引きずり下ろすようなアプローチも、攻守がシームレスに繋がる現代サッカーにおいては必要な考え方である。
どの守備システムにおいても、1stDFの判断の難しい、苦手とする攻撃手法やシステムが存在する。3-2-5という攻撃システムは、オーソドックスな守備システムともいえる4-4-2に対して効果的な側面がある。

オーソドックスな4-4-2を崩すための3-2-5が主流となれば、冒頭に紹介した要因で5-4-1守備が増加する。5-4-1守備が増えれば、その攻略策が発明、普及されるのがフットボール史の流れとして自然だ。
当然、同じシステムと言えどプレス開始位置や奪いどころの設定に応じて得手不得手は変わってくるため、一概に言うことはできない。
現在では4-4-2守備のSHが脇のCBに対して外切りのプレスをかけることで、3-2-5に対するマイナス面を払拭するケースも見られている。
近年多くのチームが採用している5-4-1システムによる守備。これに対する有効な攻略方法についてみてきた。4-2-4、3-3-4に加え、3-2-5のミラーとなった際の打開策は、どれも実例を元にしたものである。
「5バックを崩せない」というチームは多い。5トップに対して敵5バックが噛み合うからだ。そんな時にいかに状況を打開するのか?手段は1vs1で上回るだけではない。配置の工夫で状況を変化させることも可能なのである。

5バックの崩し方、その他システムの崩し方、その他流行や普遍的な戦術の原理等については、概要欄のリンクに記載された書籍にて。
アルテタに加えてアロンソ、イラオラ、マレスカ。
26-27シーズンでは、取り上げた監督の多くが新たにプレミア上位チームに集結しており、新時代の到来を予感させます。
28人もの若手指揮官の戦術と、サッカーの原理・原則を学ぶことのできる一冊となっています。ぜひお手に取ってみてください。
]]>彼らの強さの秘訣については、前回の記事で取り上げた。
https://birdseyefc.com/tactics/tacticsanalyze/2026worldcup_spain/

サッカーという競技性に従い、先の局面を優位な状態で迎えられるプレーを繰り返し継続することで、目の前の局面も含めて常に優位な状態に立ち続けている。
そんなスペイン代表が最も長い時間を過ごしているのが、ボールを保持して攻撃を行う局面だ。ボールを保持する時間は長いが、決して停滞感は無い。奇抜なことはしていない。基本戦術を忠実に遂行し、確実にスペースを生み出して前進を果たし、得点に結びつけている。
では、攻撃における基本戦術とはどのようなものなのか?
今回は、世界王者・スペイン代表の攻撃局面における戦術を詳細に紐解いていく。

2026ワールドカップ覇者、スペイン。彼らの強さは、局面遷移の設計図にあることは以前の動画で取り上げた通りだ。

攻守に明確な区切りの無い、サッカーというスポーツの特徴。その競技性に従い、先の局面を常に優位な状態で迎えられるように戦う。スペインはそのサイクルが出来上がっており、局面間の相互作用が強く、常に助走をつけた状態でスタートを切っている。
そんな中で、ここからは攻撃の局面をより深堀していく。
攻撃は、奇抜なことは行わない。基本的な志向や所作を、全員が忠実に行っている。この基本的な志向・所作こそ、我々が学ぶべき点である。
まずは攻撃局面の設計だ。

局面を常に優位な状態で進める。攻撃においては、複数の守備列を越えることが想定されたものでなければならない。1列目をどうにか越えたとしても、2列目を越える余裕がない。そんな攻撃ルートや選択肢を選択してはならない。
「1列目を越えること」だけではなく、「1列目を越えた後も前進できる状態を作ること」 が重要である。

そこで土台となるのが、
・ボールホルダーが前向きフリーの状態で、ボールを運ぶもしくはパスで敵守備ラインを越える
・味方に動き出しの時間とスペースを与える
という点だ。
攻撃の起点となるビルドアップでは、特にこれらが求められる。起点の時点で先細っては、その先のライン通過が難しくなる。
これらを満たすため、ロドリやルイスといった中盤の選手が低い位置でビルドアップの補佐に入る。
第2フェーズとなる敵中盤ラインを破る前進局面においても、求められるものは同様だ。
スペースを作り出し、中盤ラインを越える手段は大きく2つ。
1つはビルドアップで生み出したスペースを、中盤での数的優位で活用する方法だ。空けたスペースに入り込む役を確保、利用する。
2つめは、CBの持ち出しをトリガーに行われるサイドでのローテーションである。
こうした手段で中盤ラインを越えると、最後はフィニッシュの局面となる。
フィニッシュでは、0トップが空けたスペースの活用、マイナスクロス、そしてWGによる抜け出しがメインの手段となる。
では、これらの手段がどのように用いられているのかを見ていく。
スペインは、安定したボール保持局面をベースとしてゲームをコントロールする。
土台となるビルドアップで特に求められるのは先述の通り、
・ボールホルダーが前向きフリーの状態でボールを運ぶ、もしくはパスで敵守備陣の1stラインを越える
・味方に動き出しの時間とスペースを与える
という2点だ。そして、この2点を満たし、チームに安定した保持と前進をもたらしているポイントは大きく3つだ。
・相手を引き付けるために運び、引き付けたら放す、球離れのタイミング
・相手のスライドの矢印の逆を突くパス回し
・ロドリとルイスによるサポート

例えば、左SBのククレジャが低い位置でボールを持つ際、プレスの流れに身を任せてパスを回すと詰まりやすい。ここで、ロドリがプレスの流れとは逆行する位置で受けられるようなサポートポジションを取り、ククレジャがそこにパスをつける。これだけで相手のプレスは矢印の逆を取られて乱れるため、回避しやすくなる。


この時、ロドリにマークがつくようであれば、CFのオヤルサバルへのパスコースが空きやすくなる。仮にこのスペースもケアされる場合、ロドリが前方に抜ける動きで相手を引き付け、空いたスペースにルイスが入って配球役となる。彼ら2人の関係性もまた抜群であった。

似たケースで、敵CFがロドリへのパスコースを切りながらCBへプレスをかけてくる。これに対してスペインは、ククレジャを介した回避を試みる。プレスの流れのままWGにパスを出すのはリスクとなるため、ベクトルの逆を突くロドリを活用する。では、ロドリは、ライン間の5つのエリアの内、どこに位置を取るか。

ロドリは、プレスマンであるCFの背中に付けるようにポジションを取る。CFは、前向きのプレスの矢印が伸びているため、ロドリに対してプレスバックをかけるには、急激なターンと時間、距離を要し、来た道を戻るという心理的な抵抗も発生する。さらに、この位置であれば、敵中盤との距離も確保できるため、前向きにボールを受けることができる。
前向きに受けることで、敵中盤が出てこなければ運び、出てくればその背後のスペースを活用しやすくなる。

これとは別に、ロドリやルイスがDFライン近くで起点を作り、CBやSBを押し上げる形で起点の変更を行うことで、相手の1stDFの届かない配置を作る動きも頻繁に見られた。
この動きは、相手の前線の枚数が2枚だから、3枚だから、という数合わせからくるものではない。チームの誰かが前向きフリーの状態で1stラインを越えるためには?という目標の観点から実行される。
そのため、再現性の高い動きはあっても、決まった動きは無い。
時にCB間に降りることで、CBを開かせて脇から前進させる。

時に中盤に留まって相手を引きつけ、前進させる。

時に後方に降りて自らがフリーとなる。

中盤だけでなく、GKのシモンを加えることで、SBのククレジャを浮かせる動きは、オーストリア戦等でよく見られたプレーである。
スペインに対して、プレッシングでボールを奪取しようという試みを見せたチームは少なかった。猛暑の中での大会であったことも影響したのだろう。
プレスを受けた際のスペインが、それを回避するための策は大きく4つだ。
一つは先述の通り、CHやGKを用いて、敵の1stライン手前に選手を配置することで1stプレスを乱し、機能不全に陥れる方法だ。

2つ目は右サイドのポロとヤマルによる連携だ。ポロはクバルシからボールを受ける際、タッチラインから2mほど離れて位置を取る。クバルシに余裕があれば、敵中盤ラインを越えられる高さに立つが、プレスを受けてパスコースの確保が困難な場合は、敵中盤ラインの手前となる。
自身が2m内側に立つことで、相手の立ち位置も2m内側で止まるため、外側にボールを置いて縦にパスを出す余白ができる。ここで受けるのがヤマルだ。ヤマルは、ドリブルだけでなく柔らかいタッチでのレイオフを出すことができる。彼のレイオフを、オルモもしくはワンツーでポロが受けることで、相手のプレスの矢印の逆を突くことができる。

ポロがボールを受ける際、このヤマルへのパスを餌にすることで相手のプレスの勢いを加速させ、逆を突くように内側へとボールを運んで回避することも可能だ。これが3つめだ。
後述するが、この回避から生まれたのが、自身がゴールを決めたフランス戦での2点目であった。

そして4つめがロングボールだ。4バックと2CHが低い位置まで降り、前線3枚は前方に張る。オルモはサイド寄りで、ヤマルの手前近辺に位置を取る。相手の最終ラインが3枚になる場合、敵SBはスペースを埋めるために絞る。するとワイドにスペースが空くため、ヤマルや裏抜けの得意なバエナへと送り込まれる。仮に通らなくとも、広いスペースであるため、DFは落下地点に追い付かずにバウンドしたボールを後ろ向きに処理する形となる。つまり、大きく弾き返すこと、処理することが難しい。スペインは素早く切り替え、セカンドボールの回収に向かっていく。そうして、プレスを回避して前進した状態から攻撃をスタートすることが可能となる。
前後が分断された形となるため、ライン間に落とすようなボールがシモンから送り込まれ、オヤルサバルが瞬間的に降りて捌くケースも多い。
こういった手段が用意されていたものの、先述の通り、積極的にプレッシングを仕掛けてくるチームが少なかった。そのため、確実に前向きフリーのボールホルダーを使って前進することが容易であった。当然、安全性の高いショートパス主体の攻撃が優先して展開されていった。
ビルドアップにてフリーのボールホルダーを生み出し、前進を図る。この出し手側の準備と並行して、受け手が利用するためのスペースを前方に生み出す必要がある。これはビルドアップを担う後方の選手だけでなく、ボールを受ける前方の選手を交えた、チーム全体で行われる。

特徴的であるのは、中盤での数的優位である。中盤にはロドリとルイスに加え、ダニ・オルモとオヤルサバルが降りることで数的優位を生み出す。
彼らがただ降りて人数を増やすだけでは意味がない。数的優位は、相手の守備組織を広げた構造的優位や、相手に2択を突きつけるような位置的優位の上ではじめて成り立つ。
チームとしてそのような優位性を確保した状態であるからこそ、スペインの10番、ダニ・オルモが輝くこととなった。
逆に、こうした優位性を獲得できないチームにダニ・オルモを放り込んでも、同じようなパフォーマンスは期待できない。スペインがオルモの能力を最大化させ、オルモがスペインを輝かせている。
チームとして位置的優位、構造的優位、そして中盤での数的優位を獲得し、オルモがボールを受ける際のポイントは大きく3つだ。
・ロドリとルイスの関係性
・WGによる釘付け
・オヤルサバルによる釘付け
中盤の低い位置ではロドリとルイスが攻撃を組み立てる。彼らに対して相手の中盤がついていき、空いたスペースにオルモが入り込んでいく。
ロドリはアンカー、ルイスはそれよりもやや高い位置を取り、2人が同サイドに立つような状況が生まれる。この際、敵の2CHが対応に出ることで、逆サイドのハーフスペースが空く形となる。
主にアンカーのロドリがどちらか一方のサイドに寄る形を取ることで、ロドリの脇にスペースを生み出し、オルモもしくはルイスが利用するスペースと、ローテーションが生み出されるのだ。
ビルドアップにて紹介したケースは、まさにこの形だ。
この中盤でのローテーションは、スペースを作り出すうえでのトリガーとなっており、スムーズに前進する上での重要なポイントとなった。
ビルドアップでの移動も含め、ロドリは一所に留まらず、移動してスペースを生み出し、そこを味方に使わせるプレーを見せた。味方が連動できるから成り立つプレーである。

基本的にオルモは右サイドのハーフスペース付近を主戦場としたが、ロドリが右サイドに寄るポジションを取れば、ルイスがアンカーの位置に降りて、オルモが中央に寄る、もしくはオヤルサバルが左に降りるといったローテーションも見られる。
2トップがボールを受けるためのスペースを確保するため、ヤマルとバエナのWG陣は基本的にサイドに張ったポジションを取る。そうして、相手のSBを外側に釘付けにすることで、ピッチの中央のスペースを確保する。
ルイスとロドリが敵CHを、WGが敵SBを引き付け、さらにはオヤルサバルが敵CBを引き付ける。彼が背後へ抜ける動きを見せることで敵CBを釘付けにし、オルモに対してプレスがかからない状態を作り出すことが可能となるのだ。

オーストリア戦39分の攻撃を例に挙げる。この時のスタメンはルイスではなくぺドリだ。ポロがクバルシにボールを預けると、ロドリが2トップの守備範囲から逃れるように左後方にポジションを移動する。相手のプレスが届きにくい位置であり、相手守備の1stラインを越えることが容易となる。

敵CFが素早いスライドで対応すると、ククレジャに預け、前方に抜けて敵CFを引き付ける。これにより、CBに前向きフリーの状態を提供した。ロドリがアンカー位置から移動したことで空いたスペースには、IHのペドリが降りる。

クバルシはペドリに当てる。ペドリが2トップを引き付けることで、クバルシに前向きフリーを提供し、前方に抜けることでさらにCFを押し込む。

ロドリがアンカー位置に戻り、CFが引き返してプレスに出ることでペドリがフリーとなり、運動量豊富な敵1列目の突破を果たした。アンカーにこまめにつけるクバルシの配球も光っている。

1列目を突破したペドリに敵CHが寄せに出てくると、サイドに展開する。この時点で、ヤマルがSB、ポロがSH、ペドリがCHを引き付けることで、オルモがフリーの状態となる。

ここで、オヤルサバルがCBの背後に抜ける動きを見せることで、CBが前に出にくいように釘付けも行う。オルモがフリーで前を向くと、オヤルサバルは踵を返してファーに膨らむ動きを見せる。DFとしてはオルモとオヤルサバルを同一視野に捉えるのが難しくなる。あえてボールホルダーから離れてシュートへと向かう、オヤルサバルの巧みな個人戦術だ。
CBダンソによるラインを下げた的確な守備でシュート自体はブロックされたものの、その後の切り替えの精度も高い。オヤルサバルが素早くプレスバックをかけて時間を作り、ペドリが前を向かせないように素早く寄せる。
ポロとクバルシがボールサイドをカバーし、オルモによる死角からのプレスバックでボール奪取に成功、再び攻撃フェーズに移行している。
前方にスペースを生み出す手段として、サイドでのローテーションが活用される。これは、相手のスライドの矢印の逆を取るというコンセプトに基づいたプレーだ。

ロドリやルイスといった中盤の選手が低い位置で各選手と接続することで、CBのラポルトとクバルシが外寄りでプレーしやすくなる。
彼らはフリーでボールを持つと、斜め外側前方に角度をつけてボールを運んでいく。単に真っすぐ運ぶのではなく、角度をつけるのがポイントだ。
これに合わせてSBが敵の中盤ラインまでポジションを上げ、敵SHを外に引っ張る。守備のスライドはボールに合わせて行われる。つまり、CBが運ぶ方向に相手守備陣はスライドするため、その逆を取るようにWGが内側に絞り込んでマークを外す。
敵SBがWGの対応のために内側に寄れば、外のSBを利用して前進する。

