個人的にそこまで好きな作品があるわけじゃないし、『白夜行』は読んだけどそこまで、、、、ってね。あ、でも『容疑者X』はすごかった。あれは本当にすごい作品。
しばらく、立て続けに読んでみようかな、と思います。あたくしなりの追悼。
まずは何と言ってもこれ。あたくしの大好物です。
アクロイド系ではあるのですが、アクロイド亜種とでもいうべき。んで「オリエント急行でした」ってんだから、罪な作品です。
とはいえ、純粋に叙述のレベルでいうなら、、、、うーん、イマイチ。
折原氏も解説で述べています。
p288
私は『仮面山荘殺人事件』は嫌いだが、この『仮面山荘殺人事件』を東野作品の中で三本指に入る傑作だと思っている。
これは言いえて妙かなー。
設定は良いんです。
山荘に集められた男女8人。そこへ突然、強盗がやってくる。しかも外は雪。電話も使えない。そのうえ、山荘の中で殺人が起きる。もうね、ミステリとしては「どうぞ好きにやってください」という舞台が整っている。
で、実際に読んでみると、かなり読みやすい。ページ数もそれほど多くないし、登場人物も多すぎない。東野圭吾の読ませる力でグイグイ引っ張られる。難しいことを延々考えさせるというより「じゃあ次はどうなるの?」と、ページをめくらせる。これが実に巧妙。
ただ、この作品で面白いのは、単純に「犯人は誰だ?」だけじゃないところ。登場人物それぞれに事情があって、誰もがちょっと怪しい。仲良しグループが山荘に集まってワイワイ、という話じゃない。それぞれに過去があって、秘密があって、それを死亡した朋美を中心軸にして物語が回転し始めます。
だから殺人が起きたあとも、「この人、何か隠してない?」となる。こっちとしても「あれじゃないか?」「いや、こっちか?」「いやいや、そんな単純なわけないだろ」とか、色々考えて。まあ、だいたい外れるんですけどね。そしてその後訪れる「そういうことだったのね」のために、ミステリを読んでいるようなところがあります。
ただ、個人的には、トリックそのもの以上に、読者に何を伝えないかのほうが面白かった。
同じ出来事でも、いつどのように説明されるかで意味が変わってきます。後出しミステリとでも呼びたいですね。読者に嘘をつく、というと言い過ぎだけど、あえて言わないことがある。真相が明らかになる。「?」と読者が思う。で、あとから読み返すと、「あえて伝えていない」ということが分かる。ここがうまい作品は強い。
東野圭吾の作品としては、後年の作品に比べるとシンプルな感じもするけど、そのぶん勢いがある。
あれこれ考えすぎず、「次はどうなるんだ?」で読み進められる。こういうミステリ、好きです。
]]>秋吉久美子が、どことなく幸薄くて良いんだ。リアルタイム世代ではないあたくしからすると、秋吉久美子は『のようなもの』のソープ嬢と、この作品のイメージ。
通底する「渡世人のつらいところよ」ってのが、なんとも染みます。
今回はマドンナに振られるっていうか、もっと大きなものと戦っている寅さんも素敵。
本当に男はつらいよ、と思いますね。
秀吉くんの顔もまたいいんだ。
]]>「いいか、よく聞けよ。おじさんはあのろくでなし親父の仲間なんだ。いい年をしておっかさんの世話もみねぇ。そんなお粗末な人間に、お前なりてぇか? なりたくないだろう。だったらな、おじちゃんのことなんかとっとと忘れて、あの母ちゃんと幸せになるんだ。分かったな」
だから本著でも好きなパートは『地雷グリコ』と『自由律じゃんけん』、そして『だるまさんがかぞえた』ですね。
ミステリ界を席巻した、最高級の頭脳戦!
射守矢真兎。女子高生。勝負事に、やたらと強い。友人・鉱田と彼女が巻き込まれるのは、子供の遊びをモチーフにしたゲームの数々。罠の位置を読み合って階段を上ってゆく「地雷グリコ」、独自手を追加できるじゃんけん「自由律ジャンケン」、歩数とかけ声の文字数を入札できる「だるまさんがかぞえた」。強者を相手に、真兎は譲れないものをかけて勝負に挑む。彼女が負けられない理由とは――。心揺さぶる、最高級の頭脳戦。
だから、『坊主衰弱』とか『フォールームポーカー』とかには、それほどピンと来なかったです。
それを抜きにしても、確かに頭脳戦としてとても面白い。
位置: 206
これは少し奇妙というか、念を入れすぎなルールに思えた。
「同じ手のあいこが五連続って、そんなことめったになくない?」
「いいえ鉱田さん。このゲームに関しては充分ありえます」
読者をゲームに引きずり込む力がすごい。ページを読む手をちょくちょく止めざるを得なくなります。「自分ならどうするかな」と読者への挑戦みたいなことをさせられます。場のちから、というべきか。本著にはそれがありますね。
位置: 367
「ず、ずいぶん意味ないことしますね」真兎は声をつっかえさせる。「八段目じゃ、ペナルティが二段分無駄に……」
「そうだな。だがそのかわり、おまえを スタート地点まで戻す ことができた。おまえはこれから、いままでと同じように 三の倍数のルート を上り始めるわけだ」
これね、ガツンとくるよね。そこまでは気が付かなかった。確かに、ハメるんだったら多少損をしてでも、スタート地点まで下げたほうがいい。すごく面白い展開。
でもこの後大逆転。そのロジックが、まぁ、なんというか、「偶然」の要素が強い気がしてはいます。
自由律ジャンケン
位置: 1,610
佐分利錵子の目は、射守矢の右手に吸い寄せられていた。
「ジャン、ケン、ポン」の「ケン」のタイミングで、予想外の先出し。
射守矢真兎が出したのは、〈銃〉 だった。
先出しOKというのが、まずは慧眼だよね。
それってありなのか?みたいな話だけど、自由律ならOKとのこと。それってもはやジャンケンではない気もするけど。
