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2020年3月10日、ブロックチェーンに関する国際的ネットワーク団体「BGIN(Blockchain Governance Initiative Network、読み方:ビギン)」の設立が、金融庁と日本経済新聞社の共催 […]
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]]>2020年3月10日、ブロックチェーンに関する国際的ネットワーク団体「BGIN(Blockchain Governance Initiative Network、読み方:ビギン)」の設立が、金融庁と日本経済新聞社の共催カンファレンス「BG2C FIN/SUM BB」で発表された。
それから約4年が経過し、2024年3月4日〜6日の3日間に亘って、東京・丸の内で「第10回目」のBGIN総会(Block #10)がハイブリッド開催。ちょうど2月28日〜3月15日にかけて金融庁が主催した「Japan Fintech Week 2024」のコアウィークに重なるタイミングでの開催ということで、国内外より多様なメンバーが参加し、ブロックチェーンにまつわる様々なトピックについて、原則チャタム・ハウス・ルールの下で活発なディスカッションが行われた。
Block#10 Tokyo Day1 has started with a lot of interesting discussion!#BGIN #blockchain pic.twitter.com/T4E744DzlJ
— Blockchain Governance Initiative Network (BGIN) (@bgin_global) March 3, 2024
金融含め様々な領域での自由なイノベーション、いわゆるパーミッションレスイノベーションを体現する技術として大きな期待が寄せられるブロックチェーンだが、その技術的なルーツはクリプトアナーキーのようなサイファーパンクにある。一方で金融犯罪等リスクの存在等に鑑みると、水と油な関係にあたる規制サイドとの対話/ハーモナイゼーションが必須となる。そのような背景のもと、2019年に日本を議長国として開催された「G20 財務大臣・中央銀行総裁会議(福岡)」にてサイファーパンクや金融機関関係者等が一堂に会し、侃侃諤諤の議論を展開。マルチステークホルダー・ガバナンスを前提に、多様な属性のメンバーが協力してブロックチェーン技術の進化/普及等を推進していくというミッションを以って、当時の金融庁長官・遠藤俊英氏によって設立宣言がなされたのがBGINというわけだ。
そんなBGIN総会10回目の活動報告が、総会最終日(3月6日)に、国内最大級のFinTech & RegTechカンファレンス「FIN/SUM 2024」(読み方:フィンサム)にて開催された。マルチステークホルダーによる議論や、その内容を反映したドキュメント策定を通じたブロックチェーン・ガバナンスへの過去3年間の貢献と、最新技術・規制トレンドに対する具体的な取組みについて、松尾氏モデレーションのもと、来日されたBGIN参画メンバーから紹介された。
※本セッションは英語で開催されました。本記事は、執筆者の意訳をベースに作成しています
※BGIN設立時のセッションについてはこちらの記事も併せてご参照ください
松尾 :BGINには現在、2つのワーキンググループがあります。一つは “IAM, Key Management and Privacy Working Group”(以下、IKPワーキンググループ)です。キーマネジメントは暗号世界における主要なテーマであり、セキュリティ、プライバシー、アイデンティティ、ビジネスモデルなどが交差する分野です。IKPワーキンググループは、アイデンティティキーマネジメントとプライバシーについて議論しています。そしてもう一つは、“Financial Applications & Social Economics Working Group”(FASEワーキンググループ)です。まずは共同議長であるミッチェルさんと、ジョセフさんに、IKPワーキンググループの活動概要を説明してもらいたいと思います。
トラバース:IKPワーキンググループでは、これまで6つほどのドキュメントを公開/準備してきました。最初のテーマは当時急速に注目が高まっていたNFTマーケットに関するもの(NFT Study Report)で、二つ目は選択的開示(Selective Disclosure)にフォーカスしたもの(Study Report on Selective Disclosure)でした。これはキーマネジメントとプライバシーにおける重要なコンセプトで、ビジネスを行うにあたって「どの情報を開示するか」の選択性に関するトピックとなります。さらにその次の論文では、DeFi(分散型金融)における情報開示と規制について取り上げ(Proposal of Principles of DeFi Disclosure and Regulation)、オンチェーンでの情報開示のあり方含め、DeFiに対する規制の枠組みを考察しています。そしてもう一つ一般公開済みのものとしては、Soulbound Tokensに関するもの(Soulbound Tokens (SBTs) Study Report)があります。こちらはこの後、ジョーイから説明があると思います。また最近では、ゼロ知識証明についてのペーパーと、Soulbound Tokensの第二弾も準備中です。
ビバリー:Soulbound Tokensについて少し補足すると、この世界では大きく3つの価値観があると考えています。一つ目は資本価値(capital value)で、これについては例えばビットコインや法定通貨など、定量化できるものになります。二つ目は信用価値(reputation value)で、大学での学位や各種ライセンスなどのことを指します。そして三つ目は、個々人によって重きを置く場所が異なる感情価値(sentiment value)です。Soulbound Tokensに関しては、この中の信用価値が関わるもので、譲渡不可能なトークンとして設計されています。つまり、ブロックチェーンとデジタル資産にこれら信用価値のハイパーストラクチャを組み込むことで、資本価値とは異なる新しい機会をもたらそうということです。
これについて、私はUCバークレー・掛林 美智さん(財務省大臣官房付 長期在外研究員)や金融庁の皆さまとともに様々な研究を進めていきました。それこそ、90年代に遡って、ニック・サボのような暗号学者の取り組みから現代のコンピュータ科学者の研究内容まで、様々なアプローチを通じて論文としてまとめていきました。私がBGINに関わって良かったと感じているのは、世界中の主要なステークホルダーの皆さまとこれらのトピックについて研究し、作業する機会を持てるということです。伝統的な研究環境では決して得られない機会です。ピアレビューのプロセスでは世界中から多くの研究者と連携することができ、論文の執筆・編集を終えるまでに1,500ものコメントを受け取りました。しかもこれらのコメントは著名な方々からいただいたもので、どれも段落にわたる詳細な内容としていただきました。
ビバリー:今私が公開しようとしている2つ目のSoulbound Tokensの論文に向けて、我々は著者、編集者、レビュアーを広く募集しています。「広く」というのは本当に広範囲で、例えばオンラインでIKPワーキンググループの会議に参加していただき、論文にコメントを入れてくれたり、参考リンクを追加したりしてくれる人など、誰でも歓迎です。たとえ「これが好きではない、その理由はこれだ」というコメントであっても、それらは大いに役立ちます。私のようにいち企業の人間が互いに攻撃的でないフォーラムで集まり、グローバルにプロダクトやペーパーを改善し、公共の利益や政府政策にアドバイスするための研究について議論できるというのは、非常にユニークな状況だと感じます。
ウィック:とても重要な視点ですね。往々にして、技術サイドも産業サイドも「何ができるか」については積極的に聞いてきますが、「何をすべきか」については触れてきません。テクノロジー企業が何か間違ったことをしたら、事後に様々な分析が行われ、倫理グループなどを設立します。でもBGINの素晴らしい点は、現役の規制担当者や元規制担当者、業界の人々が一堂に会し、過去の教訓から学び、事前に「何をすべきか」についての議論を行っていることだと思います。
松尾 :もう一つのFASEワーキンググループについても、クロエさんにその概要を説明してもらいましょう。
ホワイト:元々BGINで財務関係のグループができた際には、“Decentralized Treasury Working Group” という名称の下、分散型財務のベストプラクティスに関する研究目的で活動していたのですが、この分野の多くの人は非常に高いリスクを撮る傾向があることが協働を通じて分かってきまして、そこから現在の “Financial Applications & Social Economics Working Group”(以下、FASEワーキンググループ) の共同議長を、ロンドンに拠点を置くレオン・モルチャノフスキー[Leon Molchanovsky]さんと共に務めることになりました。
そして昨年、他メンバーとともにグループとして、伝統的な金融(CeFi)とDeFiの間の “感染リスク” について多くの注意を払っていきました。具体的なケーススタディとしては、2023年に起こったSVB(シリコンバレーバンク)の破綻と、それが業界に及ぼした影響、特にすべての主要な米ドル建てステーブルコインが非ペッグ化したことです。私たちがこの研究発表をした後、FRS(連邦準備制度)理事会の技術ラボに興味を持っていただき、非常に詳細で有益な会話をする機会を得ました。また、MakerDAOのような革新的な起業家たちとのコラボレーションの機会もありました。これは私たちのワーキンググループにとって非常に重要な機会となりました。
ホワイト:今後数ヵ月の優先事項としては、ブロックチェーンとAIの融合に目を向けています。ここ日本で開催されたBGIN #10で主催したデータ収集に関するワークショップを皮切りに、これから専門家インタビューを行っていき、収集したデータに何らかのフレームワークが適用できないかを評価していく予定です。2つの新興技術が共に成長し、また時には衝突しており、時宜にかなった非常に重要な問題を扱っているからこそ、政策立案者への迅速かつ中立的な情報提供をしていきたいと考えています。
あともう一つ、FASEワーキンググループではステーブルコインに関する調査の継続も重要なToDoだと捉えています。過去に起きた特定のケーススタディを評価するだけではなく、良いステーブルコインの特性について考え、CeFiやその金融政策にどのような影響を与えるかを経済学者の視点から考えていきます。私たちはすべての財務アプリケーションに興味があり、CeFiの方からクリプトネイティブな方まで、幅広いフィンテックコミュニティの人々を歓迎しています。
松尾 :続いてアマンダさんに聞いてみたいと思います。アマンダさんはブロックチェーンに関する多くの異なるタイプのディスカッショングループに参加していますが、BGINに対してはどのように感じていますか?前回のシドニーでの総会が初のBGINだったと思いますが、プライバシーと匿名化技術に関する議論に参加されていましたよね。非常に興味深いディベートだったと感じましたが、マルチステークホルダー間でのディスカッションについての所感を教えてください。
ウィック:とても面白かったですよ。以前のキャリアが検察官や弁護士として常に「議論と対立」に直面していたので、それに対してBGINは「興奮と感動」をもたらす素晴らしいものだと感じました。政府サイドでの厳しい議論を経験していた身として、BGINでの多様な関係者とのオープンで建設的な対話の場は非常に新鮮だったということです。
その前提で、その際のトピックはブロックチェーン技術におけるプライバシーや匿名性についてだったのですが、規制や法的基準についての異なる視点は確実に発生します。例えば開発者がユーザーのプライバシーを重視しトランザクションの透明性を低減させる機能を組み込むことに対し、規制当局は犯罪防止の観点からそのようなプライバシー保護機能に懐疑的であることが多いでしょう。そしてカンファレンスの場では、このような複雑な議論を十分に行う時間は残念ながらありません。ブロックチェーンの「美しさ」としての透明性と、プライバシー保護の必要性との間の緊張関係を認識する必要があり、プライバシーを重視するユーザーと、規制の必要性を強調する当局との間でバランスを取ることの難しさを感じます。だからこそ、それぞれの立場から中間地点を見つけることは、社会全体の利益に寄与するとも思います。
ウィック:正直なところ、私はMonero、Zcash、またはDashの開発者と多くの時間を過ごしたことがありません。私の中では、これらは単に私の人生を苦しめたものという認識があるわけで 笑、元規制サイドとしての懸念を持っているわけですが、いずれにしてもトピックとして座って議論ができたことは本当に素晴らしい経験でした。ちなみに、私はプライバシーには異議がありませんが、匿名性には強く異議があります。そして、プライバシーと呼ばれているものは、しばしば匿名性と混同されているとも感じます。ここの明確な区別は、特に金融取引において重要であり、完全な匿名性がもたらす潜在的なリスク(例えば、マネーロンダリングやテロ資金調達の容易化)に対して強い警戒感を覚えています。
という話はありますが、BGINのような場で技術と規制の世界の橋渡しとしての意義深い対話をすることで、プライバシーと匿名性、発見可能性に関する包括的な理解を深めることができると感じます。これらの議論がマルチステークホルダー間での共通の理解を築く手段となり、最終的にはより良い政策や技術の進展につながるだろうと願っています。
松尾 :最後に皆さまから短く、日本での第10回総会(以下、ブロック10)での議論を通じた感想等をいただければと思います。
トラバース:この三日間の議論で目にしたことは、私たちがどこに行っても、どの金融システムや管轄区域においても、同じ問題に直面しているということです。ブロック10で特に見えたことは、アマンダさんもおっしゃった通り、互いに話をすることができれば中間地点、つまり解決策がしばしば明らかになるということです。オンチェーン分析企業をはじめ、様々な方がディスカッションルームに入ってくれたので、ペーパーの進捗も捗りそうです。
ビバリー:私は過去2年間、BGINメンバーの一人としてさまざまな日本の専門家、企業、政府関係者と対話をしてきましたが、ここに来て、人々と会い、実際に握手を交わし、彼らが何をしているのかを聞くことで、非常に触発されました。日本は世界の他のどの地域よりも、対話と開放性、学術研究、そして主要なトピックについて議論する意欲において、非常に先を行っていると感じます。
ホワイト:今回のブロックに参加して改めて感じているのは、従来技術と新興技術の一種の衝突は避けられないということです。これらの技術の複雑さが大幅に増加しているからこそ、技術やサイバーセキュリティ、金融といった異なる分野からの人々が自分たちの専門分野の壁を越えて対話を行うことが、より重要で不可欠な、唯一の合理的なアプローチになってきていると思いました。これはBGINだけでなく、あらゆるフォーラムで必要だと感じます。
ウィック:今回が初めての日本訪問ですが、アメリカ人として帝国の興亡という概念を理解するのは難しいですね。私たちの国はそれほど長い歴史を持っていませんから。しかし、何千年もの帝国の興亡を経験した文化を持つ国々を訪れると、その概念が生きていることが感じられます。現在、金融サービスにおいて競争が生まれ、デジタル通貨やCBDCなど新技術が伝統的な金融システムを揺るがしています。これにより、ドルが今後も世界の基軸通貨であり続けるかどうかが分からなくなってきています。この変化が地政学にどのような影響をもたらすかは誰にも分かりません。
私たちは集団の利益を追求することや、個人に大きな利益をもたらすようなイノベーションには長けていますが、私が思うに、集団的利益を擁護することが得意な社会と、イノベーションを育成することが得意な社会との中間点を見出す必要があると思います。規制が必要でありながらそれを行っていないアメリカの現状や、規制を得意とするもののイノベーションの促進にはそれほど積極的ではない日本のような国々を見ると、それぞれの良い点を学び、悪い点を改善する必要があると感じます。
アジアの国々、特にシンガポールや日本、フィリピンは、速いペースで生産的な会話を進めており、それが今後数年間で大きな地政学的影響を与えることになるでしょう。そして、部屋の若い人たちに言いたいのは、あなたがその未来だということです。だから、ぜひ私たちに加わり、それが責任あるイノベーションであることを認識しながら、世界を変えていく上での影響を与えてください。
取材/文/撮影:長岡武司
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]]>2024年2月28日〜3月15日にかけて金融庁が主催した「Japan Fintech Week 2024」。そのコアウィーク(3月4日~8日)の初日を飾ったJapan FinTech Festival(主催:Elevandi、メイン会場:神田明神の境内)では、フィンテック関係の様々なステークホルダーが国内外より来場しており、ネットワーキングやセッション聴講、個別ルームでのディスカッションなど、大いに盛り上がっていた。
本記事ではその中でも、初日に設置されたラウンドテーブル「インクルージョンとダイバーシティが追いやられる – コンプライアンス強化時代の金融排除への対応」の様子をお伝えする。
年々増加/複雑化する金融犯罪に対応すべく厳格なAML/CFT(マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策)を実施することは非常に重要であり、国際的な協調を前提とする金融活動作業部会(Financial Action Task Force、通称:FATF)の勧告といった国際基準への準拠が求められているからこそ、例えば我が国においては犯罪収益移転防止法を通じた特定事業者への規制等が敷かれている。
一方で、そのような厳格なAML/CFTの存在が、結果として金融包摂を阻害している可能性もある。ということで、本ラウンドテーブルでは以下のメンバーが中心となって、現状の共有やデータ主導のeKYC・リスク分析といったそれら金融排除の課題を克服・解消するためのソリューション等についてディスカッションがなされた。
なお、本ラウンドテーブルはチャタム・ハウス・ルールでの運営となっているため、本記事においても、最初の知識のインプットを目的としたモデレーターによる解説箇所を除き、発言者を特定する情報を伏せてレポートする。
※本文中に掲載している会場の写真は、発言者とは関係がありません
※本記事ではDe-bankingを、Financial Exclusionと同義の「金融排除」と翻訳します(今回は米国における“脱銀行化”の文脈ではないため)
※本セッションは英語で開催されました。本記事は、執筆者の意訳をベースに作成しています
まずはディスカッションの前提知識として、モデレーターのお二人より、金融排除(De-banking)/リスク排除(De-risking)のあらましや、金融包摂への影響、それに対する防止策等についてのイントロダクションの時間が設けられた。
金融排除(De-banking)とは、AML/CFT規制の不遵守を理由に、金融機関が口座を閉鎖したり、開設を拒否したりすることを指す。またリスク排除(De-risking)とは、リスクが高すぎると認識される顧客カテゴリー“全体”を排除することを指す。金融機関としては、AML/CFT規制の遵守にまつわるコスト/工数等を削減し、より効率的な運用を進めるべく、このような金融排除/リスク排除の力学で動くことがあるわけだが、それが金融包摂の取り組みに意図しない結果をもたらすことになっている。
これらが発生する主要因の一つが、本人確認の存在だという。特に発展途上国では、紙/電子を問わず、多くの国民が公的(もしくはそれに準拠する)身分証明書へとアクセスできなかったり、そもそも持っていなかったりする。AML/CFTの要件が厳しくなればなるほど、この本人確認が大きな障壁として立ちはだかることになる。
国連やADB(アジア開発銀行)のような国際機関による法的枠組みや金融インフラへの投資活動においては、金融機関が銀行口座を持たない人々や十分なサービスを受けていない人々にサービスを提供することを奨励している。一方で冒頭にも記載した通り、AML/CFT規制は金融犯罪に対応するために必要な措置でもあるわけで、それらがオペレーション上の理由等により厳格化した際には、こういった金融包摂の考えは打ち消されてしまう。結果として、本当に排除が必要な人以外の排除も強行され、金融アクセスの格差が広がってしまうことになる。往々にしてその対象となるのは、女性や若者、移民、それからMSME(中小零細企業)などだと、モデレーターのShawn Hunter氏は説明する。
※Hunter氏は、オーストラリア・グリフィス大学にあるアジア研究所でプログラムディレクター兼業界フェローを務めており、2023年に立ち上がった「金融犯罪調査およびコンプライアンスに関する卓越的なアカデミー(Academy of Excellence in Financial Crime Investigation and Compliance)」という新しいプログラムの一環として、金融排除/リスク排除の問題にフォーカスしたホワイトペーパーの作成を進めているという