外のSBに出ると、WGは敵SBの死角から裏に抜け出す動きを見せる。相手がラインを下げれば、ストップして並行や後方サポートを行う。
WGが絞る動きがIHと被ることは少ない。ルイスは低い位置にとどまり、オルモはさらに内側のセンターレーンにスライドすることで相手の矢印の逆を取ってマークを外す動きを見せるからだ。
敵CFがスライドして対応する場合は、ロドリが中継役として低い位置を取ることで、CFが空けたスペースを利用して前進を図る。
1つの運ぶドリブルをトリガーに、複数の選手が敵のスライドの逆を突く動きを行うことで、ローテーションが生まれているのだ。
オヤルサバルやダニ・オルモが降りることで中盤で優位性を作り出す。ここで重要となるのが、背後を突く選択肢を見せることだ。背後を突けない場合、相手はCBを前進させることでスペインの優位性を消すことができる。背後を見せて手前を取る、手前を見せて背後を取る。2つの選択肢が両立していなければ、機能性は格段に落ちる。
背後を突く選択肢を見せるのは主にWGの役割だ。
スペインのヤマルとバエナをはじめとするワイドプレイヤーは、主に4つのパターンで背後への抜け出しを行う。

・ショートパスでのサイドチェンジに合わせた抜け出し
・足元で受け、ボールをハーフスペースに返してからのバックドア
・レーンチェンジからのフロントカット
・(相手がハイライン時)逆ローハーフ前向きフリーでの抜け出し

スペインは、チャンスができるまでゆったりとボールを回して、プレースピードや試合展開をコントロールする。WGが抜け出しを試みるタイミングの一つとなっているのが、逆サイドからのショートパスを、ハーフスペース低めの選手が前を向いて受けた時だ。
この位置にはラポルトやクバルシといったCBや、ロドリ、ルイス、ペドリといった中盤が入るケースが多い。
守備陣形は、ボールの位置に合わせてスライドする。CBにボールが入る際、敵SBはWGに寄るようにスライドを行う。このスライドの逆を取るようにWGが抜け出しを図る。そうすることで、相手の矢印の逆を取り、優位な状態に立つことが可能となるのだ。つまり、WGは予め幅を取っておく必要がある。サイドチェンジに合わせて自らも幅を取るようでは、逆向きの動きとならないからだ。


仮にWGが内に入った状態で外に流れてくる場合、SBがそこを使うことは無い。敵の守備にはめ込まれやすいからだ。SBは内側にボールを運ぶ、もしくはパスを展開し、自らがレーンを変えて内側に入りこむ等の配置変換を行う。
動き出すタイミングは、パサーがトラップをした瞬間だ。そのため、フェイクを入れるのはパサーがトラップする前までだ。

フェイクは、やや絞った状態から開いて相手を引きつけ、トラップした瞬間に背後をとる。
手前に入るステップを見せてから裏に抜けるといった形だ。
パサーがトラップしたあとは、横移動で助走を取ってから抜けることが多い。
パサーは、敵SBに身体を向けるようにボールを置く。すると、SBはパサーと正対する形となり、視線を奪われ、背後の状況が見えなくなる。
パスは、受け手と出し手の合作であり、2人で作り上げる必要があるのだ。
相手が裏を警戒してWGと距離を取る場合、WGは足元でボールを受けやすくなる。ヤマルであれば、足元で受けてから得意のドリブルで仕掛けることができる。彼は、背後への抜け出しとドリブルという2つの手札を持つことで相手に2択を突きつけることができる。ドリブラーはドリブルができるだけでは怖さが半減する。ドリブルという選択肢を持つことで、複数の選択肢を相手に突き付け、後手に回らせることができるから輝くのだ。
ヤマルは、時折強引な仕掛けが見られるのが玉に瑕ではあるが、優れたWGであることに疑う余地はない。
バエナは、ヤマルのようなドリブルは無く、パスワークも他のスペインの選手に比べると見劣りする。しかし、背後への抜け出しの試行回数は非常に多く、相手の脅威になった。

また、足元で受けたあとも、抜け出しのチャンスは訪れる。これはバエナだけではなくヤマル、そしてククレジャやポロのようなSBにも見られるムーブだ。
足元で受けたワイドの選手がハーフスペース低い位置の味方にボールを戻すと、敵SBは順足を前にしてボールの行方を目で追う。そうするとワイドの選手が視界から消えるため、バックドアで背後を取りやすくなる。
ベルギー戦の先制点はまさしくこういった裏抜けの動きを駆使した得点であった。

クバルシが前向きフリーでボールを運ぶと、ヤマルが背後を取るアクションを見せる。SBが警戒して内側に絞ると、空いたワイドのスペースにポロが前進して受ける。

ヤマルがローハーフでサポートポジションを取ると、ポロがそこにつける。このパスに対し、ポロのマークについていたドクが順足を前にしてボールを目で追うと、ポロはすかさず背後を突いた。守備者は後方にターンして追いかける必要があるため、快速のドクすらも振りほどけるのだ。
裏抜けを用いることで、ヤマルとポロの間ではポジションのローテーションが発生している。後方でドクに守備をさせていることからも分かるように、守備組織を乱す糸口にもなっている。

逆に、守備の名手ククレジャはどのように対応しているのか。分かりやすい例でベルギー戦前半43分のシーンでは、自身の死角から裏を取られそうな際、絞りつつラインを下げることで、順足を後ろにしてボールホルダーと受け手を同一視野に捉え、パスが出た瞬間に対応できる形を取っている。
身体の向きだけでなく、立ち位置を的確に調整するのだ。

ワイドの選手は、ボールを下げた後に内側へとレーンを変えるケースも多い。この際にフロントカットでチャンネルを陥れる方法も備えている。レーンチェンジのような横向きの動きは、守備者にとって、どこまでついていくかという迷いを生じさせるもので、対応が非常に難しい。ついていっても、入れ替わりで別の選手がワイドに立てば、その選手がフリーになってしまう。

裏抜け最後のパターンは、ハイラインの相手に対して、逆サイドのCBやCHが前向きフリーでボールを持った時の抜け出しである。
オフサイドラインを見極めやすい逆サイドの大外から、横向きで助走を取りながら、パサーとタイミングを合わせて一気に抜け出す。
この動きに対して守備側は、SBがついていくのがセオリーだ。その際、サイドにスペースが生まれるため、SBのククレジャがそのスペースに連動して走りこんでいく。
スペインのフィニッシュの局面で特に用いられている手段は大きく2つだ。
1つは0トップが空けたスペースへの抜け出しだ。オルモやオヤルサバルが敵DFの手前でボールを受けることで、相手のCBを釣りだし、空いたスペースに周囲の選手が飛び込んでいく。
優勝候補筆頭であったフランス戦の2点目はまさしくこの形だ。そして、ゴールまでの1分間は、フィニッシュだけでなく、スペインの様々な戦術的特徴が表れたものとなった。

プレッシングからセカンドを回収してマイボールにすると、ラポルトがGKのウナイ・シモンに預ける。相手のプレスの向きを見て、シモンはすかさず逆を取るように、ダイレクトでラポルトに返した。

ラポルトが運ぶのに合わせて、ルイスが中央レーンに移動、オヤルサバルが前方で膨らむように降り、ロドリは斜め後方のサポートを行うためにあえて動かない。こうして複数のパスコースを作ると、ラポルトからロドリ、そしてルイスへと渡って逆サイドへ。見事にプレスを回避する。

ルイスがポロに預けて前方に抜けることでチュアメニを引き付け、ポロは内側へのドリブルで、プレスの矢印に逆らうことで剥がす。
この時、中央のオルモには左CBがついており、ヤマルがその背後に抜ける動きを見せている。
ロドリは相手の中盤の手が届かない、敵1stライン上でポロをサポートする。

ラポルトがフリーで前進できる状態になると、ロドリは位置を上げる。この動きで、ロドリとオルモvsコネという2vs1を作り出す。さらにオルモは、中央から左へとポジションを移動することで、マークを完全に外した状態となる。元々マークについていたのは左CBだが、右サイドまでついていくのは難しい。オヤルサバルは前方で右CBを釘付けにしている。中盤での数的優位とローテーションが完璧に決まったシーンだ。

その後、持ち味の予防的配置でクロスのセカンドを拾うと、ポロにボールが渡る。ポロはサイドのヤマルの方向に身体を向けて敵をサイドに誘導する。そこから再度内側に向き直すことで相手のプレッシャーを弱める。
この時、コネがルイスに釣られて前進し、2トップへのパスコースが空く形となった。ポロからオルモへと渡り、同時に降りてレイオフを狙うオヤルサバルに釣られた左CBが空けたスペースにポロが侵入、試合を決定づけるゴールが決まった。SBのディーニュも、サイドのヤマルに気を取られてカバーに入れるポジションを取れていない。
優勝候補筆頭のフランスとの試合を決定づける、スペインのすべてが詰め込まれたようなゴールである。

2つ目はマイナスクロスだ。スペインのCFには大柄な選手が起用されていないため、単純なクロスボールでは得点を奪うことが難しい。そこで活用されるのがマイナスクロスである。
マイナスクロスを上げるうえで重要となるのは、マイナスを切る敵CHを動かすことだ。
スペインは中盤で数的優位を作り出すことで、相手の中盤を前方に釣り出し、マイナスクロス対応を遅らせている。
また、ネガティブ・トランジションも重要な要素となる。素早くボールを奪還することで、相手の前線がカウンターのために広がって間延びする構造的優位を生み出す。相手が間延びすると、CHの守備エリアが広くなるため、マイナスクロスへの対応まで手が回らなくなるのだ。
ゴール前では、オルモとオヤルサバルが縦関係を作る。そうすることで、前方の選手がCBを釘付けにし、後方でマイナスクロスを受ける選手をフリーにすることが可能となる。

オーストリア戦での先制ゴールも、セカンドボールを回収し、相手の構造が間延びした瞬間を狙って前進し、敵CHが中盤のペドリに食いついて空いたマイナスのスペースを突いて得点している。


WGの裏抜けにて例に挙げたベルギー戦の先制点においても、同様にCHを動かしている。降りるヤマルが敵SBとCHを釣り出したことで、マイナスのオルモが空く形となっている。

スペインの攻撃局面は、こうした戦術の上に成り立ち、全体循環に組み込まれているのである。攻撃中から、ネガティブ・トランジション局面を優位に進めるための準備が行われ、局面転換がなされていく。

スペインに対して、各国はどのような対策を取ったのか。まず、この大会においては、ハイプレスで守るチームが少なかった。それは、スペインのプレス回避策が充実していたというのもあるが、それ以上に暑さという環境面も起因していたと思われる。
スペインに対して面白い対策を見せたのが、以外にも、守備に消極的なクリスティアーノ・ロナウドを擁するポルトガルだ。
スペインは、敵陣に穴が空くまで何度でもやり直しを行う。そんな彼らに対し、対戦国の多くは、スペースを与えないようにブロックを敷く守り方を取る。

しかし、ポルトガルは、やり直しにかかるコストを増加させるというアプローチをとった。ロナウドには大幅なスライドや素早い切り替えは求めず、ラポルトを消すというタスクが与えられた。
スペインのようなチームに対して、やり直しにストレスを与えるアプローチは効果的なものとなる。攻撃の起点となるラポルトを消すことで、左サイドからの攻撃機会を奪い、逆サイドへの展開にかかる位置取り等のコストやパス本数を増加させることで、リズムを崩させ、攻撃の幅を限定した。やり直しができなければ、スペインの攻撃は前方へのベクトルが増す。すると、仕掛けの比率が高まり、スペインの攻撃が終わる回数が増える。つまり、スペインの攻撃時間が短くなる。スペインからボールを取り上げることにつながるのだ。
ロナウドがユベントスに在籍していた時代に、アッレグリ監督も見せた守備アプローチである。ロナウドのような守備に積極的でないスター選手を組み込むにはうってつけの策となっている。
最もスペインが苦労したのが、ウルグアイだろう。ウルグアイは、南米のチームらしい激しい守備が特徴だ。
球際で激しく寄せ、早めにファウルでプレーを切る。そのあとに続くプレーへの移行を阻害する。決して美しいとはいえないものの、そうしたプレーを繰り返し、スペインのシュートを6本に抑え込んだ。
ボールを取り上げる、プレッシング、ロングボール等、様々なアプローチの中から、スペインの無敗記録を止めるチームの戦い方にも期待したい。

スペイン代表のような戦い方の手本、そして今後の活躍が期待される新進気鋭の若手指揮官達の戦術については、上記リンクの書籍にて。
アルテタに加えてアロンソ、イラオラ、マレスカ。
26-27シーズンでは、取り上げた監督の多くが新たにプレミア上位チームに集結しており、新時代の到来を予感させます。
28人もの若手指揮官の戦術と、サッカーの原理・原則を学ぶことのできる一冊となっています。ぜひお手に取ってみてください。
]]>世界最長記録となる38戦無敗。W杯8試合でわずか1失点。決勝ではアルゼンチン相手に90分間でのシュートを0本に抑えこんだ。まさに、他を寄せ付けない、圧倒的な完成度を誇るチームであった。
平均身長は、我らが日本代表とほぼ一緒だ。個の力だけ見れば、フランス代表の方が上であろう。選手別の最高速度を見ても、トップ10にフランス代表選手が3人入っているのに対し、スペイン最速であったバエナは、大会全体だと113位。
この値は、全力で走る必要が無かった結果とも言えるが、スペイン代表がここまで強い要因は、基盤となる個の力だけでなく、組織力にこそある。
スペインが記録を塗り替えるまでの無敗記録は、EURO2020で優勝を果たした、ロベルト・マンチーニ率いるイタリア代表だ。面白いのが、今大会のスペインの強さの要因は、当時のイタリアのそれと共通しているという点だ。
ではスペイン代表はどのようなチームなのか、なぜ強いのか。彼らの強さの要因にフォーカスしていく。

監督のデラフエンテは、スペインの世代別代表も指揮してきた監督だ。
今から7年前、2019年のU-21欧州選手権は、デラフエンテが率いたチームが優勝を果たしている。

その際のメンバーがこれだ。
オヤルサバル、ダニ・オルモ、メリーノ、ファビアン・ルイスといったメンバーは、
7年の時を経た2026年W杯においても存在感を示した。
そして、7年前と今大会とで、戦術的な特徴は似通っている部分も多い。
相手の守備ブロックを揺さぶるようにボールを保持し、スペースを作り出して、突いていく。
そのスペースを作り出すための連携、手段が研ぎ澄まされており、サイドで行われるローテーション攻撃は象徴的だ。
そして、当時とは比べ物にならないほど高レベルに達し、今大会のスペインの戦い方において何よりも優れていた点は、次の局面を優位な状態で迎えるための、局面遷移の設計図だ。

彼らの強さの秘訣を知る前に、サッカーというスポーツの特性を再確認しなければならない。
サッカーは攻守がはっきりと分かれているわけではない。例えば野球は、攻撃と守備で明確に分かれている。つまり、局面間の境目の無いサッカーは、攻撃の段階から守備の準備を行うことができる。現在の局面と先の局面の準備を同時並行で進められるのだ。
守備の準備が済んだ状態で守備の局面を迎えれば、相手より優位な状態で局面を進めることができる。
攻撃、攻撃から守備への切り替え、守備、守備から攻撃への切り替えと、局面が循環していく中で、常に先の局面を優位に進められるように、現在の局面の時点で準備、体制を整えておく。
次の局面を優位な状態で迎えられるプレーを繰り返し継続することで、現在の局面も含めて常に優位な状態に立つ。「優位」とは、位置的優位、構造的優位、数的優位、ベクトル的優位、時間的優位等、様々だ。
これこそがスペインのサッカーの本質だ。スペインは4つの局面をさらに細分化し、落とし込んでいる。
サッカーとは、未来の局面における目標達成期待値を、最大化するための意思決定を逐次的に行うスポーツだ。スペインはまさに、これを体現している。

攻撃局面を例にする。自陣でのビルドアップで、無理やり相手の守備列を越えても、次の守備列を越えるための力、スペースが残されていなければ攻撃は途絶えて、意味が無い。逆にボールを奪われれば、乱れた陣形を一気に突かれてしまう。
攻撃における最終局面となる、フィニッシュに至るまでのプレーが見据えられている必要がある。ビルドアップにおいて、ボールを運んで相手を引きつけることで、フリーになった味方にパスをし、余裕のある状態で守備列を越えていく、というのはその代表的なプレーだ。
フィニッシュに至るまでのビルドアップや前進という攻撃局面の中だけでなく、攻撃から守備等の局面間の移り変わりも同様である。
逐次的な意志決定とは言っても、原則を設けることで方向性が統一されているため、バラバラになることはなく、迷いもない。
このサッカーの競技性を無視し、一局面に特化したチームは、現代サッカーにおいて勝つことが難しくなってきている。