しかし虚を突くには間違いなく成功。
位置: 1,628
「あいこです」
椚が宣言し、同時に射守矢の頰が、にいっと持ち上がった。佐分利にとってその笑みは、殴りたくなるような憎たらしさとキスしたくなるような魅力が同居していた。
そんな笑みあるか?と思うけど、面白い表現。
位置: 1,694
「ポン、っと」
一瞬遅れて、 グー だった。
「第三ゲーム、勝者は佐分利会長です」
椚先輩が宣言し、会長は手をひっこめる。生徒会コンビは涼しい顔をしていた。
「ちょ……ちょっと待ってくださいよ先輩、いまのルール違反じゃないですか? 会長、真兎より遅れてグー出しましたよ」
「問題ない」
心理戦にドキドキします。こういうのが読みたいんだよ。
主人公の追い込まれ方も、スリルがあって大変によろしいですね。
位置: 3,059
「三巻でね、 悟 空 とクリリンが修行を始める前に、師匠の 亀 仙人が言うの。武道を習得する目的はケンカに勝つためでもちやほやされるためでもない。『心身ともに健康になり、それによって生まれた余裕で人生を面白おかしくはりきって過ごす』ためじゃって。亀仙人はとぼけた人だけどわたしはこれって真理だと思った。
例えが紛れもなくアラフォーのそれ。ドラゴンボールの3巻を持ち出すなんて。
しかし、これは真理だとあたくしも思う。人間のやることというのはすべてこの「ゆとり」を得るためだ、という主張はかなり納得いきます。
位置: 3,442
勝負どころで取るべきなのは、先攻か、後攻か……あいつらはいま、それを必死に考えとんちゃうかな」
火力重視の先攻と、情報重視の後攻。
私にはない見方だった。
徹底的に素人然とした主人公。読者の味方であります。これぞ駆け引きで、悲しいくらいそれの苦手な読者たち。
位置: 3,657
『素数 ね』
──素数。
2以上の自然数で、1とその数以外では割りきることのできない数。
「あ、そうか!」
数学の心得のないあたくしですが、これには気付きました。逆に言うとここまでが限界ですけどね。
位置: 4,292
「いや、最初から決めてたことだから。そのかわり絵空には、私の言うことをひとつ聞いてほしい」
「……何?」
真兎はわたしの目を見据え、はっきりと言った。
「私と一緒に、鉱田ちゃんに謝るんだ」
これね。最後まで読んでも、「別にそこまで謝らないといけないことか?」と思いますけどね。まー褒められたことではないけど謝罪をされても。された方の身にもなれよ、という気持ちもします。別に勉強で負けたことは絵空のせいじゃないし、その責任は受験の主体である自分に被らせろよ、という感情は湧きません?
位置: 4,412
どうやら 青 崎 有 吾が『カイジ』や『噓喰い』や『LIAR GAME』みたいな、オリジナルゲームで勝負する頭脳戦ものの新刊を出すらしい。
やっぱり身も蓋もない言い方をすればそうなりますよね。たとえが抜群にわかりやすいよ。さすが小川先生。
位置: 4,500
「一般的なゲームにオリジナルルールを付加する」ことと「青春小説のフォーマットを使う」こと、そして「勝負を通じて相手を理解する」ことを物語の軸に据える──これこそが、「オリジナルゲームによる頭脳戦もの」という難しいコンセプトを達成するために、青崎有吾が用意した戦略だ。
うーん、実に隙がない。
また解説も素晴らしく過不足ない。この上ない。まさに解説。解説にも隙がない。
]]>「6月24日は全世界的にUFOの日」 新聞部部長・水前寺邦博の発言から浅羽直之の「UFOの夏」は始まった。当然のように夏休みはUFOが出るという裏山での張り込みに消費され、その最後の夜、浅羽はせめてもの想い出に学校のプールに忍び込んだ。驚いたことにプールには先客がいて、手に金属の球体を埋め込んだその少女は「伊里野可奈」と名乗った……。
『最終兵器彼女』にはだいぶメンタルをやられたあたくし。本作については恥ずかしながら未読。アニメの評判も良かったけど、当時OVAは高価で手が出ず。懐かしい。
amazonで合本版があったので、思わず購入。20年ぶりの邂逅。懐かしすぎて泣けます。「あんときの復讐を遂げる」ってのは長生きする理由の一つになり得るよね。
位置: 4,312
浅羽がしどろもどろになって 懸命 の言い訳を始めたそのとき、どこかでセミが鳴き始めた。
「約束する? 誰にも言わないって」
それは、浅羽の懸命の言い訳を容易に断ち切るほどの、伊里野の口から出たとは思えないほどの強い口調だった。
(中略)
「一回しか言わない。質問するのもだめ。具体的な地名や日付は言えない。それでもいい?」
攻守は 瞬く間に逆転していた。
二周目になるとぐっと来る、ここのところ。いい仕掛けだよね。
位置: 4,622
ここが、ブラックマンタの四号機が 墜ちた場所。
ジェイミー・ザッカリーが死んだ場所。
だから、わたしは、ブランコに乗ったの。
すべてが明らかになると、イリヤが何をしたかったのか、ちょっと分かる。
位置: 5,316
「とにかく、相手がちょきはまず出してこないっていうだけでじゃんけんの三すくみの関係は崩れちゃってるわけだから、こっちとしては最初にぱーを出しておけば少なくとも負けはないのよ。
ほんとかよ、、、、と思ったらもうあっちの思う壺。
位置: 5,320
つまりね、相手にいきなりじゃんけんを仕掛けてぱーを二回連続。これだけでたいがいは勝てるの
ほんとかよ、、、、、と思ったら試したくなる。
位置: 5,436
「いいかね浅羽特派員! あのマイム・マイムというのはもともと、故国イスラエルに帰ったユダヤ人の開拓農民が砂漠で水源を発見した、そのときの歓喜を表現した 舞踏 だ!