AML/CFTの国際基準としては、冒頭にも記載したFATF勧告が最も有名且つ影響力の大きなものになるわけだが、その排他的な性質にはかねてより懸念が持たれており、社会システムから疎外された人々の金融アクセスを向上させる努力を阻害する可能性があると指摘されてきた。
これに対してFATF側も、AML/CFT要件が金融包摂の取り組みに与える影響を最小限に抑えることを目的とした「リスクベースアプローチ」による規制的枠組みや、技術的ソリューションを促進するための措置を講じてきたわけだが、良くも悪くも「基準」な訳であって、実際の現場への落とし込み段階においては、アジア太平洋地域全体をはじめ、各国で引き続き課題に直面している状況だ。
この金融排除/リスク排除への規制側の視点としての説明を担当したのは、もう一人のモデレーターを務めるMarek Dubovec氏だ。同氏は、国際法研究所の法改正プログラムディレクター を務めている人物で、過去15年間にわたり、IFC(国際金融公社)をはじめとする様々な機会に向けて法改革プログラムの実施に携わってきたという。
そんなDubovec氏が最初に金融排除を認知したのは、約10年前、自宅があるアリゾナ州にてヒスパニック商工会議所の会議に呼び出された時のことだった。要件としては、アリゾナとメキシコの国境沿いにある銀行支店の閉鎖について話し合うことだという。その銀行が閉鎖されてしまうと、地元企業、特に国境を越えて活動する企業に大きな影響を与えることが懸念されていたわけだ。この問題の背景には、過去数十年にわたって地元の銀行がJPモルガン・チェースやウェルズ・ファーゴといったナショナル・バンクに買収されていき、リスク評価の意思決定が中央集権化されていったことが挙げられる。具体的には、特定の顧客との取引に関する意思決定は、国境の支店ではなく、サンフランシスコやフェニックスで行われるようになったという。その結果、地元の状況に対する解像度が低下し、特に国境地帯でのビジネスのリスクを適切に評価することが難しくなっていって、結果として地元のビジネスに経済的な混乱をもたらしたという。
このような一金融機関の本店と支店といったミクロなレベルでも方針の断絶があれば、国際機関レベルでも方針の違いが生まれており、それが混乱の一因にもなっているとDubovec氏は強調する。つまり、国連の持続可能な開発目標やG20のデジタル金融包摂に関する原則といった金融包摂を促進するための国際的な取り組みがある一方で、リスク管理やマネーロンダリング防止等を重視するFATF勧告のようなルールもあり、そこで政策としてのトレードオフが発生しているという。結果として基準が各国へと降りていった際に、ある金融機関はより金融包摂的な姿勢を強調して枠組みを作り、一方で別の金融機関はより厳格なAML/CFTの姿勢で対応する。そういった断絶を解消するためにも、金融包摂とリスク管理のバランスを取るという観点で、今後更なる強調が広がることに期待したいとDubovec氏は説明する。
「FATFはリスク管理の実施に関するガイドラインを提供していますが、世界銀行グループを含む多くの機関から、これらのガイドラインがあまりにも一般的で、国の規制当局が具体的な指導を行うには不十分であると指摘されています。このため、多くの金融機関はリスクベースアプローチを取ることに消極的であり、マイクロファイナンスやマイクロインシュアランスなどのサービス提供も含めて、個々の金融状況に基づいたリスクを評価することを困難にしているのです。そして大きな課題となるのが、先ほど出てきた本人確認となります。この問題を緩和するために、デジタル手段で個人の身元確認を進めるeKYCといった、デューデリジェンスプロセスを効率化するようなプログラムの導入が、ここ最近では特に推進されてきています」
少し専門的な話になるが、各国はFATFが公表しているガイダンスを参考にNRA(National Risk Assessment:犯罪収益移転危険度調査書)というツールを使ってリスク評価を行い、その結果を基にしてFATFにより相互審査が行われる。この相互審査では、評価者によってリスク管理が不適切であると判断されたり、金融機関に与えられた柔軟性が過度であると見なされることがある。日本も、2021年8月末に公表された「FATF第4次対日相互審査報告書」において強化(重点)フォローアップ国という評価が下されている。このような評価アプローチがなされることもあり、規制当局は往々にしてリスク回避的なアプローチを取る傾向があるわけだ。
だからこそ、Dubovec氏は規制の枠組みをよりアジャイルにすることには大きな関心を持っており、そのためには様々なアプローチを試みているという。その一つが「原則に基づくアプローチ」ということで、規制当局が一連の原則を設定し、金融機関はこれらの原則を個々の取引に適用するというものだ。だがこれについても、原則が一般的な内容になってしまうリスクがあることから、結局は金融機関ごとの解釈の違いが発生するという、本質的にはFATFと同様の問題がある。
「原則に基づくアプローチは基本的に柔軟性が高いように思われますが、その一般的な性格を考えると、現場ではうまく適用されないことが想定されます。これもまた、多くの社会的弱者を実質的に排除していると言えます。こちらの図を見てもお分かりの通り、SDD(Simplified Due Diligence、最低限のデューデリジェンス)でさえ52%(左グラフ)の司法管轄区でしか実施されていませんし、所得階層別(右グラフ)に見てみると、実施しているのは低所得国では1ヵ国だけです。これを見てもお分かりの通り、SDDは現場で利用されていないのです」
イントロダクションとしての状況の共有がなされたあとは、会場参加者によるざっくばらんな意見交換がなされた。ここからは、各意見の要点をまとめる形でご紹介していく(冒頭に記載した通り、チャタム・ハウス・ルールでの運用を踏まえて、ここでは発言者を特定しない形とする)。ここで出てきたポイントとしては、枠組みに比例性の概念の導入、透明性を高め金融排除される顧客に対して明確な理由と通知の提供、それから規制の予測可能性についてだ。
「銀行のコストの問題が論点の一つとしてあると思う。例えば、$3,000の小規模融資と$3,000,000の融資を比べてみると、コスト的に非常に非効率的なので、銀行としてはどうしても大口の融資を好む傾向にある。このような状況が、特に低所得者層への金融サービスが提供されにくい一因となっていることは自明だ。
さらに金融機関がAML/CFT規制で罰せられた場合、更なるコンプライアンススタッフの雇用が求められることになるので、それが結果的に運用コストの増加を招くことになる。そうなると、銀行は小規模融資やマイクロファイナンスを避けるようになり、金融包摂がさらに困難になっていくという悪循環に陥るだろう。
そのような背景を踏まえて、金融サービスの拡大と金融包摂を進めるためには、全ての個人にデジタルアイデンティティを提供することが重要だと思う。デジタルアイデンティティがあれば、ブロックチェーンなどの技術を活用することで、資金の流れやその出所を正確に追跡することができるようになる。そうすれば、より透明で安全な金融取引が可能となり、低所得者層へのサービス提供が向上することが期待される」
「私の経験上、マイクロファイナンス事業を運営する上でKYCは通常問題にならない。ただ例外的に、ミャンマーではID証明書がないことで支援が困難になっているケースがあった。これは、少数民族が国内での地位を維持しているため、ID証明書を作成することが困難だったからだ。
一方で別の観点から、他国でのマイクロファイナンス銀行やマイクロファイナンス機関の買収を試みる際に、規制当局に対して取締役や管理メンバーの非犯罪記録を提出するよう求められることがあり、これが極めて大変な作業になる。特に、記録を迅速に提出することが不可能な場合や、銀行が英語での記録提出を渋る場合などで問題になってくる。
このような規制の厳しさは、特に小規模融資の観点で事業を展開しにくくしており、発展途上国での金融包摂の拡大を阻害していると思う。融資の規模に基づいて異なるアプローチを採用することで、規制の負担を軽減し、より現実的な事業運営が可能になるのではないだろうか」
「FATF要件に対する銀行の対応としては、リスク排除が顕著であって、金融排除になることは稀な印象だ。そんなFATF要件だが、「リスク評価」と「リスクベースアプローチの適用」に「比例性(proportionality)」という言葉を加える改訂が議論されている。つまり、条件によっては簡略化された措置の実施も検討されるということで、これらの変更は小さな調整に見えるかもしれないが、大きな影響をもたらす可能性がある。
なお、少し具体的なケースもご紹介したいのだが、ナウル共和国という世界で3番目に小さな国(人口は約1万人)には、中央銀行は存在せず、唯一オーストラリアのBendigo銀行の支店がある。そのBendigo銀行も今年末にナウルから撤退する予定とのことで、オーストラリア政府の協議が重ねられているが、現時点では解決策が見つかっていない状況だ。リスク排除の具体的な影響の一例として認知しておいてもらいたい」
「投資家としては、特定の市場セグメントに対する規制の厳格化を避け、特定の集団が金融的に排除されないようにすべく、規制の枠組みを利用して銀行に働きかけていくことが、基本的には重要だと考えている。だが現実的には、サービス提供のコストが非常に高いことに起因して、銀行のインセンティブが金融包摂と必ずしも一致していないため、競争なくしてこの問題を解決することはできないと思っている。したがって、金融包摂にしっかりと取り組みながら、市場ベースのアプローチを採用する規制当局が必要なのではないだろうか。というのも、それがなければ規制による制約が常につきまとうことになるだろう。多くの中央銀行や規制当局は金融の安定性に主眼を置いているが、本当に重要なのは規制の予測可能性だ。あとそれに加えて、関係者とのエンゲージメントも非常に重要になってくるだろう」
「たしかに競争の激化は一つの道だろう。でも現実的に考えると、新興の送金業者であればあるほど、そのまま閉鎖されるリスクも高くなると言える。というのも、例えばMoneyGramというグローバルな送金事業者でさえ、ラテンアメリカの国にいる従業員に給料を支払ったためにリスク排除の憂き目にあっている。金融機関がその地域から閉鎖/撤退したら、そのリスクはどこに移転するのか?この“リスクの集中”について、もっと規制当局と金融機関間の協調を以って取り組んでいく必要があるし、その理由を正当化するためのメトリクスを設定するなどしてもっと透明性を高めていく必要があると思う。先ほどのナウル共和国に対するオーストラリア政府の対応なんかは、透明性を高める取り組みの一つとして挙げられるだろう」
「フィリピンでは、パンデミック前は成人の3分の1しか銀行口座を持っていなかったが、現在はテレコミュニケーション企業のウォレットが主導し、約9,000万人のフィリピン人がデジタル取引を行えるようになった。そんな中、デジタルバンキングのライセンスを持つ銀行ではデジタルファイナンスサービスが提供されているが、これには大きなコストがかかっている上に、デジタル化に伴う規制の厳格化も進んでいる。特に、AML対策としてのオンライン支払いシステムには多額の投資が必要になっており、小規模金融機関にとっては特に管理が困難な状況となっている。
また、フィリピンはFATFのグレーリストからの脱却を目指して新しい規制を導入してきたが、これが小規模な金融機関にとってさらなるコスト増につながっている。規制は銀行の規模にかかわらず適用されるため、比例性に欠けており、小規模な農家や中小企業オーナーにサービスを提供する地方銀行には不利に働いているのが実際のところだ。
さらに、フィリピンでは国民IDの完全な受け入れがまだ実現しておらず、政府発行のIDが5〜6つ存在して一貫性がない。このため、銀行はPEPs(外国の政府等において重要な地位を占める者)のデータベースを一から作成しなければならず、そのメンテナンスコストも莫大になってしまっている。これらの問題は政策レベルで取り組む必要があるわけだが、現時点では解決策が見えていない状況だ」
「金融包摂について話し合う前に考慮すべき重要な点がいくつかあると思う。まず、現在世界では多岐にわたる制裁が行われており、これが銀行業務にも影響を及ぼしている。これらの制裁は、特定の地域全体、特定の企業や団体、さらには特定の産業セクターに対して適用されている。
またこれまで議論してこなかった点として、ESGへの配慮が挙げられるだろう。今、多くの銀行が環境への悪影響を理由に特定のセクターへの資金提供を拒否していることが新たな課題となってる。特に石油・ガス産業や石炭産業に関わる企業は、多くの銀行がネットゼロ達成のコミットメントにより資金提供を停止する方針を取っているため、資金調達が困難になっている。
さらに、銀行口座を持たない層や金融サービス未提供層が直面しているもう一つの問題として、与信履歴がほとんどまたは全くないことから、データ不足に起因してAML/CFTチェックが困難であることだ。銀行口座を持つこと自体にコストが伴う点も忘れてはならない。
このように、銀行によるサービスの提供/排除には多面的な理由があり、ワンサイズ・フィッツオールのアプローチは存在しない。各々の状況に応じた対策が求められているのが現状と言えるだろう」
ここまでの議論を踏まえて、モデレーターのShawn Hunter氏は少し整理をした。
ある人は、既存のシステムの枠内で包摂できる人はすでにほとんど包摂されてしまっているという悲観的な見方を示している。デジタル革命が進む中、より多くの人々に金融アクセスを提供できるようになったことで、これらのサービスを利用するだけの資金を持っていない人々を含めようとする動きが、銀行にとっての新たなリスクを生み出していると指摘している。一方で、デジタル革命を通じて新たな機会を模索している過渡期の段階にあると捉える見方もでき、デジタル決済やAIなどの技術を通じてデータを利活用し、顧客をより深く理解してビジネスチャンス等を模索している段階ともとれる。
「今話し合われた問題に真に取り組むために、私たちがこれから推し進めるべき重要なポイントは何でしょうか?参考となる事例は何が挙げられますか?」
ここについても会場からは、複数の事例が引き合いに出されながら様々な意見が飛び交った。
「インドは一つの参考になると思う。ご存知のように、インドでは国民全員を対象としたID登録プロジェクト「Aadhaar」を実施し、また2016年にはモバイルから支払いや送金が簡単にできる小口決済インフラ「UPI(統合決済インターフェース:Unified Payments Interface)」が導入されている。多くのユニコーンやデカコーンの誕生は、この2つのプロジェクトの賜物だと言えるだろう。
これらの取り組みを牽引した人物の一人として、Infosys社2代目CEOのNandan Nilekani氏が挙げられる。まさにインドのロックスターなCEOで非常に影響力のある方なのだが、彼自身、官僚主義によってプロジェクトが二度にわたり失敗しかけたと語っていたのが印象的だった。そんな中この壮大なプロジェクトを成功させることができたのは、優れた規制機関が存在していたからであり、独立性や予測可能性含め、制限された規制を備えた規制機関としての役割が大きいとされている。インドの規制機関は、多くの面で世界で最も優れていると評価されている。
しかし現在の地政学的な緊張の高まりの中では、このようなプロジェクトを他の国々で実現することは難しいとも思う。世界的な平和と安定した制度が確立され、良好な実践を行うための環境が整うことが先決で、そこができて初めて、その次のステップに行けると思う」
「ブラジルも、アメリカを含む他のどの国よりも進歩的な規制環境を整えていると評価されている。例えば納税者IDの立ち上げを皮切りにデジタル化が進められ、約2年前に、すべての税金取引や領収書取引がデジタルでできるようになった。これらの取り組みは、市場における競争を促進し、金融包摂を進める一連の改革につながった。5年前には銀行資産の90%を占める5つの銀行のうち、3つが民間で、銀行浸透率は50%だった。それが競争を導入することによって、銀行浸透率が95%に達し、GDPに占めるクレジット浸透率も53%に増加した。金融機関の数も、10年前の176行から倍増している。
ブラジルの動きを見ていると、中央銀行の独立性と安定性が非常に重要だなと感じる。同国では左派と右派の政府の下で独立性が保たれており、中央銀行は長期的な方針を策定し、業界との広範な協議を通じて、競争と規制の絶妙なバランスを保っている。この結果、システムにも大きな安定がもたらされ、この20年間で大きな銀行の破綻はなく、一方で新規参入者は大幅に増加している状況だ」
「金融包摂というテーマで振り返ると、世界にはまだ何億人もの人々が身分証明書や銀行口座を持っておらず、電気や通信網の接続、さらには携帯電話さえも持っていない状況にある。これらの人々が住む国々での解決策を模索することが非常に重要だと思う。
私はアジア太平洋地域をメインの活動拠点としているが、この地域では、特にオーストラリアやニュージーランドへの送金が多く、世界で最も高額な手数料がかかることが問題となっている。
数年前、サモア独立国からeKYCシステムの開発を手伝ってほしいという依頼があった。サモアには選挙が義務付けられており、電子化されてはいないものの選挙人名簿のデータベースが存在するため、これを活用してeKYCシステムの実証実験を行うことができた。しかし、この実験がデリスキングにどのような影響を与えたかを評価することはできなかった。開発機関としての役割は、こうした試みを開始し、その後中央銀行や関連する銀行がプロジェクトを前に進めるかどうかを見守ることだと思う。他にも、eKYCプラットフォームの所有権やコストの問題が残っている。
他にも太平洋地域の9つの中央銀行を含む地域イニシアティブも進行しており、そこでは地域全体でのeKYCプラットフォームの設立を目指している。なかなか進展はしていないものの、そのプロセスを通じて各国の法的・規制的枠組みの評価や改善が進みました。この経験は、法的・規制的問題に取り組むきっかけとなり、有意義な成果をもたらした」
「フィリピンの中小金融機関の立場から付け加えると、私は、中小金融機関や大手金融機関のデジタルトランスフォーメーション・ロードマップをどのように再定義すべきかを考えなければならなかった。しかし小規模な金融機関では、例えばAML/CFTコンプライアンス・システムまでを含む、エンド・ツー・エンドで予算の制約を考慮するような包括的なアプローチが欠けていると感じている。というのも、私たちは通常コア・バンキングやデジタル・バンキングをどのように行うかだけに目を向けがちで、例えばAML/CFTや不正管理といった、通常であれば多額の費用がかかるシステムに投資しなければならないことの影響から目を逸らしがちだ。
ここに対する公共部門からの補助の必要性について考えてみたい。例えばフィリピンはFATFのグレーリストに名を連ねているが、個々の私立機関がこれらのシステムへの投資を行うことが期待されている状況だ。しかしこれは断片的なアプローチであり、例えばPEPsデータベースについては各銀行が自ら作成しなければならないため、非効率なプロセスを生み出しているし、結果としてAML/CFTコンプライアンスを強化しようとする規制当局の目的に反する結果を招いている」
取材/文/撮影(一部):長岡武司
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]]>2024年4月13日、いわゆる“分散型SNS”として利用者が増えている「Bluesky」のミートアップイベント(Bluesky Meetup in Tokyo)が、東京・紀尾井町にあるLINEヤフー本社で開催された(翌日には大阪・中央区にあるNTTデータSBCオフィスでもBluesky Meetup in Osaka も開催された)。
昨春に引き続き今回で2度目の開催となった当日は、Bluesky開発チームのテクニカルアドバイザーであるWhy[Jeromy Johnson]氏が来日登壇されたほか、リモートで同社CEOのJay[Jay Graber]氏も登場し、会場およびオンライン経由の参加者約200人に向けて、これまでの開発秘話や今後の展開等がざっくばらんに共有された。
また後半のパネルディスカッションでは、Why氏/Jay氏らBlueskyチームの他、noteプロデューサー/ブロガーの徳力基彦氏をはじめとする“Bluesky大好き”メンバーも加わって、各々が考えるBlueskyの魅力や他SNSとの違い、持続可能なマネタイズモデルなどについて想いや意見を出し合った。
Blueskyと聞くと多くの方は「また新しいSNSが出てきた」程度に思われるかもしれないが、その真価は「ATプロトコル」と呼ばれる、分散型SNSを実現するための基盤にあると言える。本イベントのレポートを通じて、そのあたりの考えをご紹介していきたいと思う。
まずは「Blueskyって何なの?」という方向けに、簡単にその概要をご紹介する。
もともとはTwitter社 元CEOのジャック・ドーシー[Jack Dorsey]らが発起人となって、「ソーシャルメディアのオープンで分散化された技術の標準を開発し、そのための大規模な採用を推進」すべく、2019年に同社内のいちプロジェクトとして立ち上げたものだった。以下が当時ツイートされたドーシー氏による投稿である。
Twitter is funding a small independent team of up to five open source architects, engineers, and designers to develop an open and decentralized standard for social media. The goal is for Twitter to ultimately be a client of this standard.