今大会、決勝トーナメント1回戦で散ったドイツ代表はまさにその典型であり、2年前のEUROで死闘を繰り広げたスペインとドイツの明暗は大きく分かれた。詳しくは、ドイツ代表の敗因を取り上げた動画にて。

我らが日本代表も同様だ。
セカンドボールの回収とカウンター封じのポジショニングを徹底することで、連続的に攻撃を仕掛けたブラジル。それに対し日本代表は、守備の局面から脱することができないまま、一方的に攻撃を受け続け、1回戦で敗れた。よくまとまった好チームであった日本だが、守備の局面から攻撃に転換する手立てを見出すことができなかった。
こちらも詳しくは、日本代表の戦術分析動画にて。
スペインは次の局面のために体制を整え、優位に進められるだけでなく、その局面単体で見た時の機能性も高い。サッカーという競技をここまで完成度高くプレーしたチームは、長いサッカー史でもそう多くないだろう。
そしてこの、次の局面を優位な状態で迎える、というスペインの強さの秘訣は、冒頭で述べたこれまでの無敗記録保持者、EURO2020優勝国イタリアとの共通点となっているのである。

ではスペインが見せた、次の局面を優位な状態で迎えるための、局面遷移の設計図とはどういったものであったのか?
スペインは、各局面で取るプレー選択や戦術が、そのまま未来の局面を優位に進めるための準備につながっている。
ベースとなるのはボール保持だ。ボールを動かすことで相手を動かせば、「スペース」という、ゴールへ向かう筋道が生まれるだけでなく、相手を疲弊させることにも繋がる。

ボール保持者をフリーにしつつ、確実にスペースを生み出してから前進することで、確実性と、先の局面の目標達成期待値を最大化する。

中盤では相手の守備のギャップに入ることを前提に、数的優位の創出が図られる。ロドリ、ファビアン・ルイスに加え、ダニ・オルモ、CFのオヤルサバルが敵の中盤の隙間や手前で顔を出し、パスコースを生み出す。

このパスコースを消すために相手のCBが前進してくると、DFラインにはスペースが生み出される。創出されたスペースは、WGのバエナやヤマルによる裏抜け等で利用される。また、オヤルサバルやオルモが、相方の作るスペースに飛び込む動きも頻繁に見られ、一瞬にして決定機を生み出すことも可能だ。
攻撃にはいつか終わりが来る。そしてそれは、ゴールではなく失敗で終わることの方が圧倒的に多い。攻撃の数だけ、守備への切り替えが発生する。

では、スペインの攻撃志向は、守備への切り替え局面にどのような効果をもたらしているのか?
まず、スペースを埋めるためにブロックを築く相手は、自陣に押し込まれる形となる。つまりスペインにとっては、セカンドボールを広範囲で拾うことができ、かつ相手のアタッカーを捕まえやすい構造的優位の状態となる。
もしも攻撃が縦に早くなると、奪われた瞬間に間延びした状態となり、相手のアタッカーのマークにつくことができるポジションに、守備者を配置できない。
そうならないように、中盤での数的優位やローテーションを活用し、前向きでフリーの選手を作り出し、確実に前進する。数的優位ができれば、極論、フリーの選手を活用すれば奪われることはない。ゆっくりと、相手を不利に晒し続ける。相手が引けば中盤での数的優位は消えるかもしれない。しかし、奪われた後に一気に圧縮して押しつぶせる。相手にとっては、前方に味方が居ない状態で、前を向かせてもらえず、かつ後方のスペインの選手がプレスバックをかけてくるため、八方ふさがりとなる。
中盤で数的優位を生み出すために低い位置を取る2トップは、ロスト後にボールホルダーに寄せるために必要な距離が短くなる。
彼らのボール保持志向は、そもそも守備に回る機会そのものを減らすことに繋がる。DFライン背後を取るボールは低リスクで、切り替え時に即、守備ブロックを構築することが可能となる。

こうした攻撃局面のもとでボールを失ったスペインは、どのように守備へ切り替えるのか?

この局面は、守備陣形組織化前の危険な速攻リスクを最小化することが重要となる。
さらにスペインは構造的優位を活用し、相手が広がって攻撃を開始する前にボールを回収、もしくは広がろうとしている最中にボールを奪取することで、相手の構造の乱れを突く、二次攻撃へと移行することを志向する。
SBのククレジャとポロは、相手のアタッカーに即座にプレスをかけられる位置でカウンターを予防する。ロドリ、そしてボールと反対のサイドのSBは、クロスボールのセカンドを回収しやすい位置を取り、攻撃を継続させる。
相手にボールを拾われた場合でも、前を向かせないことで速攻への展開を防ぐ。ボールホルダーに近い、低い位置を取るオルモやオヤルサバルが、死角からプレスバックをかけてボール奪取を図る。
敵に前を向かせない。ただし、後ろに戻すにも、スペインの選手がプレスバックをかけてくる。まさに八方ふさがりだ。
彼ら二人だけでなく、ヤマルやバエナ等、WG陣のプレスも非常に早い。アタッカー陣が激しくプレスバックをかけ、ファウルでプレーを切ることで、速攻を潰し、自分たちの守備組織を構築する時間を生み出すシーンも多く見られた。

裏への浮き球でWGが裏を取る攻撃は、守備側にとって後ろ向きの対応となる。またDFラインのギャップが広がっている状態であるため、落下点に入るのに時間がかかり、クリアするのが難しい。短いクリアを狙うようにセカンド回収をかけ、バックパスに合わせて全体を押し上げる。
裏へのパスが流れるのであれば、プレーが切れる時間で守備組織を構築することができる。
逆に、相手がDFライン背後にボールを蹴りこんでくる場合、GKウナイ・シモンが高い位置まで勇敢に飛び出して相手のチャンスの芽を摘んだ。守備範囲の非常に広い彼の存在は、ハイラインを保つうえでの支えとなった。
このネガティブ・トランジション局面ですべての選手が力を発揮したことが、スペインの局面遷移の設計図における最大のポイントであった。
準決勝では、圧倒的な個の力を誇り、スピードあるアタッカーを多数起用するフランスをも完封している。
特に目を見張る活躍を見せたのが左SBのククレジャだ。彼は切り替えのスピード、アタッカーを封じ込める予防的配置、そして、サイドを捨てて中央の敵を潰しに行く勇敢で的確な判断を武器に、スペインの切り替え局面に多大な貢献を見せた。
スペインはW杯8試合でわずか1失点と、失点の少ないチームである。それは、ブロック守備が堅いからというより、相手に攻撃の機会を与えていないという要因の方が大きい。丁寧にボールを保持し、無駄なロストを減らすこと、そして守備への切り替えで即座に相手の攻撃を終わらせることで、相手の攻撃機会を奪っているのだ。

スペインの攻撃から守備への切り替え。この局面が、守備にもたらす効果はどのようなものか?まずは、相手の速攻を防止することで、ブロック守備を構築した状態で守備を始められることにある。
そして即座に奪回することで、そもそもの守備の局面を省略し、攻撃へと切り替えることが可能となる。

守備は2トップによる攻撃方向の制限から始まり、サイドでのボール奪取を狙う。ミドルゾーンにブロックを敷き、制限したサイドに全体をスライドさせて、網を張る。相手の中盤にボールが入る場合は、ロドリやルイスといった中盤の選手が前進し、前を向かせないように守ることでバックパスを強いて、押し上げる。その際、2トップがバックパスを切る位置取りとなるため、相手の選択肢を消すことに繋がっている。
SBは、SHのプレスに連動してサイドの選手を捕まえ、SB裏やチャンネルはCBがカバーする。

では、こうした守備局面が、攻撃への切り替え局面に与える影響はどのようなものか?
中盤ラインでボールを奪うことができれば、相手のアタッカーをボールより後方、置き去りにした状態を作ることができ、かつ前向きに奪うことで、即座に前方に展開していくことができる。

また、中盤を切るように位置する2トップ、絞ったSHが、奪った瞬間にフリーとなれる構造的優位の状態となる。この、相手が組織化する前にスペースを突くことができるというのが、スペインの攻撃切り替えにおける特徴だ。
これは、即座に前向きにボールを回収することができているから成り立っている。相手が攻撃に移行しようと広がっている状態を突いていく。
速攻が難しい場合には、慌てて攻め込まずにボール保持へと切り替える。この判断を数秒の間に行うことができるため、自ら攻撃の機会を失うようなことが無い。オープンな展開へと変化せずに落ち着いた試合展開が多いのは、この局面での判断に優れているからである。
このように、局面間の結びつきが強く、常に優位な状態を維持し続けることで、優勝を手繰り寄せたスペイン代表。
彼らが最も長い時間を過ごす攻撃局面についての詳細は、次の記事で紐解いていく。

スペイン代表のような戦い方の手本、そして今後の活躍が期待される新進気鋭の若手指揮官達の戦術については、概要欄のリンクに記載された書籍にて。
アルテタに加えてアロンソ、イラオラ、マレスカ。
26-27シーズンでは、取り上げた監督の多くが新たにプレミア上位チームに集結しており、新時代の到来を予感させます。
28人もの若手指揮官の戦術と、サッカーの原理・原則を学ぶことのできる一冊となっています。ぜひお手に取ってみてください。
]]>初戦でキュラソーに7-1で大勝したものの、その試合から既にチームとしてのバランスは乱れており、崩壊の足跡が確かに聞こえていた。
なぜドイツ代表は決勝トーナメント初戦で敗れ去ったのか。今回はドイツ代表の戦術と、彼らが抱える問題点から、早期敗退の原因を分析する。

2026FIFAワールドカップのドイツ代表は、4-2-3-1をベースとしたチームとなった。
攻撃時は左SBのブラウンがIHの位置に移動し、3-3-4のような配置に変化する。前線にテクニカルな選手を揃え、細かなパスワークやドリブルを多用して敵陣に迫っていく。
守備は4-2-3-1、もしくは右SHサネがDFラインに入る5-4-1のような形で相手を迎え撃った。
キミッヒを中盤ではなく右SBで起用し、代わりに中盤にはここ数年で新たに台頭してきたパブロビッチとヌメチャを配し、前線にはヴィルツとムシアラという2大スターを据えている。選手の質としては、決してベスト32で消えるチームではなかったが、サイドの人材不足、各局面での弱みが露呈した形となった。

2014年ブラジルワールドカップ以降、ドイツ代表は国際大会で結果を残せていない。ワールドカップに関しても、直近2回はいずれもGLで敗退、内容も充実しているとはいえないものであった。

そんな中、EURO2024は非常に質の高いサッカーを見せた。攻撃時、CHのクロースが左サイド後方に降り、中央にはテクニカルなハフェルツ、ギュンドアン、ヴィルツ等が並び、サイドにはキック精度の高いキミッヒとミッテルシュタットが配置された。
後方で相手を引き付け、サイドに広げ、中央で仕留める。長身のCFフュルクルクの高さというオプションまで備え、守備においては4-2-3-1で激しいプレッシングをかけて相手を追い込んだ。
層の薄いWGというポジションを用いることなく、サイドにはクロス精度の高い選手を配置し、中央の位置的優位、技術力、高さを活かして攻撃を繰り出すというEUROの戦い方は、非常に理にかなったものであった。
結果としてはベスト8で散ったものの、優勝したスペインと延長戦にもつれ込む互角の戦いを演じて見せた。
このサッカーをブラッシュアップしていけば、ワールドカップも期待できる。そう思ったファンも多かったはずだ。ドイツのサッカーに愛着のある私もその一人だ。しかし、2年の時を経たドイツが見せたのは、EUROとは全く別のサッカーであった。

W杯予選中のドイツは、初戦のスロバキア戦こそ落としたものの、その後は着実に勝ち点を積み重ね、本戦出場を果たしている。

しかし、本戦のドイツは攻撃面において大きな問題を露呈した。攻め急いでゴール前に辿り着く前にボールを失うケースが頻発する。詳細については後述するが、これは技術的なミスというよりも判断的なミスだ。
この攻撃局面における問題は、別局面にも問題を引き起こした。
ボールロスト時、相手が前向きの状態であれば、カウンターのリスクが高まる。低い位置やミドルサードでのボールロストの多いドイツは、多くの危険なカウンターへの対処を余儀なくされた。
また、攻撃局面の終わりは、守備局面の始まりを告げる。ドイツの守備ブロックは堅固とは言えない。サイドでの守備連携がなされないため、外から中へと侵入されるケースが多い。統制の取れていない守備ブロックでは、前向きに奪うことができず、カウンターにつなげることもできない。
このように、攻撃面の問題がネガティブ・トランジションの増加、難のある守備局面の増加という総合的な問題、質の低下へとつながり、厳しい戦いとなってしまった。
世界のフットボールは、各局面で強さを見せ、かつ各局面に相互作用を持たせることで、各局面を優位に戦うチームが増えている。そういったチーム設計でないと、勝つことは難しい時代となっている。
ドイツはまさにそのトレンドとは逆行している状態であったのだ。
W杯で見せたドイツの攻撃は、まさに力技という言葉がふさわしいものであった。
力技といっても、相手陣地に蹴りこんで、肉弾戦を仕掛けるという意味ではない。ボールを無理やり、物理的な意味で前進させているだけ、という意味だ。

ドイツのように細かなパスワークを用いてボールを前進させる場合、当然ボールの通り道となるスペースを獲得する必要がある。相手の守備陣形を縦横に広げなければならない。複数の守備列を無理なく越えなければならない。

しかし、相手を引き付けることで前線の味方にスペースを与えるようなビルドアップが行われるケースがほとんどなかった。

相手を引き付ける、相手が釣られてこなければ運ぶ、そのうえで相手の守備列を越えていく。これはビルドアップの基本だ。
ビルドアップの停滞は、クロースのような司令塔不在が非常に大きく影響している部分でもある。キミッヒが3バックの一角に配置されたことで、クロースの役割の一端を担うことも期待されたが、相手を広げるようなパス回しを指揮することができなかった。
これにより、前線の味方が得られるスペースが小さくなった。ただし、後方のビルドアップだけに攻撃停滞の原因があったわけではない。
前線は、無謀な突破をひたすら繰り返した。

サイドのサネは、マークが2人ついていても突破を図る。パスを出す場合も、味方を活かすのではなく、自身が苦しくなった時の逃げ道としてのパスを出すのみだ。

ヴィルツとムシアラは、常に狭いパスルートを選択し、ミスを連発する。当然、ミスが増えるほど守備の機会が増え、攻撃機会が減る。
中央が狭ければサイドを利用すべきだが、サイドにはそもそも人がいないケースも多い。サネやヴィルツが頻繁に絞るのに加え、絞った後に代わりにサイドに出る選手がいないからだ。
中央に位置する選手の間でも、相手を困らせるような立ち位置をとる連携は見られない。背後と手前を同時に狙い、相手に判断を突きつけるといった、位置的優位がない状態だ。
つまり、相手を広げず、狭いエリアを無理やりこじ開けに行っているのだ。守備側からすれば、警戒して固めたエリアに、勝手にドイツがボールを運んできてくれるのだから、当然怖くない。
マークを受けている選手にも平気でパスを出すため、ミスが増え、試合は落ち着きのないものとなる。
いかにテクニカルな選手が多く、ヴィルツやムシアラのような才能あふれる選手が揃っていても、この攻撃志向では点が取れず、試合運びが上手くいかないのも当然だ。
ドイツの敗退は、システムうんぬん以前に、このプレー選択の判断基準に尽きる。これは、初戦となったキュラソー戦から継続的に見られる傾向である。
サッカーとは、「未来の局面」における「目標達成期待値」を最大化するための意思決定を、逐次的に行うスポーツである。
今大会のドイツは、次に来る局面を見据えたプレーが少なく、あまりに1つの手法に凝り固まったチームとなってしまった。根本的な部分であり、問題点は明らか。論じる余地が少ない。