調べたら本当だった。そうなんだ。
しかし、どうしてオカルトの人ってイスラエル大好きなんだろうね。
位置: 5,963
「つまりだな、伊里野は今、ファイアーストームの何たるかを知っている。なぜなら俺が説明したからだ。白状するしかなかった。教えてくれないのならもう基地の人の言うことなんかきかないとまで言われた。で、フォークダンスの話を聞いてあいつは舞い上がっちまった。大騒ぎだ。あいつの頭の中ではもう、ファイアーストームでお前とフォークダンスを踊るのは決定事項になっちまってる。けどな、」
そこで榎本は細いため息をついた。
「伊里野はたぶん、学園祭には参加できない」
浅羽は目をむいた。
「──そんな、だって、」
「さっき言ったろ、最近色々と忙しいって。すまん、今はそれだけしか説明できん」
含むんだよなぁ、いちいち。このあたりの現実の小出し感はさすがの一言。ファンタジーと戦争の出し入れが非常に上手ですな。
位置: 6,407
──だったら五次まで落とせるだろ。やっぱお前じゃだめだ、木村に替われ。
携帯電話だ。
珍しいな、と父は思う。
もうずいぶん昔の話になる。松代のSAMサイト群に 潜入 した北の工作員が改造した携帯電話で仲間に機密情報を流そうとした事件があって、それをきっかけに電波法が改正され、それまで民生使用が許可されていた周波数帯のかなりの部分を軍が押さえてしまった。おかげで、携帯電話の所持には 履歴書に大いばりで書けるくらいの資格取得が必要になり、以降、携帯電話といえばカタギの持ち物ではあり得なくなったのだ。
携帯電話をどうするか、というのはミステリの世界でも課題となる一つですが、このやり方もまた上手。使いまわしは効かなそうだけど。
最近、ねつもじでタツオさんが「異世界はスマホを排除するための装置」的なことをおっしゃっていたけど、そうじゃなくてもこの手はあるよね。
位置: 6,700
「あんなにへこんでる榎本さん初めて見た。今ごろ、またどっか高いとこ登ってカップラーメン食べてるんじゃないですか」
「死ぬほどへこめばいいのよ」
毛布の端を握り締め、椎名真由美はつま先を見つめてつぶやく。
「自業自得よ。元はと言えば全部あいつが描いた絵じゃない。へこんでへこんで胃に穴開いて血い吐いて死ぬまで悩めばいいのよ」
椎名真由美の立ち位置もいいよね。ミサトさん感を感じます。この頃の「いい女」像ってこんなんだったよなーと懐かしく思い出されますね。
位置: 7,105
近くの席にこっそり座ってみようか。
こちらの面は割れていないのだ。おとなしくしていれば絶対にバレない。そう思って一歩 踏み出したとき、 脳裏に 清美 の泣き顔がフラッシュバックした。
晶穂の 身体 が凍りついた。
自分は一体、何をしようとしているのか。
十兵衛 の死に泣き崩れる 清美。とってつけたような言い訳と、腹の底に巣食っていた 醜悪 な好奇心。
誰もが一度はあるよね。自分の対応と真意のギャップに後ろめたくなること。そのへんの機微を見事に描いています。そして、そんなことで恋に落ちてしまうのもまた、若人の特権。
位置: 7,188
「そうじゃないだろ。あのとき 河口 にひどいこと言われてたのは 島村 だろ。島村 清美」
浅羽 のその言葉に、 晶 穂 の肩がほんの 微かに 震えた。
「ちがうよ」
──浅羽、おぼえてる?