— jack (@jack) December 11, 2019
これによると、初期のTwitter(現在のX)は非常にオープンで、ユーザーは同プラットフォームがSMTP(電子メールプロトコル)のような分散型インターネットの標準になる可能性を見出していたが、会社の方針として中央集権化の方向へと舵を切るようになったことで、結果としてソーシャルメディア環境を取り巻く様々な弊害への対応が難しくなってしまったとしている。SNSがもたらした弊害については、体感レベルでも認知している方が多いのではないだろうか。
そんな背景からスタートしたBlueskyプロジェクトは、2021年8月に先述のJay氏をCEOとして、Bluesky PBLLC(Public Benefit Limited Liability Company:公益目的有限責任会社)として分離独立することとなる。
I’m excited to announce that I’ll be leading @bluesky, an initiative started by @Twitter to decentralize social media. Follow updates on Twitter and at https://t.co/Sg4MxK1zwl
— Jay Graber (@arcalinea) August 16, 2021
PBLLCとはアメリカで取り得る法人形態の一種で、端的にお伝えすると、利益追求と社会貢献をバランス良く行うことを目指す企業で採用されるタイプのものだ(州法に基づいた個別の規定あり)。つまり同社は、最初から利益の最大化を目的とするのではなく、事業活動を通じて追求すべき公益目的(定款に記載)を実現する責任も負うこと前提で設立されたということになる。そして、ここでいう公益こそが、先述のドーシー氏が記載した「ソーシャルメディアのオープンで分散化された標準」というわけだ。
なお、Blueskyの法人形態は2022年秋にPBLLCからPBC(Public Benefit Corporation:公益法人)へと変更されており、より資金調達のしやすい形で現在は運営されている。(2023年7月にはシードラウンドで800万ドルの資金調達を行っている)
Bluesky社による最初のプロダクトは、ADX(Authenticated Data eXperiment)と呼ばれるプロトコルだ。「え、SNSアプリじゃないの?」と思われるかもしれないが、先述の通り、同社のミッションはあくまで「オープンで分散化された標準としての基盤」を作ることにある。この分散型SNSプロトコルの初期テスト版は、2022年10月に「AT Protocol」(ATはAuthenticated Transferの略。以下、ATプロコル)に改名され、現在はこのオープンプロトコルを中心として開発者エコシステムが形成されている状況だ。初期のBluesky社公式ページにも、「ATプロトコルは、公共コミュニケーションとソーシャル・ネットワーキングの新しい基盤であり、クリエイターにはプラットフォームからの独立を、開発者には構築の自由を、そしてユーザーには体験の選択肢を与えるものだ」と記述されている。
ATプロトコルとは「ソーシャルメディアプラットフォームを構築するための公開会話プロトコルであり、オープンソースのフレームワークだ」と、Bluesky社は公式ページで説明している。要するにソーシャルメディアを構築するための基盤というわけだが、その大きな特徴の一つとして「コンテンツのポータビリティ」が挙げられるという。
多くのソーシャルメディアは、Meta社やX社のような特定の運営企業が中央集権的にサービスを提供しており、例えばFacebookで培ったフォロワーをXにも反映する、といったプラットフォーム間でのデータの引き継ぎ等はできない。もちろん、2018年にビッグテック各社が連携してきたData Transfer Projectのような取り組みもあるが、あくまでシステムの外部連携のような仕組みでしかなく、なかなか普及にまでは至ってはいない。これに対してATプロトコルは、その基盤上で動くソーシャルメディアについては両者間のインターオペラビリティを担保し、例えばAというアプリからBというアプリへとユーザーIDやフォロワー情報のほか、各種コンテンツ等を移行できるようにするものだという。BlueskyというSNSアプリはそのリファレンス実装として構築されたものなのであって、Blueskyアプリを成長させることが唯一最大の目的というわけではないという。この点についてはBluesky社のWhy氏も、「他SNSとの違い」という質問に対して以下のように答えている。
「ATプロトコルのリファレンス実装として公式アプリ(Bluesky)を提供してはいますが、プロトコルはオープンソースになっていてデベロッパーによって自由に使うことができるようになっているので、それこそ全然違うアプリを作ることもできます。多様性を以って作れることが、他SNSとの一番顕著な違いだと思います」(Why氏)
どうやって実現させているのかということだが、ATプロトコルでは以下の公式ドキュメント掲載図にあるPDS(Personal Data Server)やRelayといったサーバーの役割が鍵になっている。PDSは、ユーザーが作成した投稿データやアカウントプロフィールなどを保管する場所として機能しており、複数あるPDSからRelayと呼ばれるサーバーに情報が集約され、さらにLabelerサーバーでのモデレーション(投稿監視)を経て、Blueskyアプリ等で表示がなされるという、ざっくりとした流れになっている。Blueskyアプリ“等”と表現したのは、ATプロトコルはオープンソースなのであって、それ以外のサードパーティツールなどでの利用も想定されているからだ。
PDSもRelayもユーザーがホスト(セルフホスト)できるように設計されており(ただし現状はPDSのみ可能だし、Relayができるようになったとしても大規模サーバー環境が必要になると想定される)、ユーザーはPDSを建てることで、自分の個人データを自分で管理できるようになる。この辺りはブロックチェーンにおけるノードの考え方に似ており、ATプロトコル公式では「フェデレーション・アーキテクチャ(連合アーキテクチャ)」と銘打って説明がなされている。ATプロトコルの詳細については、こちらのQiita記事で非常にわかりやすく図説されているので、興味のある方はこちらもご覧いただきたい。
ちなみに東京のミートアップ会場には、早くもPDSを建てているユーザーが数名ほど参加されていた。現状、PDSを建てるには開発者向けのインストーラーパックを使う必要があるが、「今後はWebのインターフェースを用意してWordpressのように簡単に建てることができるようにしたい」とWhy氏は説明する。
加えて、PDSやRelayだけでなく、Labelerもユーザーがホストできるという。Bluesky公式アプリ経由だと、コミュニティガイドラインに反する投稿を24時間体制で監視している同社モデレーションチームのフィルターを経た投稿のみが確認できるわけだが、独自のLabelerを構築・運用すればその限りではないという。Bluesky社はこれを「コンポーザブル・モデレーション」と表現しており、以下の哲学をもって設計されている。
CEOのJay氏も、「コンポーザブル・モデレーションやカスタムフィードといった機能も、他SNSとの差別化ポイントだと思う」と、ミートアップでコメントしていた。
Blueskyのカスタムフィードとは、特定の文字が含まれる投稿をピックアップしたり、自分がいいねした投稿だけをまとめるなど、何らかのルールに沿ってフィード(タイムラインのこと)に表示する情報を取捨選択する機能のことだ。公式ブログでは「Algorithmic choice」という表現で、その考え方が紹介されている。
自分で作ったカスタムフィードはもちろん、他ユーザーが作ったものもお気に入りに入れて何個でも利用することができるので、自分が見たい情報へとすぐにアクセスできるようになっている。ちなみに、カスタムフィードの構築方法として公式からはfeed generator starter kitと呼ばれるツールが提供されているが、開発者でないと扱うのが難しいものとなっている。より簡単に構築したいという人は、サードパーティ製の「Skyfeed」などがノーコードで作れるものとして有名なようだが、条件指定が難しい等の課題もあるとのことで、より複雑な条件でのカスタムフィードを構築する方法としてこちらの記事のような方法もある。非常に長い記事だが、Blueskyのあらましを理解するのにも非常に良い内容だと感じたので、興味のある方はぜひ読んでみてもらいたい。
いずれにしても、ここまでお伝えしてきた思想をベースにしたオープンプロトコルということで、様々なエンジニアが多様なツール開発やそれにまつわる発信等に勤しんでおり、良質なデベロッパーエコシステムが醸成されている状況と言える。
Bluesky社のメインプロダクトはあくまでATプロトコルであって、Blueskyアプリは機能リファレンスとして開発・提供されているわけだが、そうは言っても同社の哲学をふんだんに反映したプロダクトでもあるわけで、「分散型カルチャーを体現するSNS」としてユーザーも目を見張る勢いで増えていった。ということで、ミートアップ序盤では、初回ミートアップの運営メンバーの一人であるShino3氏から、ここ1年の振り返りが紹介された。概要としては以下の通りだ。
これを見ていると、ユーザー数が大きく伸びたきっかけとしては、やはりTwitterの動向が大きく相関していることがわかる。2023年7月に、TwitterのAPI制限措置が発表され、また同月にサービス名がTwitterからXへと変更されたことで同サービスからの離反とBlueskyへの流入をもたらしたのか、結果として翌月にユーザー数が50万人を突破している。また、2024年2月6日の招待コードの廃止も大きかったと言える。もともとBlueskyでは招待コードによるクローズドベータ版の運用とされていたのだが、同日を境に誰でも利用できるようにオープンされたことから、招待コード廃止からわずか2日で400万人の壁を突破している。
ミートアップ当日の情報としては上画像にある通り。ユーザー数としては546万人強となっている。画面下部にある青い棒グラフはアクティブユーザー数の変遷なのだが、招待コード廃止日に一気に伸びていることがお分かりいただけるだろう。
ちなみに右下に書いてある「四谷ラボ」とは、いつでも誰でも自由に参加して研究・交流・発信できる未来志向のオープンイノベーションラボで、今回のミートアップの企画にも携わっている団体なのだが、日本でおそらく最初のBluesky同人誌である『Hello Nostr! Yo Bluesky! 分散SNSの最前線』(書籍のLPはこちら)を出しており、今年5月25日・26日に予定されている技術書典16には第二弾(改訂版?)がお披露目される予定だという。Shino3氏はそのプロデューサー兼ライターとして携わっており、ミートアップ当日は手元に残っていた最後の1冊をWhy氏にプレゼントするという一幕もあった。
後半のパネルディスカッションでは、集客やビジネスモデルといった、SNSサービスの拡張に関するトピックがメインに据えられた。
他SNSからユーザーを呼び込む施策等を問われたCEOのJay氏は「カスタムフィードはキラーコンテンツになり得るし、DM機能の実装も近くリリースしたい」と説明し、Why氏は「既存ユーザーが新規ユーザーを招待する時の体験の改善が最優先だ」とコメントし、直近の機能強化としてはオンボーディング周りになることを明かした。また別の観点として、開発者の山貂氏による「ベータをちゃんと終わらせるのは一つあると思う」というコメントも面白かった。つまり、クローズドベータ版から始まって2024年2月6日に招待制コードが廃止されて実質的なオープン状態にはなったが、ベータが明けたという発表は実のところなく、現状どういうステータスなのかがはっきりしないことから利用を躊躇している人も多いのではないかという指摘である。これに対してJay氏は「公式にベータのステージは抜けた」と返答し、会場からはこの改めてのアナウンスに対して拍手が送られた。
また持続可能なマネタイズ案について、基本的にJay氏もWhy氏も現時点では安易な広告モデルへの依存は想定していないようで、ハンドルネームに独自ドメインを割り当てる機能に付随したドメイン販売サービスの展開をはじめ、今後はカスタムフィードやモデレーションサービスのマーケットプレイスなど、Blueskyエコシステムに関わるユーザーに利益が還元されるようなサブスクリプションモデルの検討も進めているという。
「少し前まではクローズドベータ版の運用などで収益化を考える段階ではなかったのですが、今年からしっかりと考えていきます」(Jay氏)
Blueskyのマネタイズについて徳力氏は「Twitterが証明したこととして、全員が繋がっちゃうとケンカが起きる。コミュニティを適切に区切ることによってそれぞれが楽しく過ごせる空間があることが前提で」と前置きをした上で「サブスク的な仕組みがあって、PDSとかにもお金が流れる仕組みがあったらいいな」とコメントする。リモート登壇のNight Haven氏も、「ユーザーが増えていくと、Twitterのように個人とネットワークの距離が大きくなってしまうので、中間領域を作るのが必要じゃないかなとずっと考えている。オープンだけどクローズ、クローズだけどオープンみたいなものを今のTwitterライクなUIを追求していく中で機能として作ってほしい。そこにマネタイズの可能性もあるのではないかと感じている」と考えを述べた。
またNight Haven氏は「ATプロトコルの未来」というトピックへの回答において以下のようにコメントしていたのも印象的だった。
「Blueskyソーシャルというサービスに限って言うと、Twitterライクなユーザーインターフェースを踏襲しているので、それをぜひ破壊してほしいと考えています。より人間の物理空間でのコミュニケーションに対応するような何かが生まれたらいいなと思っていて、例えばフォローというシステムを表示させなくするとか。あと、今いろんなカスタムフィードがありますが、未だにFollowingタイムラインが特権的な位置にあって、非表示にしたり移動させたりができなくなっているので、それをまずは自由に出したり消したりできるようにすることを、エンドユーザーとして望んでいます」(Night Haven氏)
なお、会場からの質問も途切れることがなく、30分以上にわたって挙手に対するBlueskyチームからの回答がなされた。中でも面白かったのが、開発者の方から「BlueskyのフロントエンドではJavascriptやReact Native等を使っていると思うが、そこで苦労したエピソードなどがあれば知りたい」という質問に対するWhy氏の回答だ。
「そうですね、React Nativeは非常に難しいソフトウェアで、様々なデバイスに出荷できる反面、バグも無限にあります。Androidにだけ存在するバグもあれば、iOSにだけ存在するバグもあります。バグによっては、新しいスマホを購入して、バグがあるかどうか確認する必要もあります。結局、FacebookでReactに携わっていた人を雇うことになりました。彼が参加した時、彼は『全部のアプリを捨てたい』と考えていたんですよ。時には非常にイライラすることもありますが、複数のアプリを個別に作るよりも間違いなく簡単なので、そこは本当に良いことだとは感じています」(Why氏)
各種コンテンツの最後は交流会、ということで、ミートアップ参加者と登壇者、それからミートアップの運営スタッフ(全員有志)が一緒になって、会場後方で中華料理を食べながらのBlueskyトークに花が咲いていた。
参加者の中には、20年ほどTwitterで活動していたが、ここ一年の仕様変更に伴う運営企業や参加ユーザーの姿勢等に色々と考えることがあって、2023年8月からBlueskyへと活動の軸を移したクリエイターの方もいらっしゃった。主に特に最後の1年ほどは悪意のあるアカウントの投稿等が目につくようになっていったと言い、安全に自身の発信ができる状態ではなくなってきたと判断し、招待コードをもらったことをきっかけにBlueskyを使いはじめたという。
「本当は今でも戻ってほしい、できれば使っていた当初のTwitterに戻ってほしいとは思っているのですが、現状だとまぁ難しいと思うので、今はBlueskyだけで発言をしています。当初はここまで大きくなるメディアだとは思っていなかったのですが、ミートアップでいろんな方と交流して、今後の展開をディスカッションするようなレベルにまでなっていることを今日初めて知りました。TwitterやFacebookなどは一方的に機能を提供するような形だと思いますが、開発者とユーザーが熱量を交換し合いながら建設的な話をしていくということで、すごく感銘を受けました」
※ご本人のより率直・詳細な感想についてはこちら
なお1年前に開催された第1回目ミートアップでは運営スタッフの一人として、第2回目の今回は挙手して運営長としてミートアップを牽引したつるるん氏は、多様な属性の参加者を見ながら以下のようにコメントする。
「今は割と開発者やデザイナーが中心といった感じで、まだまだコミュニティ全体としては偏りがあると思うのですが、本日会場にいらっしゃってくれた方々のように、それこそクリエイターや一般ユーザーまで幅広い方々に広まっていって、Blueskyがより一般化していってくれたらいいなと感じています」(つるるん氏)
筆者が個人的に印象的だったこととして、Blueskyチームから要所要所で「日本のデベロッパーは素晴らしい」という趣旨の発言がなされたことだったので、最後にご紹介しておきたい。
イベントの冒頭でJay氏は「日本では公式が対応する前から、独自のクライアントやアプリ、その他プロトコルに接続する様々な方法を開発する人たちがいて、オープンソースエコシステムに対して非常に熱心に取り組んでいた」と発言し、またWhy氏もセッション終了後のメディアぶら下がりで以下のようにコメントしていた。
「日本人開発者の偉業として真っ先に思い浮かんだのは、翻訳機能ですね。今でこそポスト画面からGoogle翻訳に飛ばすリンク機能をつけていますが、それよりも全然前の時期から、サードパーティ製のビルトインの翻訳機能を作っていたりしていて、完敗だと思いました。あとハッシュタグについても、公式で対応するずっと前から対応するなどしていて、こちらも実に印象的でした」(Why氏)
さらに、Bluesky開発チームのPaul[Paul Frazee]氏も、ビデオレターを通じて以下のように発言している。
「ここで少し時間をいただいて、みなさんのとても素晴らしい仕事ぶりを称賛させてください。まずカトウシンヤさんによるDart SDKは素晴らしい出来栄えです。ドキュメンテーションサイトも素晴らしく、我々はとても感銘を受けました。次はATプロトコルのRust実装であるATriumですね。ATプロトコルの完全な実装を目にするのは嬉しいことです。これはsugyanさんの成果ですね。これにはとても興奮しています。TOKIMEKI、Klearsky、Ucho-tenといった素晴らしいクライアントも開発されています。SNSを違った方法で実現しようとする皆さんの姿を見るのは本当に嬉しいことです。皆さん、本当にありがとうございました」(Paul氏)
日本の会場でミートアップを開催しているのでこういった発言はリップサービスとして出てきたと言われたらそれまでかもしれないが、そうは言っても第1回目のBlueskyミートアップが日本という土地で開催されたこと、そして2年連続でテクニカルアドバイザーのWhy氏が来日してミートアップに参加してくれていることなどを踏まえると、日本の開発者へのリスペクトは本物であると思うので、非エンジニアながら我が国の開発者エコシステムに大いに誇りを持った次第だ。
なお、Blueskyはまだまだ進化の途中で、たとえばミートアップが開催された2024年4月13日(現地時間では4月12日)には、もともと禁止していた国家元首の利用を解禁。さっそく、ブラジルの大統領がBlueskyアカウントを開設し、それに併せてブラジル国民も次々とユーザー登録を進めているという。SNSとして、影響力が大きいユーザーを受け入れる準備が整ったということだろう。
President @LulaOficial of Brazil has just joined Bluesky. Bem-vindo!