極端なことを言えば、ヴォルテマーデやウンダフを前線に並べ、シンプルにゴール前にボールを送り届ける方が効率が良く、リスクの少ないものとなっただろう。
ブンデスリーガで躍進を見せる、ヘーネス監督率いるシュツットガルトの戦術や選手を中心に据えるパターンを見せても面白かったはずだ。
EURO2024で戦ったメンバーも多く残るため、踏襲路線も十分に考えられた。
様々な可能性を秘めたチームが、このような結果に終わってしまった反省を、次回のW杯で活かされるのを楽しみにしたい。
位置的優位をほとんど用いることができず、機能性に乏しかったドイツ代表ではあるが、当然、見どころのあるシーンも生まれた。

例えばキュラソー戦では、ハフェルツとムシアラが縦関係を作り、相手の左CBを釣り出すことでIHのヌメチャが侵入するスペースを生み出していた。

コートジボワール戦では、左CBのシュロッターベックが敵WGのプレスを誘い、左WGのヴィルツが敵SBを釘付けにする。そうして空いたサイドのスペースをSBブラウンが利用するという位置的優位性が見られた。

エクアドル戦では似たような位置関係で、外切りでキミッヒへとプレスをかける敵の左SHの守備を利用し、IHのヌメチャがサイドでフリーになる状態を作り出すシーンが見られた。
しかし、効果的な立ち位置であったにもかかわらず再現性に乏しく、試合を優位に進める攻撃に昇華することはできなかった。

近年のドイツは、質の高いサイドプレイヤーが育っていない。WGは、カットインでゴールを陥れることのできる選手が少ない。ヴィルツのような、中央を本職とする選手を起用している状況だ。
SBの人材不足はさらに深刻で、現在の若手にも世界トップに成長しそうな目ぼしい選手は見当たらない。今回のドイツ代表も、本職CHのキミッヒをサイドで起用しており、右SBを本職とする選手がいない状態だ。
サイドのクオリティが下がれば、中央に密集して崩すサッカーとなるのも必然といえる。
そういった選手層の偏りを逆に利用した策が、EURO2024での、キミッヒとミッテルシュタットというキック精度の高い選手のサイド起用であった。
攻撃が上手くいかない時に、守備という別局面で勝負することができないのもドイツの弱みだ。戦い方の幅が狭く、局面間の相互作用が得られないサッカーは、淘汰される傾向にある。
また、中盤の底でゲームを作る役割を担うタイプの選手も少ない。クロースが一人で位置的優位と配球力を駆使してプレーするのに対し、パブロビッチやシュティーラーは現状、2人組での連携で輝くタイプだ。攻撃のテンポを調整するため、中盤の関係性や起用方法も検討する必要があるだろう。
今大会で、キミッヒ、ター、サネ、ニャブリといった世代の選手たちのワールドカップは実質終了となる。それぞれクラブレベルでは活躍が見られるだけに、代表での結果は非常に寂しいものとなってしまった。

ただし、次の世代は確実に頭角を現している。ヴィルツ、ムシアラを筆頭に、パブロビッチ、ヴォルテマーデ等、4年後に30歳を越えていないタレントは多い。今大会も、スタメンの半数以上が25歳以下の選手たちだ。
現時点では、やはりサイドの人材、特にSBが不足しているものの、4年後にはさらなる若手プレイヤーたちも頭角を現すはずだ。10年以上低迷するドイツの逆襲に期待したい。

EURO2024でのナーゲルスマン率いるドイツ代表、その他新進気鋭の若手指揮官達の戦術については、概要欄のリンクに記載された書籍にて。
26-27シーズンでは、取り上げた監督の多くが新たにプレミア上位チームに集結しており、新時代の到来を予感させます。
28人もの若手指揮官の戦術と、サッカーの原理・原則を学ぶことのできる一冊となっています。ぜひお手に取ってみてください。
]]>グループリーグでの試合内容は申し分のない、充実したものであった。しかし敗北を喫したブラジル戦は、点差以上の差を感じざるをえなかった。
今回は2026FIFAワールドカップにおける日本代表の戦術にフォーカスしつつ、問題点について取り上げていく。

日本は守備時に5-2-3、攻撃時に両翼を上げる3-2-5を採用した。
日本の選手起用で特徴的であるのがWBだ。相手のサイドアタッカーと対峙する等、守備においても多大な貢献を求められるこのポジションに堂安、中村のような攻撃的なアタッカーを起用するのは珍しいケースだ。アップダウンの激しいこのポジションを務めることのできるタフなドリブラーは、非常に貴重な人材だ。
逆に、ブラジル戦のように守備に回る時間が長く、クロスボールに晒される展開の際は、守備寄りの選手を起用する、ボール保持の展開に持ち込む等の、起用法や戦い方の変化を加える必要が生じる。
攻撃においては、中盤の鎌田大地が指揮者として、テンポを調整することでオープンな展開を抑制した。

他国と比べても特に優秀であった点は、ネガティブ・トランジションの徹底だ。攻撃の局面においては、そもそもカウンターにつながるようなボールロストをしないよう丁寧にパスをつないだ。全体が広がった状態でロングボールを選択し、中央が空洞化した構造的優位を取られた状態で、トランジションを迎えるようなシーンは少なかった。
奪われた直後は、アタッカー陣が素早く切り替えてプレスバックをかける。体力だけでなくメンタル面、献身性が問われる部分だ。
中盤2枚は前線へのパスコースに蓋をし、冨安を中心に、CB陣が事前にアタッカーを潰せる予防的配置をとることでトランジション局面を優勢に進めた。
脇のCBが攻撃参加を行うケースも見られたが、それでも後方の枚数が5枚になるような人数調整が行われている。
時には戦術的ファウルを活用し、ピンチを未然に防ぐことで、ゴール前までリトリートして守るシーンは少なかった。
ブラジル戦の先制点は佐野海舟の個人能力の高さを示したものであると共に、パスカットから生まれた、まさにトランジションで奪った得点と言える。
ネガティブ・トランジション局面は、堂安が話していた、「エゴを捨てる」こと、そして、チームの勝利を優先させるという点が最も体現されていた部分である。無駄のない、適切なタイミングで適切な位置へと素早く移動する、走力と献身性を備えた、よくまとまったチームであった。
日本はオランダ戦やブラジル戦等、格上の相手と対戦する際は守備の時間が長くなった。そんな相手に対しても、日本の5-2-3守備は一定の機能性を見せた。

中盤より前の選手で中央を固め、サイドに誘導して囲い込む。無理やり中央を狙った楔は中盤ラインで絡めとり、カウンターにつながるケースも見られた。
各選手の役割を見ていく。

最前線のCF上田は、相手のアンカーを背中で消すようにポジションを取る。

シャドーの前田大然と久保、もしくは伊東純也がハーフスペースに位置することで中央を遮断し、SBにパスが出るタイミングで寄せに出ていく。

WGにパスが出ると、WBの堂安や中村敬斗がプレスをかけていく。
この時、シャドーがWBのカバーに入るように、浅い斜め後方にポジションを取ることで、中への展開を防ぐことができる。オランダ戦では、右サイドの堂安と久保でガクポの動きを封じ込んだ。

シャドーのカバーポジションが重要であり、シャドーがプレスバックをかけるようにアタッカーの方向に走路を取ると、カットインで中に入られる、もしくはプレスの逆を突かれてしまう。オランダ戦開始直後は、ここから決定的なチャンスを与えてしまった。

縦と横を封じることで相手にバックパスを強いると、シャドーの前向きのプレッシングにより、ブロック守備からプレッシング局面へと移行することが可能となる。特に前田は抜群のスピードで距離を詰め、バックパスを受けた選手にさらなるバックパスを強いることができる。これにより、日本の守備全体を押し上げることができる。
ひたすら受け身になってしまうのは、このようにバックパスを強いることができていない、プレッシャーをかけて前を向かせない守備ができていない時だ。
シャドーがWBのカバーポジションを取る。つまり、WBが中盤の位置までプレスに出ることができれば、カバーポジションを取るために必要なシャドーの移動距離が短くなる。

オランダ戦では、前田がCBにプレスをかけ、中村がSBにプレスをかけるといった具合に、1列ずつ前進しての守備も見られた。
全体の連動が必要となるこの守備を、日本は献身的にこなしてみせた。
相手がサイドからではなく、中央からの攻撃を目指す場合、中盤やCB陣による奪取を図る。

2戦目のチュニジアは、シャドーが低い位置へと降りることで、中盤での数的優位を狙ったが、冨安がついていき前を向かせないことで対応する等、中盤エリアの守備力も光った。彼らが前向きにボールを奪うことで、有効なカウンターにつなげやすくなる。
オランダ戦では中盤ラインでボールを奪取することで、カウンターに繋げた。オランダは前進途中であり、ビルドアップで広がった状態で、フレンキー周りにスペースが発生している。そんな構造的優位を活用し、丁寧に繋いで前進を果たした。


日本の攻撃のテンポを作ったのはCHの鎌田だ。オランダ戦では、相手の5-4-1に対してDFラインに降りることで数的優位を作り、良い意味で攻撃のテンポを落とした。

5-4-1に対しては、3冠を達成したマンチェスター・シティも近い手法のアプローチをとっている。CHのロドリが相手の守備列の1stライン上に位置を取り、ボール保持を安定させつつ、ピッチ上により多くの三角形を生み出し、5-4-1崩しの土台を作った。
これに照らしてみても、日本の取った攻撃のアプローチは良好だ。
鎌田のようなプレイヤーがいない場合、攻撃は前進のテンポばかりが増してしまい、相手の守備ブロックを乱せていない状態で突っ込み、ボールロストに繋がってしまう。
これは、日本の強みとなったネガティブ・トランジションにも影響が出る。ロストのタイミング、陣形の乱れによって、危険なカウンターの機会を与えてしまう行為である。
鎌田が攻撃のタクトを揮うことで、無駄に早くて雑な攻撃が生まれるのを防ぎ、相手の守備に穴が開くのをじっくり待って攻め込むことができた。

鎌田がDFラインに降りることで、日本にはローテーション攻撃が生まれるようになる。後方の枚数調整がなされるため、伊藤洋輝や渡辺といった脇のCBがサイドから攻撃参加をすることが可能となるからだ。CBだから攻撃参加はしない、というポジションにこだわったサッカーは10年以上前に終わっている。伊藤や渡辺が的確に攻撃に参加することで、日本の攻撃に幅をもたらした。

左で伊藤が幅を取ることで、前田と中村が1つずつ中央にスライドすることが可能となる。斜めの鋭い楔の質がワールドクラスである右WBの堂安がこれを見逃さず、強豪オランダ相手にチャンスを演出した。
前田と中村が並列で入ると相手のマークを受けやすい。2人が縦関係を形成することで相手のマークを外した点も素晴らしかった。

渡辺は堂安の内側を抜けることで、オランダの守備の受け渡しを混乱させ、クロスから決定機を演出した。渡辺が攻撃参加をしても、後方には5枚が残るように枚数調整がなされている。ここが、ネガティブ・トランジションにおける強さに繋がっている。

スウェーデン戦の先制シーン直前では、右CBの瀬古がインナーラップを入れている。彼がインナーラップを入れたことで、敵の左CBをサイドに誘き出し、中央の密度を薄くすることに成功している。
こうした鎌田から始まる脇CBの前進といった攻撃の連動により、日本は安定したボール保持と効果的な攻撃、そして危険の少ないネガティブ・トランジションを実現した。

現代サッカーでは、ショートパスでのビルドアップが難しい場合のために、ロングボール戦術の搭載が必須となっている。どちらかが欠けると相乗効果が得られない。
日本のロングボールは2人のキープレイヤーによって機能性の高いものとなった。まずはロングボールの出し手となる、GKの鈴木彩艶だ。類まれなキック力でボールを前線に送り込む彼の存在は、攻撃面においても重要であった。ショートパスで繋ぐこともできるのも持ち味で、十分に相手を引き付けたうえでロングボールを蹴ることができる技術の高さを見せた。本来の役割であるシュートストップでも文句なしのパフォーマンスを見せ、今大会の日本のMVPと言える働きであった。
そして、ロングボール戦術のもう1人のキーマンが、ロングボールの受け手となるCFの上田綺世だ。彼は競り合いに強く、ボールを収めて全体を押し上げる役割を果たした。競り勝てない場合でも、粘り強く身体をぶつけて簡単にクリアをさせないことで、セカンドボールに対する後続の選手のプレッシングを促して見せた。
ショートパスに固執すると、プレッシングに対する選択肢が格段に減る。逆に全く繋がないと、ロングボールだけが警戒されて打開が難しい。両立している必要がある。
鎌田を中心としたショートパス主体の攻撃に対し、鈴木と上田を中心としたロングボール戦術が日本の攻撃の2本目の柱となり、相乗効果をもたらした。
オランダ戦の2失点目、スウェーデン戦の同点被弾は、いずれもカットインからのものであった。なぜ日本はカットインからの失点を許してしまうのか?

まず、ワイドアタッカーにボールが入る際の守り方は、WBが縦を切るように対応し、1列前の選手(もしくは脇に入る選手)が内側で、かつ浅めの斜め後方に立つのが基本となる。アーセナルやクリスタル・パレス等、守備の堅いチームの多くが採用している。
日本も多くの場面でこのような守備方法が見られたが、問題はWB背後へのランニングへの対応だ。
WB背後へインナーラップを入れられた際、日本はWBの脇をカバーすべき選手がDFラインまでついていき、カットインのコースを開けてしまう傾向が強い。
ここは、4バックであればCHが、5バックであれば脇のCBがカバーするケースが多い。

オランダ戦では、脇をカバーする前田が、外を回るダンフリースに引っ張られてしまい、カットインのコースが空いてしまった。伊藤に任せるか、中村とマークをスイッチする必要があったが、こうした一瞬の判断を強制するオランダの上手さが光る場面であった。

スウェーデン戦では、同様に田中がDFラインまでついていき、カットインのコースが生まれることとなった。
直前まで、田中は堂安に対し外を回るギェケレシュを見るよう、受け渡しの指示を出していた。しかし、外を回る素振りを見せていたギェケレシュが一転、インナーラップに進路を切り替えた。こうなると、ギェケレシュは堂安の死角になるため、受け渡しが困難だ。彼の素晴らしいランニングが2人の守備を狂わせた。日本はゴール前に固まっていた選手がサポートできれば違った結果となっただろう。
カットインを切るサポートポジションを損なわないよう、WB裏のケアを行うことができれば、さらに堅い守備組織を構築できるはずだ。

1-0で迎えた後半の日本は、ブラジルの猛攻の前に2つの失点を喫して散った。ブラジルは、ハーフスペースからファーサイドへのクロスボールを徹底して送り込んできた。
5-4-1守備ブロックを組むチームを相手に、この攻め筋を採用するのは非常に合理的だ。日本のWBは中村や堂安といった機動力に優れたアタッカーが務めるため、空中戦には強くない。
またCB陣にとっては、ボールとマーカーを同一視野に捉えるのが難しく、マークにつきにくい。
では、なぜ後半になってこの攻め筋が増えたのか?
前半の日本は陣形をコンパクトに保ち、ミドルゾーンで守備ブロックを組んだ。対して後半は、クロスボールをヘディングで直接ゴールに叩き込まれてしまう位置まで守備ラインが低くなってしまった。
では、なぜ日本の守備ラインは下がってしまったのか?
日本側の要因で見ると、運動量が低下したのは明らかだ。ボールホルダーにプレスに出ることができなければ、ラインを下げることで、パスが出た先で対応するほかない。
より注目すべきは、ブラジル側の変化だ。ブラジルは前半と比べて、SBとWGの関係性に変化をつけてきた。

前半のブラジルは、ヴィニシウスがハーフスペースに絞り、左SBのサントスが高い位置を取る並列の関係性をとった。この場合、CB冨安とWB堂安でそれぞれ対応しやすい配置となる。

しかし、後半のブラジルはヴィニシウスがサイドに寄り、サントスが低い位置で同じくサイドに寄る縦関係の配置となり、3-2-5から4-4-2に近い形に変化した。

サイドが1枚であれば、WBが前にプレスに出やすいが、サイドに2枚立つことでWBが後方に釘付けにされる。SBサントスに対してはシャドーの伊東純也が広がって対応する必要がある。伊東純也が広がると、ハーフスペース低めへのプレスがかかりにくくなる。伊東がSBの対応に出なければ、サイドで堂安が、サントスとヴィニシウスという2人の脅威に晒される。CBにプレスがかからなければ、スペースを与えないように引いて出し先を潰すしかない。こうして、日本の守備ブロックは後退を余儀なくされた。