「浅羽がたすけてくれたのは、わたしだよ」
罪悪感と直結しているあの朝の 記憶。しかしそれは、浅羽と出会った最初の朝の記憶だ。
あのとき、浅羽によって救われたのは、一体 誰 だったのか。
鈍感主人公ではあるんだけど、それ以上に「察してヒロイン」すぎて。この手のオンナは間違いなく面倒だ。面倒なはずである、マケインだもの。
位置: 8,702
「……まけない」
ゆっくりと顔を上げていく、その顔が米粒まじりの鼻血にまみれている。震えの止まらない肩を上下させて大きく息を吸い込み、鼻の穴に詰まっている血と米粒と鼻水の混合物をじゅるるるるるっとすすり込んでごっくりと飲み干す。野次馬どもにはもう言葉も顔色もない。
これ、OVAではかなりショートカットされてるんだよね。一話くらい使ったものをゆっくりたっぷり観たかったなぁ。
位置: 8,790
「でも逃げ出したりしたらわたしの負けだと思って、負けるもんかと思った。晶穂がこわかったけど、負けるもんかって、ずっとずっとそう思ってた。わたし、最初に部室で会ったときから、ついさっきまでずっと、晶穂がこわかった」
──じゃあ、今は。
その問いは、結局は、あるかなきかのため息になって消えた。
素晴らしいオンナの友情物語 for 思春期ボーイ。こういうサイドストーリー、大好物です。
位置: 9,831
河口の右手は、 伊 里 野 の白い髪ひと房を 鷲 づかみにしていた。河口は伊里野を立たせようとして、そのまま右手をぐいと引いたのだ。
たったそれだけのことで、河口がつかんでいたひと房の白い髪は、その半数以上が根元からずるりと抜け落ちて垂れ下がっていた。
誰が凍りついていた。
世界系あるある、髪の毛突然ごっそり抜ける。ヒロインの髪がごっそり抜ける、ってかなり衝撃的で映像的にも美味しいよね。
位置: 9,950
が、たしか軍隊では、人員の四割以上が失われた部隊は「全滅」と判断されるのではなかったか。
Geminiに聞いたら本当だった。というか30%でもすでに「全滅」らしい。こういうの、興味がなければ知らない事実よね。すげー基準。やっぱり3割や4割がなくなると、機能不全に陥るもんなんだね。
位置: 10,257
「ぶん殴られて連れていかれて、戻ってきたと思ったら髪の毛が真っ白になってて、今度は目なんですか」
答えはない。ホコリの浮いた空気は動きに乏しく、シケモクの煙は水に溶けない卵の白身のように、いつまでも形を崩さずに漂っている。
目が見えなくなる、というのは兵器としてどうなんだろうね。それくらい追い込まれている、ということなのかもしれないけど、もはや何でもありになりつつある。髪の毛が白い、はまだ分かるけどね。
位置: 10,584
「だって部長、前に言ってたでしょ。心理学なんて科学じゃないって」
「無論だ。あんなもんが科学であってたまるか。しかし、それと好き嫌いとはまた別の問題だろう。正しいか正しくないかとも別の問題だ」
「──なんだ。じゃあ部長は好きなんですね、心理学」
「大好きだね。あんなにオマタのゆるい学問はないぞ。おれに言わせればだな、あれこそは尻に『学』の字をくっつけることで現代に生き残った、正当なる 魔術 の 末裔 だよ」
確かに心理学ってそういうイメージはあるな。まだ自分の中にもある偏見を感じます。今度心理学がなぜ学問なのかの本を読んでみようかな。
かつてはあたくしも心理学というのはメンヘラちゃんが自己分析のためにやる学問チックななにか、だと思っていた節があります。
位置: 11,525
「ところがな、やっぱり音なんだ」
水前寺 はあっさりと浅羽の思考の先回りをした。
「歩けば自分の足音がするだろう。目の前に壁がある場合とない場合とでは、その足音の 反響 のしかたが変わってくる。健常者なら自分の足音なんぞ気にもしないところだが、盲人である被験者はその微妙な違いを聞き分けているのさ。
こうもりのような感覚が、盲人の方にはある、という話は聞いたことがありますね。
位置: 11,587
「──いいかね浅羽特派員、」 顔を上げ、いきなりこう言った。 「科学というのは、自然観察における民主主義だ」
ふむ、面白い提言。
位置: 11,603
別の言い方をすれば『客観性と再現性こそが科学にとっての 錦 の 御旗』ってわけさ。
オカルト論として、面白いよね、この章。
位置: 11,622
科学がアキレスなら真理が 亀 さ」
そこで水前寺はにやりと笑う。
「──極論だと思うかね?」
「──多少は」
「しかしな、そのアキレスと亀の 隙間 にオカルトは潜むんだ」
ホモ・サピエンスだなーという感想ですね。なんと不完全なことか。人間の根源的な欲求なんだろうね、オカルト傾倒ってのは。悲しい仕様だな。
位置: 12,856
そのとき、吉野の腹の底でぐるりと 蠢くものがあった。
こういう描写も入れてくるのが、なんというか本作がジャンルの代表作である所以だと思いますね。戦時中の倫理限界場面で、こういう事に及ぶ。しかも元々は善人然として描かれていた人物に、このような葛藤を与える。面白いね。
位置: 13,149
善人 面した変態野郎め、貴様など死んだ方が世のため人のためだ。これは 天誅 だ。伊里野にあんな 真似 をした 奴 は絶対に、絶対に、
もう、
もう走れない。
これ、解釈が難しいんですけど、どうですかね。浅羽の体力の無さを書きたいのか、根性のなさを書きたいのか、単純に気力の限界なのか。この急激な転換をどう捉えればいいのか、未だに分かりません。
位置: 14,027