— bluesky (@bluesky) April 12, 2024
Sign up for Bluesky (no invite code required): https://t.co/exCdOOYprz pic.twitter.com/9RFbbPBgP1
最近「インターネットがつまらなくなった」という声をよく耳にするようになったが、厳密には「SNS/ソーシャルメディアがつまらなくなったのであって、インターネットそのものはまだまだ面白いのではないか」という話を友人とした。「インターネット黎明期の思想を体現するようなプラットフォーム」のあり方については、クリプトの取材をしている際によく感じていたのだが、今回のBlueskyミートアップでも大いに感じることができた次第だ。なんだか、ソーシャルメディアの明るい未来を垣間見ることのできる時間だったし、そこに向けたポジティブなエネルギーをミートアップ会場全体、及び配信YouTubeコメント欄やミートアップ専用Discordから受け取った気がした。
※Bluesky社の日本語での動向については今のところGIGAZINEが最も細かく追っていると感じたので、より細かい部分で気になる方は、公式ブログかこちらをご覧いただくと良いだろう。
なお、大阪開催(Bluesky Meetup in Osaka Vol.2)の内容については、GIGAZINEの以下の2記事で詳しくレポートされているので、興味のある方はこちらも併せてご覧いただきたい。
ミートアップ当日の各セッションの様子については以下の動画でご確認ください。(上段:東京開催、下段:大阪開催)
取材/文/撮影:長岡武司
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]]>2024年8月24日〜25日にかけて、ロボットと性愛に関する国際カンファレンス「LSR9(Love and Sex with Robots 9th)」が、カナダ・ケベック大学(モントリオール)にて開催される。4月1日に […]
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]]>2024年8月24日〜25日にかけて、ロボットと性愛に関する国際カンファレンス「LSR9(Love and Sex with Robots 9th)」が、カナダ・ケベック大学(モントリオール)にて開催される。4月1日にキーノートセッション登壇者が発表され、それに併せてEarly birdの割引チケットの発売も開始。4月15日までは、カンファレンスの議題も募集している(詳細はこちらのSubmission of Abstractsをご確認)。
https://t.co/7YEMVtKcxl for full list of topics and submission info
— lovewithrobots (@lovewithrobots) March 16, 2024
#HRI #sextech #aigirlfriend pic.twitter.com/43kTgKKgBb
「ロボットと性愛」と聞くと、なんだかチャラチャラした会合に聞こえるかもしれないが、そんなことはない。過去8回の開催では、心理学/社会学/哲学分野等のアカデミアや研究機関、セクソロジスト、民間ロボット企業(セックストイメーカー含む)の経営陣、さらにはセックスロボット研究家や愛好家まで、まさにロボットと性愛にまつわるマルチステークホルダーが一堂に介して、セックステック(Sex × Technology)のような産業分野の現状からロボット/AI倫理のあり方まで、幅広い議論を展開してきている。
特に今回は、GPT-4やClaude 3をはじめとする生成AIの流れが加速してきており、マルチモーダルAIに向けた急速な進化に併せて、NVIDIAやOpenAI、イーロン・マスク等がマイルストーンの一つとして掲げる「ヒト型ロボット」というUIの提供スピードも、当初予想よりも随分と早まる見通しの中での開催だ。当然ながらロボット/AI倫理、及び技術哲学等の側面から、ロボットとのセックス行為含むリレーションの在り方に関する議論も加熱することが想定されるからこそ、今回のLove and Sex with Robotsカンファレンスは特に要注目だと考える次第だ。具体的なトピックとしては、以下が公式サイトに挙げられている。
※6年前の公開にはなるが公式イメージ動画としてご参照いただきたい
本カンファレンスを主宰するのは、世界トップクラスのチェスプレイヤーであり、コンピューター・サイエンティストでもあり、またセックスロボット研究家でもあるデイヴィッド・レヴィ[David Neil Laurence Levy]氏だ。1960年代にチェスプレイヤーとして活躍していた中で「将来的にAIが人間に勝つようになる」というAI研究者(ジョン・マッカーシーとドナルド・ミッキー)の講演会での発言をきっかけに、AI領域へと進んでいった同氏は、次第にセックスロボットの可能性にも着目していった。2007年には、同年10月11日にオランダのマーストリヒト大学で提出した博士論文の商業出版となる書籍『Love and Sex with Robots: The Evolution of Human-Robot Relationships』(2007, HarperCollins Publishers)を発表し、セックスロボットが将来的に一般大衆に広く使用される可能性があることを強く主張している。
本カンファレンスはこの流れを汲んで企画・開催されているもので、公式サイトに同氏からのメッセージと共にその一連の経緯が紹介されている。せっかくなので少々長いが、以下に翻訳したものを転載する。
Love and Sex with Robotsが真面目な学問的テーマとして注目され始めたのは1983年のことで、ニール・フルード[Neil Frude]博士が著書『The Intimate Machine』の中で次のように述べたことがきっかけと言えるだろう。
「コンピューター・テクノロジーは性的刺激の新たな可能性を提供するだろうし、それに対してポルノ事業者は業界発展のために迅速に活用していくだろうから、その新しい可能性が徹底的に探究されていくことが予想される」
翌年、フルード博士の出版に続いて、MIT教授のシェリー・タークル[Sherry Turkle]博士による画期的な本『The Second Self』が生まれた。彼女の研究では、コンピューターが未来の社会に与えるであろう影響について調査しており、書籍では次のように書かれている。
「私たちは、自分たち自身と私たちが作ったモノ/作るかもしれないモノとの間にあるつながりを探していくことになるでしょう。そして、それら創造物との親密さを通じて、つながりが現実のものになっていくかもしれません」
この本の中で、タークルはMITの学生に「あなたが所有するコンピューターについてどう思うか」と尋ねたときの言葉を引用している。私がこの本を初めて読んだのは2003年だったのだが、その学生の返事は雷に打たれたような衝撃を私に与えた。彼は「ガールフレンドを作ろうとしたが、コンピューターとの関係の方が好きだ」と言ったのだ。この風変わりな回答は1980年代初頭のものであったが、20年後、コンピューターが80年代初頭よりもはるかに普及していた時代に、このような感情がどの程度存在していたのだろうかと私は疑問に思った。コンピューターに対する“愛情”は、同じようにありふれたものになっているのだろうか?こうして私は、ロボットとの親密で愛情深い関係という、この挑戦的なテーマに引き込まれたのである。
その興味の高まりは書籍執筆へと発展し、『Love and Sex with Robots』というタイトルが理想的なように思えた。研究と執筆を進めている間、2004年1月にイタリアのサンレモで新しい学問的主題「ロボット倫理(Roboethics)」に関するシンポジウムが開催されたことを知ったわけだが、そのシンポジウムの主催者によって、2006年2月にジェノヴァで開催された「EURON Atelier on Roboethics」のフォローアップ会議に招待された。そこで私は、まだ公開されていない研究資料に基づいた三つの講演を行った。翌年、IEEE-RAS国際ロボティクス・オートメーション会議の一環としてローマで開催されたICRAワークショップでロボット倫理について発表し、IEEEがロボット倫理ワークショップとその構成部分を主催したことにより、私たちの主題は学術的な場において正式に認められた学問分野として確立された。
私の著書『Love and Sex with Robots』の完成が近づくにつれ、マーストリヒト大学から私の研究の学術版をPhD論文として提出するよう招待された。そこでの論文のタイトルは少し保守的な「人工パートナーとの親密な関係(Intimate Relationships with Artificial Partners)」となった。論文審査の日には、オランダのメディアから大きな関心が寄せられ、その結果大学は翌年にこのテーマを主軸に置いた会議を開催する運びとなった。その流れで、2008年、2009年、2010年の三年間、オランダは「人間-ロボット関係国際会議(International Conference on Human-Robot Personal Relationships)」の開催地となり、その会議録はSpringer Nature社によって出版された。この出版によって、私たちの研究領域の学問分野としての信用がさらに高まったと言えるだろう。
2011年、私はシンガポール国立大学のエイドリアン・チョーク[Adrian Cheok]教授から連絡を受け、彼のPhD学生の一人、フーマン・サマニ[Hooman Samani]の外部審査員として召喚された。彼の論文は、私たちの研究分野にとって非常に重要なモノだった。エイドリアン自身の興味と研究作業も相まって、私たちは良い友人となり、ヒマラヤを一緒に観光し、エベレストの山頂など、様々な場所をご一緒することになった。そして2014年に、エイドリアンは新しい学術会議を始めることを提案した。それがこの「The International Congress on Love and Sex with Robots」(以下、ロボットとの愛とセックスに関する国際会議)というわけだ。
エイドリアンの提案は、ロンドンのゴールドスミス大学で開催されたこのタイトルのワークショップの締めくくりで提示されたもので、英国を代表する人工知能団体であるAISB(Artificial Intelligence and Simulation of Behaviour)の50周年記念行事の一環として企画された。そのワークショップは、参加者数(約40名)という点でも、また、「ロボットとの愛とセックス」というテーマが適切な学術研究分野であることを学界がさらに承認したという点でも、成功を収めた。この新しい会議体の第一回目は、ポルトガル領マデイラ諸島にあるフンシャルにて、マデイラ大学主催で開催された。
翌2015年、私とエイドリアンは、マレーシア政府の政府系ファンドが出資して新設された研究機関「イマジニアリング研究所」の所長にエイドリアンが就任したということで、マレーシア南端のイスカンダルでの開催を計画した。しかし、会議が始まる2週間ほど前、マレーシアの観光大臣がこの会議が自国で開催される予定であることを知り、「マレーシア文化に反する」という理由で即座に反対したのだ。クアラルンプール警察署長のタン・スリ・ハリド・アブ・バカール[Tan Sri Khalid Abu Bakar]も記者会見を開き、このイベントを「馬鹿げている」と評し、「機械とのセックスに科学性なんてない。我々の文化には適していない。このイベントが開催されるのであれば、私たちは主催者に対して行動を起こすことができる」と述べた。記者会見に出席していた記者の一人が、エイドリアンと私がこのイベントを行った場合、どのような理由で逮捕・起訴される可能性があるのかと質問したところ、「心配しないで。私たちが何か考えるから」と言われた。マレーシアの機嫌を損ねたくはなかったし、マレーシアの刑務所でくさい飯を喰らうのはもっと嫌だったので、エイドリアンと私は、第2回目の開催を翌年に延期するしかなかった。
結果、第2回目はロンドンにあるゴールドスミス大学で開催する運びになった。2016年12月に開催されたわけだが、結果としてこのカンファレンスシリーズにさらなる学術的な信頼性が加わったと感じている。現地でのすべての手配は、その後『Turned On: Science Sex and Robots』という本を執筆したケイト・デヴリン[Kate Devlin]博士が行ってくれた。
第2回会議が大成功を収めたため、当初は2017年12月に開催される第3回会議のためにゴールドスミスに戻ることを決めていたのだが、開催を目前に控え、マレーシア警察に関する信ぴょう性の高い警戒情報が入ったため、セキュリティ上の理由から会場を変更することになった。エイドリアンはギリシャとのハーフで、急遽、ロンドン北西部ゴルダーズ・グリーンにあるギリシャ正教会のホールと素晴らしいケータリング施設を使用できるよう、適切な手配をしてくれた。第3回大会で特に素晴らしいと感じた点は、私の名前を冠した「最優秀論文賞」がベルギーの博士課程の学生に贈られたことだった。
第4回会議は2018年にモンタナで開催される予定だったが、色々とあって延期せざるを得なかった。 幸運なことに、ある博士課程の学生が第3回会議を非常に楽しんでくれたため、延期された第4回会議の開催を引き受けてくれることになり、2019年7月初旬にブリュッセルで開催されることになった。結果、イベントとしては大成功で、参加者全員が大いに楽しみ、私見でもこれまでのシリーズで最高のものだったと感じている。
シリーズ5回目では、いつどこで開催するかについて議論している最中にCOVID-19パンデミックが発生したことで、バーチャル会議とすることを決議した。Imagine Ideation社CEOであるボビー・ビドーチカ[Bobbi Bidochka]とサイモン・デュベ[Simon Dubé]博士の努力のおかげで、モントリオールからZoomで会議を配信することに成功し、昨年と今年のイベントでもこの形式を繰り返した。
長くなったが、ロボットとの愛とセックスに関する国際会議は健在だ。バーチャルのイベントに変更したことで、例年を大幅に上回る登録が集まった。
今年もまた、非同期のポスター発表や簡単なコミュニケーション、データ・ブリッツを通じて、世界中で行われている科学や研究を共有できる可能性がある。
過去2年間の成功を踏まえ、組織委員会はこれまで以上に、LSR会議と組織の質を継続的に向上させることを目指し、世界クラスのバーチャルイベントを提供することに全力を注いでいる。
筆者翻訳:https://www.lovewithrobots.com/conference
※2024年開催の第9回目は対面での実施になります
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— lovewithrobots (@lovewithrobots) April 5, 2024
2024年4月1日には第9回目のキーノートセッション登壇者も発表された。ロボットテクノロジーとセックスワークの複雑な相互関係に焦点を当てた研究等に取り組むデルフィーヌ・ディテッコ[Delphine DiTecco]氏や、40年以上にわたり結婚・家族セラピスト/認定セックスセラピストとして活動するマーティ・クライン[Marty Klein]博士、サイバーセックスやオンライン性行為の経験や肯定的/否定的な結果についての理解を深めるための測定方法と文脈的要素に関する研究を進めるクリステル・ショーネシー[Krystelle Shaughnessy]准教授(オタワ大学心理学部)、そして長年ドール・コミュニティに参加しているクィアを自認するカルマ[Karma]氏の4名が、今のところ発表されている(詳しいプロフィール等はこちら)。
2024年6月30日までは、30%OFF価格のEarly bird割引チケットが発売されており、一般は269カナダドル、学生は69カナダドルで購入可能となっている。LoveTech Mediaは、このAI/ロボット進化の過渡期においてロボット×性愛領域の議論は極めて重要な動向だと考えていることから、今年度のLSR9に現地参加する予定だ。特にロボット/AIの道徳性(道徳的行為者性/道徳的被行為者性)の議論の上で考えられる生物との性愛関係や、フェミニズムのアプローチ、あとはニッチなところで考えるとアンドロイディズム(androidism)のようなフェティシズム愛好集団の考え方や思考性等の現座地点について興味がある次第だ。
本記事を通じて興味を持っていただいた方は、ぜひカナダでの2日間をご一緒できたら幸いである(現地参加するよ!という方は、ぜひ編集長・長岡までご連絡いただきたい)。
ちなみに、デイヴィッド・レヴィ博士のメッセージで登場するケイト・デヴリン博士の書籍『Turned On: Science Sex and Robots』は、日本語で『ヒトは生成AIとセックスできるか:人工知能とロボットの性愛未来学』(新潮社)として出版されている。
こちらで、ロボットとの愛とセックスに関する様々な背景情報が紹介されており、今回の「ロボットとの愛とセックスに関する国際会議」(主にデヴリン博士が関わった第2回開催時)に関する歴史も紹介されているので、ぜひ併せて読んでみていただきたい。メインテーマはもとより、人工知能の発達の歴史についても1章を割いて紹介されているので、テクノロジー動向をしっかりと追えていない方でも比較的簡単に理解を深めることができるだろう。
文:長岡武司
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]]>2024年2月10日〜11日、総合アートイベント『GANRA Art Festival』が、東京・新宿のアートスペース・WHITEHOUSEで開催された。主催は、ドイツ・ベルリン発のドキュメンタリー&カルチャーマガジン「MOLS magazine」。当日は、ブラジルからの初来日となったAun Helden(アウン・ヘルデン)氏や電子音楽作曲家であるMAKOTO SAKAMOTO氏によるライブパフォーマンスが実施された他、同マガジンがキュレートした5名のアーティストによるビデオアート作品が日本で初上映。決して広くないWHITEHOUSE場内は、立ち見客が発生するほど賑わっていた。
本記事では、日本で初開催された総合アートイベント『GANRA Art Festival』の様子をレポートする。
そもそも「MOLS magazine」とはどんなプロジェクトなのか。「聞いたことがない」と思う方も多いだろうが、それもそのはず。ベルリンを拠点に活動する同プロジェクトの哲学が「アンダーグラウンドに潜む見えない・聞こえないサインを捉え発信する」というもので、拠点であるベルリンで活動する様々なアーティストと協働しながら、ライブイベントの運営やMVの制作、YouTubeでの動画発信等を行っているというのだ。日本から遠く離れたベルリンの、さらにアングラアーティストにフォーカスするインディペンデントマガジンということで、物好きでもない限りは活動の存在自体キャッチできないだろう。
なんでそんなニッチなプロジェクトを僕が知っているかということだが、僕が初めてMOLS magazineのことを知ったのは、2023年11月23日〜26日にかけて東京都現代美術館で開催されたTOKYO ART BOOK FAIR 2023だ。国内外から約300組のアーティストや出版社らがブースを出展するそのイベントで、「knew as new」というアポイント制書籍セレクトショップのブースに寄った時に、創刊号の展示を拝見させてもらったのだ。
時間の関係上10分程度しか目を通せなかったのだが、その着眼点やマガジンとしての哲学が非常に秀逸で、一気にファンになってしまった。100部しか刷られなかった創刊号は、残念ながらその時点で完全に売り切れ状態だったため購入ができなかったのだが、翌年に第2号をリリースする予定とのことで、その時はX(旧Twitter)やInstagramをフォローするだけした次第だ。
そんな流れで心待ちにしていたMOLS magazine第2号のテーマは「GANRA」(読み方:ガンラ)だという。GANRAって何?と思ったが、こちらは“完全な自律性”をあらわす言葉とのことだ。GANRA Art Festivalのクラウドファンディングページには以下のように記載されている。
『GANRA』とは、自分が何者であるのかを自らが決定し、実証すること。またどのような状況においても、作者と作品が一体となり完全な自律性を目指すことを表す意味であり、現代社会を表現したもの、または社会改善が制作動機にあるイメージに対して強権的な検閲や制圧があったとしても、その状況から打破し、新しい手段を持って存在の可能性を生み出す行動や行為またはその人物のことを指します。
引用:MotionGalleryのプロジェクトページ
このGANRAというテーマに対する想いは、第2号の編集前記に当たる部分で、より詳しく記述されている。自分なりに意訳すると、私たち一人ひとり(ここには政府による検閲から一個人に鑑賞まで様々なアクターが存在する)の意識的/無意識的な作品に対する応答が、結果としてアーティストをエンパワーすることもあれば、そうではなく萎縮させることもある。問題となるのは後者であって、そういった検閲に対する“耐性”なのか、さらには検閲がそもそも及ばない意識のあり方や活動の仕方を通じて「完全なる自律性」を実現するにはどうしたらいいのかを考える、というのが、僕が誌面から受け取ったメッセージだ。
このアーティストが抱える様々な制約は、日本においても大小様々な問題となって現れていると日々感じる。社会の意識的・無意識的な圧力とコンヴィヴィアルに付き合っていくためにはどうしたらいいのか。そんなことを改めて感じさせてくれる編集前記が、非常に素晴らしい内容だと感じた次第だ。
そんなGANRAをテーマとするGANRA Art Festivalでは、冒頭でお伝えした二人(Aun Helden氏、MAKOTO SAKAMOTO氏)によるライブパフォーマンスをメインコンテンツとしつつ、日中はAun Helden氏含む5名のアーティストによるビデオアート作品が上映されていた。まずはこれらの作品について簡単に紹介していく(といっても、実際に作品を見ないことには説明のしようもないし、そもそもアート作品なんて一人ひとりの受け止め方が全てなのであって、あくまで参考情報ということで)。
ドイツ・ハンブルクを拠点に3Dアニメーション、サウンド、インスタレーション、テキスト、AIを駆使して活動するビデオ・アーティスト。今回上映された「i think i was once a car」という作品では、写真にあるような人型のクリーチャーや、もっとダリの足の長い象を彷彿とさせるような機械仕掛けの動物が登場する。その一部がInstagramに掲載されているので、併せてご覧いただきたい。
なお、マガジン「GANRA」ではRico Mehler氏に対するインタビューで以下の質問が投げかけられており、同氏への理解がより立体的になった。
特に作品を見ると、一瞬は「テクノロジー万歳」なトランスヒューマニズムど真ん中なタイプの方なのかなと感じたが、インタビューを読むとそうではなく、どちらかというと非人間を重視したポストヒューマニズム的な視点を重視されている方なのかなと感じた次第だ。
ちなみに全然関係ないところで、ちょうど作品鑑賞時に読んでいた『アナロジア AIの次に来るもの』(早川書房)という本の中で、第0章に以下の記述がある。
第四の時代は、われわれを、もはや手に負えない、あるいは完全には理解できないテクノロジーと人間が共存していた第一の時代、スピリチュアルだらけの原風景へと引き戻そうとしている。そこは人類の心が形成された場所だ。