日本にとって、ヴィニシウスだけでなく左SBのサントスが非常に厄介な存在となった。ヴィニシウスの外を回ることで補佐する動きに加え、右サイドからのクロスの流れ弾を拾う、伊東のカウンターを即座に食い止める守備要員、さらにはヴィニシウスと入れ替わりで、大外から堂安の背後に抜けて決定機を演出する等、様々なタスクをこなしてみせた。
クロスの流れ弾を拾うことで、ブラジルの攻撃は続行される。伊東のカウンターを即座に食い止めるのも同様だ。つまり、日本が攻撃に転じることができず、押し込まれる要因の一つにもなったのだ。
左サイドで攻撃を作ったのち、ヴィニシウスはカットインから右サイドに展開することもできる。WGのライアンのクロスコースを空けるテクニックも相まって、日本は左右両サイドからクロスの集中砲火を浴びることとなった。
防戦一方になった後半、逆転は時間の問題であり、必然だった。

1失点目は、1分間に3度のクロスを浴び、1度もマイボールにできないまま失点を喫した。1本目は右サイドで、ボールホルダーであるライアンの外をSBダニーロが回り、前田や伊藤がカバーポジションに入ったところでカゼミロに上げられた。
クロス自体は合わなかったが、素早いプレスで再度ブラジルの攻撃に。

2本目も同じく右サイド。中村敬斗を外したライアンがそのままクロスを上げ、弾き返したもののヴィニシウスに拾われ、ブラジルの攻撃が続行される。

3本目が得点に繋がる。サイド深い位置でボールを拾ったヴィニシウスを起点とすることで伊東純也をサイドに引っ張り、完全にフリーとなったガブリエルから、ファーサイドのカゼミロへと絶妙なクロスが入った。CBにとって、マーカーとボールを同一視野に入れるのが難しく、カゼミロはさらにファーに流れる動きで伊藤と距離を取ることに成功。中村はハイボール対応を得意としていないうえにラインが高くなっており、ゴールを許す形となった。
町野や田中の途中出場により、プレスの強度が回復したのもあり、クロス砲撃は一旦止んだものの、鈴木や菅原を含む加入メンバーとスタメンのプレーの質の差は大きかった。

鈴木は、寄せのスピードを逆手に取られ、2度決定的なインナーラップを許した。2度目は決勝点につながるものであり、途中出場の選手のほとんどが関与したものとなった。

鈴木のサイドが抜かれた流れの攻撃を食い止めたものの、田中が即時プレスを受けてボールを失った。町野はこの差し迫った状況にしては切り替えのスピードが遅く、菅原は優先すべき中央のスペースを埋めきることができなかった。右サイドの2人は直前にも明らかな受け渡しミスをしており、この時点で既に守備に残る不安は大きかった。
カメラが田中ばかりを抜いたこともあり、結果的に田中がロストした原因の失点のようにも映るが、問題はそこではない。そもそも防戦一方になった戦い方、そこに至るまでのプロセス、各所での守備対応等、振り返るべきは他にもあり、ロストが発生するシチュエーションを作らせないことこそが重要であったのだ。
この失点が田中だけの責任で片付けられてしまうことはないだろう。万一田中の責任で済ませ、田中のロストを発生させないためにどうすべきだったのかが議論されないようであれば、日本サッカーの進化は終わる。
ハーフタイムでブラジルに大きな変化をもたらしたアンチェロッティは、やはり非常に優れた指揮官であると言える。


続くノルウェー戦においても、その手腕が発揮された。序盤は広く動くウーデゴーアを捕まえられず、ノルウェーのビルドアップに苦労した。しかし、ハイドレーションブレイク空けに右WGを前進させてプレーエリアを制限、包囲することで即座に対応していた。まさに百戦錬磨の名将だ。
前回大会の日本に見られた思い切った策は、今回の日本においては少なかったようにも感じる。
アンチェロッティに関しては、交代カードを切ることなく、既存のカードの中だけで変化をもたらしている。とはいえ、日本が変化をつけられなかったのは、三苫、遠藤、南野、そして初戦で久保までも欠いたことによるカードの少なさも影響しているだろう。
サブメンバーとスタメンの差は、ブラジル等に比べて非常に大きなものであった。
実際、ブラジルの決勝点は途中出場のマルティネッリだ。このレベルの選手が途中から出てきて、疲労の溜まった守備陣に脅威を与えるというのは、今回の日本とは格段に異なる層の厚さを表している。
ワールドカップは短期間での総力戦だ。日本にとって、選手がさらなるレベルアップを遂げ、底上げされるというのは、決勝トーナメント1回戦の壁を破るうえで重要になるだろう。
今大会の日本は戦術的に見ても面白いチームに仕上がっていた。特定の局面に依存せず、どの局面にも狙いと機能性が見え、ビルドアップひとつ取っても、ショートパスだけでなくロングボールを備える等の選択肢の幅を見せた。
しかし、それでもベスト32で姿を消した。結果としては1-2という最少得点差であったものの、後半は一方的に押し込まれた。内容の差は圧倒的で、鈴木彩艶の好セーブをはじめとした守備での奮闘が無ければ、得点差はさらに広がっていただろう。
日本を破ったブラジルは、次の試合でノルウェーに敗れ、ノルウェーはイングランドに、イングランドはアルゼンチンに敗れている。目標と公言していた優勝への道のりの長さを感じさせる。

今回のW杯における日本の課題は、
・選手層の薄さ
・相手の戦い方への対応力、問題解決力
の2点だ。
対応力に関しては、押し込まれた状態をいかに脱するかというレベルの大枠の部分から、WBの裏に走りこんでくる敵を誰が見るのか?という細部まで、あらゆる部分での対応力を備え、実践する必要がある。
そうすれば、たとえブラジル相手でも、前回大会ドイツ戦のような、劇的な局面変化を起こすことが可能となるだろう。
個の力だけが重要であるのならば、ドイツがベスト32で敗れることは無く、ノルウェーがブラジルを破ってベスト8に進出することもなく、フランスは優勝を果たしていただろう。
上に行くほど、組織として、いかにピッチ内の問題解決を図るかという点が試される。
とはいえ、ピッチ上に変化を起こすには、選手一人ひとりの活躍も不可欠だ。交代選手がスタメンの補填だけでなく、流れを引き寄せるような活躍ができるよう、選手層を底上げしていく必要がある。
日本を代表するプレイヤー達が、次回の大会までにさらに力をつけ、まずは決勝トーナメント1回戦の壁を突破することに期待したい。

5-4-1での守り方等といった、戦い方の手本、そして今後の活躍が期待される新進気鋭の若手指揮官達の戦術については、概要欄のリンクに記載された書籍にて。
26-27シーズンでは、取り上げた監督の多くが新たにプレミア上位チームに集結しており、新時代の到来を予感させます。
28人もの若手指揮官の戦術と、サッカーの原理・原則を学ぶことのできる一冊となっています。ぜひお手に取ってみてください。
]]>これは、前身のチャンピオンズカップを含めても史上9チームしか達成していない快挙だ。
歴史に名を刻んだ彼らは、どのようなサッカーを展開したのか?なぜ強いのか?
彼らの戦術を紐解いていく。

リーグアン、そしてチャンピオンズリーグを制したPSG。
デンベレ、クヴァラツヘリア、ドゥエの3トップをはじめ、突出した個の力を備えた集団だ。試合を決定づける力のあるスター達が、高い個人能力でスーパーゴールを生み出している。

期待を越えるスーパーゴールの多さを裏付ける数字が、ゴール期待値と実際の得点数の差だ。
CLにおける差を見てみると、1位クヴァラツヘリア、7位ビチーニャ、9位ドゥエと、3名の選手がトップ10にランクインしている。
チームとしても、PSGは+8.7と群を抜いて高い。
ゴール期待値が高いものの得点数に乏しいチームは、決定的なチャンスを作れているとも言えるため、勝ちにつなげることはできなかったものの、ひとえに悲観するものではない。
ただし、決定機を確実にものにし、難易度の高いゴールを決めるほど高くなるこの数値は、勝負の世界において重要な値となる。PSGの試合を決定づける力はCLでも圧倒的だ。
個々人のゴール期待値だけみると、CLトップ20の中で、デンベレが唯一12位に位置するのみだ。チームとしては全体2位であるため、特定の選手に依存することなく、万遍なくチャンスを迎えているといえる。
そんなスーパーゴールを生み出すスタープレイヤー達は、プレッシング戦術においても多大な貢献を見せている。
最大の戦術的特徴ともいえる外切りとマンツーマンを活用したプレッシング戦術は、彼ら前線の選手なしでは成立しない。
ボールを回収すると、速攻、もしくはボール保持へと、素早い判断で移行する。相手の守備を分解したうえで背後を取る攻撃は、個と組織が融合した、破壊力抜群のものとなっている。
また、複数コンペティションを無理なく乗り切るため、エンリケは積極的なターンオーバーを採用しており、CL連覇の大きなポイントとなった。
PSGのサッカーは、豊富な運動量に下支えされている。そのためエンリケは、シーズン終盤まで運動量を維持するために、大胆なターンオーバーを採用している。これは、CLを戦う上での大きな武器となっている。

CLベスト4に進出したチームで、プレー時間を比較する。
試合数はリーグ戦のチーム数や各コンペティションの戦績の影響によるもので、PSGとバイエルンが最少となっている。
シーズン総プレー時間の60%以上に出場している選手は、バイエルンが最も多い。バイエルン戦術分析動画でも取り上げたが、選手層の薄さ、特定選手への依存の大きさが顕著にみられる。
シーズン4000分以上の出場、および、リーグ戦総プレー時間の60%に出場している選手数は、アーセナルが高い数値を示している。選手層は厚いものの、プレミアリーグの膨大な試合数、強豪揃いのリーグ環境が大きく影響している。
これらのどの数字をとっても、PSGは低い数字となっている。また、シメオネ率いるアトレティコも比較的少ない数字が目立つ。
リーグアンでの最長出場はエメリの2454分。これはフルタイムとなる3060分の8割程度の数字である。
当然他メンバーはそれより少ない出場時間であり、最多の得点数で優勝を決めたリーグアンでの得点王争いも、11Gのバルコラが8位に位置するのみだ。
リーグ戦出場時間チーム2位のザバルニーは、シーズン総プレー時間では7位とやや低い。なぜなら、CLでの出場時間が18位と少ないからである。

エンリケによるターンオーバーの意図は明らかである。リーグ戦出場時間とトータルの出場時間をグラフに落とし込むと、大きく「CLメイン」、「リーグメイン」、「兼任」、「若手」の4つのグループに分かれる。
CLでスタメン出場する選手の多くは、リーグ戦の出場は半分を下回る。逆にリーグ戦で半分以上試合に出ている選手の多くは、CLで控えに回ることが多い。
右SBとしても起用されるエメリ、CBのパチョ、アンカーのビチーニャは稼働率がやや高くなっているものの、選手を休ませつつ、無理なくシーズンを過ごすための、エンリケのマネジメント力は非常に優れている。
PSGの強力な武器となっているプレッシング戦術。彼らのプレッシングの大原則は2つだ。
・守備組織の1stライン手前では時間を与えず、1stラインを越えた位置では前を向かせない。
・前線が進行方向とプレーに制限をかけるようにプレスをかけ、中盤や最終ラインが奪うべきエリアを予測、特定しやすくする。
前線が外切りでプレスをかけて進行方向を制限し、可能であれば前線で奪取、ロングボールを蹴らせた場合はマンツーマンで守る後方で奪取を図るのが、PSGのプレッシングだ。
外切りを行う選手は主にWGとなるが、試合によってはCFも担当する。

CL準決勝のバイエルン戦で見ると、ボールサイドのWGのドゥエが、敵SBを切りながらCBへプレスをかける。
逆への展開を許さないよう、逆WGのクヴァラツヘリアが、CBに死角からアタックできる位置を取り牽制する。
CFのデンベレと中盤のビチーニャが前を向かせないように敵CHにプレスをかけることで、選択肢を奪う。

WGによる外切りが外された場合、右サイドではSBハキミが、左サイドではIHエメリがSBにプレスをかけていく。
守備で激しく当たることのできるネベスは、トップ下を見る形でDFラインに入ることが多い。
敵左WGに対しては右CBのマルキーニョス、0トップとして頻繁に降りるケインには左CBのパチョがついていく。


相手がGKを含めてビルドアップを行う場合、WGが敵CBに引き続き、継続して横切りプレスをかける。
仮にCHを経由してCBへパスを繋ぎ、横切りプレスを外された場合、ボールサイドのIHがプレスに出る。
この時、逆IHはボールサイドのCHへとスライド、プレスを外されたWGが逆CBとCHへのパスコースを切るようにポジションをローテーションして逃げ道を塞ぐ。
こうして前方でパスコースに制限をかけ、引っかけてショートカウンターに移行するか、ロングボールを蹴らせることでボールを回収する。
自身の守備ラインを越えられた際のアタッカー陣は、バックパスを切るようにポジションを取る。
そうすることで、速攻の際に高い位置で攻撃をスタートすることが可能となる。
また、自身が切っているパスコースとは別の位置にバックパスが出た場合でも、素早くプレスに出ることが可能だ。

特にデンベレは、そのスピードもさることながら、バックパスが出るより前にスタートを切っているほど早いタイミングで寄せに向かうことができる。通常、単騎でのプレスはNGプレーである。しかし、デンベレは敵選手がサポート位置につくよりも早く、パスコースを切りながらボールホルダーに到達することができる。そのため、単騎でもボールを蹴らせることができるのである。

相手のサポートが間に合っていないため、ボールを蹴らせた直後のデンベレはオフサイドポジションに位置することとなる。しかし、オフサイドポジションから戻りつつ最前線に現れることで、DF陣は守備が組織化される前に死角を突かれ、急な判断を求められる。

また、WGの選手が抜け出しに成功し、自身より前に位置すれば即フリーの状態を得ることができる。
こうした要素は当然、ポジティブ・トランジションにおいて大きなアドバンテージとなる。
ポジティブ・トランジションにおいて重要な要素となる、ボール奪取設計、人員設計、奪取直後の判断とアクション、そして前進方法。PSGの速攻は、それらを兼ね備えているといえる。

最大の特徴は何と言っても守備構造にある。攻撃方向を制限することで奪取の狙いが定まり、前を向いて奪うことが可能となる。また、前線の選手が高い位置でバックパスを切ることで、速攻時にスペースを突きやすくなっている。特に外切りでCBに寄せるWG陣は、奪取直後にハーフスペースに位置することとなり、敵SBが絞って対応すればサイドのスペースを突きやすい。
中盤が前を向いて奪うと、ビチーニャを中心として、前線のスペースへ精度の高いスルーパスを送り込む。速攻が難しい場合にボール保持に切り替えるという判断も的確だ。優先順位は中央3レーンの背後、SB背後、中盤脇となる。

前線の選手はペナルティ幅に広がりつつ、相手の守備ラインにギャップを生み出し、間合いを取る。デンベレは膨らんで相手と距離を取り、パスコースを作るプレーが抜群に上手い。サイドのボールホルダーは内側にボールを運び、前方ニア側の選手はボールと逆方向に膨らむように動き、逆サイドは離れるようにしてマークを外す。
デンベレに加えて突破力のあるクヴァラツヘリアやドゥエはボールを受けた後、得意の間合いから相手を外して強烈なシュートを打ち込むことが可能だ。
後続にはスプリント力に長けたハキミやメンデス、ビチーニャが位置し、低い位置から駆け上がり、速攻に選択肢を与え、分厚い攻撃を形成する。
PSGはポゼッション率の高いチームだ。CLでも1試合平均63.4%でバルセロナに次ぐ2位の数値である。

4-3-3を採用する彼らの攻撃の大きな武器は、DFライン背後への抜け出しだ。
ビルドアップで、DFライン背後を取る下準備を行い、柔軟なポジションチェンジを駆使してスペースを生み出し、各選手の個人戦術やスピードも活用して背後を取る。
背後をケアされた場合は、空いた手前のスペースからミドルシュートを狙っていく。