明日は学園祭の日だ、と伊里野は言った。伊里野の「世界」にはすでに、 須 藤 晶 穂 も 西 久保 正則 も 花 村 裕 二 も 島 村 清美 もいないはずだ。伊里野の 記憶 は今も退行し続けている。じくじくと鼻血を垂れ流しながら、一寸刻みで光を失いながら、楽しかった時の思い出を踏み石のようにひとつひとつたどりながら。
記憶の退行、っつーのはあんまり他に例を知らないんですよね。果たして効果的だったんだろうか。記憶を無くしていく系の悲しさは、アルジャーノンを筆頭に描き尽くされていると思いますが。
位置: 15,084
「どうしてお前らそんなに自信満々なんだよ。戦争やらUFOやら、そんな絵に 描いた 餅 なしで自分らの不幸に落とし前をつけられたことが今まで一度でもあったのかよ。
なんかぐっと来たんですよね、この台詞。ある意味でオカルトの逆襲なのかな。
でも、絵に描いた餅で自分の不幸を納得する人生も、どこかで行き詰まるでしょ。それを大人になる、と呼ぶのかもしれませんがね。
位置: 15,135
内輪もめしているうちに滅亡したらバカみたいじゃないですか!」
「バカなんだよきっと。お前の意見はまったく正しい」
「真面目 に答えてくださいよ!」
「だから、真面目に答えてるさ」
どんぶりから顔を上げて、榎本は笑う。
「滅亡の危機に 瀕 してさえ、人類は一致団結できなかったんだ」
榎本が笑っている。
冷笑的とも皮肉とも言えます。これ、いいシーンだな。
こういう遣る瀬無さ、あたくし大好きだ。
とはいえ、世界系はあくまで青少年向け。そのへんのディテールを省いて「何となく終末」を演出できるというのもメリットなのかもしれませんね。
位置: 15,551
「──あの、」
「伊 里 野 が 出撃 を拒否した」
足早に歩きながら、 榎本 がいきなり言った。
「この 土壇場 になって、もう戦うのは嫌だと言い出した。おれたちじゃもう手がつけられん。最悪、自殺の可能性もある」
目の前が暗くなった。
その場に立ち尽くして、その場にへたり込んでしまいそうになって、浅羽は必死になって榎本の背中に追いすがる。
「だって、どうして!? もう戦争は終わったんでしょ!?」
榎本は足を止めない、振り返りもしない、
「誰に聞いたそんな話」
ふふ、笑っちゃうよね。あるあるだよ。平凡な生活の裏に、死にゆく沢山の大人がいて、もはや世界は末期になっている。世界系あるあるだね。
位置: 15,959
今にして思えば、私たちの笑顔はどうしようもなく引き攣っていました。自分たちがしていることの残酷さにただ怯えて、必死になって善意の笑みを取り繕っていました。そんな私たちの中にあって、ただひとり榎本だけが、伊里野に子犬を与えることの正しさを最後まで信じていたのではないかと思うのです。
命を賭して守るだけの価値がこの世界にはあるのだと心底から信じて、故にそれを伊里野に知らせることを恐れず、その罪をすべて我が身に引き受けて地獄に落ちる覚悟を決めていたのは、榎本だけだったように思うのです。
榎本のおっさん、かっけーよな。この話、椎名も榎本もかっこよくて、いいんですよね。そういう「必死でかっこいい兄さん姉さん」は物語のよいスパイスになるよね。
位置: 15,972
最後まで読んでくれてありがとう。 T.S.
このT.S.はなんなんでしょうね。。。読み返しても分からなかった。椎名真由美によく似た駅員は「草壁」と名乗っていましたけど。。。。
さて、素晴らしい作品でした。これぞ世界系。
]]>あたくしは読んでいて「自分は普通以下やな……」と痛感して悲しくなりました。
人気ブロガーによる
地味だけど着実に資産が増えていく
令和のお金大全!「お金は汚いもの!」だと思っていた著者が
辿り着いた「富裕層になれるお金の方程式」を全公開!これからの時代を生き抜くための金融リテラシー80
確かにやっていることは普通。ドルコスト平均法で長年積み立てるだけ。
だけどね。それを実直にやり続けるのって、結構リテラシー高いと思うんだな。
そもそもはこちらのサイトの持ち主。
古き良き個人ブログ感もあって、更新を楽しみにしています。自分と似た投資をしている人のブログを探していたらたどり着いたんだったんじゃないかな。
位置: 910
たまに、「従業員も経営者目線を持って働くように」と主張する経営者がいますが、高い能力の従業員を安く使い倒したいだけの方便です。日本以外の国で同じことを言ったら、「経営者レベルの仕事を求めるなら、経営者レベルの賃金を払ってほしい」と返されることでしょう。
これは本当にそう。でも、最近は「そういうこというなら金をよこせ!」を言う人が増えている気もする。リテラシーが上がっている証拠だなぁ、と思います。
位置: 913
このように 過度に競争が激しい日本で、賃金を上げる方法は一つです。自分の希少性を上げることです。
この視点はとても大切。いわば資格もそうだもんね。医師免許や弁護士免許っつーのも一つの希少性だよね。賃金に限らずだとも思います。
位置: 926
技能の掛け算のメリットは、言葉は悪いですが、多少中途半端な知識・技能であっても、掛け合わせれば他の人との差別化が可能なことです。
確かにそうだ。趣味だってそうだよね。あたくしだって地元×落語、だったりとか、地元×草野球だったりとかで人を集められているわけで。何かと何かを欠けわせるだけで意外と差別化は簡単。手広く展開するのは無理でも、そこそこの成功は出来ます。それで十分な領域は確実に存在します。
位置: 954
ここ1〜2年ですと、国家試験であるプロジェクトマネージャ試験に合格しました。国家試験ではITパスポートをはじめとして数多くのIT系の資格がありますが、Level4として最高難易度に位置付けられているものです。IT業界の経験が長い人が中心に受けており、合格率は 14%程度です。