引用:ジョージ・ダイソン(著), 服部 桂(訳)『アナロジア AIの次に来るもの』早川書房, 2023 13頁より
ここで言う「スピリチュアルだらけの原風景」の一つの側面として、Rico Mehler氏の「i think i was once a car」のラストシーン(写真のシーン)がイメージとしてしっくりきたというのが、個人的に妙に印象に残った。
映像作家のThiago Dezanと、グラフィックアーティストのInfiniteによる協働プロジェクト「Insomnia」からは、「NEVER ENDING HATE」という作品がピックアップ・上映された。9つのマスに分割されたスクリーンには、権力に対する抗議活動や紛争での軍隊の出動シーン、ギャングの抗争の様子など、世界中で繰り広げられている様々な「欠乏の心」による争いが映し出されている。マガジン「GANRA」では二人に対して以下の質問が投げかけられている。
様々なシーンが映し出された後、一つひとつのマスが閉じていくのだが、最後に残ったマスで、ある老人がシャカシャカと楽器を鳴らしながら民族的な曲を口ずさんでいるシーンが非常に印象的だった。あの楽器は何だったのだろうか。
今回初来日となった、ブラジル在住のパフォーマンスアーティスト。Mols magazineの紹介によると、「彼女は自身のアイデンティティーの記号論や認識論的な研究に沿って常に新しい身体のイメージの創造プロセスを開発し、どこか現実的ではない人間離れしたフィクションの世界や言語を創造している」人物だという。たしかに後述するライブパフォーマンスの様子も然り、Aun Helden氏が表現する生物体は非常に“人間離れ”しており、一方で作中の行動習慣を見てみると何だか身の周りにいるような人間を見ているような気がしてくるので、奇妙なカタルシス効果がある作品だった。マガジン「GANRA」では同氏に対して以下の質問が投げかけられている。
ETERNIDADEのラストでは、綺麗な海岸に横たわったAun Helden氏をどんどんと引きの画でレンズにおさめるシーンがあるのだが、これが何とも言えず素敵で印象的だった。あとでマガジン「GANRA」を読んで理解したのだが、作中に出てくる「自動車」は男性を象徴するもので、それに対して「海」は女性らしさを表現するものだという。たしかに、作品を見ながら「母なる海」と表現される通りの “母性” を感じ、なぜかわからないが目頭が熱くなった次第だ。作品の全体感としては、Aun Helden氏によるInstagram投稿が参考になるだろう。
なお偶然なのかもしれないが、Rico Mehler氏も同様に「自動車=男性」というメタファーを用いていた。そういえば、映画『ドライブ・マイ・カー』の解説で「主人公が乗っていた自動車が男性の特権的地位のメタファーだ」とする解説があったことを思い出し、なるほどと思った。
ベルギーを拠点に、写真や映像、パフォーマンスなど、様々な媒体で作品を発表しているグルジア生まれのアーティスト。今回上映された「GOD IS NOT DEAD , GOD IS MARVELLOUSLY SICK」という作品は非常にインパクトのあるもので、Chatrandomという無料のビデオチャットツールを使った、オンラインセックス文化の一端を覗き見ていくような内容だった。メインプロットとしては、上写真の上部にいる男性(SNSではモザイクがかけられていたので当メディアでも同様にモザイクをかけておいた)に対して、下部にいるShalva Nikvashvili氏が色仕掛け(?)のコミュニケーションを展開していくというもの。どんな感じで進んでいくのかは、本人によるInstagram投稿をご覧いただきたい。
マガジン「GANRA」ではShalva Nikvashvili氏に対して、以下の質問が投げかけられている。
なお、作品のラスト付近で二人は仲違い(というかShalva Nikvashvili氏が一方的にブチギレる)をするのだが、Shalva Nikvashvili氏の悲しみと怒りを表したマスクが異様に恐ろしく、ネットの向こうであったとしても、上部の男性は怖かっただろうなと感じた。
イタリアのラ・スペツィアを拠点に活動している写真家。作品名として記載した「Brutal Casual Magazine」とは、エレクトロニック・プロデューサーでポストパンク・ミュージシャンでもあるLady Maru氏との一連のライブプロジェクトを示している。今回上映されたビデオはその一環で制作されたものだと思うのだが、一定のリズムの音に合わせて、ひたすらLady Maru氏が首を横に降っているというもの。20分超えのShalva Nikvashvili氏の作品に対してわずか数分の映像作品なのだが、実は僕の中で最も記憶に残った作品でもある。マガジン「GANRA」ではJacopo Benassi氏に対して、以下の質問が投げかけられている。
時間が進むにつれて、単音だったリズムは曲としての体を持つようになっていき、それに併せて首を横に降るだけだったLady Maru氏も、いつしかフィンガースナップをしながらノリノリになっていく。何だろう、たったこれだけの数分の作品なのに、妙に頭に残る。
ビデオアート作品の上映が終了した後は、GANRA Art Festivalのメインディッシュとも言えるライブパフォーマンスの時間。まずは電子音楽作曲家・MAKOTO SAKAMOTO氏の登場だ。
Mols magazineの紹介によると、「ベルリンでテクノミュージシャンとしてのアーティスト活動を経て、音楽が持つ楽曲的な要素や知識による解釈が聴衆に与える作用よりも、「音」そのものや「響き」、一般的な考えや表現の外側に位置する前衛的芸術、または表現者自身の思想や行動 が直接影響する即興演奏などが聴衆に与える感覚や思考への影響力に注目し、独自のアートミュージックをリリースし続けている」人物だという。こればかりは実際の音を聴いてもらわないことには何とも言えないのだが、目を閉じて空気の振動に身を委ねることで、延々とその場に同化してしまいたくなるような、そんな切れ目のない音の波が心地いい時間だった。これはアンビエント音楽に分類されるのだろうか。実はちょうど最近『AMBIENT definitive 増補改訂版』(ele-king books)という本を読んでアンビエントミュージックを楽しんでいるのだが、こういう作品もあるのだなと発見になった時間だった。
参考として、例えばこちらの山口県萩市にある文化財施設「旧田中別邸」で行われた公開制作映像がいいかもしれない。この映像はすごくいい。収録時にたまたま天候がぐずついて、前半にものすごい豪雨になって後半で太陽が見えるという絶妙な自然現象も、作品の奥行きを大いに深めていると感じる。
MAKOTO SAKAMOTO氏はソロ活動の他にも、ヴァイオリニストのHoshiko Yamane氏とのアンビエントミュージックのデュオや、ピアニストRieko Okuda氏・ギターリストTatsumi Ryusui氏とのノイズバンド「夜光虫 / Noctiluca」などのコラボレーションを展開している。夜光虫 / Noctilucaに関しては、マガジン「GANRA」でもインタビューが掲載されている。
MAKOTO SAKAMOTO氏のライブが終了したら、いよいよ最後のコンテンツ、Aun Helden氏によるライブパフォーマンスの時間だ。
会場の真ん中に設置された “土壌を模した舞台” がメインステージ。今回のパフォーマンスは、同氏が17歳の時に書いた詩にインスパイアされたもので、自身の肝臓の中に住む孤独な女性について表現したものだという。
実はこの設定は、Aun Helden氏の最新作である「Órgão」のものだ。Aun Helden氏自身、Xで「これはÓrgãoのN2(第二形態)だ」とおっしゃっている(ちなみに第一形態はブエノスアイレスで披露された)。
「禁断の鳥」に見立ててメインステージに降り立った同氏は、もがきながらも、地中の中から自分にとっての宝物(飛ぶのに必要な臓物?)を一つまたひとつと見つけ出していき、最後は爽やかな表情と共に、また元いた場所に戻っていく。
この辺りの一連のパフォーマンスは、実際に現地にいた人間でないと何ともわからないだろうが、作品に対する解説のようなコメントとして、Aun Helden氏自身が以下のようにコメントを投稿している。
– 生きることの美しさの不思議な感覚に指が痙攣する。鳥は自由への欲望ではなく、初めて人生を経験するために自らを描く。その腕は、飛びたいという野心と同時に、地上にいたいという野心で痛々しいほど引き締まっている。パフォーマンス中、私は何度もその瞬間に自分が何であるかを自問したが、その答えはすべて現象だった。世界中のあらゆる感情を感じながら、それでもなお、人体の中の異物であるという経験を経ることができるのだ。
– 私は、世界中のあらゆる感情を感じながら、人体の中の異物であることを経験することができる。その胸は、解放を求めるのではなく、初めて人生を体験するために突き上げられる。私たちの腕は、眺めるだけでなく、地上にいることを意図して、鎧のようなものを身にまとっている。演奏中、何度も何度も、その瞬間に自分が何であったかを問いかけられたが、その返答はどれも素晴らしいものだった。世界中のあらゆる感情を感じることができたし、人間離れした体験の旅も味わうことができた。
引用:Aun Helden氏のInstagram投稿
ちなみに、実はAun Helden氏のパフォーマンスアートに大きな影響を与えた人物が、日本の舞踏家/モダンダンサーである大野 一雄だという。そのような影響もあって、今回着用していたドレスは今回の東京公演のために作ったという。
正直、舞踏芸術はほとんど見たことがないので気が利いた感想が言えないのだが、個人的な感想として、不変の舞台に対してゆっくりと世界観を構築していく今回のライブパフォーマンスは、ここ最近特にひどくなっているアテンションエコノミーへのアンチテーゼと感じ、非常に豊かな時間を過ごすことのできた鑑賞後感だった。
紙のプロダクトが好きな自分としてはどうしたって今回発行されたマガジンに焦点が行ってしまうのだが、最初にTOKYO ART BOOK FAIR 2023で見た創刊号と同様に、もしかしたらそれ以上に、第2号の「GANRA」はエネルギーを感じる内容だった。本記事に掲載した各アーティストに対する個別具体的な質問項目を見てもお分かりだろう。編集者として色々なライターさんが用意するインタビュー質問内容を精査するのだが、あそこまで具体的に全アーティストに対して準備を進めるのは、Loveがないとなかなか難しいと思う。
創刊号と違って、今回は初版発行部数200部で、まだ(本記事公開時点では)以下のストアで購入することができるようだ。気になる方は、早めに購入してみると良いだろう。※誌面についてはLoveTech MediaのB面サイトである「紙懐旅」でも触れています。
取材/文/撮影:長岡武司
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]]>2024年2月28日〜3月15日にかけて金融庁が主催した「Japan Fintech Week 2024」の中核カンファレンスとなった「FIN/SUM 2024」(読み方:フィンサム)。日本経済新聞社と金融庁が2016年より共催してきた国内最大級のFinTech & RegTechカンファレンスの東京・丸の内会場は、国内外からの多くの来場者で賑わっていた。
本記事ではその中でも、3月8日の国際女性デーにあわせて企画されたセッション「金融業界のジェンダーギャップ解消に向けた戦略」の様子をお伝えする。モデレーターを担当した金融庁 監督局 参事官の中川 彩子氏はカンファレンスの冒頭で、以下のようにコメントする。
「国際女性デーの本日、FIN/SUMがこのダイバーシティ・パネルをサイドイベントとしてではなく、メインステージでの開催でセットいただいたことは、非常に注目に値すると思います。主催者のご決断に感謝いたします」(中川氏)
「ダイバーシティの問題は、単に男性労働力を男性と同じように働ける女性労働力に置き換えることとして捉えるべきではありません。むしろ、さまざまな背景、さまざまな価値観、さまざまな事情を持つ多様なスタッフに最大限活躍してもらうことができるよう、組織自体を変革していく必要があると考えています。ここで重要なのは、ダイバーシティはマネジメントの問題だということです。そういう意味においても、本日のセッションでは、エグゼクティブレベルの方々にご登壇いただけることを大変嬉しく思っています」(中川氏)
女性活躍推進の現状を図る上では様々な指標が存在するが、例えば賃金の格差に注目してみると、OECD加盟国の中で日本は最悪レベルと言って良い。男女間の賃金格差については2023年3月期有価証券報告書から非財務情報の一部としての開示が義務化されたわけだが、公益財団法人日本生産性本部発表の2023年3月末決算企業の集計結果によると、金融・保険・不動産業が鉱業・建設業と並んで業種別男女間賃金格差が最も大きいという結果になっている。
上記だけでなく、様々な観点で取組みの遅れが指摘される金融業界の女性活躍について、各社・各団体はどのような取り組みを進めているのか。時にはご自身のプライベートストーリーも交えながら、各登壇者がざっくばらんに事例や思い等を共有していった。
※本セッションの大半は英語で開催されました。本記事は、執筆者の意訳をベースに作成しています。
「Temasekとしては、DE&Iがビジネスにとって有益であることを示す実証的な証拠が増えつつあることを認識しています。よって、私たちがやっているのは決して親切心からではありません。あくまで、ビジネスにとっても良いことなのです」
このように説明を始めたのは、シンガポール政府系ファンドであるTemasek社でブロックチェーン領域への投資及びベンチャー育成を担当しているチームのディレクター、ローラ・ロー氏。シンガポール金融管理局(MAS)から独立して設立された非営利会社・Elevandiの諮問委員会メンバーでもある人物だ。
金融業界での女性活躍推進の取組みは遅れていると冒頭にお伝えしたが、プライベート・エクイティ業界においてはグローバルに見てもマネージング・ディレクター・レイヤーでは起用率が20%程度に留まるとロー氏は説明する。特に同氏が所属するのはブロックチェーンチームということで、社内平均よりもさらに課題感が高い状況だからこそ、自分たちが小さな一歩を踏み出すことが大切だと強調する。
「マネジメント層に女性がいれば、それだけ社内外に対してポジティブな影響をもたらすことができます。とは言え、インクルーシブな企業文化の創造は一朝一夕にできるものではないことも認識しています。変化をもたらすためには、心理的なセーフティーネットを充実させたり、職場におけるアンコンシャス・バイアスに対処したりするなど、複数のレバーを引く必要があります。このような対策を講じるには、まず、このような対策を講じる必要があるという認識を持つことが、さまざまな組織で必要なステップだと思います」(ロー氏)
Temasekでは2021年10月に、ダイバーシティへの取り組みと強化を目的とした「Inclusivity@Temasek」イニシアチブを開始しており、ジェンダーダイバーシティのみならず、様々な話題について安心して話すことができる職場作りのための取り組みを強化した。中でも、このイニシアチブをきっかけにスタートした「Temasek Women’s Network(TWN)」では、女性のキャリア・ジャーニーを支援するための啓発や指導、学習のプラットフォームを提供しており、イベントやワークショップ、メンタリングプログラムなどを通じて、どうすればスタッフ一人ひとりがよりインクルーシブな環境を組織として作り出せるかについての意識を高めているという。
「また会社全体へのジェンダー多様性の方針をより定着させるために、戦略的ロードマップを設定しています。具体的には採用、タレント・マネジメント、そして福利厚生の3分野で施策を進めています。採用に関しては、キャンパスに出向いて採用活動を行う際に女性により重点を置いたアプローチを行っていますし、面接の際にもアンコンシャス・バイアスを排除するために、男女のバランスが取れたパネルにするようにしています。タレント・マネジメントの面でも、多様な人材を育成するために女性の登用に力を入れています。さらに福利厚生面としては、身体的、感情的、経済的、そして社会的なウェルビーイングと言う4軸でスタッフをサポートするためのプログラムを提供して、より包括的でバランスの取れた職場環境の育成に注力しています」(ロー氏)
ロー氏自身はというと、社会人になるまでは男女の違いというものを意識したことはなく、家庭内においても両親が平等に育児や家事を分担していたので「それが当然のこと」くらいに思っていたという。そんな中、就職活動の面接において「結婚や出産のスケジュール」について聞かれて、いわゆる性別役割分担意識に直面したと、ロー氏は振り返る。
「改めて実感していることは、子どもの頃に父と多くの時間を過ごすことができたことがとても幸せだったということです。でも、多くの場合はそうではないと思います。ここにいる父親の皆様に聞きたいのですが、子ども達ともっと一緒に過ごしたいと思っている人は何人いるでしょうか? また、父親と過ごす時間がもっとあればと思っている子ども達はどれくらいいるでしょうか? 男性が家庭に参加しないことは、女性差別につながるだけでなく、男性の役割を制限することにもなるのです」(ロー氏)
女性活躍推進の取り組みには、様々なアプローチが存在する。例えば登壇者である橋本 ゆかり氏が執行役員 Chief Diversity & Inclusion officerを務めるアフラック生命保険では、2014年から女性活躍推進を本格的にスタートさせており、「指導的立場(管理職やそれに準ずる社員)」と「ライン長(直属の部下を持つ管理職)」という2つの立場のメンバーに対してのKPIを設定しているという。具体的には、「2020年までに指導的立場に占める女性社員の割合を30%とする」と「2025年までにライン長ポストに占める女性割合を30%とする」というものだ。前者については2019年時点で30%を達成しており、後者についても9.4%という数字からのスタートで、現在は27%にまで伸びているという。
「この層に女性が増えてくると、会社としての変化も多いと感じています。昇進する女性を見る目が特別でなくなりますし、本人たちも特別な意識を持たなくなってきます。また離職率も、20〜30代の女性の離職が男性と比較して相対的に高かったのですが、今は男性と同じレベルまで下がってきています。2014年からの10年間の取り組みを通じて、色々と環境が整ってきたと感じています」(橋本氏)
一方で、マネックスグループの代表執行役社長CEO、およびマネックス証券の取締役社長執行役員を務める清明 祐子氏は「ここまで紹介があったようなイニシアチブやKPIの設定などはやっていない」ものの、組織としては比較的にダイバーシティのある状態を実現しているという。男女比としては男性61%、女性39%となっており、管理職に占める女性の割合も31%(いずれも2022年度のマネックスグループ及びマネックス証券の実績)とのことだ。
「なぜ多様性を確保できるのか? それは企業文化に基づくもので、私たちの企業文化は企業理念によって育まれてきました。私たちは企業理念として『未来の金融を創造する。』を掲げており、一人ひとりの充実感や幸福感の向上に貢献したいと考えています。この企業理念を実現するために、私たちはダイバーシティなのです。年齢や入社年次に関係なく、実力主義、成果主義に基づくことで、そのような文化を作り上げました」(清明氏)
ここまでの話を踏まえて、Incite ConsultingのPrincipalを務めるアマンダ・ウィック氏も「私も実力主義を望んでいる」と前置きしつつ、「私はジェンダー・クオータの仕組みには疑問がある」とコメントする。
「ジェンダー・クオータは、本質的な問題解決にはならないと思っています。つまり、それだと同じスタートラインに立っていないなと。最近ノーベル経済学賞を受賞した方(ゴールディン教授)が、男女の賃金格差の本当の原因を突き止めました。それはローラが議論したような、子育ての観点から見た女性に対する明確な差別にあるというのです。例えば一方が育児を担当し、もう一方のパートナーがキャリアに専念するのでは、同じスタートラインには立てません。やるのであれば、せめてノルマと呼ぶのをやめて “インクルージョン・ベンチマーク” と呼んでほしいと思います」(ウィック氏)
ウィック氏は弁護士事務所→米国司法省→FinCEN(金融犯罪捜査網)→Chainalysis→米国下院→Incite Consultingという、非常にユニークなキャリアを歩んできた人物なのだが、政府関係の仕事の際は女性が非常に活躍していた一方で、ブロックチェーン業界に入った途端に急にその比率が大きく低まったことに驚いたという。
そんな気づきから、同氏は2022年10月に「The Association for Women in Cryptocurrency」を立ち上げた。AWICは、ブロックチェーンやWeb3など、クリプト業界における女性の活躍機会とデジタル金融の未来において女性が果たす役割を推進するためのプラットフォームで、イベントやウェビナーの開催のほか、メンタリングやネットワーキングの機会等を提供している。具体的には、本セッションの時点で12カ国で50以上のイベントを開催しており、会員数も18カ国で400人以上が登録しているという。
「私は30歳で検事になったのですが、当時ある会合に出席したとき、刑事側の弁護人が入ってきて『コーヒーを一杯もらえないか』と頼んできたのを覚えています。戸惑っている私を見て彼が『君はアシスタントじゃないのか? 秘書じゃないの?』と聞いてきたので、私は『いやいや、私はあなたのクライアントを起訴する者です』と答えました。そこから彼は平謝りして、1年半の間、会った時は毎回謝ってきました。おそらくここにいらっしゃる皆様も、女性だからという理由で過小評価されたり、二の足を踏まれたりといった経験があるのではないでしょうか。そして、それは必ずしも意図的なものではないのが厄介なところです。今お伝えした事例についても、彼の人生において、彼が幼少期に見てきた女性のほとんどは秘書だったのでしょう。そのような考え方を変え、私たち自身の考え方も変え、アンコンシャス・バイアスを元に戻すことが、ローラ(ロー氏)の指摘する希望であり、私たちが望んでいることなのです」(ウィック氏)
The Association for Women in Cryptocurrency(以下、AWIC)では、2023年に200以上の企業群から500名以上の回答者を対象にアンケート調査を実施した。暗号資産、ブロックチェーン、Web3の分野で拡大する男女の格差に着目し、なぜ男女共同参画の欠如がこれらの領域における世界的な採用のボトルネックとなっているのかを強調すべく、該当のアンケートではインクルーシブカルチャーやフェアマネジメント、職場の柔軟性や安全性などがインクルージョン・ベンチマークとして設定されているという。
その結果の詳細は2024年3月26日に発表される予定だが、このセッションにおいて先んじて、以下のポイントとなる結果がウィック氏より共有された。なんとなく分かっていたことではあるが、こうやって数値となって定量的に示されると、結構ショッキングな結果である。
これらの結果を受けてAWICが立ち上げたのが「#UnManelYourPanel」というイニシアチブである。Manelとは、男性だけが登壇しているパネルセッションのこと。AWICのLinkedInポストによると、「Manelは女性を完全に無視することで、女性の代表不足と誤認を永続させている」としており、また「慣れ親しんだ人脈以外の世界を見るために必要な足で稼ぐ努力の欠如や、会話の質に対する多様性の重要性の理解不足から生じる傾向がある」として、例え悪意があってそのような結果になったわけではないにしても、「避けられる結果であるにもかかわらず、なぜ男性パネルばかりを受け入れてしまうのかを問うことは重要だ」と強調している。