まずはビルドアップの局面に着目する。キーマンは、CLにおける1試合平均パス本数が全体で1位となっている、アンカーのビチーニャだ。
彼は機動力が高く、プレーエリアの非常に広い選手だ。
・相手の守備の1stライン手前まで降りる
・サイドのボールホルダーに寄る
・3列目から前方に抜ける
といった形で、多くのエリアに顔を出す。
相手の守備の1stライン手前まで下がってボールを呼び込むことで、敵のプレスがかからない選手を増やすことが可能となる。ボールホルダーはフリーの時間を得ると、DFライン背後へ向けたロブパスを狙うことができる。

ボールを受けたビチーニャは、横方向のドリブルを多用する。横方向の動きに対して、相手はどこまでついていくかという判断に迫られる。相手のCFがついてくれば、中央や逆サイドにスペースを生み出すことが可能となる。右IHのネベスは、敵の守備の1stライン上でボールを呼び込み、後方と前方の橋渡しを行うことができる。
ビチーニャの横ドリブルに相手がついてこない場合、ビチーニャはドリブルで1stラインの通過を図る。通過のタイミングで相手がリアクションを取れば、反応した選手を引き付けることで空くスペースを活用し、前進の助けとなる。
こうした横方向の動きは主にビチーニャによって行われるが、ネベス等他の選手達にも見られるビルドアップのテクニックとなる。

サイドのボールホルダーに寄る動きは、数的優位をもたらすだけでなく、相手に受け渡しの判断を迫る動きとなる。この動きによって空いた中央のスペースに、ネベスやエメリといった中盤の選手が入り込み、WGやSBが続くことでスペースを連鎖させていく。

横への移動に加え、前方に抜けることでスペースを生み出す動きも見せる。3列目から抜けると、相手の前線が戻って対応することが厳しくなる。そのため、受け渡しの判断と数的な優位を生み出すことが可能となる。
この柔軟なポジションチェンジは、背後を取るうえで重要なポイントとなっている。
PSGは中央とサイドをリンクさせるポジションチェンジを多用する。特に、中の選手が抜ける、近い選手が抜ける、抜ける時はレーンも変えるという原則の元に行われる、横方向のワンツーが多い。

横方向のワンツーは主にWGとIHによって行われる。
IHは平行か、やや高い位置からボールホルダーであるWGに近寄る。WGはIHにパスを出し、内側に移動しながらリターンのパスを受ける。
IHはパスを出した後、サイドの裏に抜けるように移動する。すると、相手はいくつかの判断に迫られる。
・SBがWGについていくべきか?CHが出ていくべきか?
・IHに対してはどうか?

SBがWGについていけば、サイドのエリアが空くため、IHがフリーになりやすい。
バックパスを介してサイドに展開することも可能だ。

CHが出ても、IHがSB背後を取りやすい。
WGをフリーにすれば、中や逆サイドへの展開が楽になる。
バスケットボールのピック&ロールのような形で、IHが流れる際に敵SBをブロックすることで、フリーを得ることもできる。

パス交換を用いずにIHがサイドに流れることで相手を引きつけ、中へのパスコースを作り出す動きも多い。
この時、中の選手が流れたIHを利用することで、3人が関与する連携攻撃が生まれる。
中と外をリンクさせるよう、中へとボールを運ぶが、人が外に流れて相手を押し込むので、中が空く。中と外をリンクすると、守備に的を絞られることなく、攻撃の選択肢を保ったまま前進することが可能となる。また、外から中へと向かうタイミングで、相手のDF陣の視野を揺さぶり、背後に抜ける動きを助けることにつながる。

内の選手が外へ、外の選手が内へとレーンチェンジを行うため、右SBのハキミが左のチャンネルを抜けるシーンも見られる。それをチームとして許容することのできるコンセプト共有がなされている。
リヴァプール戦においては、ポジションチェンジの果てに、SB2枚が最前線に立つこのような配置をとる場面も見られた。
レーンチェンジで内と外につながりを持たせることで、スペースと死角を生み出し、背後への攻撃が決まりやすくなる。

背後を取るスイッチが入るのは、相手の守備の1stラインを越えたのち、ハーフスペースにボールを運ぶことで相手DFの身体の向きが内側を向いた瞬間である。

CL準決勝バイエルン戦の、クヴァラツヘリアのゴールを例に見る。メンデスからドゥエへと渡ったパスから、クヴァラツヘリアが背後に抜け出してゴールを奪ったシーンだ。
左SBのメンデスがボールを持つ段階では、スタニシッチの身体の向きは、右脚をコーナーフラッグの方向に向け、ボールとクヴァラツヘリアを同一視野に捉えている。

しかし、シャドー位置のドゥエが流れ降りて受ける際、ボールを視野に捉えるため、右脚をクヴァラツヘリアの方向に向けるよう、身体の向きを入れ替えた。すると、クヴァラツヘリアを同一視野に捉えるのが難しくなるため、背中に飛び込まれやすくなる。
クヴァラツヘリアは、一度足元で受けるようなステップを入れてから抜け出し、ゴールを奪って見せた。ドゥエが降りたことでCBを釣り出し、カバーの利かない状態となっているのも、見逃すことのできない重要ポイントだ。ドゥエは降りる直前、背後へ抜ける動きを入れることで、CBウパメカノとの間合いを確保している。
こうした個人戦術をこまめに取り入れているのもPSGの強みだ。

スタニシッチは、ドゥエに入った段階で絞ることで、ボールとマーカーを同一視野に捉えることができたが、ドリブル突破の得意なクヴァラツヘリアに対して間合いを取られるのを嫌う心理も働いたと考えられる。
スタニシッチはビルドアップに優れた選手であり、スピードや対人守備に特別優れているわけではなく、この試合のひとつのポイントとなった。
逆に、ドリブル突破と背後への抜出しの2つの脅威を与えられるクヴァラツヘリアは、WGとして現在、世界最高峰の実力の持ち主だといえる。ただ単にドリブル突破が得意なだけではなく、それを選択肢の一つとすることで別の脅威を与え、2択を迫り、状況に応じて適切な判断を下す。それこそが、WGの実力を測る物差しとなる。ただ単にスピードと突破力があるだけではWGとして十分とは言えない。

この、シャドーやCFのデンベレがWG手前に流れ降りて受ける形は、5バックを相手にする際も多用される。ボールを受けてから内側に持ち出すことで、相手の視野を操作しやすくなる。

CL決勝にて、堅固な守備を誇るアーセナルから同点となるPKを奪取した際も、先述の横方向のポジションチェンジと、流れ降りるデンベレの関係性から生まれたものであった。横移動を見せるデンベレに対し、マーカーがついていくものの、間合いを取られる。

完全にDFの死角を陥れたわけではないが、逆脚ワンツーで相手の重心を手前に引き寄せ、ボールとクヴァラツヘリアを同一視野に捉えられない状態を作ったうえで背後を取ることに成功している。
守備側にとって最も怖いのは、背後を取られることだ。PSGはその背後を常に狙っている。

ボールを奪われた際は素早い囲い込みが行われる。
ボールより前方に位置する選手は、バックパスを切る。前方だがボールに近い選手はボールホルダーにプレスバックをかけ、主に中盤とSBにより前向きのプレッシングをかけてボール奪取と攻撃の遅延を図る。エメリ、ネベス、ビチーニャの中盤は180cmに満たない、比較的小柄な選手達によって構成されている。しかし、フィジカルコンタクトを厭わない激しい守備ができる。切り替えも早く、ネガティブ・トランジションの局面で大きな貢献を見せている。
CB陣は背後をケアし、特にパチョは状況に応じて前進して身体をぶつけ、前を向かせない。仮にレイオフパスを許した場合は、手で相手を押すことで、自身の裏にそのまま侵入されることを防ぐプレーも見られる。
とにかく相手に前を向かせないことが重要となる。そうして、ボール奪取に至らずとも攻撃を遅らせる。
遅らせて相手にバックパスを強いることで、守備陣形の形成と、マンツーマン守備に移行する時間を得られると共に、バックパスを切っている前方の選手による素早いチェイスでボールを敵陣深くに押し返す。もしくは、ロングボールを選択させて回収する。
ただし、相手を押し込んだ後のDF陣による事前配置はさほどなされておらず、出足が遅れることも少なくない。より中盤メンバーの切り替えが重要となる。

PSGは、突出した攻撃力を持つ前線の選手が献身性まで備えているため、どの局面においても強みを持ち合わせたチームとなっている。
ただし、決して無欠というわけではなく、弱みとなる部分も存在している。まずは中切りプレッシングの回避だ。PSGは繋ぐ意識こそ強いものの、相手のプレスの矢印に逆らうようなパス回しは多くない。そのため、相手の誘導に対し、正直にパスを回す傾向が強い。そうなると、SBの位置でプレスをはめ込まれてしまう。
そんな時に打開策のひとつとなるのがロングボールだが、ここの設計も弱い。DFライン背後へのボールを持ち合わせるのは先述の通りだが、それはスペースを作った上での話であり、プレス回避の術となるものではない。
長身選手も不在のため、ネベスとビチーニャの運動量、コンタクト、セカンド回収に下支えされることとなる。しかし、中盤は流動的に前方に抜けるため、中央が空洞化した状態でロングボールを選択し、ピンチを招くケースも散見される。
逆に、プレッシングをかけてロングボールを蹴らせた場合も、バイエルンのようにロングボール戦術が整った相手の場合、素直に回収するのが難しい。バイエルンは前線が階層構造を作り出すことでスペースを生み出し、ケイン+αでボールを収め、WGが背後を取るようにして競り合う。この形に対し、PSGはボールを回収されるケースも少なくなく、実力の拮抗した紙一重の勝負となった。
守備の面では、マンツーマンという特性を利用され、ボールホルダーの背中側に回るオーバーの動き。そしてPSG自身が得意とし、バイエルンに実践された、パブロビッチの横方向のドリブルや、CB陣の抜ける動きに対して対応が後手に回るケースが見られる。
こうした課題が見られつつも、強みを前面に押し出し、CL連覇を果たしたPSG。エゴと規律が共存し、個と組織を融合させた、まさに歴史に残るチームであった。3連覇に向けてどういった変化がもたらされるのか、来季の戦いにも注目だ。

王者PSGに立ち向かったスロット、サージュ、そしてアルテタ、ロシニアー達、新進気鋭の若手指揮官達の戦術については、概要欄のリンクに記載された書籍にて。
26-27シーズンでは、取り上げた監督の多くが新たにプレミア上位チームに集結しており、新時代の到来を予感させます。
28人もの若手指揮官の戦術と、サッカーの原理・原則を学ぶことのできる一冊となっています。ぜひお手に取ってみてください!
]]>昇格1年目の昨季は、シーズン序盤に降格圏を彷徨う苦しい戦いを強いられた。しかし、14名と大量に獲得(ローン含む)した冬の移籍市場からの新規加入選手の組み込みに成功。強豪相手でもボール保持の信念を貫いて戦い、シーズン後半の獲得勝ち点は9位。最終的に10位まで順位を上げて見事に残留を果たした。
今季はさらにポゼッション率が高まり、序盤から高順位につけている。ただし、彼らが勝ち星を重ねているのは、ポゼッション率が高いからではない。
ここからはセスク率いるコモの戦術に迫っていく。

セスク率いるコモは、ポゼッション率が61%と、セリエAで最も高い。急ぐことなくじっくりとボールを回して前進機会をうかがいつつ、慌ただしいオープンな展開で不確定要素が増さないようにゲームをコントロールする。
34節での得点数はリーグ2位となっているが、それと同等に優れた数字となっているのが失点数だ。28失点もリーグ2位。彼らのボール保持は相手の攻撃機会を取り上げているともいえる。
ボール保持の時間が長いが、それ以外の局面にも強さを見せる。スムーズに攻撃に移行するため、誘導プレッシングを組み込んだボール奪取設計が練られている。また、ボール保持を中心として見た時の補助的な局面となるトランジション局面も計算されている。
1局面に依存することのない、現代的な好チームである。
スタメン格の選手にはイタリア人が一人も居ない。そんなスカッドにおけるキープレイヤーは、ビルドアップの核となるCHのペローネ。そして高いボールコントロールを武器に、ファイナルサードで決定的な仕事を見せるアタッカーのニコ・パスだ。アタッキングサードでは、彼らの個人技が十分に発揮される。
コモはリーグトップのポゼッション率を誇る、ボール保持局面の時間の長いチームだ。しかし、コモの強みはむしろボール非保持の局面、ボール保持の終わりの局面、そしてボール保持の始まりの局面にこそある。
まずはボール非保持の局面を見ていく。
コモの守備の優れている点は、狙いどころを定めることで前向きに、攻撃に転じやすい形でボールを奪うことのできる点である。
彼らの守備は4-2-4、4-2-3-1、もしくは5-4-1でセットされる。

5-4-1のミドルブロックは、センターサークルの先端付近に前線を張り、サイドにボールを誘導して刈り取る形となる。CFのドゥビカスは、進行方向となるサイドを限定する役割を担う。彼は、ボールホルダーとなるCBと、逆サイドのCHの間のパスコースを切るようにポジションを取るケースが多い。このパスコースを消すことで、サイドを変えるのに要する時間を増やし、サイドの限定に繋げるのと同時に、味方のスライドに余裕を与えることができる。
同サイドのCBとCHのパス交換を許す形となるが、仮にこれが縦方向のパス交換となれば、それに続くパスは必ずバックパスとなる。つまり、チーム全体がプレッシングに移行する時間が生まれる。
また、ドゥビカスは自身の守備ラインを越えられる場合、斜めに追走するような形で逆CBへのパスコースと中盤へのパスコースの間にポジションを取り、進行方向を決定づける。

仮に、CBが逆CBにパスを出す場合、方向転換に時間を要する。その時間を利用して、逆SHがCBへと一気に距離を詰めてボール奪取を図ることができる。


SHはハーフスペースを遮断する。相手のCBが広がってビルドアップを行う場合、ドゥビカス1人では対応することが難しいため、SHが相手のSBもしくはCBに対して前向きにプレッシングをかける。CFとSHによって中央を遮断することで、外からの迂回を相手に強いる。ここで重要となるのがWBのプレッシングだ。WBは中盤の位置まで前進し、相手のサイドアタッカーに前を向かせないように斜め前方を切りつつ厳しく寄せる。ここがボールの奪いどころだ。
前方にプレスをかけたSHは必然的にバックパスを切るポジションに入る。こうしてボールホルダーを囲い込み、ボール奪取につなげる。
ここでネックとなるのが横への展開と、WBの背後のスペースだ。相手が横への展開を図る場合は、CHがタイトに寄せて同じく前を向かせない。前を向かせないように寄せるというのが非常に重要だ。
WBが1列前進して寄せる形となるため、その背後はDFラインがスライドし、CBによって補われる。DF陣はスピードの無い選手が多いが、狙いどころを定め、スライドの判断を素早く行い、連携を取ることで見事に補っている。
相手はサイドに誘導される前にロングボールでの打開を図る。その際のコモの中盤の選手は、相手がキックモーションに入るのに合わせて後方へ戻る準備を始め、セカンドの回収に切り替えていく。
いずれの場合も、CFのドゥビカスは中間のポジションを取っているため、即座にフリーの状態となる。また中盤より上の選手はみな細かなパスワークに長けているため、セカンドを回収したのちに相手のプレスを回避し、前進することが可能だ。

相手がサイドに誘導される前に、中央で楔を狙う場合。その場合、中盤の4枚で楔のパスを遮断する形となるが、隙間を通す楔に対しては、DF陣が積極的に前進して潰しに出ていく。ラモンやカルロスは前進守備で激しく寄せて奪うことができ、カバーの動きも秀逸だ。基本的なカバーを当たり前にこなすことができるため、迷いなく寄せることができる。

4-2-3-1に関しても誘導して刈り取るというコンセプトは明確だ。CBからSBにボールが入るタイミングで、SHがSBに寄せに出る。この時、SHは前向きにプレスをかけられるように守備ラインを上下して調整する。
敵CBとSBの距離が近い場合、CFがCBとCHを同時に見やすい状態となり、サイドの限定が容易となる。
逆に、敵CBとSBの距離が遠い場合、CFはCBとCHの2方向を切るのが難しくなる。ただし、CHを切ることでCBへのバックパスに制限し、そのパスに合わせてプレッシングに移行することが可能となる。ドゥビカスが横切りで寄せることもできる。

相手が3バックの場合、SHがCFのラインまで押し上げ、外を切りつつHVにプレスをかけるケースも見られる。2トップが確実に相手の中盤へのパスコースを切っていること、そして、SHがHVにすぐに寄せることのできるパススピード、距離、タイミングであることが条件となる。
この場合においても、SHの外に出てくるボールに対してはSBが激しく寄せ、CB陣がスライドして背後をケアする。
FW陣は常に進行方向に制限をかけるのではなく、守備陣形が整うまではスペースを埋めて時間を作る。相手のボールホルダーや配置状況を見て制限に入っていく。
コモはボールを奪った後の速攻に優れたチームだ。では、どのような点に優れているのか?