面白いね。プロジェクトマネージャ試験。今度検討してみようかな。何かしら資格を取得するのはいい。あと長年の野望である高校数学もどこかで履修しなおしたい。
位置: 1,641
地震保険の加入は賛否があるものの、一般に火災保険料が2倍以上に跳ね上がりますし、地震が起きた時の補償額は、全損の場合であっても最大で火災保険の保険金額の 50%に過ぎず、コスパが悪いと考えています。
東日本大震災における地震保険の支払い件数は、全損の5%に対し、一部損が 70%でした。多くの家が限定的な損害と認定される中、一部損で受け取れる保険料は地震保険の保険金額の5%です。1000万円の地震保険を掛けていても 50 万円しかもらえないのです。
ちゃんと読んだことないけど、地震保険ってそんな感じなのね。うちは賃貸だし、ま、入らない生涯でいいかな。でも、こういう「いざというときの」支出ってばかにならないからね。
位置: 1,690
まず、 美容において重要なのは、一にも二にも紫外線をカットし、保湿をし、食事から適切な栄養を得て、喫煙と過度な飲酒を避け、早く寝て睡眠時間を十分に取ることです。私は
子どもがサッカーやってたりすると、紫外線をよく摂取してしまうのだけど、それもお肌にはよくないんだろうね。あんまり気にしたことないし、手入れなんかも怠りまくり。いつか後悔するのかしら。すね毛なんかもね、処理していないで短パン履いているんだけど、嫌がられているのかな。
位置: 1,791
あまり深く考えずに(貴重な時間を使わずに)、高い還元率を得たいのであれば、 利用頻度が高い店舗の提携カードを使い分けるのがお勧めです。
そうよね。あたくしは出光カードを持っていて、給油は必ずそこでやっていますね。でも、あとは楽天カードかな。でもそれ以上は面倒くさい。カードを何枚も持つのはね。高い還元率よりも、それを検討するための時間のほうがずいぶんと惜しいよ。
位置: 2,706
万が一、証券会社が義務を怠っても、日本投資者保護基金から1000万円まで補償されることになっています。
常識だけど、再確認。1000万までは補償、なんてのは知ってはいたけど、自分が1000万貯金があることをリアルに考えられていなかった。今は、、、、考えなきゃいけない状況だったわ。うっかり。
位置: 3,200
一つ目は、信頼のおける情報発信者を見つけて、その人の情報を定期的に入手することです。
個人投資家向けに適切な情報を発信している専門家では、竹川美奈子さん、山崎元さん、大江英樹さん、カン・チュンドさんの新著は私は必ず読むようにしています。新しい知見はごく一部で、既知の情報が大半だったとしても、自分の情報が古くなっていないことを確認するのには有効です(山崎元さん、大江英樹さんのお二人は2024年1月にご逝去)。
カン・チュンドさんの本はあたくしも読んだことがあるな。確かに「知ってるー」と思いながらペラペラめくったよね。でも、それでいいのだ。あたくしにとってはこの著者のブログもその一つだったりします。
]]>直木賞作家がおくる、暗黒の少女小説。
ある午後、あたしはひたすら山を登っていた。そこにあるはずの、あってほしくない「あるもの」に出逢うために――子供という絶望の季節を生き延びようとあがく魂を描く、直木賞作家の初期傑作。
再読する前の印象としては「なんか厨二病の遣る瀬無い話だったと思う」程度の記憶でした。でも今読むと全然違うところに目が行きます。
当時思っていた感想と、まるで違うという点もあるかもね。ある意味、「そうやって大人になるんだよな」という無責任な諦観もちょっとはあります。
位置: 351
「彼女はさしずめ、あれだね。〝砂糖菓子の弾丸〟だね」
「へ?」
「なぎさが撃ちたいのは実弾だろう? 世の中にコミットする、直接的な力、実体のある力だ。だけどその子がのべつまくなし撃っているのは、空想的弾丸だ」
本著にちょくちょく出てくる、実弾だの砂糖菓子だのといった用語。「世の中にコミットするかどうか」が線引なんだろうけど、そのへんが実に厨二病的。この世界の説明に一役買っていますね。
位置: 354
「むかしむかし、岩塩で作った弾丸で人を殺した男がいたんだ。男は硬く硬く岩塩を固めて一発の弾丸を作り、暖炉のそばで相手を撃ち殺した。暖かなその場所で死体はほかほかに温まって、体内に残った岩塩は溶けてしまった。跡形もなく、ね」
「へぇぇ……」
あたしは身を乗り出した。
「でも、じゃ、そいつは捕まらなかったの? でも捕まらなかったらおにいちゃんもその話、知らないよね。捕まったの? いつの話? どうやって?」
友彦は肩をすくめた。
「名探偵が出てきて、見事に見抜いたんだ」
氷で殺した、というのは有名だけどね。岩塩というのは初めて聞いた(二度目の通読だけど)。
しかし、こうやって改めて読むと、推理小説って間抜けね。
位置: 794
あたしはまたムキになっていた。あたしらしくなかった。こんなことはまったくあたしじゃない。今日一日の時間にはどこにも実弾がなかった。
「実弾」的である、というのが山田なぎさのアイデンティティなんだな。それが崩れる日がある。とてもリアリティを感じますね。あるよね、「今日は全く俺らしくない」と思う日。そしてそれを誘発させやすい人間っている。あたくしにとっては子どもがそれに当たるかも。
位置: 939
こないだ、嵐のとき父が死んだ話をしたら、制止も聞かずにべらべらと海の底で幸せだとか話していたときも、もしかしたらこのへんな女の子は、あたしのために作り話をしてくれていたつもりなのかもしれない。