「現実問題として、ここにいる皆さんに明日の夜ディナーパーティーを開いてください、そして全員知らない人を招待してくださいとお願いしたら、何人の人が手を挙げるでしょう? ほとんどの人は知っている人を招待しますよね。つまり、気の合う人を選ぶわけです。無意識のバイアスは、意図的に意地悪をしているわけではなく、知っている人のところに行くという “社会的な条件付け” なのです。そして、もしあなたが主に男性手動でビジネスが運営されてきた社会にいるのであれば、男性のところに行くのではないでしょうか。私たちがやろうとしていることは、その輪を大きくして、意図的に包括的にすることなのです。偶然に、男女平等が実現することはありません。ですから、このような取り組みを行っている企業や、知らずしらずのうちに先導的な役割を果たしているようなCEOには、本当に感謝をしたいと思います」(ウィック氏)
このウィック氏の取り組みを聞いて、ロー氏も「私たちのスタート地点があまりにも違うので、全員が同じ土俵に立てるようにすることが重要だというアマンダの意見に強く同意する」とコメントしつつ、クォータ制も一定の役割を果たすと私見を述べた。
「先ほどアマンダが言っていた検察時代の話ですが、私も似たような経験があって、それこそ同様にコーヒーを頼まれることがありました。でもこれは、アマンダの言う通り、社会にプログラムされたアンコンシャス・バイアスのようなものです。では、どうすればこのような思考のプログラミングを解くことができるのかというと、それが職場に浸透する前に、家庭や学校での教育から始めることなのだと思います。ちなみに、2021年にシンガポール証券取引所は、上場企業に対して取締役会の多様性方針の策定を義務付けました。そして、上場企業は年次報告書でダイバーシティの目標、計画、スケジュール、そして進捗状況を公表する必要があるとしています。その結果、1年前は20%だった女性取締役の登用が、2022年には40%にまで増えています。ですから私としては、ある程度はクォータ制を導入することには賛成です。もちろん、そのクォータ制のおかげであなたがここにいるのだと考える人もいるかもしれませんけどね。いずれにせよ、そもそも公平な競争条件ではないという事実を認識してもらわなければ、女性や企業全体が不利な立場に置かれることになると、私は考えています」(ロー氏)
ここまでの議論の内容を踏まえて、最後に各登壇者より、女性や若いビジネスパーソンに向けたメッセージが寄せられた。
「アフラックでは毎年意識調査を行っているのですが、管理職になりたくないというメンバーが一定数います。男女とも『家庭との両立が困難だと思うから』が理由のトップになっていて、また管理職はワークライフバランスの実現が難しいのかという質問に対しては、管理職は『それほどでもない』と回答しているのに対して、非管理職メンバーの多くは『すごく難しそう』と答えています。つまり、見えないところでの不安が大きそうだと感じています。自分には向いていないと考えることもあるかもしれませんが、声がかかっている時点で周りから評価されているので、後に続く人のために道を一緒に作っていき、チャレンジしていってほしいと思います」(橋本氏)
「最近思うのは、年功序列や根回し文化というものが、女性だけでなく優秀な人材が能力を発揮するのを大きく阻害しているということです。そう考えると、世代交代で若い世代が多くなれば、多くの問題は自然に解決できるとも思っています。世代交代を図り、土台となる文化を作り、その文化を巻き込んでいかなければならないでしょう。金融機関のCEOとして、私はそのような社会の発展に貢献したいと思っていますし、若い優秀な人たちに仕事を楽しんでもらいたいと思っています」(清明氏)
「今週、日本にいる日本の人たちと話をしていて、アメリカのような個人主義で競争心の強い『私』の社会と、日本のような集団的利益を重視する『私たち』の社会との違いについて話していました。ある男性と話していたとき、彼はこう言いました。日本の男性は国外に出ると、個人としてアグレッシブではないので、ビジネスをすると不利なんだと。でも日本の女性はそうではない。なぜなら、常に競争しなければならなかったからだと。これまで平等に扱われなかった社会で常に戦ってきたあなたたちだからこそ、これからの時代は勝者になる可能性が高いと思っています。今がその時です」(ウィック氏)
「若い女性だけでなく、すべての若者に言いたい。発言することを恐れず、自分のアイデアを共有し、新しいチャレンジに挑んでください。テーブルの席が欲しければ、自由に発言し、アイデアを共有できる勇気を持たなければなりません。あなたには社会を大きく変える可能性があることを忘れないでください。包括性と支援の文化を育むことで、より包括的な社会、そしてみんなのための業界に貢献することができるのです。このセッションに参加してくれたこと、特に、この部屋にいる男性の存在に感謝したいと思います」(ロー氏)
取材/文/撮影:長岡武司
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]]>2024年2月28日〜3月15日にかけて金融庁が主催した「Japan Fintech Week 2024」では、3月4日週のコアウィークを中心に様々なFinTech関連イベントが都内近郊で催された。その中でも中核となっ […]
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]]>2024年2月28日〜3月15日にかけて金融庁が主催した「Japan Fintech Week 2024」では、3月4日週のコアウィークを中心に様々なFinTech関連イベントが都内近郊で催された。その中でも中核となった、日本経済新聞社と金融庁が共催する、国内最大のFinTech & RegTechのカンファレンス「FIN/SUM 2024」(読み方:フィンサム)の会場は、国内外からの多くの来場者で一際賑わっていた。カンファレンス初日の岸田 文雄内閣総理大臣のビデオメッセージ出演時においては、メイン会場に立ち見客が溢れていたほどである。
本記事では、前回に引き続き規制サイドの視点をお伝えしたく、FIN/SUM 2024のオープニングセッションとして企画された、欧州証券市場監督機構(ESMA)長官・ベレーナ・ロス氏来日登壇の金融庁対談「欧州当局のデジタル戦略~デジタル資産やAIへの対応~」の様子をお伝えする。
フランス・パリに本部を置くESMA(European Securities and Markets Authority)は、2011年1月1日に設立されたEU専門機関の一つ。投資家保護を強化し、暗号資産含め秩序ある証券市場の育成と安定した金融システムの構築を目的としているということで、日本でいうところの金融庁に相当していると言える。ただし、日本での監督に関与する機関が金融庁だけなのに対して、EUでは銀行、証券、保険・企業年金という3つの分野に分かれ、それぞれに主管する監督機構が設けられている。銀行については欧州銀行監督機構(EBA:European Banking Authority)、保険・企業年金については欧州保険・企業年金監督機構(EIOPA:European Insurance and Occupational Pensions Authority)がそれぞれ主管しており、いずれもESMAと同日に設立されている。
ロス氏は、英国の金融サービス機構(FSA)で数々の要職を歴任した後、2011年のESMA設立と同時に同機構の初代事務局長を務め、組織の立ち上げと日々の運営を監督してきた上で、2021年11月付で現職に就任した人物だ。
※前回配信の「Japan Fintech Week 2024」特集記事はこちら
※本セッションは英語で開催されました。本記事は、執筆者の意訳をベースに作成しています。
三好:2023年から2028年までのESMAの5ヵ年戦略(ESMA Strategy 2023-2028)を拝見しました。複数のトピックがありますが、焦点の一つとしてEUの金融セクターにおける技術革新への対応について言及されていましたね。ここで改めて、ESMAがどのように技術革新へと対応されようとしているのか、特にこの文書では金融セクターや金融監督における「データ」の有効活用について言及しているので、そのあたりについてぜひ教えてください。
ロス:デジタル化は金融市場のあり方を明らかに変えはじめており、セクター全体に影響を及ぼしています。そのような観点からも、金融サービス分野がデジタル技術をどのように利用しているのか、そしてそれがどのような潜在的リスクと重大な機会を生み出しているのかをより良く理解し、監督当局者としてもデータ駆動型で、それらを有効活用していく準備が必要だと捉えています。なぜ「データ駆動型」なのかということですが、収集したデータをEU全体で共同利用することで、一国だけでなく、欧州市場全体で実際に起きていることの傾向を把握できるようにしたいと考えているわけです。EUのデータハブとしての役割を強化し、相互運用性に向けた標準化を進めていきたく、「ESMA Strategy 2023-2028」でもこの点について言及しています。
デジタル化に関してはもう一つ、個人投資家への影響についても重点を置いています。というのも、デジタル化によって投資家と市場との相互作用が根本的に変わりつつあるからです。ある側面を見ると、デジタル化はより多くの投資家の市場への参入を促し、情報の非対称性を是正し、さまざまな商品を比較しながら効率的かつ低コストで市場と対話することを可能にしました。一方でデジタル化が進むからこその様々なリスクがあるのも事実です。例えばコロナ禍を経て多くの人が投資活動へと足を踏み入れたわけですが、一方で高齢者の中には、そもそもそういったデジタルのインターフェースに対応できていない方も多くいるわけです。そういったケースも想定して、教育等にも取り組むことが大切だと捉えています。
三好:続いて、デジタル資産に関する具体的な取り組みに移りましょう。2023年5月に暗号資産市場規制(MiCA:Markets in Crypto-Assets Regulation)が欧州理事会で承認され、現在はその実施段階にあると言えます。まずはこのMiCAについて、基本的な理念等について教えてください。
ロス:MiCAは、EU内での暗号資産の発行(募集)と、暗号資産サービスの提供を規制するもので、同時に暗号資産プラットフォームの取引参入も視野に入れています。既存の規制では金融商品として取り扱われない暗号資産(ステーブルコイン含む)に焦点を絞っているため、このタイプの市場に特化した規制体系を作り出しつつ、関連するリスクに適切に対処し、公平な競争の場を作り出そうとしています。また、投資家が暗号資産プラットフォームとやり取りする場合、金融商品を取り扱う際と同様の保護を受けられるようにすることも目指しています。つまり、この産業の新しく特異な部分を認識しながらも、同じ活動、同じリスクに同じ方法で対処する枠組みを作り出すということで、そこの適切なバランスを模索しています。
三好:日本は暗号資産を既存の規制・監督の枠組みに組み込むために法律を改正しているという点で、やや異なるアプローチを取っています。とはいえEUと日本は、金融安定理事会(FSB:Financial Stability Board)という国際的な合意において一致しているという意味においては、暗号資産の規制で同期しています。つまり、アプローチは多岐にわたりますが、基本原則は一緒だということだと思います。
実装作業に目を向けると、27のEU加盟国に対してMiCAを実装していくには、まだまだ多くの作業が必要でしょう。私は時々、FSBや国際証券委員会機構(IOSCO:International Organization of Securities Commissions)での国際討議に参加しているのですが、27の国々が同じ方向を向くことの難しさを毎回実感しています。このような背景も踏まえて、現状のMiCAの実装状況について教えてください。いつ頃、全EU加盟国でMiCAが実装完了する見通しなのでしょうか。
ロス:おっしゃる通り、現在は導入の真っ最中です。27の加盟国の中には既に既存の独自制度が存在するケースもあるため、各国家監督機関と非常に密接に協力しながら取り組んでいます。最終的にはEUに共通の規制を導入することになるので、暗号資産サービスプロバイダー(CASP)への認可方法や、EU域内での認可に興味を持つ個々の事業者等の取り扱い方について国家監督者間で議論し、一貫性ある共通のアプローチを取るようにしています。認可を受けることができたら、我々が呼ぶところの“パスポート”が発行されます。つまり、どこに拠点を置いていてもEU全域でサービスを提供することができるのです。現在注力しているのはこういったことであって、今後も継続的に続けることになるでしょう。
三好:最後に、AIについて簡単に触れたいと思います。ESMAではAIに対してどのような考えを持っていますか?規制が拙速に実施されれば、技術革新を阻害することになりかねないという意見がある中、ESMAの基本的な考え方を教えていただきたいです。
ロス:AIは、金融市場をより効率的に機能させ、増え続けるデータをいかに管理するかという点で、非常に魅力的な新しい技術だと感じています。このような観点から私たちは、どのようなユースケースがあるのか、金融業界全体でどのように利用されているのかを注視しています。EUの規制面でお伝えすると、EU全体に適用されるAI法があるわけで、これは何も金融サービスに特化したものではありません。ですから私たち自身、この法律がどのように機能し、どのように運用されるのかを理解しようとしている最中なのです。
ただ現時点ではっきりしているのは、証券市場におけるAIの活用ケースを見ると、最終的なアウトプットの根拠に関するリスクが存在します。また、個人データ保護の問題や、個々の消費者や投資家に対して提供されるツールが実際にどのように使用され得るかのに関する問題もあります。あとは、これらのツール提供の主体が少数のプレイヤーに集中していることも問題の一つだと捉えていて、皆が同じツールを使うことによる潜在的な金融安定性のリスクにもつながる可能性があると考えています。ですから私たちは金融保護と金融安定の観点から、投資家が適切に保護されるよう見守るとともに、潜在的な金融安定の目的からも捉えるようにしています。
取材/文/撮影:長岡武司
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]]>2024年3月、国内FinTechビジネスの魅力を世界へと発信し、また国外のFinTech動向をキャッチしてビジネスの共創エコシステムを創出する場として、初の「Japan Fintech Week 2024」が開催され […]
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]]>2024年3月、国内FinTechビジネスの魅力を世界へと発信し、また国外のFinTech動向をキャッチしてビジネスの共創エコシステムを創出する場として、初の「Japan Fintech Week 2024」が開催された。主催したのは金融庁。3月4日~8日をコアウィークとし、LoveTech Mediaが2019年よりメディアパートナーを務めている「FIN/SUM」(主催:金融庁、日本経済新聞社)をはじめ、様々なFinTech関連イベントが各会場で催された。
当メディアでは、Japan Fintech Week 2024の数あるイベントの中でも、先述のFIN/SUM 2024と、Japan FinTech Festival(主催:Elevandi)、それからブロックチェーンのガバナンス等についてマルチステークホルダープロセスで議論するBGIN 第10回総会の様子を、複数回に亘ってレポートする。
その第一弾となるのは、Japan FinTech Festival初日に設置された規制当局対談。日本、シンガポール、それからスイスの規制サイドに身を置く3名は、規制当局が直面する役割と課題をどのように捉え、業界に対してどのようなリーダーシップを発揮していきたいと考えているのか。また、中長期的なFintechエコシステムのスケールアップに向けて、フリーキャッシュフローや人材等のリソースをどのように展開していくべきと捉えているのか。シンガポール金融通貨庁 フィンテック最高責任者であるモハンティ氏による絶妙なモデレーションの下で、議論が白熱した。
※モハンティ氏については2021年開催World FinTech Festival Japan 2021のレポートも併せてご覧ください。
※Japan FinTech Festivalは全プログラム英語のみで開催されました。本記事は、執筆者の意訳をベースに作成しています。
「今日私から皆さまにお伝えしたいメッセージは、金融庁は決して皆さまの“敵”ではない、ということです」
このように自己紹介を始めたのは、金融庁のチーフ・フィンテック・オフィサーを務める牛田 遼介氏。Japan Fintech Week 2024のコアウィーク期間中、常に金融庁ロゴが背中に入った白パーカーを着用して、様々なイベント会場へと足を運ぶ姿を何度も目にした人物だ。金融庁職員と聞くとどうしてもスーツ&ネクタイ姿のかたい表情の職員像を想像してしまうのだが、そういったイメージを払拭し「金融庁がイノベーションのための規制当局へと変わっていこう、というコミットメントのようなものとしてこのような機会にこのような格好で登壇している」と牛田氏は柔らかい口調で説明し、その上で、規制とイノベーションの相補的な関係性の大切さを提示した。
「ご存知の通り、私たちの社会は人口減少に直面しており、高齢化も進んでいます。つまり、何もしないことのリスクが非常に大きい状況なのであって、AIやブロックチェーンといった新しいテクノロジーの活用がとても重要だと捉えています。もちろん、新しい技術の適応リスクも存在しますが、それらを乗り越えるためにも私たち規制サイドと産業界がしっかりと協力していく必要があるでしょう」(牛田氏)
具体的な事例をモハンティ氏に問われた牛田氏は、2023年の「事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係)」(16 暗号資産交換業者関係)等の一部改正にまつわる取り組みについて説明した。こちらは、ブロックチェーン上で発行されるNFTのような各種トークンの暗号資産該当性に関する解釈を明確にする目的でなされたもので、2022年12月に一部改正案の公表とパブリックコメントを募集開始し、それに対して2023年3月には「金融庁の考え方」として、最小取引単位あたりの価格としての“1,000円”や、発行数量を最小取引単位で除した数量としての“100万個”以下といった、具体的な数字による基準例を提示した。当時、NFTブームなるものが到来してきていた時勢だったからこそ、産業界との対話を通じて適切な規制のあり方の模索を迅速に進めていったと言えるだろう。
一方で、ある国が規制強化を進めると、それを逃れる形で別の管轄権へと移動する「規制のアービトラージ(regulatory arbitrage)」が現実問題として発生することも事実だ。特に市場原理から離れた規制だと、規制のアービトラージへのモチベーションが顕著になる。これについて、スイス金融イノベーションデスクの責任者であるエヴァ・セラマー氏は「それ自体は決して悪いことではない」と強調する。
「私たちは市場原理に基づく競争が基本的には良いことだと捉えており、だからこそスイスでは、競争を促進する市場主導のアプローチを大いに支持しています。もしも規制のアービトラージがこの大目標にプラスになるのであれば、それもまた決して悪いことではないと考えています。一方で、FATF(The Financial Action Task Force:金融活動作業部会)勧告のような遵守すべき国際ルールもあるわけで、そう考えるとある時点では公平な競争条件が整うことになるとも捉えています。いずれにせよ、私たちはグローバルな課題を抱えており、それに対しては各国で協力し、知見を共有/交換することによってのみ立ち向かうことができると思っています。その点において、日本もスイスもシンガポールも、コラボレーション面で素晴らしい成果を上げていると思います」(セラマー氏)
これについてFATFのVirtual Assets Contact Group(VACG:暗号資産コンタクト・グループ)の共同議長を務める牛田氏も “totally agree” と言って賛同する。VACGは暗号資産に関するFATF基準の採択を受けて2019年に設立された組織で、基準の遵守に向けた業界の取り組み状況のモニタリングや、トラベルルールといったAML/CFT(マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策)など、暗号資産関係の検討全般のハブとして機能している。
「繰り返しになりますが、健全で持続可能なイノベーションは、優れたコンプライアンスとセットであるべきだと考えています。現在においても、暗号資産のサービスプロバイダーに対する規制がまったくない国もあるわけで、それでは健全な競争とは言えないと考えています。ある種の公平な競争の場が必要であり、それに基づいて各国がそれぞれの社会的課題に取り組むことで、初めて健全な競争が生まれると思います」(牛田氏)
ここまでの内容を踏まえて、モデレーターのモハンティ氏は「すべての国の規制当局が参加するグローバルなサンドボックスを作ってみてはどうか?」と2人に意見を求める。
「世界中の企業が希望の規制当局と協力できるようにするのはどうでしょう?そうすれば、すべての規制当局が協調することになるので、規制のアービトラージの機会もなくすことができると思います。いかがですか?」(モハンティ氏)
※少し古いが、各国の規制サンドボックスについては以下をご参照
これに対してセラマー氏は、実現の可否はさておき、シンガポール金融管理局(MAS:Monetary Authority of Singapore)が主導する “Project Guardian” (2022年発足)がそういったグローバル横串でのサンドボックスになっていく可能性を秘めていると応じる。Project Guardianについては、MASの公式ページで以下のように説明されている。
Project Guardianは、金融の安定性と完全性に対するリスクを管理しながら、資産のトークン化とDeFiにおけるアプリケーションの実現可能性をテストすることを目的とした、政策立案者と金融業界との共同イニシアチブである。
引用:シンガポール金融管理局
金融庁は2023年6月にProject Guardianへのオブザーバー参加を発表しており、規制当局としては本記事執筆時点でシンガポールと日本、それからイギリスとスイスの4ヵ国が参画していることになる。2023年10月には、これら規制当局(政策立案者グループ)が連携して、債券や外国為替、資産運用商品におけるデジタル資産のパイロットを推進することを発表している。この発表に付随して、MASは政策立案者グループの目的も明示しており、その中に「規制当局と業界間における知識共有の促進」や「規制サンドボックスの有効利用」などが列挙されている。政策立案者グループは現時点で4ヵ国のみではあるが、今後の拡張が期待されるとモハンティ氏も述べた。
続いてのテーマは「人材」。加速度的にテクノロジーが進化する時勢において、それらへとスピーディーに対応できる人材の確保が、どの領域においても急務となっている。当然ながら規制当局も然り、というか、規制を作成する側であるからこそ余計に技術に明るい人材の確保が最優先とも言える。この人材面について、牛田氏は「大きな問題を抱えている」と吐露する。