まずはボール奪取の設計だ。狙いどころを定めた守備により、中央でもサイドでも前向きにボールを奪うことができる。カバーシャドウを用いた誘導プレッシングは、人ではなくパスコースに入る形となる。これはつまり、奪取直後に即、フリーとなることを意味する。中盤が近い距離を維持して楔を消すスライドを行うことで、ボール奪取後に近距離のパスで相手の1stプレスを外すことも可能だ。
センターサークルに前線を敷くミドルブロックを採用し、相手が広がってビルドアップを行うことによって中央が空く構造的優位性を活用する。
CFのドゥビカスはスピードを生かしてサイドのスペースでボールを収めることも、相手DFと身体をぶつけながらパワーを生かして収めることも可能だ。腕を使って距離をとるのも上手い。ファーサイドに流れつつボールを呼び込む、もしくは囮となることで、ボールホルダーや後続の味方に選択肢を与えるプレーを見せる。

コモはポゼッション率の高さが示す通り、粘り強くパスをつないで攻撃を組み立てる。システム的には3-2-5や、4-3-3、4-2-3-1が採用される。

コモは「カバーシャドウの背中側」へのパスを狙う。例えばGKのブテは、横向きのプレッシングで制限をかける相手に対して執拗に相手の背中を狙い、チームに攻撃の選択肢を与える。
ただ単に逆サイドに展開するのではなく、背中側に送る方がスペースを得ることができる。さらに、相手のスライドにも方向転換と乱れを生じさせる。「揺さぶる」とは、サイドを変えるだけではないのだ。

ビルドアップ時は、CHのペローネが相手の守備の1stラインまで降りて相手のCHもしくは1stラインの選手を引き付けることでスペースを生み出し、ビルドアップの助けとなる。
中盤の選手の関わり方はセスクの戦術において重要なポイントの一つだ。ボールを持つCBに対し、必ず逆サイドのCHがパスコースを作るよう、主にアンカーの位置にポジションを取る。彼らCH陣は、「誰がプレスに出るか」という迷いを与え、相手を引き付けることで空いた選手にパスを送って前進を図る。
ペローネは、自身が引き付けることで空いた脇のCBにパスを出し、内側後方でサポートポジションを取る。相手CHが前進してくるのであれば、その背後に逆CHのセルジ・ロベルトが移動してパスを呼び込む、といった具合に、2CHが流動的、的確にポジションを入れ替えながらボールを前進させる。
相手の1stラインを抜けた後は、ワンツーを利用した2vs2での攻撃、サイドでのローテーション攻撃が多く見られる。
ワンツーは、無駄なターンと展開を行わずに相手の背中を突くという点で、先述の影の活用と同じ概念である。3人目が関与するエイトのようなローテーションも見せる。バジェやバトゥリナといった細かなパスワークを得意とする選手が多いため、効果的に活用されている。
サイドでは、幅取り役の挙動に合わせたサポートが行われる。左はWBのバジェとシャドーのバトゥリナが連携を取る。外で張る選手に対してインナーラップでサポートを行い、相手が食いつけばカットインから中へとボールを展開していく。いずれも裏を取ることのできるプレイヤーだ。

右サイドはWGのディアオが固定で幅取り役となる。彼の動きに合わせて、SBのスモルチッチが斜め後方でのサポート、オーバーラップ、インナーラップといったサポートを行う。スモルチッチは時に、パスが降りて空いたスペースに斜めに入りこむ等、スペースを見つけること、チームの配置バランスを調整することに長けている。トップ下、時にCFを務めるパスも右寄りに位置することが多く、平行のサポートを入れる。
しかし、ディアオはそんなサポートを有効に活用することができず、球離れが遅れる、無理な仕掛けを行う等、攻撃に停滞を生んでしまうことが多くなっている。
両サイド共に、IHやシャドーを務める選手がサイドに流れつつ降りてボールを引き取り、中央に位置する相手選手を引きずり出す動きも見せる。

相手がマンマークで守備を行う場合は、CHが低い位置に降りて両SBを押し上げる等のローテーションに加え、主にトップ下を担うパスがCHの位置まで降りることで数的優位もしくはスペースを生み出す。
フィニッシュに決まった型は無い。
ただし、ゴール前のDFの枚数が少なく、ボールホルダーがフリーならクロスをあげる、CHが前を向いて受けたらワイドの選手が裏を狙う、影を利用してパス交換を行う等、ファイナルサードにおける有効な攻撃原則に則っている。それゆえに、即興でも連携を取ることができ、その場の状況に応じて即興でゴールを生み出すことができる。
また、ペローネ、ダクーニャといったキック精度の高い選手に加え、バトゥリナ、パスといったドリブル能力の高い選手による打開等、選手のクオリティも十分に活かされている。
ただし、こういったプレーの中でレーンを共有するというポジショナルな志向は薄い。ローテーションが多いものの、相手DFの裏と表で2択を生み出すようなプレーが少ない。時折CFのドゥビカスと右シャドーのパスが、それぞれ裏と手前を狙う程度だ。
このレーン共有がなされた時は、効果的な攻撃が生まれやすくなっている。
配置的優位をさほど活かさない攻撃は、無駄な人数過多が発生する要因にもなっている。ビルドアップに人数をかけすぎて、前線に配置される選手が少なくなる状態に陥るケースが見られるのは、昨季から続く課題と言えるだろう。

ボールを失った際、ボールより前に位置する選手、逆サイドの選手は素早く戻り、ボールに近い選手はプレッシングをかけて攻撃を遅らせる。
後方の選手は、失う前から切り替えの準備を進める。基本的にCB陣は、チャンネルのケア、中盤まで前進してのボール奪取、押し込んだ後のアタッカーケアと、守備範囲が広い。
後方に5枚確保し、CHのペローネもカウンターの経路を塞ぐようにボールホルダーにプレスをかける。
各ポジションの選手がネガティブ・トランジションにおいて役割を果たすものの、CB陣が相手のアタッカーを潰しきれず、前を向かれてしまうと厳しくなる。CB陣はスピードに不安のある選手が多く、背後を狙われるとひとたまりもない。そのため事前の準備と、自由にプレーさせないために、前を向かせないプレッシングが重要となる。
ポゼッション率の高いコモだが、それがコモの強さの秘訣というわけではない。それ以外の守備、トランジション局面が密接に関わり、相乗効果をもたらしている。助走をつけた状態で次の局面に移ることができているのが、彼らの強さの秘訣となっている。

躍進するコモの指揮官セスクをはじめとする、新進気鋭の若手指揮官達の戦術については、概要欄のリンクに記載された書籍にて。
28人もの若手指揮官の戦術と、サッカーの原理・原則を学ぶことのできる一冊となっています。ぜひお手に取ってみてください。
]]>彼らの採用する5-4-1守備システムは、今や主流とも言える3-2-5攻撃システムとセットで扱われることが多い。3-2-5から両翼を下げるだけで5-4-1の守備がセットできるからだ。つまり、現代サッカーの新スタンダードだ。つまり、パレスの教科書のような5-4-1守備組織を学ぶことは、現代サッカーの守備の教科書を学ぶのと同義と言っても過言ではない。
今回はそんなクリスタル・パレスの守備戦術にフォーカスする。

グラスナー率いるクリスタル・パレスは、堅守が売りのチームだ。


2025年終了時点、18試合で20失点はリーグで4番目に少ない。中でも、オープンプレーでの失点に限れば、アーセナルと並ぶ7でリーグ最少である。
ポゼッションはリーグ16位。守備に回る時間が多い中で、被シュート本数は5番目に少ない。リーグ3位のタックル数、リーグ4位のインターセプト数、リーグ3番目に少ないファウル数が示す通り、狙い通りに無理なく守備を遂行している。ゴール寸前の水際で身体を張って守るのではなく、よりソリッドに、ペナルティエリアの手前で相手の攻撃をシャットアウトしている。
ただし、セットプレーからの失点はリーグで5番目に多く、明らかな弱点となっている。また得点数は21でリーグ14位と、攻撃面に課題が残る。
グラスナー率いるクリスタル・パレスの守備は5-4-1で構築される。ELを制したフランクフルト時代と同様だ。ただし、当時に比べて、守備の1stラインをハーフウェイラインの高さに設定した、低い位置での守備ブロックの質が大幅に向上し、安定感がもたらされている。

基礎となるのはなんといってもチャレンジ&カバーの原則だ。ボールホルダーがフリーにならないように絶えずプレッシャーをかける。そして、プレッシャーをかけた選手の脇の選手がカバーのために絞る。パスが出る前から寄せてしまうと、間や裏を取られる可能性が高まるため、パスが出てから寄せる。奇抜なことなど何もない。
奇抜ではないが、この基本的な原則を徹底することで、堅守が生まれている。アルテタ率いるアーセナルと同様だ。
カバーの動きが徹底されているため、どのポジションの選手も思い切ってチャレンジすることが可能となっている。ただし、ボールホルダーに対してどの選手がチャレンジに出るかという判断が非常に重要となる。
チャレンジ&カバーは同一守備ラインの選手だけで行われるものであってはならない。CFとCH、SHとWBのように、異なる守備ラインを跨いで行うことで、継ぎ目のない守備組織が構築され、より強度を高めることができるからだ。このライン間連携を行うにあたり、DFラインからCFまでがコンパクトである必要がある。
中央をプロテクトしてサイドに誘導し、サイドで囲い込む。無理な前進は絡め取って奪う。バックパスを選択した場合、それに合わせて押し上げてプレスに移行、もしくは守備陣形を修正して次の守備に備える。これが、パレスの大まかな守備の流れと原則だ。

4-3-3で攻撃するチームに対する守備を例に挙げる。ビルドアップの起点となる2CBに対して、CFのマテタ1枚だけで対応しようとすると、数的不利でプレスがかからない。そこでパレスは、CHの鎌田やウォートンがCBの寄せに出る。
この際、CFのマテタとSHは必ず絞って脇を固める。こうして隣り合う選手が絞って中央をプロテクトすることで、相手のパスをサイドに誘導することができる。

ここでSHが敵CBに寄せに出てしまうと、サイドに大きなスペースが生まれ、簡単に守備ラインを突破されてしまう。CHがCBに寄せに出られるというのは、原則に忠実なパレスの強みである。
CFのマテタが絞るという点も重要だ。アンカーへのパスを許してしまうと、サイドチェンジを行うための近道ができてしまうため、左右に揺さぶられてギャップが生じやすくなってしまう。最前線のマテタが、2列目の中盤ラインと協力して、継ぎ目のないブロックを形成する。

敵SBにパスが出たタイミングで、絞っていたSHがはじめて敵SBにプレッシャーをかける。当然ここでも、CFが絞ることでパスコースを制限する。ただし、CFのマテタは状況に応じてCBへのバックパスを牽制する位置にポジションを取ることで、退路を封鎖する。
物理的にパスコースが切れていなくとも、パスを出せないと心理的に思わせれば、それはパスコースが切れていると同義だ。この部分の駆け引きが、マテタは非常に上手い。現代サッカーにおいて貴重であり、今後ますます必要となるであろう能力だ。

サイドを限定した後は、後方のメンバーがチャレンジ&カバーを駆使してボールホルダーへのアタックと背後のケアを行ってボールを回収する。
サイドに誘導してから、敵WGにパスが出るタイミングでWBが縦を切りながら寄せ、脇のCBがその背後をケアし、SHが横を切り、CFが状況に応じてバックパスを切るイメージで囲い込んでボール奪取を図る。
サイドに出た後のSHは2通りの守り方を見せる。まず、守備陣形がコンパクトに保たれており、WBが1列前までアプローチをかける場合、SHは WBの斜め後方に入って中への展開を防ぐ。よりブロックとしての強度が高まる守り方だ。手詰まりとなった相手がバックパスを選択するのに合わせてプレスをかけることで、全体の押し上げとボール奪取を図る。

守備陣形がやや縦に広がっている場合、SHが WBの脇まで戻ることが難しい。その際、SHは敵のアンカー、もしくは後方へのバックパスを切るように、斜め後方から挟み込むようにプレスバックをかける。逃げ道を消し、よりボール奪取に重きを置いた守り方だ。
相手のIHが中盤の脇でボールを引き出す場合、グエイやリチャーズ等、脇のCBが前進して潰しに出る。特に、背を向けて受ける選手にはガツンと寄せる。その際、WBやCBのラクロワが空いたスペースをカバーする。
カバーが居なければ、グエイ達は背後を憂いて前進することができなくなってしまう。

敵のIHがサイドに流れる場合、WBが前進して寄せ、脇のCBが敵WGを見る形で受け渡すことが多い。ただし状況による部分が多く、マークの受渡しを確実に行うことで臨機応変に対応することが可能となっている。例えば左サイドであれば、WBのミチェルではなく守備範囲の広いグエイが前進するシーンもしばしば見られる。
相手が3-4-2-1であれば、配置的に5-2-3と噛み合うため、マークの所在がはっきりする。いわゆるミラーゲームだ。「ボールホルダーに対してどの選手がチャレンジに出るか」という判断が容易になるため、守りやすい。
リーグ屈指の堅守を誇る、グラスナー・パレスの5-4-1守備組織。では、攻撃側からしたら、どのように攻略を図れば良いか?弱点はどこなのか?