そんなふうに思った。藻屑の優しさはずれていて迷惑だったし、現にいまも会ったこともない友彦をべた 褒めされても困るだけなんだけど、そのべたべたの砂糖菓子について、あたしはあまり怒る気になれずに、ただ黙って歩き続けた。
時代で流行の主人公像、という感じするよね。やれやれ系というか。
位置: 1,432
藻屑は子供みたいに笑った。それからなんの脈絡もなくとつぜんテトラポッドから飛び降りると、暗い夜の海に頭から見事に真っ逆さまに落ちた。闇との境がわからないぐらい暗く染まる海に落ちてどんどん消えていく海野藻屑の姿は、まるで唐突な自殺のようであたしは思わず「あっ」と叫んだ。藻屑は今日も黒っぽいシンプルだけどじつに素敵なデザインのワンピースを着ていた。 膝 までの丈でふわふわと広がるスカートの 裾 が、ぷくり、とはらんでいた空気を吐きだして、沈んでいった。
ここ、急にマジックレアリスム的になる。この切り替えに一瞬、まんまとぎょっとしましたね。描写がどことなく不安げで、それでいて美しくて。いいシーンですね。全編を通して、ここだけ毛色の違う描写というのも面白い。
位置: 1,545
何度も何度も、自分が藻屑に腹を立てたときのことを思い出した。
それから花名島が、俺の言うこと無視しやがってと怒っていたときのことも、思い出した。
藻屑に船の転覆の話を「やめて」と言ったとき。花名島がバスの中で話しかけたとき。全部、藻屑の左側から声をかけたときばかりだ。藻屑は都合の悪いことは聞こえないふりする、ずるい、と怒っていたことの数々があたしにのしかかってきた。聞こえなかっただなんて。
差別は無知からも始まる、というようにも読み取れるし、そういうのを申告できないから虐待というのは厄介だ、というようにも読み取れるし、藻屑っぽいなと笑うことすら出来ますね。
位置: 1,768
床に転がって打たれている花名島の顔には、 恍惚 とした、あたしが人の顔に見たことのない不思議なものが浮かんでいた。
ちょっと春琴抄的な美しさがこのシーンにもありますね。ただ、内容としては触れる程度。もうちょっとそこの感情を深堀りしたら、、、、単なるあたくしが好き、ってだけだけどね。見た目が好みの異性に叩かれる、というのは扉を開けてしまう可能性が大だよね。
位置: 1,975
そこをなにかが遠ざかっていった。濃いピンク色をした霧のようなものを一瞬、見たような気がした。なにかがあたしと友彦のそばからゆっくりと離れていった。
なんだろ。厨二性の象徴かな。本著の中の言葉でいえば「砂糖菓子」性とでもいうか。
位置: 2,039
もしかしたら……家を出て歩きだしたときにすれ違ったあれ、あの濃いピンク色をした霧が、友彦が生活や未来や友達や恋と引き替えに手に入れた 神 だったのかもしれなかった。
うーん、まぁ、神だったのか、もっと陳腐なものだったのか。本著ではどちらとも取れます。友彦はこれで良かったのか、という問いにもつながりますね。
当時と比べると、本著への解像度が格段に上がった気がする。自分はずいぶん子どもだったんだな、と懐かしがるくらいでありました。
]]>江戸時代の初期から、各藩で発生したさまざまな「お家騒動」。原因となったのは、金銭をめぐる対立や父子の不和、家臣による派閥争いなど、現代に通じるものばかりだった。島津、伊達、黒田、加賀、秋田、越前といった各騒動の真相を、説得力あふれる筆致で描き出す。武士の本質に迫る、海音寺史伝文学の真骨頂。
とりあえず島津の有名な「お由羅騒動」を。あらすじは講談で知っているから、読みやすいかと思ったけど、結構しんどかったですね。あんまり細かい前提を共有していないと読みづらいかも。
あと、誰が何を語った文言かが分かり辛い。オタクの熱弁という感じ。
位置: 315
斉彬は 稀世 の名君であったし、当主になってからの施政ぶりも立派であったし、彼によって薩藩は維新運動の中心勢力となるきっかけがつけられたし、それが成功して藩の名声が上ったし、藩出身者が多数栄達したしするので、最初から藩内のほとんど全部が斉彬を敬慕し、その 襲 封 を望んでいたように考えられており、伝えられてもいるが、本当はそうではなかったと考えるのが合理的であろう。
斉彬の敵対勢力は思っていたより多かった、ということだね。そりゃそうだ。弟の久光も立派な殿様だったってんだからね。あとは思想の違いかな。
親子で思想が違って、それで対立するの、仕方がないことだけどなんだか悲しいよね。血がイデオロギーで分断されるの、見ちゃいられない。
位置: 344
久光はまた賢明な生まれつきでもあった。その上、薩摩のような片田舎で育ったためか、生来の性質のためか、その趣味や思想は保守的であった。学問の好みも、旧来の儒学と国学で、洋学はきらいであった。彼の保守的な性格や思想や趣味は年をとるにつれて最も頑固となり、西郷や大久保をこまらせ、明治政府も閉口することになるのだが、若い頃の保守好みは、父の斉興や、老臣や、大多数の藩士らには着実で好もしい人がらと思われた。
その「好ましく」思われたのが久光にとって成功体験だったのかもしれない。成功体験は人間には必要だが、それが歴史にそぐうかどうかは本当に分からないよね。関係ないけどこの「そぐう」って変換で出てこないのはなんでだろ。副う、と書くと思うんだけどな。
かなり細かく書かれた、歴史小説。かなり史実に近い気はするけど、とはいえフィクションとして楽しむべき。それにしてもこのレベルの歴史小説が楽しめる人ってかなり歴史が好きな人だろうな。