「そもそもの部分として、優秀な人材を採用するのに十分な柔軟性が、金融庁の人事制度にはまだまだ不足していると感じます。それは報酬面もそうだし、キャリア面でもそうです。私の場合は幸いなことに、2019年から2021年にかけてジョージタウン大学で過ごし、ブロックチェーンをベースとする分散型金融システムのガバナンスに関する研究に従事できたわけですが、そういったパス含め、もっと魅力的な環境づくりが必要だと感じています」(牛田氏)
シンガポールやアメリカでは民間・行政間での人の行き来が活発な一方で、日本においてはまだ極めて限定的である。現に牛田氏も「仮に金融庁を辞めたとして、元のポジションに戻るのはかなり難しい」とコメントする。これについてモハンティ氏は、自身のチーフ・フィンテック・オフィサー就任時における取り組みを紹介する。
「私が2015年にチーフ・フィンテック・オフィサーに就任したとき、最初にしたことは、才能ある人材を発掘するためにハッカソンを実施することでした。結果として優秀な人材の確保はもちろん、私たち自身の技術に対する知見を増やすのにも大いに役立ちました。また、牛田さんが課題として挙げていた報酬体系についても見直しを進めました。もちろん、民間企業のようにはどうしてもいきませんが、それでも民間と行政の行き来をしやすくすることで、規制サイドでキャリアを積む経験もアリだと思ってもらえるように努力してきました。人材基盤を大幅にアップグレードし、技術動向を正しく理解しないことには、市場の変化を理解するのが非常に難しいことになると思います」(モハンティ氏)
技術革新のスピードが加速し続ける時勢においてセラマー氏は、市場の変化を理解するために「いかに市場開発できるか」を考えることも重要だとコメントする。「それって規制当局として大丈夫なの?」というモハンティ氏の質問に対しても「もちろん」と答える。
「冒頭に牛田さんがおっしゃったように、技術革新を恐れる必要はなく、それを所与として受け入れて理解する努力を続けなければなりません。逆にここに対する理解が追いついていないと、安定性や健全性、成長性、消費者保護等を提供する規制当局としての仕事を果たすことができないと考えています。なるべく市場の近くにいるためにも、ともに市場開発を考えることが大切だと思います」(セラマー氏)
最後に、「イノベーションに関して、規制当局としてあなたが最も恐れていることは何ですか?」というモハンティ氏からの質問に対して、登壇者2名は以下のように答えてセッションを締め括った。
「私が一番恐れているのは、正直にお伝えすると、金融業界やテクノロジーの分野で起こっていることの理解不足です。理解できていないことが、規制当局として恐れるべきことなんだと思います。この自らの恐れを認めながら、様々な人との対話を通じて各テーマの解像度を上げていくよう日々意識しています」(牛田氏)
「私が懸念しているのは、スタートアップと比較して、規制当局に対して既存企業の声が大きすぎるという点です。それは、資金力やロビー活動量とも関わってくるとは思います。規制当局としては、すべての声が等しく聞こえるようにすることが求められていると思っていて、リスク、チャンス、機会のバランスを取ることが非常に重要なのだと捉えています」(モハンティ氏)
取材/文/撮影:長岡武司
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]]>今、手元に「WHOLE EARTH CATALOG」(以下、ホールアースカタログ)の創刊号「Fall 1968」がある。かつてスティーブ・ジョブスが2005年6月のスタンフォード大学卒業式辞で贈った “Stay hun […]
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]]>今、手元に「WHOLE EARTH CATALOG」(以下、ホールアースカタログ)の創刊号「Fall 1968」がある。かつてスティーブ・ジョブスが2005年6月のスタンフォード大学卒業式辞で贈った “Stay hungry. Stay foolish” という言葉の元ネタとして、昨今の日本でも一躍有名になったカタログ冊子だ。2号目(Spring 1969)以降は万単位で発行され、シリーズ累計発行部数は250万を超えているわけだが、創刊号はたったの2,000部しか刷られなかったということで、ニューヨーク近代美術館がデータ化して保管するなど、非常に貴重なものとして認知されていた。現に2年ほど前から粛々と探していたものの、全くと言っていいほど市場に出回らない“レア物”なのだ。
そんなレア物が2023年末、ホールアースカタログ専門店「CATALOG&BOOKs」のオンラインストアに出現した。実はちょうど同じタイミングで、このホールアースカタログの生みの親とも言えるスチュアート・ブランドの伝記邦訳版『ホールアースの革命家 スチュアート・ブランドの数奇な人生』(草思社)が発売されたこともあり、ホールアースカタログ熱が高まっていた矢先での超貴重な流通ということで、見つけ次第すぐに購入した次第だ。
僕が初めてホールアースカタログの存在を知ったのはいつ頃だっただろうか。記憶を辿っていくと、おそらくは2009年に新卒でジョインした映像制作会社を早々に退職し、数ヵ月のモラトリアム期間を経て、ソフトウェアパッケージ会社へと転職した頃にまで遡ることになる。
ということで、少し遠回りになるが、まずは僕がホールアースカタログというものを認知した頃の話から話をスタートさせたいと思う。
※極私的な回想的感想文なのでどうかご笑覧ください。
2009年といえば、IT全般に疎かった自分が、何を間違ったか未経験からITエンジニア/コンサルタントになれるという6ヵ月間の選考入社研修に参加し、奇跡的に突破した頃の話だ(当時の会社のことについてはこちらの別媒体記事をご参照)。
30人強の研修合格者(つまりは同期)がいた中で、限りなく成績が最下位に近かった僕は、素人目で花形職種だったシステム“導入”コンサルタントや研究開発エンジニアへの配属希望が叶わず、代わりにシステムの“保守運用”コンサルタントになることが決まっていた。一丁前に「導入が良かったなー」とか言ってはいたものの、当時あまりにもITに疎く、これから担当していくことになるであろう「企業が抱える課題をパッケージシステムを使って解決する」というビジネスの具体像が全く見えていなかったことから、何か参考になるIT本を読んでおこうということで近所のブックオフに繰り出し、そこで以下の2冊を購入したのだ。今も昔も、僕はブックオフという場所が大好きだ。
これからやる仕事が保守運用コンサルタントということで、たしか前者のワインバーグ本は即決で購入を決めたのだが、一冊だけだと心許ないと感じ、もう少し思想的なところにまで踏み込みたいと思って手にしたのが後者のケヴィン・ケリー本だった。というのも当時、配属先の超優秀な上司が「システムというものは開発した瞬間から陳腐化するものだ」と初対面でおっしゃていて、システムの開発シーンに携わったことのない僕からすると、いまいちピンとこない発言だったのだ。「すぐに陳腐化するのがこれまでの話なんだとしたら、この本に書かれているように『永久進化』させるような設計をすればいいじゃん」、みたいな短絡的なことを考えながら、ブックオフのレジで会計を済ませたことを朧げながら覚えている。
そんなこんなで僕は結局、ワインバーグ本を読了し、一方でケヴィン・ケリー本は(難解すぎて)途中で断念したわけだが、ケヴィン・ケリーという人物がどういう人なのかを調べる中で、雑誌『Wired』の創刊編集長であり、さらにその前にはホールアースカタログというアメリカを席巻したイカしたカタログ冊子の制作に携わったメンバーの一人だったと認識するようになった。昔から初版の映画パンフレットや雑誌などを古本屋で漁るのが好きだった僕としては、いつかはホールアースカタログの初版を手にしたいものだと思ったわけだが、その後すぐに現実の慣れないシステム保守の仕事に忙殺されることになり、そんな心もお金もある程度の余裕をもつ人が考えるようなことはすぐに忘れることになる。
次の節目としては、一気に時代が進み、2021年になる。その頃になるとキャリアもガラッと代わり、当時編集長を担当していたWeb媒体でWeb3動向を追っていたのだが、少し調べると、Web3というものは富や権力が一部のテック大手に集中してきたこれまでのインターネットに対するアンチテーゼとしての「パワー・ツー・ザ・ピープル」「非中央集権社会」を目指すムーブメントが源流の一つとしてあることが分かる。そしてそこに、かつて1960年代後半にアメリカで大きなムーブメントになりつつあったカウンターカルチャーの片鱗を捉えることができると感じた。
改めてホールアースカタログを意識したのはそのタイミングだと思う。まさに今、既存のインターネットを取り巻く環境のカウンターカルチャーとして個人のエンパワメントを志向するWeb3エコシステムに注目が集まっているように、かつて1960年代においても“紙のカタログ”というフォーマットを通じて、同じように個人のエンパワメントを掲げたメディアを起爆剤とするムーブメントがあったわけだ。
ただ、その内容については詳しく存じておらず、一方で「インターネットがない時代のWebでありGoogleだった」といった表現がなされていたので、まずはその概要を理解すべく購入したのが、雑誌「スペクテイター」のホールアースカタログ特集号(前後編の2冊)だった。
こちらの2冊は本当に素晴らしい。前編では主にホールアースカタログとは何たるかがしっかりとした深度で解説されており、また後編では創刊等に携わった当時のスタッフ陣へのインタビューを中心に構成されている。後編のスタッフの中には、当時創刊を企画し、編集長として一連のプロジェクトを牽引したスチュアート・ブランドも含まれており、この2冊を読めばホールアースカタログを深く理解することができる。
ここで改めて簡単にお伝えすると、ホールアースカタログは、1968年にアメリカの西海岸で創刊されたカタログ冊子だ。ご存知でない方は「何のカタログ?」と思われるだろうが、要するに当時勃興していたカウンターカルチャーの担い手として、各地のコミューンで生活をしているような人々(ヒッピーも含まれる)が自律的に生活するためのツールを知ってもらうというのが、大軸のコンセプトとなる。具体的には、自給自足や持続可能な生活、自然や環境への新たな認識、コミュニティ構築、個人の能力や創造性を高めるためのツールやアイデアを提供することを目的としていて、簡易的なドームやティピー(ネイティブアメリカンによるテント)の作り方指南書から、ハンティングブーツ、リラクゼーション本まで、様々なツールが掲載されている。
例えば創刊号では以下のカテゴリが設けられ、各カテゴリ内に複数の道具類と書籍が紹介されているという具合だ。コミューン生活者は基本的にリッチではないので、ホールアースカタログも5ドルという低価格に設定されたという。(ちなみに、◯◯年Spring / Fallといった年2回のカタログ刊行の間に「Supplement」という、次回のカタログに掲載するための情報や読み物なども掲載した新聞のような冊子も刷られていて、それらはなんと1ドルで販売されていた)
ホールアースカタログについては先に挙げたスペクテイターはじめ、様々なブログ記事でも内容について解説がなされているので(こちらとか)詳細は記載しないが、そのような「個人のエンパワメント」のためのツールを紹介していくという思いから、表紙には副題として “access to tools” と表現されている。また、掲載されている道具や書籍によっては、読者からの投稿連絡によって掲載されたものもあり、そういったインタラクティブな仕組みも含めて「情報の民主化/非対称性の是正」を進めていった画期的なメディアだったからこそ、インターネットの思想を1960年代から体現していたプロダクトとして認知されているのだろう。
なんてロマンのあるカタログなんだ。せっかくなら、特に想いと熱量が詰まったであろう創刊号(特に初版)を手にして、そのエネルギーを直に感じたい。そんな思いから2021年よりFall 1968を探していたわけだが、これがなかなか見当たらない。国内の中古書市場はもちろん、海外のebayなどを定期的にチェックしても、全然出回っていない。いつしかリサーチの習慣もなくなり、本棚のスペクテイターや各ケビン・ケリー本を見て思い出したら検索してみるということを繰り返していたのだが、そんな中で2023年末に刊行されたのが、冒頭に記載した『ホールアースの革命家 スチュアート・ブランドの数奇な人生』(草思社)(以下、『ホールアースの革命家』)だった。
『ホールアースの革命家』を読み始めてすぐに感じたのは、スチュアート・ブランドという人物に関する記録の多さへの驚きだ。「なんでこんなに細かいことまで覚えてるの? 絶対何個か記憶を作ってるでしょ」と思ったものだが、著者あとがき(謝辞)を読むと、ブランド自身が非常にこまめな人物で、自身の日記や手紙、論文といったものを細かく残していて、それらをスタンフォード大学の図書館特別コレクションへと寄贈しているという。
そんな背景もあって、とにかく分量が多い。多いといっても、伝記ジャンルだと一般的な分量なのだろうが、あまり詳しくない1960年代あたりアメリカ西海岸を舞台にしているので、数ページ進んでは検索エンジンやChatGPT/Bard(現Gemini)等を開いて、当時のことを調べていったものだ。
いやはや、これだけの内容を書くのも大変だし、また翻訳するのも相当骨の折れる作業だったと思う。翻訳を担当された服部 桂氏は、先述の『「複雑系」を超えて』をはじめ、ケヴィン・ケリー本を何冊も翻訳されている人物なので背景的には慣れている領域なのだろうが、そうはいってもである。ちなみに、同氏が『ホールアースの革命家』の一つ前に翻訳を担当して2023年5月に出版された『アナロジア AIの次に来るもの』(早川書房)という本があるのだが、こちらも非常に面白い。僕は1ヶ月の間に2回通しで読んでしまった。
『ホールアースの革命家』の訳者解説にてこの本の内容にも言及がなされているのだが、ギリシア時代には「カタロゴス」(カタログという言葉の祖先)という言葉があって、当時は今でいうデジタル的な意味(正確には物事を区別して名前をつけて整然と分類する、という意味)で使われていたという。一方で、ギリシア時代でいう「アナロゴス」とは物事の類比や比較を意味する言葉ということで、ある意味で当時は「アナログ対デジタル」ではなく「アナログ対カタログ」とも表現できる関係だったという。そう考えると、現在のデジタル社会を語る上で欠かせないインターネットの思想を体現していたのが、現在のシリコンバレー発のカタログだったというのは偶然ではない気もする。
この辺りの考え方については、2024年2月6日に池袋ジュンク堂にて開催された『ホールアースの革命家』刊行記念対談(服部 桂氏とメディア美学者の武邑光裕氏)の対談でも触れられていたし、その上で、「全ての経済がカウンターカルチャーになった2000年以降において、あらゆる経済活動のルーツを探るとホールアースに行きつくことになる」という武邑氏の話は妙に納得してしまった。もちろん、当時のホールアースカタログ読者にはいわゆるテクノ・オプティミスト(テクノロジーが全てを解決してくれるという考え方)が多かったと聞くが、現在においてはテクノロジーが数々の問題をもたらしていることもまあ間違いないわけであって、そこに対する言及の方に議論のウェイトが占められていたのもたしかだ。
いずれにしても、この本で個人的に特に納得したのが、以下の訳者解説の一文である。本当にその通りなんだろうなと感じたし、結局はメディアとなる人と一緒にいたほうがワクワクするということだ。僕がビジネスとしてのメディアプラットフォームの人間としてどっぷりと仕事をし切らないで、何社かの企業に入り込んで事業活動をご一緒しているのも、こういう側面への期待が直感的にあるからなのかもしれない。
デジタル時代を理解するには、テクノロジー自体を追うより、新しい何かを求めてテクノロジーに行き着いた人々の想いや葛藤に焦点を当てた方が、問題の中心から時代全体を見渡すことができる。(中略)まだ形のないイノベーションの種を拾い上げて繋いでいく媒介者(メディアとなる人)である。ブランドのような人の半生から戦後のイノベーションを論じたほうがはるかに広い風景を見渡せるだろう。
引用:ジョン・マルコフ(著), 服部 桂(訳)『ホールアースの革命家 スチュアート・ブランドの数奇な人生』草思社, 2023 449頁より
さて、この『ホールアースの革命家』を読んでいるタイミングで、ちょうど並行して読んでいたのが「こち亀」(こちら葛飾区亀有公園前派出所)である。『週刊少年ジャンプ』で1976年から2016年まで一度も休まずに連載されていた漫画だ。僕の場合、中学の頃からこち亀(というか両さん)の魅力にハマり、単行本が140巻を超えたあたりで「もういいかな」と感じて読まなくなったのだが、依然として110巻くらいまでの内容は大好きなので、定期的に読み返している。ホールアースカタログのFall 1968が家に来たタイミングでは、ちょうど30巻あたりを読んでいただろうか。
ふと、ホールアースカタログとこち亀には共通の何かがある気がして、そわそわしてしまった。なんというか、その媒介としての役割を終えたものを眺めるときのような、強烈なノスタルジー感である。“ただ古い”とは違うその感覚に、それはなんだろうなと考えながら色々と漁っていると、こちらの書籍『「こち亀」社会論 超一級の文化史料を読み解く』(イースト・プレス)が目に止まった。
この本もまた面白い、というか、僕が長年こち亀に対して感じていた感覚をズバリ言語化してくれていて、非常にすっきりした。なぜ僕が140巻くらいから読むのをやめてしまい、逆にそれ以前はバイブルくらいの勢いで読み耽っていたのか。なんとなく予感はしていたのだが、そこにもインターネットの普及に伴う情報の流れの変化があったわけだ。
こち亀には何パターンかのストーリー構成があるのだが、個人的に好きなストーリーが「解説パターンもの」だ。ある時はフィギュアについて、ある時はトレンドとなっているゲームについて、主人公である両さん(両津勘吉)が解説しながら物語を進めていくというもの。物語といっても、このパターンの回は付け焼き刃的にあるだけで、メインはあくまで両さんが解説している対象の理解を深めることにあるわけで、最後のオチなんかは結構雑に設計されていることも少なくない。
とはいえストーリーによっては、それこそ漫画『HUNTER×HUNTER』394話(想定)を彷彿とさせるような文字数で解説がなされていて、「こんな世界があるんだ、おもろっ!」と思わせてくれるような媒体として楽しんでいた。まさに当時中高生だった僕にとっては、社会の様々なトレンドやニッチな視点の“カタログ”としてこち亀は大いに活躍していたのであって、そうやってエンパワーされた読者も少なくないのではないかと感じている。実際にこち亀を通じて急激に両さん化していった中学の友人がいたし、僕自身、何か逆境に立ち向かわないといけない時は、ふと脳裏にアドレナリン全開の両さんが横切ったりしている。
だが、インターネットの登場/普及によって、その役目も少しずつ淘汰されていくことになる。この辺りは他の環境要因もあるので、ぜひ書籍を読んでいただきたいのだが、まさにWikipediaとかGoogle/Yahoo! 検索とか、もしくはYouTube動画とか、そういった情報の民主化が爆発的に広がっていったことで、カタログ設計者である両さんの役割も萎んでいったという。
こう考えると、ホールアースカタログとこち亀はメディアとしてのレイヤーが異なるものの、時代とともにその役割を終えたわけであって、だからこそホールアースカタログシリーズは終了し、またこち亀も連載を終えた。じゃあもう終わったコンテンツであって、アナクロなコンテンツでしかないのかというと、そうでもないと思っている。
ホールアースカタログが発行されていた1960〜70年代と比較すると、国によって事情は大きく異なってくるものの、総体としての個人のエンパワメントはかなり進んできたのは事実だと感じる。スマホは強力な価値観の風穴になっているし、各デバイスを通じたブラウザやアプリは個人の情報発信ツールとしてこの上なく機能している。もちろん、最近インターネットがつまらなくなったという声も多く耳にするが、正確にはソーシャルメディアがつまらなくなったのであって、インターネットそのものはまだまだ面白い空間だと思う。
加えて最近では生成AIが急速に進化しており、それこそAIエージェントの実現に向けてのカウントダウンすら始まっている状況と言える。202X年にAIエージェントが実現することなんて全く想像すらしていなかったので、ホワイトカラーの仕事が奪われることへの恐怖というよりかは、どんな世界がやってくるかへのワクワクの方が圧倒的に大きいと感じている。どうせ相応の規制が敷かれることになるだろうし、AIと二人三脚で生活をすることで、どんな生活の変化が起きるのだろうか。こう感じることができるのも、生きるための選択肢が圧倒的に広がったという個人のエンパワメントが基盤としてあるからこそだと思う。
2024年2月の対談企画で『ホールアースの革命家』の翻訳者である服部氏も、ホールアースカタログから受け取れるこれからに向けた学びとして「新天動説」という考え方を提示されていた。その意図するところについては、本書の訳者解説にも記載されている。以下はそのサマリーに準じた部分だ。
16世紀の中ごろにコペルニクスが地動説を唱えて、それまでの地球中心の宇宙観を太陽中心へと逆転させたようなインパクトを「カタログ」が与えたのではないかということだ。それはある意味、太陽を中心にした近代の合理主義とは逆の、地球や個人を中心に据え直した、いうなれば「逆コペルニクス革命」だ。
引用:ジョン・マルコフ(著), 服部 桂(訳)『ホールアースの革命家 スチュアート・ブランドの数奇な人生』草思社, 2023 451頁より
自律のためのツールは、なにもDAO(分散型自律組織)だけではなく、実は既存のシステムの中にたくさん散らばっている。実は神社のどぶろくにヒントがあるのかもしれないし、源泉かけ流し温泉の温度を絶妙に調整するための調整弁が、ある人のあるテーマの風穴を開けるのかもしれない。もちろん、ChatGPTだってClaude3だっていい。いずれにせよ、地球や個人を中心に据え直せるほどのパラダイムシフトを予見したカタログなのであって、今まさに、その時期が到来しているとも言えると思う。
ここで一点。ホールアースカタログを見ていると、スチュアート・ブランドは非常にテクノロジー至上主義のような感じにも見えるかもしれない。というのも、僕が持っているFall 1968 初版の見開き部分には “We are as gods and might as well get good at it.” と記載されている。直訳すると、「私たちは神のようになったのだから、それに慣れた方がいい」と記載されている。要するに、ツール(≒テクノロジー)によって私たちは神になったという、トランスヒューマニズムど真ん中みたいなことが書かれているわけだ。
実はこの文言を見たときに、だいぶがっかりした。というのも、基本的に僕はテクノロジーは万能ではなく、木田 元さんによる対訳本『対訳 技術の正体』(デコ)にあるようなテクノロジー感がしっくりとくるタイプの人間なので、「なんだよそれ」と思ったわけだが、『ホールアースの革命家』やスペクテイターを読んでいくと、どうやらそうではないことがなんとなく伝わってくる。ここで言わんとしていることは、それこそ中世あたりの人々からしたら「神」のみぞできると信じられていたことを、今の僕たちはできてしまっている。だからこそ、僕たちはもっとツールとの向き合い方について謙虚にならないといけない、そんな姿勢でカタログを読んで欲しいという、そんなメッセージが込められているのだろうと受け取った次第だ。ぜひ、この辺りのメッセージの機微については、書籍を読んで感じていただきたいと思う。