まずは、ハーフスペースからのクロスだ。パレスは強豪相手に、ハーフウェイラインに前線を敷く低めの位置にブロックを築くことが多いが、ゴール前でギリギリの攻防を強いられるほど引くことは少ない。ただし、敵WGから押し込まれた際、SHがサポートポジションを取るとハーフスペース低めに位置する敵選手が空くこととなる。そこからアーリークロスを送り込まれると、対応が難しい。出所の封鎖に間に合わない可能性が高まり、出し先はDFライン背後となるため、視野、体勢、連携等、あらゆる面で守りにくい。

低い位置である場合、マークの受け渡しがシビアになるため、大外の選手に対してSHが出るケースが増える。これは他の5-4-1を採用するチームに多く見られる現象だ。パレスの場合は押し込まれる前の段階でプレッシャーがかかるため、ペナルティまで押し込まれることは少なく、大外はSHではなくWBがケアする。
ただし、そんなパレスにおいても時折発生する現象だ。こうなると、よりハーフスペースクロスへの対応が難しくなり、弾いた後のセカンドボール回収でも後手を踏むこととなる。
配置的な観点で言うと、3-3-4のような形でのアプローチを見せたアーセナルは、効果的にチャンスを生み出していた。

まずはCFのマテタの守備を乱すところからだ。右SBのティンバーを上げることで形成される3バックで、CBの位置に入るカラフィオーリ。彼がマテタの脇からドリブルで運ぶことで、マテタに強いる守備範囲を広げた。
さらにアンカーに入ったノアゴールが、マテタと中盤ラインの間にポジションを取り、時に前方に抜けてスペースを作成。脇のCBがボールを持つ際にCBとノアゴールで2択のパスコースを作り続けることでマテタの守備基準を乱した。
脇のCBにSHが出ると、敵WGと相対する WBとの距離が開き、 WBのカバーに入ることができなくなる。WGのマルティネッリは、カバー不在で侵入しやすくなった中央へとカットインしてからのハーフスペースクロス。そして、その選択肢を見せることで活きる縦突破でチャンスを演出していった。
スペースを埋めるため、パレスはボールホルダーへのプレスに出にくくなった。中盤とDFのライン間に配置された選手も、プレスを躊躇させる要因である。

ボールホルダーへのプレスが弱まると、アーセナルはフリーのボールホルダーからDFライン背後に向けてロブパスを送り込む攻撃手法も見せた。WG陣が脇のCBの背後に斜めに抜ける形だ。
弾かれた場合、中盤の選手がセカンドボールを回収して二次攻撃に繋げるという、別局面からのアプローチも効果的に利用している。
そして、パレスの守備局面とは異なる、別局面からの攻撃という観点で、セットプレーも重要だ。冒頭でも述べたが、堅守クリスタル・パレスはセットプレーでの失点が多い。特に、今季最多の4失点を喫したリーズ戦のほとんどは、ロングスローを含むセットプレーによるものであった。
オープンプレーでの守備時の失点数が非常に少ない、堅守のクリスタル・パレス。
リーグ屈指のソリッドな守備を見せる反面、攻撃面に目を向けると、ビルドアップは得意としていない。少しでもプレスを浴びれば、リスクの少ないロングボールを選択する。ターゲットとなるのは、CFのマテタだ。
守備で重要な役割を果たすマテタは、攻撃においても最重要プレイヤーだ。類稀なフィジカルと安定したボールコントロールで悉くボールを収め、フリックやレイオフでチャンスを作り出している。
そんな攻撃の選択肢の少ないパレスだからこそ、日本代表・鎌田大地の存在も、より貴重なものとなっている。中盤で起用される彼の相方、ウォートンと共に、シンプルなパス捌きで決定機を演出している。少ない手数で攻撃を完遂するパレスの攻撃のキーとなる存在だ。
守備に関しても、鎌田の1試合平均のタックル成功数は2.9回と、プレミアリーグにおいて8位となる数字で、彼の果たす役割の大きさを示している。
ソリッドな好チームであるが、攻撃面での不足と、セットプレーの弱さは、リーグ戦や勝負所において明らかな弱みとなる。上位進出を果たすためには、この2点をいかにクリアするかという点が大きな材料となるだろう。

現代サッカーにおいて必須項目ともいえる5-4-1の崩し方、守り方についてのより詳細な解説は、概要欄のリンクに記載された、2025年発売の書籍にて。
28人もの若手指揮官の戦術と、サッカーの原理・原則を学ぶことのできる一冊となっています。ぜひお手に取ってみてください。
]]>リーガ第10節、宿敵レアル・マドリードのホーム、ベルナベウでの開催となったクラシコに敗れたバルセロナ。勝ち点差は5に広がったものの、首位のライバルを射程圏内に捉えている。
得点数はリーグトップの28。カンテラ育ちの選手の成長が著しく、ロジカルな崩しと突出した個の力で得点を生み出している。
その一方で、ハイラインを志向する彼らのサッカーには構造的な矛盾が見られる。4失点で大敗した8節のセビージャ戦をはじめ、その他敗北した試合、失点シーン等には、乗り越えるべき大きな課題がそびえたっている。
今回の動画では、フリック率いるバルセロナの戦術と、構造的な矛盾にフォーカスしていく。


バルセロナは世界でもトップクラスである、非常に優秀な下部組織を有している。ヤマル、クバルシ、バルデ、ガビ、フェルミン・ロペス等、多くのラ・マシア出身選手が、トップチームで活躍している。
今夏はエスパニョールからGKのジョアン・ガルシアを2500万ユーロ。コペンハーゲンから19歳のバルドグジを200万ユーロ。そして、マンチェスター・ユナイテッドからラッシュフォードをローンで獲得。ピンポイントの補強に留まっている。
彼らのサッカーの特徴は何と言ってもハイラインだ。クラシコの後半22分、ベリンガムのゴールをオフサイドで幻のものとした1シーンは、統制の取れた動きを見せていた。
ただし、ハイラインの裏を取られてピンチを招くシーンも多発しており、早急な対応が必要となっている。
攻撃面では、ヤマルをはじめとした突出した武器を持つ選手が、個のクオリティで試合を動かしたかと思えば、後方で生み出した時間とスペースを活用し、ロジカルに前進して得点を奪うこともできる。
バルセロナには、ヤマル、レヴァンドフスキ、ペドリといった突出した武器を持つ選手たちが数多く存在する。彼らにシンプルにボールを預けることで、得点を生み出すことができるのは、バルセロナの強みの一つとなる。
彼らの理不尽なまでの個の力とは対照的に、ボールを前進させる過程ではロジカルな崩しも見せる。後方で数的優位を生み出し、そこで生まれる時間とスペースを前線の選手が享受し、動的な連携で活用していく。

4-2-3-1をベースとするバルセロナは、相手の守備が2トップであれば、CHのフレンキーがCB間に降りる、もしくは右SBのクンデが3バックの脇の位置に入る。後方を3枚とし、ボール保持の安定とともに2トップの脇から前進を図る。

相手が1トップであれば、必要以上にCHが降りることはせず、1トップの脇を利用して前進する。後方の枚数調整はCHのフレンキーか右SBのクンデが担うケースが多く、十分な働きを見せている。
後方で優位性を築くバルセロナに対し、相手が枚数を調整して対応する場合、前進してきた選手が空けたスペースを活用する。

例えば、CBに対して敵WGが対応に出てくる場合、CHのフレンキーを経由してSBのクンデにボールを展開する。ここに敵SBが前進してくれば、WGのラフィーニャへボールを送る。続いて敵CBが対応に出てくれば、敵ゴール前のDF陣が手薄となるため、レヴァンドフスキにクロスボールを送り込む、といった具合だ。

前線では、CHの脇に入るトップ下のダニ・オルモ、0トップのような形で敵CHの間で顔を出すフェラン・トーレスやレヴァンドフスキを中心に、楔の受け手が用意されている。彼らに敵CBが注意を向ければ、WG陣やSBのクンデが空いたスペースに抜け出していく。
当然、2トップの間でも、手前と裏の関係が作られ、一方が手前で相手を引き付け、裏に抜け出すスペースを作り出す。
後方の枚数調整でボール保持を安定させると、CBのクバルシやエリック・ガルシアは、こうした前線の動きに合わせて鋭いパスを供給することができる。

後方の選手、特にSBのクンデや、CHのフレンキーやペドリは、敵の中盤5枚を通過するために横向きのドリブルも用いる。横向きのドリブルに対し、アプローチに出た選手はどこまでついていくかという判断に迫られる。ついていけば、自身の後方にスペースが生まれ、斜めのパスを通される可能性がある。ついていかなければ、ボールホルダーがフリーとなるため裏やサイドへのロブパスという選択肢を与えることとなる。
CHはDFラインに降りる動きだけでなく、前方に抜ける等の囮としても広範に動く傾向が強い。ペドリがアンカー位置に降りて敵CHを釣り出し、CBからの楔のコースを空ける。

右SBのクンデがボールを保持している際、右CHのフレンキーがサイドに抜けて、逆CHのペドリを経由して前線にパスを送り込む動き等はよく見られる。

左サイドでは、CBのドライブに合わせて、WGのラッシュフォードが斜めに降りて相手のマークを外す動きを見せる。この動きに相手がついてきて、サイドにスペースが空けば、SBのバルデやマルティンが前進するという、ローテーションを見せる。いずれもタイミングが良く、マルティンはハーフスペースへ移動してラッシュフォードへのマークを薄れさせる等の動きでも存在感を見せている。

CBへの対応が緩ければ、CBはドライブ、もしくは味方に捌いてそのままペナルティエリア付近まで前進していくことも可能だ。

右サイドでは、SBのクンデが内、WGのヤマルが外という関係性で敵陣攻略を図るケースが多い。クンデは敵中盤の脇にポジションを取り、斜めにチャンネルへと抜ける動きを見せる。高さとレーンを変えるこの動きは、マークの受け渡しが難しく、ヤマルのサポートと同時に自身もチャンスに顔を出すことができる。
CBがボールを持つタイミングで抜けると、相手のSHが絞るため、ヤマルへのパスコースが空きやすい。逆にヤマルが張っているため、クンデの動きに誰もついていかなければ、大きく空いたチャンネルを陥れることも可能だ。

CHからトップ下に楔が入るタイミングでこの動きを見せると、同様に、相手SBのリアクションに応じて、自身かヤマルが空くこととなる。
ヤマルにパスが入るタイミングでインサイドを抜けると、ヤマルのカットインのコース及び、パスの選択肢を作り出すことが可能となる。
クンデの攻撃参加はタイミングも良さも相まって、相手に捕まりにくいものとなっている。クラシコでは終盤に決定機を迎える見事なランニングも見せた。
以上のように、バルセロナは、後方での優位性の創出と前線でのローテーション攻撃により、ロジカルな前進を見せている。
バルセロナのDFラインは非常に高い位置に設定されている。相手の攻撃の選択肢を狭めることとなるが、DFライン背後の広大なスペースを突かれるリスクを伴う。そのため、リスクヘッジは万全である必要がある。
背後にボールを送り込まれないためには、ボールホルダーへのプレッシャーと、ネガティブ・トランジションを迎える際の状態に注意を払う必要がある。しかしバルセロナでは、現状このどちらも欠けている状態となっている。

ハイラインを維持するために背後への危険なパスを出させないためには、ボールホルダーをフリーにしないことが重要となる。ボールホルダーをフリーにすると、精度の高いパスを送ることができるとともに、2列目、3列目の選手が抜け出す時間を与えることとなる。

バルセロナの守備では、SBの手前にスペースが生まれ、時間を与えやすい構造となっている。バルセロナは4バックの相手にプレスをかける際、SHのラッシュフォードやヤマルがCBへとプレスをかける。この時、パスコースに制限をかけずにまっすぐプレスをかけるため、SBがフリーとなる。バルセロナはこのエリアにプレスをかけることができない。なぜなら、前線がパスコースを制限しないため、SBがプレスに出るタイミングを掴めないからだ。
このSHとSBの間のスペースで時間を作られ、2列目や3列目の選手がスピードに乗った状態でハイラインの裏に侵入していくというシーンが多発している。後手を踏んでSBが対応に出ると、その背後を狙われる。CHが急いでカバーに出ていくが、逆ベクトルを取られて、中央へ展開される。

クラシコの1失点目のシーンは、まさにSBの手前のスペースを突かれた形だ。逆サイドからの展開に対し、SBバルデが対応に出る際、ラッシュフォードは中央のプロテクトを行わない。アーセナルのような守備の堅いチームであれば、必ず中央をプロテクトし、そもそもベリンガムにパスを出されないように対応する。
ベリンガムにパスが渡ると、CHのペドリが急いでスライドして対応に向かう。しかし、そのスライドの勢いを利用され、中央にいなされる。ベリンガムが前を向くと、当然CFのエンバペが背後に抜け出す。前を向かれた時点でラインを下げるようにコントロールされることが無いため、失点に繋がってしまう。

サイド深い位置に侵入された場合、DF陣は急いでゴール前を固めに戻る。フレンキーやペドリといったCH陣は、サイドのサポートに向かう。すると、DFラインの手前にフィルターがかからないため、マイナスクロスに全く対応できない状態となる。
ヤマルやラッシュフォード等SHは、低い位置まで戻ってサイドの守備を行うことも、絞って中央のプロテクトを行うこともしない。そのため、CHの守備負担は異様に大きくなる。しかし、ペドリもフレンキーも攻撃に特徴のある選手で、特別守備に優れた選手ではない。そのため、サイドのサポートに入っても、いなされるシーンが散見される。
セビージャは特に上手くバルセロナの弱点を突いて見せた。SHがCBにプレスに出るのを利用して、フリーのSBを活用し、サイドで時間を作り、後方の選手の追い越しでハイプレスを何度も破って見せた。
セビージャがバックパスを行うと、バルセロナのアタッカー陣、特にフェラン・トーレスは、後方の状態を見ることなくボールを追いかける。すると、後方との距離が開き、間延びする。間延びすればパスを繋いで前進しやすくなる。

また、フリーのSBに対し、クンデ等SB陣が前進すると、SB裏へのロングボールが選択される。この、GKのヴラホディモスから左WGのバルガスへのロングボールも、効果的に収まることとなった。
さらに守備の面だけでなく、攻撃にも問題がある。各局面がシームレスに、相互に影響を与える現代サッカーにおいて、攻撃が守備に影響を与えるのは必然だ。

バルセロナは良い形でネガティブ・トランジションを迎えることができていない。ヤマルやラッシュフォードは、ドリブルで仕掛けるタイミングが早い。味方が押し上げる前に仕掛けてしまうため、ロストした場合の陣形は間延びした状態となる。

また、個人での突破が難しいシチュエーションや、中央でサポートする味方がフリーであっても、そこを使わずに仕掛ける傾向も強い。ヤマルほどのドリブルの持ち主であれば、ドリブルを成功させて決定機を作り出すこともできるが、当然仕掛けの数だけエラーも発生する。ロブパスで味方の得点をアシストすることもできる多彩な逸材だが、ドリブルでの仕掛けに固執する感は否めない。
彼の才能は誰もが認めるところであるが、中央にはペドリが居る。オルモも居る。難しいシチュエーションでのドリブル突破で、弱点である被カウンターを受けるリスクが上がってしまうのであれば、中央でフリーとなっているタレントを活かす。
その方が、総合的に見てチームにとってはプラスに働くだろう。ドリブル突破が難しく、自身が苦しいから中を使うのではなく、自身にマークが集まることでフリーになる味方に素早く預け、味方を楽にさせる。中を使うといってもそのニュアンスが異なり、後者のプレーが、トランジションを含むチームとしての総合力を引き上げる。
無理な仕掛けは、味方からネガティブ・トランジションに備える時間を奪い、広大なスペースを突かれてカウンターを浴びる原因となる。バルセロナのカウンターでの失点はリーグ最多だ。
この問題は、彼らアタッカー陣だけではない。ペドリやフレンキーといった、中盤の選手をはじめとしたチーム全体で、狭いスペースをこじあける必要のある難しい経路でゴールに迫る傾向が強い。シンプルに横パスを出せるシーンでも、フリック、ヒールキック、ターンを選択する。こうしたプレー選択を、相手を押し込む前に行う。
こういったプレー選択は当然ミスが起きやすく、被カウンターの機会が増える。さらには相手の重心を下げきる前にカウンターを浴びることとなるため、カウンターの起点の位置が高まり、守備対応が難しくなる。
逆に、相手を押し込んだ状態を作れた際は、危険なカウンターを浴びるケースが少なくなっている。また、相手の攻撃サイドを限定するようにプレスをかけることで、SBが前進しやすくなり、プレスをハメることができる。

クラシコでの得点シーンにおいても、サイドを限定したプレスが発動したことで、ショートカウンターを繰り出すことに成功している。
ハイラインを志向しているのにも関わらず、プレスのかけ方と、ボールの失い方の足並みがそろっていない。これこそが、フリック・バルセロナのサッカーの構造が抱える、大きな矛盾だ。各局面の繋がりに綻びがあると、各局面を逆境の中で迎えることとなる。
現在のバルセロナは、局面間での相互作用が薄く、構造的な矛盾を伴っている。これは、一朝一夕で修正できるものではない。そして、シャビ・アロンソを招聘したレアル・マドリードに後れを取る部分であるといえる。
ただし、次から次へとトップチームで活躍できる選手を輩出する下部組織の育成力と、突出した武器を持つ選手による得点能力は世界でも屈指だ。
つまり、論理的、構造的な部分から良い意味で外れた、想像を超える要素。そして即座に判断のつかない長期的な、将来的な部分に強みを持っているといえる。
一見すると厳しい試合を強いられるであろう、CL制覇を目指す強豪との試合であっても、予想のできないような勝ち筋を見せる可能性を十分に秘めている。
いかにして構造的な矛盾と向き合うのか、予測不能のバルセロナの今後に注目である。

欧州各チームの指揮官が採用する戦術や、局面間の相互作用と構造については、概要欄のリンクに記載された、2025年8月29日発売の書籍にて。
28人もの若手指揮官の戦術と、サッカーの原理・原則を学ぶことのできる一冊となっています。ぜひお手に取ってみてください!!
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