]]>「一人旅は思いがけず楽しかった。/アローンだがロンリーではなかった。一人でどこにでも行けた」この小説家に必要なもの、それはーー野球場、映画館、マッサージ、うどん、ラーメン、ビール、編集者、CPカンパニーの服……そして旅。沖縄へ、四国へ、台湾へ。 地方球場を訪ね、ファームの試合や消化試合を巡るトホホでワンダフルな一人旅。珠玉の紀行エッセイ。
あたくしも、地方球場が好き。長良川球場とか、鎌ケ谷とか、今度できたジャイアンツのホームタウンも行きました。それはきっと野球に限らず、サッカーでもラグビーでも何でもいいんですよね。ただ単に地方球場が好きなんです。旅行でついでにふらっと寄れたら最高。
だから、本著を読んだら絶対に好きになる!と思ったんですけどね。奥田さんという人があまり好きになれない。
位置: 369
地下の日本食レストランが空いていたので、そこで焼魚定食を食べる。ただし、運悪く、うしろのテーブルは小さな子供連れの四人家族。ビービーうるさい。
昨夜から客層ははっきりと低下している。わたしがもっとも嫌う膝までのショートパンツを 穿いたニイチャンたちが、汚いすね毛を丸出しで廊下を歩いているのを見ると、かなりげんなりする。
子連れで外食いいじゃないの。ショートパンツは駄目なのか。この奥田という老人に、あたくしは初っ端から反感を覚えてしまいました。ドレスコードのある場所でないなら、子連れだろうが短パンだろうが、認められるべきではないか。
一言で言って老害である。
位置: 383
読谷球場は、実に素晴らしいところだった。
一面がサトウキビ畑のなだらかな丘を登っていくと、稜線の向こうに、森が徐々に姿を現してくる。ああ、あの中に野球場があるのか――。そう思っただけで、じんときた。丘の上の野球場。なんて素晴らしいのだろう。丘の上に何を建てるかで、町の民度がわかる気がする。
そうなんだよ。「この先に野球場がある」と思うだけでじんとくるんだ。丘の上の野球場、素晴らしい。
位置: 669
目が覚めたら練習は終了していた。若手がマシン相手に居残り特打をやっている。観客はもうまばら。スコアボードの時計を見る。午後三時だった。一時間以上、寝た計算だ。
えもいわれぬ充足感を覚える。熟睡の余韻を噛みしめるように、しばらく横になったままでいた。
青い空、乾いた空気、そよ風、緑の芝生、そして野球場! もしかして、我が人生で三本の指に入る昼寝なのではないだろうか。そんな感慨すら湧いてきた。
手に取るようにその感動が伝わってくる。沖縄いいよね。野球場で昼寝、最高だね。
しかし、どうしてそのような素敵なことが理解できる人に、冒頭のような老害ムーヴが行えるのか、人間とは不思議なものだ。
位置: 762
係の人に「坊っちゃんの間も見ていってくださいな」と言われ、端の六畳間をのぞく。そういえばわたしも作家だったのだ。自覚、ないなあ。わたしは文学に傾倒したことも、ミステリーにはまったこともない。読書量はきっと最低レベルだ。それで作家になったのだから、小説家志望の方々には腹立たしいだろう。
でもね、言っておくよ。小説家はなりたくてなるものではない。それしか生きていく 術 のない人間がなるものだ。流れ着いた先の孤島なのだ。なんて、エラソーに。
一応「このミス」も受賞している人なんだけどね。確かにWikipediaによるとプランナーや構成作家出身のようだ。こういう小説家のなり方もあるもんだな。行き着いてみたいものだ、その島に。
位置: 1,170
弱った。あんまりおいしく感じない。
スープを飲んでも、肉を口に入れても同じだった。
小さく吐息をつく。そんな気もしていた。
二十代の後半、立て続けに香港に通った時期がある。東南アジアの猥雑なエネルギーに、魅せられたのだ。わざわざ安いホテルに泊まり、安い食堂で胃袋を満たした。わたしにとって、それは小さな冒険だった。いんちきな英語と広東語でずんずん奥へと進んだ。九龍城にも行った。船上生活者の船にも乗った。なんでも、口に入れてみた。空腹だから、たいていのものは旨かった。まずかったとしても、面白がれた。異国に恋するとは、そういうことだ。
翻って、今のわたしにその素地はない。ホテルはLグレード以上を探す。ジャケットを着用するのは、レストランでよい席に通されたいからだ。そこは世界共通の場で、「異国」はない。
わたしの側に、変化があった。青春は、遠い日なのだ。
まだ、あたくしは異国のまずい料理を楽しめるマインド・肉体ではある。ホテルは安くて良い。まだ青春が続いているのかもしれない。嬉しい……のか?喜んで良いのかな。まだ老成していないということではあるか。
位置: 1,880
ここでポップコーンの封を切り、一握り分を空に撒いた。
ミャーミャーミャー。一斉に海鳥が集まってきた。おお、わが友たちよ。わたしは天王洲でも、ときどきカモメに餌をやって遊んでいるのです。
鳥の餌付けっていいんだっけ?まぁ、観光地で売ってたりもするし、いいのかな。こういう無邪気な遊びが何かしらの新しい害を生んでいないか、ハラハラしちゃうんだよね。小市民的というか、小物というか。だからあんまり野生と接さない。これって本当にいいことなのかしらね。
位置: 2,497
わたしは、心とストライクゾーンがとても狭い人間である。神経に障ることがいっぱいある。繊細と言いたいところだが、たぶん狭量なのだろう。
これはあたくしも非常に近い自意識を持っています。分かっている分まだマシになろうとしている。先程も筆者の狭量なところをあげつらいましたが、まぁ、それも人間かもね。分かっている分まだマシよね。
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