最後にもう一つ、「個人を中心に」という部分で極めて人間中心主義的な考え方だと思われるかもしれないが、それも多分違う。Fall 1968 初版の段階で、裏表紙には “We can’t put it together. It is together.” という文言が記載されている。直訳すると「それは一緒にはできない。なぜなら、元々一緒なんだから」ということだが、まん丸の地球の姿と一緒にこの文言が描かれているということで、地球全体で線引きを所与とするのはやめようよ、というメッセージを感じる。僕はこの文言がすごくいいなと思っていて、部屋に飾る際には奉仕ではなく、こちらの裏表紙を見せるようにすることも多い。ちなみにChatGPT(GPT4)にこの文言の解説を依頼すると、以下のように返答された。僕が書くよりもまとまっていると思う。
「We can’t put it together. It is together.」というフレーズは、世界や宇宙は既に統合され、相互に関連し合っているという考えを表しています。つまり、私たちは外から世界を「組み立てる」必要はなく、代わりに、既に統合された世界の中で自分たちの役割を見つけ、それに基づいて行動し、貢献するべきだというメッセージを伝えています。これは、エコロジー、持続可能性、全体性への関心が高まっていた時期に発行されたカタログの哲学と非常によく合致しています。
この言葉は、単に環境や社会に対するアプローチにとどまらず、個人の生き方や価値観にも深く関わるものであり、自己実現や社会への貢献を考える際の重要な原則とも言えます。ホールアースカタログ自体が提案していたように、必要なのは新しいテクノロジーやアイデアを単に集めることではなく、それらを使ってより良い世界を実現するための洞察や行動です。
https://chat.openai.com/share/2189282b-9954-45a1-9ac9-fc14dc0ffdbe
ダラダラと書いてしまったが、2024年の正月(1月2日)に『ホールアースの革命家』を読み終わり、大きなパラダイムシフトを体験する貴重な世代として、こち亀の両さんのように遊びながら推しごとをしていきたいと思った次第だ。そのためのツールがLoveTech Mediaなのであり、そのB面である紙懐旅という位置付けになる。今の僕にとっては、この2つが個人が個人をエージェントできるホールアースカタログになるのだろう。
なお、ホールアースカタログはInternet ArchiveがホストするWhole Earth Index(wholeearth.info)というサイトで、誰でも無料で閲覧/ダウンロードできるようになっている。興味がある方は、ぜひご覧になって見てはいかがだろうか。ホールアースカタログの他にも、後進の『CoEVOLUTION QUARTERLY』(共進化クオータリー)や、ケヴィン・ケリーが初代編集長を務めた『WHOLE EARTH REVIEW』といった関連冊子のデータも見ることができるようになっている。
文:長岡武司
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]]>2022年7月14日に開催された一般社団法人Metaverse Japan主催の大型カンファレンス「Metaverse Japan Summit 2022」。デジタル経済圏の新たなフロンティアであるメタバースの社会実装 […]
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]]>2022年7月14日に開催された一般社団法人Metaverse Japan主催の大型カンファレンス「Metaverse Japan Summit 2022」。デジタル経済圏の新たなフロンティアであるメタバースの社会実装と、来たるweb3社会に向けた日本の成長戦略やビジネスのあり方を議論する場として、当日は1,000人以上の参加者がオンライン・オフラインで集まり、朝から晩まで有識者によるディスカションに没入した。
レポート第2弾となる本記事では、「Web3メタバースの未来」と題されたセッションの様子をお伝えする。登壇ゲストは伊藤 穰一氏。デジタルガレージ 取締役 共同創業者 チーフアーキテクトであり、2011年〜2019年まで米マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボの所長を務めた人物だ。
今年6月に出版された著書『テクノロジーが予測する未来 web3、メタバース、NFTで世界はこうなる』(SB新書)では、web3がもたらす破壊的ゲームチェンジのあらましが体系的かつ具体的に解説されており、あらゆるビジネスパーソンにとってのweb3の羅針盤的存在となっている。今後、この本を読んだ人と読まなかった人とでは、未来に関する議論が成り立たなくなると表現する人もいるくらいだ。
非中央集権の世界で、自由にコミュニティを構築し、誰でも “join” できるweb3。暗号資産やNFT、DAOに加え、メタバースなど、さまざまなデジタル技術やビジネスアイディアが生まれる中で、今何が起きているのか。Metaverse Japan共同代表理事である馬渕 邦美氏によるモデレーションのもと、本質を捉えた「未来に向けた議論」が展開された。
Web1.0からweb3、それぞれのインターネットの特徴を端的かつ的確に示したのが、伊藤氏による「Web 1.0, Web 2.0, web3 -> read, write, join」という表現だろう。3月24日に同氏のTwitterで登場し、また著書『テクノロジーが予測する未来』でも48頁にて小見出しとして強調されている。
— Joi Ito (@Joi) March 24, 2022
伊藤氏は、web3の中長期的なインパクトの根源として、この「参加」という人々の“選択肢”の登場を強調する。つまり、ブロックチェーンを通じた新しい組織へと参加し、そこで投票したり、透明性が高い状態で議論したりすることが、web3の登場によって可能になるというのだ。
web3と聞くと一般的には「所有(own)」をイメージする人が多いだろうが、たとえば通貨というものを考えてみた際に、「もともとは色々な活動をコーディネートするためにするためにできたもの」であり、それゆえに「join=参加する」という表現を用いていると伊藤氏は強調する。
「今朝、宮口あやさんによるレポートを読んでいたのですが、そこではイーサリアムブロックチェーンのことが ”protocol for human coordination” と呼ばれていました。彼ら自身も暗号通貨とか言っていなくて、人間の活動をコーディネートするためのツールがブロックチェーンだと言っています。
インターネットによってどこからでも本や情報を参照できるようになり、それがWeb2.0になると色々なコミュニティに参加できるようになる。でも、ただのコミュニティだと議論だけになります。それがDAOになると、たとえば5歳の子どもであっても、自分で組織を作って、責任を持ってリーダーになって管理したりすることができるようになります。アーキテクチャが圧倒的に深いので、そう言う意味で「join」という言葉がふさわしいと思いました」
伊藤氏がセッションでも著書でも、そして日々の発信でも注目している概念の一つが「DAO(Decentralized Autonomous Organization:分散型自律組織)」である。DAOについては、イーサリアムの説明が分かりやすいだろう。つまり、既存の組織体にあるような中央管理者が存在せず、全員による直接民主主義のもとで様々な意思決定がなされるという組織体だと言える。
メンバーが共同で所有し、管理するインターネットネイティブなビジネスのようなものです。 そこには、グループの承認なしには誰もアクセスできないトレジャリーが組み込まれています。 意思決定には提案と投票が用いられ、組織内の全員が発言できるようになっています。
自分の気まぐれで支出を許可できる CEO もいないし、怪しい CFO が帳簿を操作するおそれもありません。 すべてが公開されており、支出に関するルールは分散型自律組織(DAO)のコードを通じて組み込まれています。引用元:イーサリアム「自律分散組織(DAO)とは」
すでに世の中には様々なDAOが存在しており、以下のようなカオスマップも複数登場してきている状況だ。
そんなDAOに対して伊藤氏が魅力を感じているポイントの一つは、サービス利用者に対して多くのガバナンストークンを発行していることだという。
「ベンチャーや株式会社の発展を見ていくと、昔は資本家しか儲からなくて、 その後は資本家と創業者が儲かるようになって、 さらにその後にストックオプションが登場することで一般社員でも儲かるようになりました。一方でDAOの特徴としてすごく重要なところは、使ってくれているお客さんにもトークンを配るということです。しかも、ちょっとじゃなくて半分も渡すことになるので、お客さんは積極的に新しいプロダクトに参加するようになります。よく「web3の自己責任ってひどいじゃん」という意見もありますが、自己責任をリスクテイクして参加すると、 ちゃんとお金ももらえるというスキームになっているわけです」
また、立ち上げにあたってコストがかからない点も、重要なポイントだと伊藤氏は続ける。
「銀行口座は必要ないし、弁護士や会計士、国への登記もいらないので、誰でも簡単にDAOを立ち上げることができます。たとえば1週間かけて100万円ほどかかって弁護士に依頼する必要があるとなると、なかなか簡単には会社を作れませんよね。だからよく「会社でできるじゃん」と言うのですが、それはeメールができた時に「FAXでできるじゃん」と言われたのと同じで、「いや、できるんだけど…」という。つまり、コストをゼロにするのとでは、圧倒的に用途が違うことになります。なのでまとめると、DAOはコストと透明性の観点で株式会社と根本的に違うということです」
DAOを理解する上で、既存の仕組みと照らし合わせながら考えると、より解像度が上がるだろう。伊藤氏は、DAOを考える際の好きな事例として「大学」のような教育機関を例に挙げる。
「学位ってお金で買えませんし、コピーもできませんよね。そう考えると、学校ってDAOみたいなものなんです。入学して通学したとしても、そのままじゃあ博士号をもらえないじゃないですか。先生たちはお金のために働いているわけではないので、大学はお金のためじゃないコミュニティだと言えます。でも、そのコミュニティが、すごいお金をかけて学会というブロックチェーンみたいなもので「この学位は本物なのかどうか」ということをやっているわけです。DAOは、そういう大学みたいな組織を誰でも、ゲームやメタバースの中で構築できるのだと捉えています」
ここでメタバースという言葉が出てきたわけだが、まずは改めて、「メタバースとweb3は異なるもの」であることを大前提として強調しておく必要がある。web3とはここまでお伝えしたとおり、DAOをはじめブロックチェーンの技術的特徴をプロトコルレイヤーに活かした「これからの自律分散型のインターネットのあり方」を示す概念。それに対してメタバースとは、伊藤氏の著書によると「オンライン上でのコミュニケーションを前提として、何らかの価値の交換が行われている空間」(『テクノロジーが予測する未来』55〜56頁)を指す概念になる。
では、この2つの技術的概念がどこで交差するのかというと、「オンライン上の仮想空間に誰もが一人前に参加」することにヒントがあると、同書では示されている。ここでポイントとなるのは「一人前に」という部分だ。つまり、オンライン空間上で物品や金銭の交換といった経済行為が行われることがメタバースで重要になるのであって、そのための最新テクノロジーの結びつきが「メタバース × web3」というわけだ。これについてはセッションでも補足がなされている。
「スノウ・クラッシュ(Snow Crash)という本の中でメタバースは最初に言われたのですが、そこで重要な特徴は、みんなのパソコンにバラバラのメタバースがあるわけではなくて、「 1つのワールド」だけが存在するということです。そこでは、標準化と(インターオペラビリティが担保された)相互乗り入れが前提となります。彼の本の中でも、たとえば端末がターミナルしかない人は、 メタバースの中でタイプライターみたいな形のオブジェクトとして出てきており、必ずしもイマーシブなものだけじゃないわけです。
そういう意味でも、多様なアクセスの仕方が前提となるわけで、それにはやはりブロックチェーンやweb3が重要なんじゃないかなと。だから僕は、web3もメタバースもオープンの規格じゃないと楽しくないと個人的に思っています」
本カンファレンスを主催するMetaverse Japanでも、上図のようなメタバース関連領域のロードマップを作成しており、2024年〜2027年で想定されるメタバース生活圏での経済圏の確立に向けて、NFTやDAOといったweb3関連のトピックが重要な位置付けとなっていることがわかる。
このように、長い歴史のタイムラインで複数の技術を捉えることの重要性を伊藤氏は強調する。
「約7000年前にメソポタミアで簿記が誕生し、 そこで中央集権型のリソース管理の概念がスタートしました。つまり、色々な社会の資産が管理できることによって、1万人以上の文明都市が生まれるわけです。 その次に、600〜700年前の複式簿記の登場によって、人は分散した形で資産の管理ができるようになり、その流れで統計学が生まれて「投資」や「将来に対する価値」や「保険」の考えが浸透し、「経済というものは発展していく」という資本主義の誕生につながっていきます。そして現在は、デジタルやバーチャルリアリティーそれからブロックチェーンといった色々なものが重なってきていて、人間社会の新たな分散化を促していると言えます」
ブロックチェーンを活用したweb3領域のビジネスは、まだまだこれからという印象だが、これについても伊藤氏は「中長期的な視点が必要」と続ける。
「先ほどの話で言うと、統計を計算し始めた人たちのメインは賭博のためだったと思われます。賭博のための統計が、その後投資や保険へとつながっていくことになり、使う人がシフトしていったと言えます。ブロックチェーンも同じで、最初の方はやはり技術寄りの人が色々と開発をしているわけですが、それが世の中の役に立つのかというと、まだそうでもない状態です。最初にインフラができる時って、結構怪しい使われ方が多いわけで、そこからのシフトは何年もかかるものだと思います。特にインフラって時間がかかるもので、ちゃんとセキュリティ的に検証されてスケーラビリティ問題が解消されるまでに、おそらくは10年ほどかかるでしょう。
たとえば、昔Facebook(現Meta)にいたメンバーがMysten Labsという会社を立ち上げて「Sui」というブロックチェーンをやっていまして、もうすごくオブジェクトオリエンテッドで並列処理で、分散型で、とにかく様々な機能がついているので絶対に使わなきゃと思うわけですが、それでも、みんなが使ってエコシステムが安定するまでは時間がかかると思います」
そう考えると、Metaverse Japanが作成したロードマップは2030年まで引いているところが好きだと、伊藤氏は強調する。
「多くの人が短期的な目線で「何の役に立つの?」と聞いてくるのですが、そんなことを言ってたら、たぶんインターネットも始まっていませんでした。インターネットも、僕らがやっていた頃って全然役に立ってなかったので。
一方で当時のインターネットと違って、今回はプロトコルがお金を持っているから迫力が違いますよね。動いているお金が違います。それでみんな、もう安定しているという風に錯覚を起こすことがあるのでしょう」
テック界隈を俯瞰すると、当然ながら、誰しもが現在のweb3に諸手を挙げて賛成しているというわけではない。たとえばTwitter創業者のジャック・ドーシー氏はweb3に懐疑的な発言を繰り返してきた人物の一人だ。同氏によると、既存のweb3は投資家が多額の投資をすることで成り立っており、結局はWeb2.0のラベルを変えただけに過ぎないと、昨今のweb3動向を痛烈に批判している。
this will likely be our most important contribution to the internet. proud of the team. #web5
(RIP web3 VCs )https://t.co/vYlVqDyGE3 https://t.co/eP2cAoaRTH
— jack (@jack) June 10, 2022
You don’t own “web3.”
The VCs and their LPs do. It will never escape their incentives. It’s ultimately a centralized entity with a different label.
Know what you’re getting into…
— jack (@jack) December 21, 2021
その流れから、ドーシー氏率いるBlock社の子会社であるTBD社は、2022年6月10日に「Web5」という新たなる分散型インターネットレイヤーの構想を発表した(詳細資料はこちら)。公式ページのトップには、第三者の所有物となったアイデンティティと個人データを個人に戻すというメッセージが記述されている。
この動きについては賛否両論があるが、伊藤氏は「ジャックの言っていることもよく分かる」と説明する。
「彼の言っていることを整理すると、要するに本気だったら、トークンを発行してICOをして、お金稼ぐことなんて必要ないじゃん、ということなんです。だから彼がいうWeb5にはトークンの発行機能がないし、なんちゃってブロックチェーンもできません。根っこのところでちゃんとやろうよ、と言っているわけです」
TBDによるWeb5はビットコインを基盤としており、その点について、イーサリアム基盤を前提とするweb3とは相容れない部分があると、伊藤氏は続ける。
「たとえばイーサリアムの人たちは「コミュニティは信頼できるよね」と考える一方で、ビットコインの人たちは「それってトラストレスじゃないじゃん」となる。根本的に宗教が違うんです。コミュニティについても、たとえばベンチャーキャピタルありきだよねということで、ジャックにとってイーサリアムコミュニティは今の社会の汚いところも少し入ってて、ピュアじゃない存在なのです。そうじゃなくて、ピュアでできると思うよというのが彼の夢なんです。一方でイーサリアム側に生きる人たちは、おそらくは「でも僕らって結局のところは人間社会なんだから、今までの1番ダメなところを捨てつつ、いいところは取っていってやっていこうよ」という姿勢なんですよね。いずれにせよ、ジャックが言ってることはそんなバカなことではないと思いますよ」
Web1.0からweb3までの特色を表現したものとして有名なのが、Metaverse Japanのアドバイザーにも就任している國光 宏尚氏による分類表だろう。それぞれのインターネットフェーズに対して、デバイス・データ・処理という3つの観点での違いを示したもので、同氏の著書『メタバースとWeb3』(エムディエヌコーポレーション)でも詳しく説明がなされている。こちらについて伊藤氏は、特に「web3 × 処理」の部分で「AI」が描かれていることに注目する。
「僕もweb3で一番パンチが入るときは、AIとつながる時だと思います。ブロックチェーンで透明性が担保できるのはいいのですが、それを解析できないと意味がないわけです。たとえば国会の全ての投票が透明になったとしても、それを理解できないと意味がないですよね」
だが、現在のAI技術は本来的な使い方になっておらず、そのままではweb3の領域に活かせないと伊藤氏はコメントする。
「今のAIがなぜ腐っているかと言うと、 お金と権力がある人たちがお金を出して、お金と権力がない人たちのデータを収集・解析して、その人たちを主導したり、刑務所に入れたり、広告を打ち込んだりしているからです。本来AIというものは、一般の人たちがアクセスできて、権力やお金を持っている人たちが裏で何をやっているかを解析するためのツールであるはずです。そのような本来的なAIがちゃんとできて、データがオープンになると、もう少しニュースの価値が上がり、パブリックガバナンスも良くなるんじゃないかという希望があります」
そこでつながってくるのが、現在伊藤氏が力を注いでいる「不確実性コンピューティング」だという。現在のニューラルネットワークに代表されるAIは、膨大なコンピューターパワーが必要になるので、どうしても大規模な資本を必要とすることになる。結果として、GAFAや国レベルでしか最先端の研究開発ができなくなるのだ。一方で不確実性コンピューティングはコンピューターパワーが相対的に少なくて済むものとなるので、一般のパソコンでも十分にAIを使いこなせるようになるという。
「コンピュータパワーがあまりいらないAIがこれから出てくると、もっと一般の人たちが一般のパソコンでAIができるようになるでしょう。人間の脳よりもすごいことをスパコンでやるというよりも、こっちのデモクラタイゼーションの方が重要だと考えています」
また、先述した國光氏の書籍ではデバイスの普及も大きなトピックとして記述されている。これについて伊藤氏は「これまでのように期待だけで終わるのか、それとも本当に来るのかが分からない」としつつ、最近購入したOculus Quest 2は「すごい」と期待を膨らませる。
「実は僕の義理の妹の旦那でスコット・フィッシャーという方がいるのですが、彼が80年代後半にNASAでVIEW(Virtual Environment Workstation)プロジェクトというのをやって、スペースシャトルのコントロールとかシミュレーションをバーチャルでやろうとしました。これが最初のVRやテレプレゼンスと言われています。その後、彼はそのIPで特許をとって、自分の会社を作ったわけですが、Oculusなんかはもともとスコットのラボにいたチームの学生がベンチャーとして立ち上げた会社なんです。あの頃は「もう絶対にすぐ来る」と思っていたんだけど、今回で流れとしては3回目ぐらいなんですよね。
この辺りはよく分からなくて、たとえば1996年に僕は『デジタル・キャッシュ』という本を書いて、90年代には暗号通貨が来ると思っていたのですが、結局来なかった。今回のVRブームも本当に来るのか分からないですが、この前買ったOculus Quest 2はすごいと思いましたね」
web3とメタバースについては中長期的な視座が必要だと先ほど記載したが、そうはいっても喫緊の動きも気になるし、企業としても準備のための情報が必要だ。最後の「5年後の動向はどうなっていると思うか?」という質問に対して、伊藤氏は「全てがひっくり返るのはまだまだ先の話」としつつ、「ほぼ全ての産業」に何かしらの形で影響するからこそ、今から実際に“いじって”準備をすることが大切だと強調して、セッションを締めくくった。
「おそらく5年後くらいには、やっと法律が改正されて、セキュリティやプライバシーが検証されてくると思います。そこで重要なことは、短期的な売上を期待しないで、今から準備するということ。会社とか色々なものを変えていくにはどうしても時間がかかるし、実際にいじってみないと肝心の想像力もわかないので、早くいじらないといけない。アートとか音楽とか、ゲームとか、一部のメタバースのアプリケーションはもうすぐに使えると思うので、そういうところから入っていきながら、5年後にはほぼ全ての産業に来るかなと思います」
Report1. 日本のweb3戦略で最も大事なことは「総理のコミット」にある
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Report2. 5年後、ほぼ全ての産業にweb3が来ることになる
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Report3. 仮題:メタバースのルールメイクの現状と未来Coming soon)
Report4. 仮題:メタバースにおけるテクノロジー変革2030(Coming soon)
Report5. 仮題:メタバースの拡張するエンターテイメント(Coming soon)
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